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三度の飯より妹が好き!  作者: フォース
第1章
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2話 運命

 9月3日


 窓から少量の光が差し込む。時刻は6時30分。それなりに早い時間だがまだ夏ということもあり日の出は早いものだ。


 昨日まで夏休みだったおかげでこんなに早起きするのは1か月ぶりくらいである。

 眠い、とにかくその言葉しか頭に浮かんでこない。しかし今日から授業が始まる。日本中の学生が苦悩している問題であるだろう。もう一度寝て快楽を得るか、それとも真面目に登校して授業中に寝るか。

 どうせ寝るなら前者を選ぼう、そう思ってもう一度布団に入ろうとした瞬間、廊下を走ってくる足音がだんだん近づいてき、俺の部屋の前で止まった。

 そして勢いよく部屋のドアが開いた。


「お兄ちゃん学校だよ! 早く起きて!」


 可愛い妹である美結がそこには立っていた。仕方ない、美結のためなら学校に行くか。そうして俺は重い腰を上げるのだった。


 俺は部屋を出てリビングへと向かった。2階が居住階となっているわけだが、階段を上って左側手前から俺の部屋、奥が美結の部屋、リビングとなっており右側が父さんと母さんの部屋となっている。

 リビングの扉の前に立つと中から美結の明るい声と父さんと母さんの声が聞こえる。何故だがこの会話を聞くと心が落ち着く。俺はそんなにぎやかな食卓が大好きなのかもしれない。そして扉を開ける。


「おはよ~」


 俺はいかにも眠そうに挨拶をした。


「あら、おはよう。今日から学校でしょ。早く食べてしまいなさい」


 と母さんが言った。食卓には味噌汁に焼き魚、白米に野菜サラダが並んでいた。中華とは全くと言っていいほど無縁すぎるメニューだ。


弘旨(みつし)、宿題は終わってるのか?」


 と、絵に描いたように厳しそうな父さんが言ってきた。


「うーん、半分くらい?」


 俺は適当に答える。


 すると美結が横から


「お兄ちゃんが夏休みの宿題なんてやってるわけがないよ。もしやってたとしたら天変地異が起こるよ」


 と呆れながら言った。


「来年こそはきっとちゃんとやる。今決めた」


 俺はまた適当に答える。


「あら、弘旨は来年も高校生をするのかしら」


 母さんが首をかしげながら言ってきた。そうだ、高校生活も今年で終わり。今思い返せば、これといって熱中して取り組んだことがない。

 周りのやつらは部活だの、友情だのと楽しんでるが、あいにく俺は部活にも入っていないし、友達といえるやつも1人しかいない。完成型ボッチだ。そんなことを思いながら俺は席に着き黙々と朝食を食べていく。


「ごちそうさまでした」


 朝食を食べ終わり学校に行く支度をする。廊下で美結とすれ違いざまに


「今日は兄ちゃんと一緒に登校しようか!」


 と声をかけたところ


「いや、遠慮します」


 と一蹴された。なので俺は仕方なく1人で登校することにした。


 家から学校までは徒歩8分ほど、高校にしてはかなり近い距離にある。いつも1人で登校しているが、心は美結と一緒に登校しているので寂しくはない。


 そして校門の目の前まで来た。美結に早く起こされたせいで、まだ学校には部活で朝練している生徒がいる時間だ。このまま教室に行っても何もすることがないので俺はある場所へと向かう。

 そこは校舎とグラウンドの間にある、通称"中庭"と呼ばれる場所だ。いつも風に吹かれたいときにはここで横になる。すると心の中が浄化されていくかのような感覚に陥る、最高の場所なのだ。俺は木の下に腰掛ける。授業が始まるまではあと30分ほどある。これはひと眠りするしかない。俺はそのまま深い眠りに落ちていった……。



 数十分後、目覚めた俺は教室へと向かった。あのまま寝過ごそうと思ったがどうやらそうはさせてくれなかったらしい。そう、美結が来たのだ。美結は俺がいつもあの場所に寝てるということを知っている。もう、あの場所では眠れないかもしれない……。


 俺は長い階段を上がっていく。1階が教員階で2階から順に1年、2年、3年となっているため、かなりの段数を上らなければいけない。部活をしていない人間からすればものすごくきつい。とにかくきついのだ。


 息を切らしながらなんとか上り切った。そして俺は教室の扉の前に立つ。中からは賑やかな話し声が聞こえる。こういう賑やかさは苦手だ。

 扉を片手で開け、中に入っていく。開けた瞬間にそれまで賑やかだった会話が少し萎ゆるみ、視線が一斉に俺の方に向く。

 扉を開けて入ってきた人物を確認して先生でなければ、また何事もなかったかのように会話の続きが始まる。この一瞬だけ視線が集まる感覚は、何とも言い難いものだ。


 自分の座席へと着く。すると目の前の席のやつが触り向いて「よぉ!」と、声をかけてきたので俺も「よっ!」と返事をした。こいつが俺の唯一の友達、千歳(ちとせ)だ。


「もう朝礼始まるぞ、遅かったな。また中庭か?」


 千歳は笑顔で話しかけてきた。


「あぁ、そうだよ。そのまま寝過ごそうと思ったら美結に起こされた」

「いい妹じゃねーか。あんなにできた妹はいないぞ? 弘旨さんよ」


 からかうように言ってくる。


「まぁ、才色兼備の完璧な妹だからな。あれで血が通ってるというのだから恐ろしい」

「俺はお前のその思考が恐ろしいよ、シスコン野郎」


 大体、千歳との会話はいつもこんな感じで何気ない会話を何気なくしている。


 そして授業が始まり、午前中すべての授業が終了した昼休みのこと……。


「弘旨、お前今日は昼メシどうするんだ? 俺は弁当持ってきたから食べるけど」


 千歳が弁当箱をカバンから取り出しながら言う。


「あー、俺は売店行って弁当買ってくるわ。ちょっと行ってくる」

「オッケー」


 俺は教室の扉を開けて、朝、必死に上ってきた階段を今度は軽快に駆け降りる。それぞれの階の踊り場で生徒が話している。他のクラスの子と話すときなどはここがベストなんだろう。

 今日の弁当はかつ丼。通常は何か勝負事の際に食べたりするものだが、通常時では運が2倍になったりする効果でもあるのだろうか?

 そして教室に戻った俺は昼ご飯を食べ、午後の授業を受けるのであった。


 1日が終わり、ようやく下校の時間になった。いつも帰りは千歳と帰る。が、俺は美結と帰ることをあきらめたわけではない。現にこうやって美結の後ろからついていき、隙あらば一緒に帰る作戦を実行してるのである! ちなみに美結は同じクラスの子と帰っているので、まだ俺の存在には気づいていない、たぶん。


「お前ホント妹には目がないよな。もっと他のことに熱心になればいいのにな」


 千歳はあきれながら言う。


「妹熱が冷めてからだな。まぁ死んでも冷めないが」


 どんなことがあっても美結に対する愛情は変わることはない。そう思っていた。





 真っ赤な夕陽、空でざわめく漆黒の翼を持った鳥たちが羽をそろえて越境していく。



 俺はふと死角から何かが迫ってきているのを第六感で感じ取った。なんだこの胸騒ぎは。



 気づいたら俺は足を踏み出して走っていた。



 美結の方へ。




 一直線に。




「危ない‼‼」





 俺はとっさに美結を弾き飛ばして、かばった。



 こちらに一直線に突っ込んできたのは車であった。


 刹那、全体に鉛のような痛みが走り、世界が変わる。









 黒色の世界は白色へ。朱色の世界は白色へ。では、灰色の世界は何色に変わる?









 意識が消えかけていく。


 暗闇の中で、泥から這い上がるようにもがき続ける姿が脳裏に浮かんだ。



 ”あぁ、ここはいったいどこなのだろうか”



 そこで俺の意識は完全に消えていった。



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