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三度の飯より妹が好き!  作者: フォース
第1章
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5話 昔話

 小さい頃、よく母さんに本を読んでもらっていた。毎週のように家の近くの図書館に通い、本を借りてきては母さんに読んでもらっていた。俺はその時間が大好きだった。

 桃から人間の男の子が生まれてくる話、可愛い子ブタたちが家を作って壊される話、助けたツルが機を織る話。そんな数ある昔話の中でも特に記憶に残っている本がある。


 1人ぼっちの魔王が、好きになった人間の女の子のために命を懸けて守る、というお話だ。


 一般的に、魔王とは人間を滅ぼしたり、凶悪なイメージがあるがその魔王は違った。城の窓から毎日人間の街を見ていた。いつかそこに行ってみたいと望んで。そこで魔王は、魔法屋からどんな姿にも変身できるという薬、「変身薬」をもらい、人間の姿に変身した。しかし、薬の効果は1時間だけだと念入りに魔法屋の店主から言われた。



 そして憧れでもあった人間の街へと行く。しかし魔王は、街に並んでいる物珍しい雑貨や食べ物を見ていると、あっという間に1時間が経ってしまった。人間の街のど真ん中で変身が解かれ、人々が恐怖している魔王の姿へと戻ってしまう。

 すると周りの人間からは「出ていけ!魔王め!人間の前に現れるな!」と非難を浴び、石やレンガ、食べ物などそこら辺にあったものを投げつけられる。奥から屈強な男たちが数人出てきて、魔王を拘束しようとしている。恐らく拷問にでもかけるのであろう。

 男たちがこちらをめがけて走ってくる、もう駄目だ、と思った矢先、魔王の前にふと女の子が現れる。


「こっち!」


 女の子は魔王の手を取って路地裏へと逃げていく。


「私が責任をもって逃がしてあげるから」


 女の子は微笑みながらそう言った。


 そしてなんとか街から逃げることができた。街から逃げ出せた喜びよりも、驚きの方が大きかった。


「どうして君は僕なんかを助けてくれたのかい?」


 と魔王は聞く。すると女の子は、


「困ってる人がいたら助けなさいって、母さんに言われてたから!」


 と満面の笑みで返答してきた。その時魔王の心の中に小さな灯火が点いた。やっぱりこんなに優しい人間もいるのだと。


「ありがとう。この恩は一生忘れない。おこがましい様だけどいつか僕のお城に来てくれないか? お礼がしたいんだ」


 不安ながらもそういった。


「うん。もちろん!」


 女の子は魔王の不安を一切感じ取ってないほどの笑顔で返事をした。



 そして後日、魔王は女の子にお礼をするために城に招待した。しかし、時間になっても女の子は来ない。不安になった魔王は、再び魔法屋の薬で人間の姿に変身をして街に行く。


 そしてそこで片っ端から女の子について聞いて回った。すると10人目くらいで、ようやく有力な情報が手に入った。年老いた夫婦であり、女の子の両親であった。女の子の現在の状態を聞いて魔王は青ざめた。

 話によると、魔王を逃がしたのが街の住人にばれたらしく、本日罰が下るらしい。それで今は牢獄に入れられているようだ。


 魔王は必死に走った。魔法屋から再三早く戻ってくるように言われたが、もはやそんなことなどどうでもよくなってしまった。自分のせいで罪のない女の子が、ひどい目にあっている。魔王にはそれが許せなかった。


 牢獄についた。もちろん見張りが何人もいた。が、魔王はそんなこと気にせず見張りの人間をなぎ倒して女の子のいる牢へと向かう。

 魔王は見張りの人間を倒すのに夢中で気づいていなかったが、変身薬の効果が切れていた。そんなことはどうでもいい。ただひたすら、自分の道を防ぐものを薙ぎ払いながら進んでいった。


 10分ほどたって、最下層までたどり着いた。するとそこに女の子は幽閉されていた。それもひどくやせ細った状態で。魔王は鉄格子を破壊して女の子を抱え上げた。


「すまない。遅くなった」


 魔王は女の子の顔は見ずにそう言った。女の子は話すだけでもかなりきつそうな状態なのに、それでも笑顔を絶やすことなく


「待ってた。絶対に来てくれるって信じてた!」


 と言った。その時魔王は様々な感情がこみあげていた。女の子にこんなひどい仕打ちをした人間への憎悪、それと同時にこんな目に合わせてしまった自分への憤り。それと同時に魔王はあることを決心した。この女の子を命に代えても守ると。


 その後牢獄から脱出した魔王は女の子を連れて城まで戻った。女の子の命に別状はなかった。しかし、魔王が人間の女の子をさらった、ということもあって魔王の城には魔王を殺しに来た人間が大量に押しかけてくる。


 そこで魔王は、あれ、ここから魔王はどうしたんだっけ? 魔王は人間の大群にも屈することなく最後の瞬間まで女の子を守り続けたんだっけ? それとも、運よく二人だけ逃げ出して遠くの国で一生を過ごしたんだっけ?


 あれ、魔王がどちらを選択したのかが思い出せない。


 俺ならどっちを選ぶだろうか。


 もちろん女の子と城に住んでいる人たちを守れるなら人間に立ち向かって行くが、あいにく俺にはそんなたいそうな力はない。かといって、女の子と二人で逃げだせば、幼いころから育ててくれた大切な人を捨ててしまうことになる。

 俺はしばらく悩んだ。

 そして答えが出た。



 もしも俺が魔王だったら────────────────────────


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