改札口で、待つよりも
年末年始の帰省を終えてアパートへ戻る途中、駅の改札口を出たところで。
「お帰り、由美さん」
「へ、直也くん?」
一つ年下の恋人が、私を待っていた。
今日戻るとは伝えたけれど、時間は教えてなかったのに──首を傾げる私にニコニコと近づいて、「持つよ」と直也くんが手を伸ばしてきた。
「なんで、いるの?」
「ひでえ。会いたくて待ってたのに」
聞けば、かれこれ三時間も待っていたとか。
暇人か。
「連絡くれれば、時間教えたのに」
「びっくりさせたかったんだよ」
はい、びっくりしましたけどね。
カゼひいたらどうするの、まったく。
「どうせ明日、会社で会うのに」
「新年初顔合わせが会社なんて、嫌だったんだよ」
初顔合わせは、恋人としてしたかった。
そんなことを言われて、嬉しくなってしまう。うん、私ってチョロイ。
「そーかそーか、そんなに私が大好きか」
「お嫁にしたいぐらい、大好きだっての」
お土産の紙袋を持ってくれた直也くんと、並んで歩く。他の人からは、帰省帰りの夫婦に見えたりするのかな?
「実家、どうだった?」
「バタバタして、くたびれちゃった」
妹が子供を連れて帰ってきてて、妙に懐かれて朝から晩まで相手してた。おかげで休んだ気がしない。
「でも、気分転換になったかな」
「よかったじゃん」
「ん、そうだね」
前から来た四人連れを避けるべく、直也くんに体を寄せる。目の前に暇そうな右手があったので、そのままギュッと握ってみた。
直也くんが、ギュッと握り返してくれる。うん、嬉しい。
「……親に、直也くんのこと話したよ」
直也くんの手の力が、ちょっとだけ強くなった。
「よかったら、G.W.にでも連れておいで、だってさ」
「なるほど」
直也くんの手が、少し緩んだ。ふふ、ちょっと緊張してたね。愛いヤツじゃ。
「さあ、どうします? 外堀は埋まりつつありますよ?」
「ふん、最初から本丸狙いだ、ての」
「ではG.W.はご一緒しましょう」
でも、と。
私は直也くんの顔を、下から覗き込む。
「その前に、素敵なプロポーズを待ってるからね」
「今さら、いる?」
「当然。一生に一度なんだから」
答えはもう決まっている。でも、ちゃんと言われて、ちゃんと答えたい。
「……がんばるよ」
「うん、期待してるね」
できれば早く、お願いね。
だって来年は、一緒に年末年始を過ごしたい。
出待ちして私を驚かせるよりも。
一緒に帰省して、一緒に戻ってくる。その方が嬉しいんだから、ね。