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水面に落ちた小石  作者: 此道一歩
第四章  和也の帰還
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理穂のため息

 とにかく急がなければと思った彼女は「昼食を食べてからにしたら……」という玲子に綾を預けて、とりあえずの必需品を取りに帰ろうと身支度を整えていた。


 一緒に行くという和也を残して、帰ろうとする理穂に直ぐに車が用意された。

 それは玲子が店に来るときに使っていた白の高級車であったが、彼女が車に乗ろうとすると、運転手がすかさずドアを開けて微笑んでくれた。


 彼女が振り向いて、見送りに出てきた和也を不安そうに見つめると

「大丈夫だよ、直ぐになれるから…… 佐田さん、お願いしますね」と彼が運転手に声をかけた。

「かしこまりました。安全運転で行ってまいります」そう言うと深く一礼して運転席についた。


( なんで運転手までいるの? もう少し節約すればいいのに…… だけど四~五百万円て、ほんとかしら…… 何かからかわれているような気がする、あんな大きな家に住んで、お手伝いさんだって三人はいた…… これからの時代は大変なのに、もっと節約するように話さなくっちゃ…… よしがんばるわよ!)


後部座席で思いつめている跡取りの嫁をバックミラーで気にしていた運転手の佐田が

「いろいろ不安ですよね」と囁いた。


「はい、もう突然、こんなことになってしまってお店だってどうしたものかと……」


「でも大丈夫ですよ、皆さんいい方ばかりです。何の心配もないと思いますよ」


「運転手さんはもう長いんですか」


「はい、和也さんが小学生の頃からお世話になっています。基本的には取締役である奥様の専属なんで、ずっとご家族を見てきました。人としての格が違うと申しますか、とにかくすごい方ばかりです」


店に着いた彼女は

「すいません、どこかで二時間ほど時間をつぶしていただくことができますか?」と尋ねたが

「いいえ、大丈夫です。ここでお待ちしますので……」と答える佐田に

「ごめんなさい、正直に言わせていただくと、待たれてしまうと焦ってしまって、すいません……」申し訳なさそうに思いを伝えた。

「わかりました。おっしゃる通りですよね、そうしましたら、どこかで好きにさせていただきますので、準備が整いましたらお電話をいただくということでよろしいでしょうか? 私は仕事なのですから、二時間でも三時間でも構いません。ごゆっくりとなさって下さい」

「すいません、勝手なこと言ってほんとにすいません。助かります」

「とんでもないです」


店に入ると、理穂は客用のいすに腰掛け

「ふうーっ」と大きくため息をつくと一人ぼっちの店で静かに考え始めた。


( お店はどうするかなー、会社が大変そうだったら事務ぐらいは手伝った方がいいかなー、閉めるかなー、とりあえずお兄ちゃんには報告しておかないと……)


『お兄ちゃん?』

『どうしたの? 何かあったのか?』

『あっ、ごめん、学校だったね』

『いや、今日は研修で、今、昼休みだからいいけど……』

『あのね、お店やっていけないかもしれない……』

『えっ、だって順調って言っていたじゃないか?』

『そういうことじゃなくてね、今日、和也さんの実家に行ってきたの……』

『えっ、実家! 家族がいたのか?』


『そう、昨日の夜、聞かされて、お父さんからは勘当されていたらしくて、ただお母さんの調子がよくないって聞いて慌てて今日行ってきたんだけど……

和也さんの顔見たらお母さん元気になって、それはうれしいんだけど、大きな家でね、そこに住むことになったの…… 』


『そうか、それは急だなー』


『そうなのよ、それで和也さんもお父さんの後ついで社長になることになってしまって、今は中小企業も大変でしょ、私だって事務くらいならできるから手伝おうかと思ったりして、色々考えているの……』


『そうか、なんか様子が変わって来たなー、それで何ていう会社なの?』

『えーと、よく聞いたことないけど、斎藤クループかなんか、そんな名前だった。うちのお店の近くにあるの、兄さん知らない?』

『ちょっと待てよ、お前、和也君の父親って、斎藤真一か?』

『そうそう、兄さんよく知っているね』

『お前なー、斎藤グループ知らないのか?』

『知らない、そこのお店の人は食べに来てくれるみたいだけど、あまり関係ないし……』

『和也君が隠していたのがわかったよ…… あそこの御曹司だったのか、そりゃ隠すわな……』

『兄さん、何、訳の分かんないこと言っているの?』

『理穂、落ち着いてよく聞くんだよ』

『どうしたの?』

『斎藤グループって言うのは、日本でも三本の指に入る商社だ、最近は様々な分野でも活躍していて、すごい会社だよ』

『えっ、それほんとなの?』

『ほんとだよ、その辺の町工場じゃないんだから、お前がちょっと事務手伝うって言ったってそうはいかないと思うよ』

『…… 』彼女は固まってしまった。(四~五百万円、嘘じゃなかったの?)

『そりゃ家だってすごいだろ!』

『えっ、うん…… 困ったなー……』

『そりゃ大変だろうな、おれには想像できない! だけど、これで和也君が結婚するときに言いたくないことがあるって言っていたのがよくわかったよ……』

『えっ、そんなことあった?』

『大丈夫かお前、なるほどね、あの婚約指輪だって、杏子が鑑定書だけで友達に聞いたら、今は五百万出しても手に入らないって言ってたし、不思議には思っていたんだよ……』

『どうしよう?』

『そりゃどう見ても、お好み焼屋でアルバイトするような人間には見えなかったものな…… だけどあの時に、斎藤グループの御曹司だなんて聞いていたら、お前だって絶対に引いていただろう!』

『兄さん、偉いところに嫁いでしまったね』

『他人事みたいだな』

『でも、私も逃げるつもりはないわよ、綾だっているんだし……』

『ご両親はどんな人なんだ?』

『それがあのよく来て彩と遊んでくれるセレブがお義母さんだったの』

『えっ、ちょっと若すぎないか?』


『実のお母さんじゃないの、その辺は色々あるみたい、お父さんもお母さんに頭が上がらなくて、妹さんもいい人で、その辺は大丈夫と思うけど、お手伝いさんが三人もいるし、運転手だっているし、けっこう贅沢しているから、節約の話をしようかと思ったけど……

もう止めとく……』


『その方がいいね……』


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