表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

はなび2009

作者: ひやとい

オチとかはないです。

昼下がり。

 給食の時間が終わっても(あたらし)潟男は誰とも遊ぶことなく机に身を置いていた。


 新は中学3年になるまで何の目的もなく学校に来ていた。

 しかし誰一人友達になることもなかった。

 いじめの対象になることもなかった。

 誰からも見向きもされなかった。

 たまに声をかけられたと思えば、黒板が見えないからどけ、というようなことばかりだった。


 新はしかし、そのような自身のあり方に臨界点を感じていた。

 このままでいいのか、いいのか……そう思うと、新の心中は穏やかではいられなかった。


 休憩時間が終わり、授業が再開された。

 白衣の教諭が来た。

 何も話さず。

 新には理解できないことばかりをひたすら板書していく。

 誰とも言葉を交わしたがらない。

 そんな雰囲気を醸し出していた。


 新はこの教諭が好きだった。

 自分と同じにおいを感じていたからだった。

 しかし、好きであるということと授業内容とが、新にとっては一致していなかった。

 教諭は好きだけど教科が好きになれない。

 そんなジレンマが新の頭の上にいつも渦を巻いていた。


 ああ、せめて先生が。

 僕のわかる言葉で話をしてくれたらいいのに。

 新は自分の無能さを、この時間いつも呪うのだった。


 実際、新はすべての教科が理解できなかった。

 義務教育という理由だけで学校に来ているに過ぎなかった。

 新にとって、学校は苦痛なものでしかなかった。

 他にやることもなく、家にいても親に怒られるから来ているだけだった。


 ああ、どこか遠いところにいきたいなあ。

 新はそんな時、遠いところにいってなにかをしている妄想で時間をやり過ごしていた。

 好きなはずの教諭の授業ですら、そうせざるを得なかった。


 新は、テレビで見た旅番組の画を思い出していた。

 その番組は主に温泉紹介のためのものだった。

 紹介途中の、タレントが電車に乗っている画が新には魅力的だった。

 旅をしてみたい。

 とにかくなんでもいいから、電車に乗ってぼんやり景色を見たい。

 そう思うと、新の視界からすべての現実が入らなくなっていった。


 その時。

 突然、教諭が新を指差した。

「おい、新。おまえヨダレたらしてんぞ」

 今まで教諭はそんな行為をしたことがなかった。

 新は、そのことに意表を突かれた格好になった。

 妄想にとらわれすぎて。

 うっかり表情までが緩んでいたのだ。

 新の表情があまりにもマヌケだったせいなのか。

 教諭の表情がみるみるうちに苦笑に満ちていった。


 とたん、周りが大爆笑で包まれた。

 席から転げ落ちる者。

 顔が真っ赤になる者。

 腹をよじり苦しみ出す者。

 その他いろいろな現象がクラス内に満ちた。

 新は顔を上げることも出来なかった。


 生まれて初めてだった。

 こんなに注目されたことがなかった。

 新は恥ずかしさでいっぱいだった。

 しかし初めて自分が注目されたことに気づくと、新の心は舞い上がった。


「うわあああああああああああああああああああああああああああ」

 奇声を発すると、新は喜びのあまり教室から駆け出した。

 そして上履きのままそのまま外へ出た。


 走る、走る。

 新の心は天を駆けるように舞い上がり続けていく。

 校舎を抜け。

 通学路を横切り。

 信号もかまわず。

 新は一心不乱に駆けていった。


 新の走る速さは、あらゆるものを凌駕していく。

 車。

 バイク。

 電車。

 飛行機。

 新は自分が持つパワーに驚きを隠せなかった。

 新たな能力に気づくたび。

 喜びが増していく。

 増していくと同時に、新のスピードも増していった。


 走る、走る。

 新はもはや走るだけの機械と化していった。

 そして気づくと崖だった。

 断崖絶壁。

 しかし新は迷うこともない。

 そのまま駆け抜けた。


 新の体はまっさかさまに。

 暗い海へと落ちていった。

 しかし新の表情には、喜び以外のものはなかった。


 

 

 

いわゆる不条理ものです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ