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防御を捨てた大天狗は厄介だった。攻撃を当ててもお構い無しに突っ込んでくる。回復魔法が使えるプレイヤー達とNPC達からの支援がなければニグルはおそらくとっくに死んでいた。
呼吸をする間もないような攻防の末、ニグルは大天狗に勝利したが、満身創痍であった。プレイヤー達とNPC達はMPが尽きたのか回復魔法を飛ばさなかった。
紫耀の足元の魔方陣にピシッという音と共に亀裂が入り、粉々に砕けた。俯いていた紫耀がゆっくりと顔を上げる。ニグル達は息を飲んだ。
狩衣に描かれていた紫の茨が、紫耀の顔に刺青の様に這っていたのだ。
「…紫耀…?」
ニグルが心配そうに声を掛ける。紫耀の姿が一瞬消える。ニグルはほとんど無意識に体を反転させてハルバードで防御した。ガキンッ、と音をたて刀がぶつかった。
紫耀が刀で斬りかかって来たのだ。
「紫耀!お願いだから目を覚まして!私は貴方とは戦いたくない!」
『………………………。』
紫耀は答えない。ただただ無言で攻撃を仕掛けてくる。バフの残っているニグルだが、今にも押し負けそうだ。
防御に徹するニグルに攻撃を続ける紫耀。しばらく耐えていたニグルだが、体制を崩してしまい紫耀の刀が脇腹を切り裂いた。
ニグルのHPはもう一割程しか残っていない。対して紫耀はHP満タンで洗脳が解ける様子もない。
紫耀は無表情で刀を振り上げる。ニグルは諦めずに防御の構えをとる。
その時、紫耀とニグルの間に一つの影が飛び出し、攻撃を防いだ。
「悪いな。迷子になってた。」
「しっ師匠ー!」
シェーンの師匠であり攻略組最強と呼ばれる魔法剣士、コンパスだった。そして、ニグルに回復魔法が飛んできた。
ニグルが飛んできた方を見ると、自分に暗い視線を送っていた巫女がいた。
「貴女…。」
「……MPを温存していただけよ。紫耀様がお怪我をされた時のために満タンのままにしておいたけど、そうも言っていられない状況です。ニグルさん、コンパスさん。紫耀様に傷一つでも付けたらこうです。」
巫女はシュシュッと空気を殴る仕草をした。コンパスは苦笑いした。
「ニグルさんよぉ。紫耀さんの攻撃は俺が引き付けるから、洗脳をなんとかしてくれ。」
「!……わかったわ。」
紫耀とコンパスが戦いを始めるが、コンパスが押され気味だ。
「オイオイ待て待て!強すぎだろ!ハイエルフで陰陽師やってるヤツの力じゃねぇぞ!手伝えシェーン!」
「えぇぇ…師匠さっきまでのかっこよさは何処に…。」
シェーンも加わりなんとか紫耀を押さえる。
その間にニグルが紫耀に語り掛ける。
初めて会った時の事、二人でお花見をした時の事、喫茶店でお茶をした事…等々。順番に語り掛けていると、紫耀の動きが鈍くなってきて、しまいには刀を落として耳を塞ぎ始めた。
『止めろ……私は知らない…知らない…貴様等……知らない…止めろ…。』
「紫耀…大丈夫よ。怖くないわ…大丈夫…大丈夫。」
ニグルはハルバードを置いて紫耀を優しく抱き締めた。
『あっ……あぁぁぁ……私…わたし……は……。』
「もう起きる時間よ。悪い夢は終わったの。」
『………ニグ……ル…。』
「!紫耀…気がついた?」
『…ごめ……なさ……。』
紫耀の体からカクンと力が抜けた。意識を失ったらしい。
見守っていた者達は洗脳が解けたと思い、ホッと息をついた。
そこへ魔王が再び現れた。
コンパス師匠は方向音痴。




