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「一欠片の夏」~海辺の記憶~  作者: 凡 徹也
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 『中川商店』

 「中川商店」は、当時はこの集落の様なエリアにある唯一の商店で有り、地域の住民にとってたった一軒だけの生活上必要な大切な存在の店だった。品揃えは規模の小さな店にしては豊富でスーパーのような店であった。他のスーパーに行くには、車でR134迄出るか、長井の町迄行かなければならず、地域住民からとても愛されていた店だった。

 海のオフシーズンは、殆ど地域の住民しか訪れないので、のんびり長閑で、まるで『田舎の商店』のようでも有り(失礼!ご免なさい)僕はその長閑さがとても好きだった。

 店の前にはタバコと飲料の自動販売機も置いてもあるが、なんと言っても近所の農家さんなどはこの店に来て、他愛ない話をしながら時間を過ごすのが楽しみで有り、また真夏になると近くの合宿所で寝泊まりする真っ黒に日焼けしたヨット部の大学生アスリート達が練習の合間に大勢押し掛けて、彼等の憩いの場にもなっていた。

 店内はやや狭いながらも、食料品を始めとして、日々届く日持ちのしない生鮮品も沢山用意されていた。他にも雑貨品、タバコ、郵券といった数々の生活必需品が、整然と綺麗に並べられていた。多くの地方の商店が雑多にだらしなく並べている中でこの店は、掃除もまめらしく海が間近だというのに、商品に砂や埃が被ることもなく清潔感も有った。

 本当に失礼ながら、こんな不便な田舎町なのにちゃんとしてる店だなあと、僕は凄くファンとなりこの海に来るときには必ず立ち寄るようになっていった。

 初めて訪れたのは真夏の季節であった。夏にはマイカーは勿論のこと季節運行のバスが三崎口駅から出ているので海水浴客が結構大勢が押し掛けてくる。砂浜には沢山の海の家が建ち並ぶが、学生やこの店の存在を知っている海水浴客の一部の人達は中川商店を訪れ店はてんてこ舞いだった。何せ飲み物全てが定価販売。近くの海の家が「割増料金」であるのに比べて、この店は普段通りの価格だったのでアイスクリームも、ビールも飛ぶように売れていた。

 店の前では、良く真っ黒に日焼けした逞しく見える学生達が大勢腰を降ろしてコーラを飲んだりアイスクリームを食べていた。

 店内には、パーマをかけた若い女性がいて店を仕切っていた。彼女は農家の主婦と思われる、頭に日本手拭いで頬被りをした老婦人から、「お嫁さん」と、呼ばれていた。なので、きっとこの家の旦那の嫁なのだろうと想像はついていた。その「お嫁さん」は、この土地らしく顔は真っ黒に日焼けして、いつも笑顔を見せて店を独りで仕切っていた。時折、店のレジ台の奥にある勝手から、2人の小学生位の男の子達が顔を覗かせてその人に甘えていた。

 夏の賑わいが過ぎてオフシーズンともなると、海は急速に静まりかえり、店の客足も落ち着いてしまい、長閑な漁村の風体となる。

 その季節になって僕は休日の朝、ウインドサーフィンをやりに出掛けて来ると、まず車を狭いスペースのこの店の脇に車を寄せて立ち寄り、タカロクの「コロッケパン」に、明治のコーヒー牛乳500mlを買った。それを持って車に乗り込むと僅かの距離を砂浜際まで車を移動させる。細い路地を出て右に曲がれば間もなく全視界に大平洋が拡がる。

 そんな中川商店の単なる立ち寄る客だった僕だったが、ある奇妙な出来事から縁が深くなっていったのである。それは、ここの主である皺くちゃ顔の婆ちゃんとの出会いである。

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