狂を溶かす雪
これは遅咲きの桜がせかされるように
四季の拘束を求めてあわて降る雪の晩
早すぎた衣に手を擦り合わせる少女が
赤銅の熱に浮かされた殺意の刃に出会う噺
喜劇とは云えず
されど悲劇とも表せず
しいて語るならば
三流道化の自嘲伝
雪の白さをキャンバスに
儚さを描こうとし
垂らしたインクに慌てた画家が
ぬぐった後のボヤけた影
陽炎のように定まらぬ形を
無理に枠にはめてしまった歪
何を表したいのか
何も表していないのか
作者にも図れない
それでも確かに
それはいる
素肌に触れる雪は
冬の凍度を忘れてきたが
確かな質量に相応しい熱量を奪う
されどそれは感じない
冷たさも熱さもそれにはないから
あるのはただただ狂おしい
熱いなどでは計れない
殺意の鼓動
月光を切り取ったかのような
白刃の短刀を煌めかせ
鼓動の速さに急かされるまま
宵の闇に命の光を沈めんとす
それに少女は問う
「本当に…」