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07.魔王降臨

「あい、ちゃん……?」


 わたしの呟きを耳聡く聞きつけたあいちゃんが以前会った時のような無邪気さは無く、尊大な威圧を放ていた。


「ほう、我の姿を知っておるのか。くくく、我は藍であり藍でない」


「……何の謎かけよ。意味不明なんだけど」


 藍ちゃんであり藍ちゃんでないって……漫画や小説のお馴染みなパターンだと、体が藍ちゃんで中身が別物ってこと……?


「彼女は魔王に体を乗っ取られているのさ。なぁ、そうだろうStart」


 どうやら私の考えてた通りお約束(テンプレ)だったらしく、藍ちゃんの体は魔王に操られているらしい。

 と言うか、何故ここでStartが?


「娘を魔王に差し出す父親……最低って言いたいところだけど……」


「うぇぇ!? 藍ちゃんがStartの娘!?」


 ウインドの鋭い視線を受けながらもStartは平然と魔王の傍で控えている。

 自分の娘を生贄のように差し出しながらも平然としているなんてまともな神経をしていないと言えた。

 けど、ウインドの含みのある言い方……まだ何かあるの?


「私は魔王様に従うのみ」


 肝心のStartは何も語らずただ佇むのみ。


「そこの獣よ。乗っ取ったとは人聞きの悪い。我は差し出された体を使っているに過ぎない。

 尤も、交換条件としてこの娘の病の進行状況を止めているがな」


 ……なるほど。Startは藍ちゃんを助けるために魔王に従っているって訳ね。

 これもまたお約束(テンプレ)と言えばお約束(テンプレ)ね。


「ねぇ、ビースト。貴方魔王とも面識がありそうだけど、一戦交えたりした? 強さの方はどうなの?」


「あー……ちょっと今の俺達じゃキツイな。望みは無いわけじゃないが、ここ一番のピンチでの一発逆転とかの奇跡は無いと思ってくれ。

 普通に戦えばまず負ける」


 ……マジですか。


 前回Startに負けてリベンジもしていないのにここに来ていきなりのラスボスですか。

 運命の神様がいるとしたらわたしにどれだけ試練を与えるつもりなの?

 只でさえ普段の生活すら不運の連続だと言うのに。


「望みが無いわけじゃないって、何か希望はあるの?」


「それは貴女よ、ソードダンサー。魔王に唯一倒すことができるのが魔法少女なのよ」


 …………マジですか。


 ウインドの言葉にわたしは思わず言葉を失う。

 魔法少女の力が魔王に対抗する唯一の力? 何処までもお約束(テンプレ)何だか。

 まぁ、恐らく魔力的な何かでそうなっているんだろうけど、ビーストの言葉を借りれば今のわたし達には魔王に対抗できる実力は無い。

 と言う事は、今は何とか魔王の攻撃を凌いでこの場を離脱する事なんだけど……


「相談は終わったか? ならば少しの間、遊んでやろう」


「Zodiac、今の内に引き上げなさい。今日の不始末の沙汰は追って言い渡します。」


「くっ……わ、分かったよ」


 Zodiacは悔しそうにしながらもわたし達を睨みながら足下に魔法陣を展開し、そのまま潜るようにして消えた。


 ああ、わたしの探知に引っかからずに突然現れたように見えたのは転移魔法陣を持っていたからなのね。

 確かにこの力があれば有用に使えるからここで排除されたら困るわけね。


 Zodiacが逃げると同時に魔王が襲い掛かる。

 小さな女の子の体とは思えないほどの迫力と魔力を伴い右手を突き出す。


 禍々しい魔力の塊がわたし達を覆い尽くすように迫る。


「マジックシールド!」


「オラァ!」


瞬歩(クイックムーブ)!」


 わたしは魔法障壁を張り、ビーストは魔力を纏った拳で強引に瘴気の津波をこじ開ける。

 ウインドは瞬間的に上空に移動し瘴気の津波を逃れていた。


「ほう、今のを凌ぐか。これはどうだ?」


 瘴気の津波を防いでいる間に間合いを詰めていた魔王がわたしの頭上から左手に纏った魔力の剣を振り降ろす。

 わたしは慌てて左右の剣を交差させ魔王の魔力剣を受け止める。


 ズンッ!


 魔王の魔力剣を受けた衝撃でわたしは思わず膝をつく。

 思っていた以上の重い一撃にわたしの筋力が追いつかなかったのだ。

 魔力で筋力を強化しているにも拘らず。


「くぅぅ……!」


「ほう、これで潰れないとは。今代の魔法少女は意外と優秀だな。魔法少女になってまだ間もないと聞いていたが」


 げ、よく見たら魔力剣の周りに重力魔法が掛かっている。

 そりゃ重い一撃になるわけよ。


 わたしが何とか魔王の一撃を押し上げている間、ビーストとウインドが背後からと上空からと襲い掛かる。

 勿論わたしもこのまま押し込まれるだけではない。

 反撃の魔法を至近距離からぶちかます!




◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「はぁ……はぁ……はぁ……」


「チッ、奴め、マジで遊んでいやがる」


「ビースト、どうする? このままじゃ逃げるにも逃げられないわよ。

 ……あれ使っちゃう?」


 わたし達の攻撃は悉く防がれ魔王の攻撃がわたし達を蹂躙していた。

 ビーストが言うように狙いなどを甘くしたうえで。

 文字通り遊ばれていたのだ。


 魔王の魔力は間違いなくわたしよりは少ない。

 わたしを除けはこの中で一番多いのだろうけど、それにしては湧き出るかのように幾ら膨大な魔力を使っても尽きることが無かった。


 その上で魔力の使い方、体術、戦術、どれをとってもわたしの上を行っていた。

 ビーストとウインドの2人はStartのように戦闘経験が豊富らしく、辛うじて魔王に食らいついてはいたが、やはり凌ぐので精一杯のようだった。


「ウインド、あれって?」


「あたしの切り札。だけど協力過ぎて周りにも被害が及ぶし、憑代になっている藍ちゃんにも確実に影響が出るわ」


「ちょっ、それダメじゃん!」


「さて……どうしたものか」


 遊んでいると言う事は命の心配はないと思えるのだが、あくまで命の心配が無いだけでそれ以外の事は保障されているわけではないわけで……

 下手をすれば魔法少女にありがちなエロゲ展開も……って、冗談じゃない!


「お主らとの遊びに興が乗ってきたところだが……残念ながら時間切れのようだの」


 魔王がふと視線を向けた先には白い塊がこちらに向かって突っ込んでくるところだった。

 その白い塊はわたし達と魔王の間に割り込み殺気を魔王へと向ける。


「グルルルルルルルルゥ……!!!」


「フェル!」


「グルゥ(遅くなってごめんなさい。倒したと思った愛怨に時限魔法を掛けられていてその解除に手間取ってしまったの)」


 StartかZodiacかは分からないが、わたしとフェルを分断するのに手の込んだことをしてたみたい。

 お蔭で4件の後始末にかなりの時間を要して合流するのに遅れてしまったと。


『魔王A.I.、久しぶりね。相変わらず寄生虫みたいなことしかできないみたいね』


「そう言う貴様こそ借り物の体で我の前に現れるなど失礼だな、2代目」


 氷室課長は念話を全方位に向けて魔王と会話をする。

 魔王はフェルの体に氷室課長が間借りしているのが分かっているみたいだ。

 と言うか、氷室課長も魔王と面識があるんだね。

 どれだけ魔法総合局は魔法結社Accessと因縁を抱えているの!?


『悪いけど、今彼女を倒されるわけにはいかないわ。彼女は貴女を倒す希望なのだから』


「心配せずとも今日の所は見逃す。遊びとこやつらにも申しておるからな。

 それに……魔法少女が強くなればなるほどこちらとしても都合がいい」


『都合がいい……? それはどういう意味かしら?』


「そこまで詳しく話す義理は無いと思うが?」


『…………まぁ良いわ。だったらさっさと引き上げて頂戴。私達は後始末もあるんだから何時までも居られると邪魔よ』


「ふっ、そうだな。十分に遊んだし引き上げるとしよう。

 ソードダンサーよ。次に会う時にはもう少し強くなっていることを願うぞ」


 そう言いながら魔王とStartは地を蹴り跳躍しこの場を離れた。

 魔王が完全に離れたことが確認できるとわたし達はようやく安堵する事が出来た。


『ビーストとウインドもありがとうね』


「いや、格好つけて来たはいいが、肝心なところで役立たずじまいだったよ」


「まさか魔王まで出張って来るとはね……ちょっと油断が過ぎたみたい」


「わたしとしてはそれでも凄く助かったんだけどね」


 実際2人が来なければZodiacにもっと苦戦してたし、下手をすれば負けていたかもしれないのだ。

 それにしても、わたしは2人の事と言い、氷室課長と魔王の事と言い、知らないことだらけだったなぁ……

 いやいや魔法少女をやっているから関わらないようにしていたけど、そうも言ってられないみたい。

 Startのリベンジも途中だし、魔王に対抗するための力も見に付けなきゃならないし、本格的に魔法少女をやるか。

 ああああ、でもこうしてどんどん深みにはまっていくんだろうなぁ……


 わたし達は後日反省会兼改めて顔合わせをすることにし、この場の後始末をして解散した。

 そしてこの時思った通り、わたし――いや、俺は気が付けば魔法少女と切っても切れない深い関係が長らく続く事になるのだった。








次話エピローグ

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