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三度の飯より妹が好き!  作者: フォース
第1章
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4話 出会いと別れ

「え? あなたには私のことが見えているの?」


 女の子は不思議そうな顔で俺に向かってそう言った。初めは何かふざけて言っているのかとも思ったが、彼女の真剣な表情を見る限りそうではないらしい。この女の子からは何か不思議な雰囲気がする。今まで感じたことのない何か。俺は恐る恐る聞き返してみる。


「当たり前だ。見えているに決まってるだろ」


 女の子は驚いた顔をしていた。さっき以上に。そして女の子は渋るように口を開いて、


「もしかして、あなたが……」


 とそのあと何か言おうとした時、女の子の視線は横で無残に散らばっている弁当にいった。女の子の表情が徐々に険しくなっていく。


「ちょっと! 私たちの今日の昼ご飯がこんなになっちゃったじゃないの!どうしてくれるのよ!」


 そう言って女の子はこちらに詰め寄ってきた。”私たち”ということは、友達の分の弁当もあったのだろうか。


「悪い悪い、ってもしかして売店で弁当買い占めたのはお前か?」

「今日は昼に部活のミーティングがあるから部員の分のお弁当を買いに行ってたのよ。それがどうかしたかしら?」

「いや、俺もさっき売店に弁当を買いに行ったんだが売り切れててな。いつも買わないお前が買い占めなければ俺の分の弁当があったんではないかと思ってな」

「何?それは遠回しに私が悪いと言いたいわけ?」


 女の子はさらに近づいてくる。


「遠まわしも何もストレートにそう言ってるつもりなんだが」


 女の子は勢いよく立ち上がって、


「ほう、私に反抗するつもりね。なかなかいい度胸しているわね」


 と胸を張ってそう言った。


「おいっ、ちょっ、待て……」


 俺は慌てて彼女を制止する。


「いきなり慌ててどうしたのよ?私に凄さに気づいたのかしら?」

「いや、いきなり立ち上がったからパンツ見えてるぞ」


 俺は冷静にそう告げた。すると女の子の顔が見る見るうちに赤くなってくる。


「このヘンタイ! 最低な男ね!」


 俺はこの瞬間思った、この子天然のツンデレだ! ツンデレとは、普段はあたりがきついが、ちょっとした拍子にデレてしまうという性格のことだ。天然ツンデレっ子の数は年々減少してきており、もはや絶滅危惧種に指定されてるほどである。なお、ソースは俺。

 アニメや漫画だけの世界の話かと思っていたが、よもや実在するとは。今年一番の驚きかもしれない。


「まったく……、あんたと話してたらミーティング終わってしまいそうだからもう行くわ」

「そういえば、何部なんだ?」

「秘密」


 そう言って女の子は口元に人差し指を添えていたずらっぽいしぐさを見せた。


「秘密、かぁ……」


 部活なんて隠すほどのものなのだろうか。それともよほど人には言えないような部活なのか。俺の頭の中では様々な疑問が生まれていた。

 ふと俺は女の子の足元を見る。決して太ももを凝視するためではない。視界に何か入ったからだ。地面には小さなメモ帳が落ちていた。日記帳か何かであろうか。


「ん、何か落としたぞ」


 俺は女の子に向かってメモ帳を渡した。


「あっ、ありがとう」


 俺からメモ帳を受け取った女の子は安堵の表情を浮かべた。


「いつも持ち歩いてるってことは、それなりに大事なものなんだろ。無くさないようにしろよ」


 俺は、超紳士的発言をした。今の俺、最高にかっこいい! 美結に見せてやりたいくらいだ。


「べっ、別にあんたに言われなくてもわかってるわよ!」


 でた! ツンデレ発言、最高だ。


「じゃあ、あたしはそろそろ行くから。あ、弁当の件は悪かったわね。お詫びにこれでも食べて」


 そう言って俺にパンを渡してきた。そして女の子は足早に階段を下りて行った。


「なんだが謎だらけの女の子だったな……。まぁ、教室に戻るか」


そう呟いて俺はパンを手にして歩いていくのであった。



 教室の扉を開く。相変わらず視線はこちらに向かない。しかし、今日は様々なことがありすぎて、あまり不思議に思わなくなった。これが感覚麻痺というやつか。俺は自分の席に着く。すると机の上に花がポツンと置かれていた。食用で花を使うこともあることから、俺は大体の花の名前を知っていた。これは確か"シオン"の花だ。


「なんでこんなところに花が置いてあるんだ。捨ててもいいやつか」


 そう言って俺は窓から花を投げ捨てた。


 どうやら千歳はまだ戻ってきていないらしい。どこに行ってるのだろうか? 俺はさっき謎の女の子からもらったパンを食べる。トッピングなどは一切ない、シンプルなパンだ。


「全然味がしないな……」


 俺は将来料理人を目指しているからわかる。このパンは確実に失敗作だ。味も素っ気もない。おそらく売店で買ったものであろうが、売店のパンはみんなこんなものなのか?


 瞬間、教室の前の扉が開く。千歳が入ってきた。相変わらず暗い表情をしている。本当にどうしたのだろうか。すると千歳がこちらめがけてやってくる。そして俺の机の前に立った。俺は千歳に話しかける。


「なぁ、千歳。今日、どうしたんだ? 朝から暗い顔して。何か悩んでいることがあったら俺に相談しろよ。友達なんだからよ」


 正直、今朝俺はかなり千歳のことを心配していた。唯一の友達なのもあるかもしれないが。




 しかし




 千歳は俺の発言を"無視"した。いや、正確には"聞こえていなかった"。


「おい、どうしちまったんだよ千歳!」


 俺は立ち上がり、千歳の肩をつかもうとしたが、それは見事に空を切った。


「え? なんだこれ」


 俺は理解が追い付かなかった。何が起こっているんだ。



 もう一度千歳の表情を確認する。すると、目には今にもあふれ出そうな涙が待機していた。


「おまっ……どうしたんだよ!?」


 この時の俺は完全に冷静さを欠いていた。



 そして、千歳が渋るように口を開き、







「弘旨、なんで死んじまったんだ……」









 と言った。




 俺はこの時初めて理解した。


 昨日まで居たこの世界にもう俺は存在していない、俺は死んでしまったのだと。




 これは若くして世界から見放された少年が必死に抗う、悲劇の物語。



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