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04.26の幹部Start

剣舞氷雷十字閃(ダンスブレイドクロス)!!」


 わたしの一撃が愛怨(アイオン)の肉体を斬り裂き、中の魔法の力を消し去る。

 植え付けられた魔法の力が消えた愛怨は一般の男性の姿に戻り、気は失っているものの命には別状はないようだ。


「ふぅ、後の処理は頼んだわよ」


「わふ!」


 この男性の保護や戦闘の被害の後始末等、面倒な事はフェルに任せわたしはこの場を離れようとする。

 今夜は襲われている女性などはいなかったからまだマシな方だが、それでも後始末が面倒な事には変わらない。


「わふ!」


 だが、フェルがいつもとは違う警戒の鳴き声を上げ、同時にわたしも急激に増大した魔力反応を感じわたしは魔力障壁を張る。


「マテリアルシールド!」


 直後、わたしの張った魔力障壁に爆炎が弾け周囲に粉塵を巻き起こした。

 これは明らかに敵意を持った攻撃だ。

 わたしは警戒をしながら攻撃をしてきた敵を探るが、その必要は無く向こうから堂々と姿を現してきた。


 コツコツコツ


「どうも最近愛怨の活動が芳しくないと思ったら貴女が邪魔をしていたんですね」


 粉塵の中から現れたのは1人の男性だ。

 背格好は180cm位の中肉中背で黒髪の何処にでもいそうな青年だ。

 但しその青年はタキシードに身を包み、顔は竜をあしらった仮面で覆われており、今この場には似つかわしくない姿だ。


「可笑しいですね。魔法少女の力は把握していたのですが……それを踏まえて愛怨の強化をしてきたはず。ふむ……」


「何者!?」


 わたしは竜仮面の男に剣を向け、警戒レベルを引き上げる。

 どうやら向こうは魔法少女の事を知っているらしく、今の話からすれば愛怨を作り出している元凶っぽい。

 と言う事は、噂に聞いていた秘密結社Accessなのか?


「おや……なるほど。どうやら代替わりをしていたようですね。4代目の魔法少女ソードダンサーですか」


「……5代目よ」


「最近最前線に出ていなかったとは言え、魔法少女の代もそこまで様変わりしていたとは……

 確かに今代の魔法少女相手に今の愛怨では歯が立たないはずです。

 どうやってこれほどの魔法少女を見つけて来たのやら。魔法総合局さんは人材が豊富なようですね」


 そんな訳ない。

 環境省魔法総合局対覚醒者対策課の魔法少女はわたし1人だ。

 確かに他にも覚醒者に対抗するための調整者(バランサー)(覚醒者に対抗できる魔法使い)も居るが、魔法少女としての調整者(バランサー)はわたししか居ない。


 目の前の男が勘違いしたのは恐らくわたしの魔力を量ったからだろう。

 氷室課長――2代目の元魔法少女――によればわたしの魔力は歴代の魔法少女を遥かに上回るらしいから。


「それで? 貴方は何者なの?」


「おっと、これは失礼。

 私は秘密結社Accessの26の幹部の1人、Startと申します。以後お見知りおきを」


 やっぱりと言うか、予想通りの正体にわたしは油断なくStartを観察する。

 って、26の幹部ってこんなのがあと25人もいるの!?


 軽く魔力を量ってみるが、確かに愛怨とは比べ物にならない魔力を感じる。

 そして身のこなし、雰囲気も熟練のそれを思わせるものがあった。


「私としては貴女のような魔力持ちにこれ以上邪魔をされるのは勘弁願いたいのですが……言って聞くようなら魔法少女をやってないでしょうね」


「誰が好き好んで魔法少女をやってると思っているのよ。貴方達がこんなくだらない事を止めればこっちとしてもこんなことしなくても済んだのよ」


「はっはっはっ、残念ですがそれは聞けませんね。こちらとしても色々な事情がありますから」


「悪の秘密結社の事情って、それで納得する訳ないでしょ」


「ま、それはこちらとしても分かり切った事です。でなければ初めからこんなことはしませんよ」


 そりゃそうだ。初めから悪事を働くって分かっていてこんな説得で止める馬鹿はいない。

 互いの主張が認められないからこそこうしてぶつかり合っている訳だし。


「そうですね。こうしてお互い初顔合わせなのですから一戦交えて見ますか。今後の愛怨のデータの参考にしましょう」


「この一戦で終わるかもよ?」


 ……もしかしてこれはチャンスか?

 上手くいけばここで幹部の1人を倒すことが出来るかもしれない。

 わたしの魔力は桁外れらしいし、向こうはわたしの魔力を把握したつもりで油断しているはず。


「そうならないように頑張りますよ」


 Startはやや前かがみになりながら優雅に両手を広げ構えを取る。


「わふ!(気を付けなさい。彼は一筋縄じゃ行かないわよ)」


 いつの間にか中身が入った氷室課長がわたしに警告をしてくる。

 そうか、氷室課長は奴とはやりあった事があるんだったな。


「大丈夫よ。伊達にこの数か月魔法少女をやってないわ」


 確かに嫌々始めた魔法少女だが、何も不真面目にやっていたわけではない。

 只でさえ命懸けの戦闘だ。油断して命を危険に晒すことは勘弁願いたいからね。

 いや、魔法少女として戦う事は下手をすれば命懸けよりもさらに酷い事になりかねないから(魔法少女にありがちなエロ関係怖い)。


「まずは小手調べ……ファイヤージャベリン!」


 わたしの生み出した炎の槍がStartを襲う。

 Startは難なく素手で炎の槍を薙ぎ払いそのまま歩を進めほんの数歩でわたしへの間合いを詰めた。


「――っ!?」


 あっという間に間合いに入られた私は慌てて左右の剣を振るい距離を取ろうとするが、Startはわたしの剣に合わせるように両腕で剣を弾きながら更に間合いを詰めようと迫る。

 剣を振るいながら距離を取ろうとするわたし。

 両腕を振るいながら間合いを詰めようとするStart。

 さながらその動きは2人で華麗なダンスをしているようにも見えた。


 一向に引き剥がせないわたしは焦れて魔力を纏った剣戟を放つ。


剣舞烈斬(ソードダンスブレイク)!」


竜の吐息の手(ブレスオブハンド)


 わたしの魔法斬撃に合わせるようにStartも魔法を放ち両手に魔力を纏いわたしの剣舞烈斬(ソードダンスブレイク)を弾いた。

 大きく斬撃を逸らされわたしの態勢は大きく崩れる。

 勿論その隙をStartは見逃すはずも無く、そのまま魔力を纏った拳をわたしに放つ。


「ぐぅっ!!」


 お腹に一撃を貰いわたしはそのまま吹っ飛ばされる。

 地面を転がりながらわたしは体勢を整えすぐさま反撃の魔法を放った。


「アイスブラスト! ウインドカッター! ブラックニードル!」


 氷の飛礫に風の刃、2つの魔法と夜の暗闇に紛れての闇の針飛礫。

 それもわたしの魔力に物を言わせた大質量の魔法攻撃だ。

 その光景はまるで暴風による豪雨が降り注いでいるようだった。


 そしてその対処に追われている間の追撃の魔法―――


「サンダーストーム!!」


 上空からの降り注ぐ無数の雷の嵐。

 流石にこれには一溜まりもないだろう。

 そう思って降り注いだ魔法が途切れ巻き起こった煙が晴れるのを見たが、そこには何事も無かったかのように平然と立っているStartが居た。


「……う、そ」


「ふむ、魔力量による物量攻撃ですか。確かに貴女の魔力なら有りの攻撃ですが、まだまだ技術不足が否めませんね。

 そこら辺の覚醒者や愛怨なら有効ですが、私ほどの実力者なら全くの無傷とは言いませんが決定打にはなりえません」


 ……自分で実力者って言うか。


「わふわふわふ(拙いわね……まさかここまで実力の差に開きがあるとは……と言うか、Start更に腕を上げた? 私の時よりも遥かに強くなってるじゃない)」


 氷室課長がそう言っている間にもStartはわたしに攻め入ってくる。

 先程と同様に両腕を剣に見立てて手刀を振るい、合間合間に魔法を放ってくる。

 そのタイミングが絶妙でわたしはギリギリで防ぐので精一杯だった。

「くぅ……!!」


 手刀攻撃も捌くの精一杯なほど連撃に、間合いの取り方位置取り、どれをとってもわたしを上回るほどだった。


 クソッ……何がチャンスよ。

 何処からどう見ても向こうが上手じゃないの!

 こうして剣を交えているだけでも分かる。

 Startの実力は戦場を駆け巡る歴戦の強者と言えた。

 魔法が世に現れ物騒な世の中になったとは言え、今の日本にこれほどの強者が居るとは。

 わたしのこの数か月の戦いなんかStartに比べたら稚技に等しい。


「グルゥ!!」


 見かねたフェルが本来の大きさに戻ってわたし達の間に割り込んできた。


「グルル……(ここは引くわよ。悔しいけど今はStartには敵わないわ)」


「ふむ、このまま逃がすのは愚かとは言えますが、まぁ良いでしょう。貴女の実力は大体把握できました。

 この程度ならまぁ問題は無いでしょう。対策は十分取れます」


 カッチーーン


 流石にStartのこのセリフには頭に来た。

 確かに嫌々やっている魔法少女だけど、だからと言ってこのまま負けっぱなしと言うは気に入らない。


「……いいわ、今日の所は引いてあげる。次に会う時には容赦なく叩き潰してあげるわ」


 まるっきり立場が逆の悪役のセリフだが、今はこれが精一杯の反抗だ。

 わたしは大きくなったフェルに乗ってその場を離れる。

 ついでに被害者(?)の元覚醒者も連れて行くのも忘れない。

 戦闘後の周囲の被害がそのままだと言うのは仕方がない。

 ああ、明日にでもネットとかで噂になってしまうんだろうなぁ。


「ふふ、いいでしょう。次に会う時は楽しみに待ってますよ。私を止められるものならね」


 わたしはこの時竜仮面の下で微笑んでいるStartの言葉が何処か哀愁を漂わせている事に気が付かなかった。









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