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三度の飯より妹が好き!  作者: フォース
第2章
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6話 歯車は回りだす

 ”死ぬ”


 言葉にするのは容易いが、実際に想像してみると難しいものである。何せ一生で最後に1度だけしか体験することができず、体験した者はこの世からいなくなってしまうからである。

 なので”死ぬ”という行為は、生きている人ならば体験したことがあるはずないのだ。

 逆の発想をするならば、”生きている人”が誰も体験したことないのならば、”死ぬ”という行為は実際にはないのかもしれない。そんなひねくれた考え方をすることもできる。


 しかし、俺は実際に”死ぬ”という体験をした。正確には”したらしい”。何せ、まったく実感がないのだ。こうして地面に足を付け、立つこともできているし、様々なことを考えることができる。何しろさっき偶然出会った女の子と会話できたのだ。

 ではその女の子は何だったのだろうか? 頭の中でクエスチョンマークが大量に発生してきた。俺は考えるのをやめた。とりあえず今は目の前のことを理解しよう。

 千歳は泣きながら、「弘旨、なんで死んじまったんだ……」と言っていた。

 100歩譲って俺が死んだということは受け入れよう。そして現状、さっき出会った女の子を除いて俺の姿は周りから見えていない。


「はっ! もしかして……」


 俺は一瞬最悪の事態が頭の中をよぎってしまった。周りから見えないということは、我が愛すべき天使、美結ともう二度と会話することができないのでは? その瞬間すべてのことがどうでもよくなってしまった。

 死んでしまったこと、千歳が目の前で泣いてること。俺は教室の扉を乱暴に開けて廊下を駆け出した。

 どうせ誰からも見えてないし、誰にもぶつかることはない。そして階段を必死に降りた。毎日のように上り下りしている階段が、この瞬間はとても長く感じた。まるで無限のように。



 そしてようやく妹がいる2階のフロアまでたどり着いた。美結の教室は一番奥にある。まだ昼休みということもあって、廊下には友達と話している生徒が数多く見られている。

 友達との何気ない日常会話、恋人との胸躍る会話、先輩とのぎこちない会話。何気ない日常でもたくさんの種類の会話が、たくさんの人間の間で、たくさん行われている。そんな会話を小耳にはさみながら、俺は全力で走り、妹の教室の近くまで来た。


 すると妹が廊下で同じクラスの子であろう女の子と話している姿が見えた。そこで俺の足は止まる。急に怖くなったのだ。もしも美結に話しかけて、反応がなかったらと考えると、恐ろしくなる。

 だけど、もうここまで来てしまったんだ。後戻りはできない。俺は意を決して美結に話しかけようとした瞬間、


「……お兄ちゃん!?」


 と、美結の方から話しかけてきたのであった。刹那、俺の頭の中は十色の絵の具をひとつのパレットで混ぜてしまったかのように、ぐちゃぐちゃになっていた。俺は絶対に美結から見えていないと思っていた。それがまさか見えていたのだ。しっかりと。

 俺は安心したためか、急に足腰の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


「お兄ちゃん、生きて……!」


 美結は一緒に話していた友達を振り切るかのように、一目散に俺のもとに駆け寄ってきた。


「美結、俺のことがわかるのか……?」


 そう言った俺の声は震えていた。


「うん、しっかり見えているよ……お兄ちゃん!」


 美結はボロボロと涙をこぼしながらそう言った。それもそうだ。俺はあの時美結をかばおうとして目の前で車に轢かれて死んだはずだ。そんな本人が目の前に現れたのだ。嬉しくて涙も出てくるだろう。


「うっ……お兄ちゃん……私てっきり死んじゃったんだと思って……もう二度と会えないって思ってたんだよ……!」


美結は溢れ出る涙をこらえることができず、必死に拭おうとするが、それは無意味であった。


「俺も、何で美結と会話できているのか分からないんだ。というか、他の奴らからは見えていないみたいだし」


 完全にクラスでは誰からも認知されていなかった。これはどちらが正しいのか? もしくはどちらも正しくはないのか。

 すると安心しすぎたせいか、こちらも若干涙が出てきたので美結の顔から視線をずらし、反対方向を向いた。

 美結の前ではこんな姿は見せられない。俺はまだ足腰がぷるぷると震えていたが立ち上がった。


「うんうん、私はお兄ちゃんがこうして目の前で話せているだけで十分だよ......! あっ、もう授業始まっちゃうからまた放課後にゆっくり話そうね!」


 それだけ言うと美結は急いで教室に戻ってしまった。何はともあれ、とりあえず一安心だ。美結には俺の姿が見えていた。それだけで確かに十分だ。


 それから俺は教室に戻り午後の授業を受けた。受けなくても誰からも咎められることはないが、それでも授業を受けた。もしかしたら授業を受けることが精神安定につながっているのかもしれない。

 いつもと変わらない、”授業を受ける”という行為をすることによって、「俺は何もおかしくない」、と自己暗示でもしたかったのかもしれない。

 でも、美結に会うことができてから随分不安は消えていった。



 そして下校の時間になり俺はいつも通り帰宅する準備をする。いつも通り千歳に声をかける。もちろん返事はない。美結を後ろから追いかけてもよかったが、生憎今日は一人で帰りたい気分であった。

 長い廊下を歩き、階段を下りる。今度は、案外短く感じた。そして昇降口へと向かう。


 いつものようにスリッパから通学靴に履き替えるため靴箱を開ける。するとそこには一通の封筒が入っていた。俺はそれを手に取る。よく見るとハートのシールで封がされている。

 こんなにかわいいシールをする人なんだから、さぞかわいい人なんだろう、と普通の人は思ってしまうが、俺の勘は違った。可愛い女の子がこんな”あからさま”なシールで封をしたりしない。


 これは、深夜アニメを見て得た知識である。まさかこんなところで生きるとは。明らかに怪しい封筒なので、開けないに越したことがないが、今日起こった出来事を振り返ると、もはや何が起こっても驚かない気がしてきた。

 俺は勢いよく封筒を開ける。すると中には1枚の手紙が入っていた。恐る恐る開けてみる。するとそこには


 ”旧生徒会室に来なさい”


 と、それなりに達筆な字で書かれていた。旧生徒会室、その名の通り、昔は生徒会室として利用されていたが、なぜか今は利用されていない。

 そこに何があるのか。俺はそのまま帰宅してもよかったが、せっかくなので手紙の指示通り旧生徒会室に行ってみることにした。場所は、校舎の裏側にあるプレハブ小屋である。

 普通に歩いていたら絶対にたどり着かないような場所だ。昇降口を出て旧生徒会室に向かう。


 途中で体育館の前を通り過ぎると、中から元気な掛け声が聞こえてきた。バスケかバレーでもやっているのだろう。


 そして、しばらく歩きプレハブ小屋の前に着いた。プレハブ小屋では珍しいおしゃれな木造建築で、比較的新しい感じであった。扉はドアノブ式で、前に立つと中では何か話声が聞こえる。

 2,3人ほどいるようだ。ここでためらっていても仕方がないので、俺は意を決して扉を開ける。


 するとそこには昼休みに出合った女の子と、もう一人黒い髪をしており、肩にヘッドフォンをかけた女の子と、いかにも暑苦しそうな筋肉旺盛な男の合計3人がいた。すると昼間出合った女の子が、椅子に座り、いかにも偉そうに足を組んだ。そして残りの二人も近くの席に座った。

 俺は何か変な宗教団体にでも来てしまったのではないかと思った。すると昼間出会った女の子が一言言葉を放った。











「ようこそ、死後活動部へ」









 と。



 やはり変な宗教団体じゃないですかー。



 運命の歯車は回りだす。


 しかしこれはまだ、回り始める”きっかけ”にしか過ぎないのであった。




次回は3月31日投稿予定です。お楽しみに!

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