表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「一欠片の夏」~海辺の記憶~  作者: 凡 徹也
5/15

『浜にクジラが打ち上がった日に』

 長浜海岸で起きた出来事は数え切れない程ある。海へと頻繁に通った約15年の間には、海へとやって来る人の姿は代わり、釣り人しか居なかった砂浜にもバーベキュー客、ウインドサーファー、ジェットスキーヤーと移り変わっていった。その間に海の磯場の1部は枯れ、カジメも生えなくなったり、サザエ等の貝類の姿も減ったりもした。それでも冬の終わりには天然ワカメの新芽が伸びて、5月になれば磯にはヒジキが充分に育ち、豊かな海を保ってくれていたと思う。僕は良い時間にこの海に出会い、最高な時を過ごせたのだと思っている。

 そう言えばそんな数々の出来事にはこんな事も有りました。あれは初夏のある日の出来事だったと思う。朝の8時半くらいだろうか、その日もボードを車のキャリーに止めて長浜海岸へと駆けつけた。砂浜の、やや三浦側だったろうか?車を駐車場と砂浜の境界の際、海に前方を向けて駐めた。するとちょうど前方の砂浜の上に巨大な黒い塊が転がっているのが見えた。近くに寄ってみるとそれは体長7m程の髭くじら?で有り死んで打ち上げられていたのだ。辺りには風にのって腐敗の異臭も漂っていた。

 暫くするとショベルカーがそこへとやって来て、クジラのすぐ脇の砂浜に穴を掘り始めた。巨大な穴だった。僕は臭いのしない風上側の少し離れた場所に荷物を降ろし、ボードとリグを組み立てた。小一時間ほどしてショベルカーは穴掘りを終えると、今度はその穴に落とそうと脇に廻ってショベルの先でクジラを押すが、クジラはビクとも動かない。そこで、周囲にいた数人の男達も木の棒で押して手伝うことになった。僕は落ちやすくするためスコップで穴の縁の砂を削った。側によると本当に肉の腐った臭いで鼻が潰れた。しかし手伝いを始めて直ぐ1分程でクジラは穴の中にすっぽりと落ちた。その後ショベルカーは再びその穴を埋めていく。

 埋められたその場所にはこんもりと盛り上がった小さな丘が出来ていた。作業が終わったのが午前10時に頃だっただろうか。その砂浜は、当初は湿り気のため茶色を帯びていたが、やがて太陽の陽射しに照らされて、周りの砂と見分けもつかなくなった。

 その後、僕はウインドサーフィンで海上へと出て、一時間ほどして浜へと上がってくると、なんとそのクジラを埋めた場所の真上に家族連れがやって来ていてパラソルを立てベンチを置きバーベキューの仕度をしていた。僕は友人と目を見合わせて、

「言った方が良いかな?」と言うと、友は、

「いや、黙っておこうよ。それが1番だよ」と言うのでその家族を遠巻きに横目で見ながら僕達は自分達のビーチベッドの置いてある場所へと戻った。

 その後、その家族の愉しいパーティーは始まった。僕達はその家族のあまりにも幸せそうな光景にとうとう口をはさむことは出来なかった。 

 僕はこの時の状況程、「知らぬが仏」という言葉がピッタリと思ったことはその後も無い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ