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第九話【回復地点】

 俺は気づいてしまった。


 あの大蛇‥‥‥思ったより遅いぞ。

 さっきのガーゴイルが、俺と同じくらいのスピードだと言うのもあって警戒はしていたんだがな。

 普通に全力を出さなくても距離を取れるわ。


 でもまあ、決して遅すぎる訳では無い。

 ゴブリンとは比べ物にならないほど早いし、多分洞窟にいた蝙蝠よりも敏捷が高いと思う。


 ただガーゴイルの方が早いところを見ると、この大蛇は普通に戦闘力が高いと思うぜ。

 ドラクエで言うト〇ル等。

 遅いやつがタフで強いと言うのは相場で決まっているからな。

 俺はとりあえず大蛇を無視して走った。


 タッタッタッタッ


 約3分後‥‥‥。


 ここ、大蛇がやたら多いぞ。

 今のところ軽く20匹は見送っている。

 今思ったけど、普通にバランス良くステータスを割り振っているプレイヤーって‥‥‥かなり大変だよね?

 だってこいつらを無視して逃げる事が出来ないんだろ?

 そもそもこの階段、森とか洞窟に比べて敵の遭遇率が多すぎる。

 他のプレイヤーの皆様、お疲れ様です。


 タッタッタッ


 と、そこで頂上? が見えてきた。


「雪菜さん‥‥‥もしかしたらあそこが試練の場所かも」

「‥‥‥あ、ほんとだ。‥‥‥階段が途切れてる」


 俺はラストスパートを全速力で駆け抜け、最後の段差を力強く踏み頂上へ─。


「とうちゃ‥‥‥く?」

「‥‥‥じゃ、なさそう」


 見た感じ、試練の場所と言う感じでは‥‥‥無いな。

 周りがすべて壁に囲まれている少し狭い広場のようで、全体的に茶色だ。

 中心にはとても綺麗な青色の大きい水たまりがあり、一際目立つ。


「休憩場所っぽいな」


 まあ、こう言うのがあって当然だろう。

 元々普通のプレイヤーは、あのガーゴイルや大蛇のスピードからして、死ぬほど戦う事が前提とされている。

 となるとあれだけの死闘をくぐり抜けて来て、そのまま試練が始まると言う可能性はほぼ無い。

 唯一の回復地点である森の中の湖も、かなり遠いしな。


「‥‥‥あの水たまり‥‥‥回復すると思う?」

「さあな。でもこんなところにあるし、森の湖と色が同じところを見ると、回復するんじゃないか?」


 まだ確信は持てない。


「‥‥‥そっか」

「ちょっと火弾ファイアーボールを使ってみてくれる? 一応知っておきたいから」

「‥‥‥分かった」


 雪奈さんはそう返事をし、詠唱をして火弾ファイアーボールを空に放った。

 よし、これでMPが減った。


「それじゃあ、あの水を飲んでみて」

「‥‥‥ん」


 俺は雪菜さんを地面に下ろすと、一緒に水たまりへ向かう。

 かなり綺麗な青色をしている為、飲んでダメージを受けると言う可能性は無いだろう。

 もしHPが減ったりしたら、これを作ったプログラマー‥‥‥かなり性格悪いぞ。


 雪奈さんは水たまりの近辺まで歩くと、その場でしゃがみ水面に顔を近づけていく。


 おぉぉ。我が妃と聖水の接吻をもう一度見られるとはな。


「‥‥‥五月雨くん‥‥‥見ててね」

「おう、任せろ!」


 雪菜さんは唇を聖水につけたー。


 雪菜さんは唇を聖水につけたー。


 雪菜さんは唇を聖水につけたー。


 重要なところなので3回繰り返してみました。

 アニメとかでよくあるよね?

 例えば主人公が強力な技を繰り出す時、普通に一回で行けばいいのに、角度を色々と変えて同じシーンを何度も繰り返すパターンのやつ。

 だから俺は雪菜さんの唇が聖水につく瞬間を、繰り返し何度も頭の中で想像してみたのだ!

 ゲヘへ~。

 良いじゃないのぉ~。


 とそこで雪菜さんの声が聞こえて来る。


「‥‥‥どう?」


 俺は思った事を正直に答える。


「綺麗だよ」

「‥‥‥ん? ‥‥‥何を言ってるの?」

「見ててと言われたから、ずっと眺めてたよ」


 まるで真紅の薔薇の様な唇だったぜ!


「‥‥‥そう。‥‥‥で、結果は?」

「結果? ‥‥‥まあ美しかったけどさ」


 雪菜さんは何かを悟ったらしく、無言でステータス画面を開く。

 そして一人で納得した様に「‥‥‥ちゃんと回復してる」と呟いた。


「あー、なるほど。MPバーを見ていろと言う事だったのか」

「‥‥‥どう言う意味だと思ってたの?」

「てっきり雪菜さんが、私の唇をずっと見ていてって言っているのかと」


 俺の言葉に雪菜さんは顔を赤くする。


「‥‥‥そんな訳無い‥‥‥で‥‥‥さっき綺麗って言ったのは?」


 それを聞いてくるか‥‥‥。

 良いだろう、我が妃の頼みだ、答えてやる。


「我が妃の、薔薇の様に可憐で美しい唇を見ていて私が抱いた感想だ」


 俺が顔に手を当てそう言うと、雪奈さんは下を向いて呟く。


「‥‥‥肝心な‥‥‥で‥‥‥ける」

「ん?」

「‥‥‥なんでも無い」

「そうか」


 何か言ったと思ったんだけどな。

 ‥‥‥まあ良いか。


「‥‥‥これから‥‥‥どうする?」

「そうだな~。一応考えは二つある。一つ目、このままあの階段を進んで行く。二つ目、回復地点があるんだからここに来るまでに出会った蛇とかを狩って少しレベルを上げる」


 水たまりの向こう側には、更に上ヘ進む為の階段がある。

 速くクリアして、たくさんの人がいる巨大サーバーへ行きたいのなら、迷わず進むべきだろうが、特に急ぐ理由も無い。

 なので回復場所が近くにある時点で、レベルを上げておくのも悪くはないと思うぜよ。


「‥‥‥五月雨くんは‥‥‥どっちが良いと思う?」

「う~ん。俺はレベル上げかな。この先に何があるか分からないし」


 ここに来る前は正直、レベル3でも余裕で行けるだろうと思っていた。

 しかし、予想よりも敵が強そうだったわ。

 特に、あのガーゴイルに追いつかれそうになった時は、ちょっと自分の敏捷に自信が無くなったぞ。

 だからもう少し自身を強化していた方が身の為だろう。


「‥‥‥私もその方が良いと思う。‥‥‥ここより上の相手が更に強くなるんだったら‥‥‥私達負けちゃうかもしれないし」


 雪菜さんよ。

 なかなかゲームの事を分かっているじゃないか。


「じゃあ決定だな」


 と言う事で俺と雪菜さんは蛇殺しを開始した。


 やり方としては、俺が階段を上下に移動し蛇を翻弄する。

 その際、あのガーゴイルが追いかけて来る場所までは、降りない様にしておく。

 なるべくあいつに追いかけられたく無いからな。

 そして雪奈さんが魔法で攻撃。

 レベル3になった時点で新しい攻撃魔法を覚えていたはずなので、攻撃の時にはそれを使って貰う。

 回復地点が近くにあるんだから、ガンガン行こうぜ!


 少しして‥‥‥。


 俺と雪奈さんはそれぞれレベル4となった。


 なんか物凄く上がりが早かった様な気がする。

 そしてこの調子で行くぜー、とかって思いながら戦い続けたが、中々レベル5にならない。

 なのでレベル上げを中断し、一旦回復地点へと帰還した。


 現在、雪奈さんが聖水と接吻しているなう。


 まあそれは置いといて、一つ言いたい事がある。

 ‥‥‥俺、さっき死にかけたわ。


 ‥‥‥本当です。

 マジで死を覚悟したわ。

 雪奈さんに感謝しなきゃな。

 ありがとう、私の愛しき妃よ。

 マジで助かったわ。

 この御恩は一生忘れません。


 よし、雪奈さんと聖水の接吻が終わったらもう一度レベル上げを開始するか。

 一応レベル3の時に比べて、ちぃとばかし敏捷が上がっているので、次からはあんな事態に陥らないと思う。

 あんなのは二度とごめんだ。


 いや、マジで怖かったんだって。


 自転車で横断歩道を通過している時、赤信号が視界に入ってきてまずいと思ったその直後に車が走って来て、その車のヘッドライトが俺の自転車のかごに直撃した時レベルに怖かった。


 自転車に乗って熱唱していたら、突然同級生に後ろから追い抜かれた時レベルに怖かった。


 食事中ふと壁を見てみたら、巨大なゴキブリがいた時レベルに怖かった。


 小さい熊に追いかけられ、家の中に逃げ込んでも爪で鍵を開けられ、最終的にお風呂場で食いちぎられる夢を見た時レベルに怖かった。あの時は汗びっしょりで飛び起きたからな!


 あ、これらの例は俺が今作りました。

 決して実体験じゃないからね?

 信じてくれよ?


 ん? どんな感じで死にかけたのかを早く説明しろって?


 良いだろう。

 ふっ、あれは、俺がレベル4になる直前の事だった。


 丁度雪奈さんの魔法により、一匹の大蛇を倒して安心していた時、横から別の大蛇が迫って来ていたらしいんだ。

 俺はそれに気づかず、そろそろ回復地点に戻ろうと思い階段を上りだした。

 その雪奈、雪奈さんが「五月雨くん!!」と叫びながら、俺の太もも辺りに手を伸ばし、緑の玉みたいなものを代わりに食らった。

 それにより雪奈さんのHPが4分の1ほど減り、致命傷になるほどでは無かったので良かったが、それが俺達二人の初めてのダメージである。

 つまり雪奈さんが大蛇の放った緑の玉に気付かなかったら、俺の太ももに命中していた為、死んでいただろう。

 俺はHPが10しかないからな!


 一応、生の指輪を装備しているから一度は復活出来るけど、こんな最初ら辺で生の指輪を失ったら死んだも同然だ。

 これからはもっと激しい初見殺しが来るだろうし。

 せめてこの指輪がもう一つ手に入るまで、失いたくない。

 絶対に一つは所持しておきたいという事だ。

 

 いやー、しかしほんとに助かったわ。

 油断は禁物だと改めて思い知らされたな。


「‥‥‥ふぅ。おまたせ」


 色々と考え事をしていると、雪奈さんの声が聞こえてきた。

 どうやら回復が終わったらしい。


「雪奈さんや」

「‥‥‥なに?」

「ほんとにさっきはありがとう。俺、全然気づかなかったわ」

「‥‥‥良いよ。でも次からは気を付けてね? 私も出来る限り‥‥‥頑張るから」


 優しいな。


「おう。精一杯頑張る!」

「‥‥‥じゃあもう少し戦おっか?」

「だな、もう少しでレベルが上がりそうな気がするし」

「‥‥‥ん」


 俺は雪奈さんをおんぶすると、もう一度下へと下りて行った。


 今度は絶対に気を抜かないからな?

 雪奈さんを残して俺一人が死んだら、今後の人生ずっと恥ずかしくてしょうがないからな。

 それに、一度死んだゲームをやろうとは思わない。

 俺は難しいゲームが好きなんだ!

 どんな鬼畜難易度が来ようと絶対乗り切ってやるぜ!

 だから、俺が死にかけた事は忘れてくれ!

 あれは仕方ないだろ!

 てか、死んで無いからセーフだ!

 気にするな!

 仮に死んでデータが削除されても、心が死んで無いから大丈夫だろ! みたいな屁理屈を言うつもりは無いから安心してくれ。


 いい機会だし、宣言しておくぞ。

 俺は死んでデータが削除されたら、このゲームから手を引く!


 俺達は再び下に降りて、大蛇共をぶち殺していく。

 やはり効率は先程よりも格段に良く、また、絶対に油断しない様にした。

 

 やがてそれぞれレベル5になったので回復地点へと戻る。

 因みに今回は全く危なく無かったぜ〜。

 すげぇだろぉ〜?


 そして、それぞれステータスポイントを割り振ると、聖水を飲んで回復する。

 俺は別に飲む必要無いのだが、雪奈さんと間接キスをしたかったので、隣で水分補給をした。


 ゴクッゴクッゴクッ


「あー、うめぇぇ」


 ゲヘヘ、雪菜さんの唾液うめぇ〜。

 ‥‥‥あ、冗談です。

 気にしないで下さい。


「‥‥‥回復完了」


 雪菜さんは聖水との接吻を終えるとそう呟いた。


「よし、じゃあ早速お互いのスキルを確認するか」

「‥‥‥五月雨くんのステータスは‥‥‥見なくても大体分かるけど」


 なんだって?

 まさか雪奈さん‥‥‥超能力の持ち主なのか?


 あ、皆さんに言っておきたい事があります。

 俺は先程、死を経験しました。

 そのお陰でHP、防御力が必要だという事を実感させられました。

 つまり、‥‥‥そういう事です。

 俺のステータスを見て貰えば分かると思います。

 俺はステータス画面を目の前に開き、自分のステータスを確認する。


────────────────────────────────────

Name ひろってぃー 男

Lv 5

称号 影の暗殺者


H P 10/10

M P 10/10


攻 撃 10

防 御 10

魔 攻 10

魔 防 10

敏 捷 11690


スキル 【敏捷適性(小)】【敏捷適正(中)】【加速】【敏捷適正(大)】


残りステータスポイント 0

────────────────────────────────────


 まあ命の大切さを実感したからな。

 ちゃんと考えて割り振ってみたわ。


 てか、【敏捷適正(大)】を覚えたけど‥‥‥どのくらい上がっているんだろう。


 ちょっと計算してみよう。

 レベル3の時点で敏捷は7630だった。

 で、そこからレベルが二つ上がっているから、2060ポイントを割り振っているはず。

 つまり俺の敏捷は9690という事だ。

 これで答えが出たわ。

 11690-9690=2000

 結果、【敏捷適正(大)】によって増えている数値は2000である。


 ふっ。俺は天才だな。

 頭が良すぎるぜ。

 将来数学の教師になれるんじゃねぇのか?


 ‥‥‥ってあれ? 称号が変わってる。

 影の暗殺者だと!?

 完全に俺好みじゃねぇか。


 よし、雪奈さんのステータスを見てみよう。

 なんか新しい技でも覚えているかもな。

 俺はメニュー画面を開くと、レインさんのステータスを表示した。


────────────────────────────────────

Name レイン 女

Lv 5

称号 魔術師


H P 1000/1000

M P 2570/2570


攻 撃 10

防 御 600

魔 攻 2100

魔 防 910

敏 捷 60


スキル 【火炎魔法(小)】【防御魔法(小)】【火炎魔法(中)】【氷魔法(小)】【MP適正(小)】【魔攻適正(小)】


残りステータスポイント 0

────────────────────────────────────


 ‥‥‥スキル‥‥‥ぼっけぇ増えとるやん!

 特に適正(小)がもの凄い増えてる。

 すげぇ。

 ‥‥‥。

 なんか‥‥‥、全体的に強そうに見えるんだけど。


 ‥‥‥えっ、実際に雪奈さんの方が強いって?

 ‥‥‥うん。

 そうかもしれん。

 ちょっと前からそう思い始めたわ。

 今回のレベルアップで何か良い技を覚えてたら、まだ雪奈さんと張り合えてたと思うんだけど‥‥‥だんだん差が広がってるよな?

 ‥‥‥気のせいかな?


 よく考えたらさ、俺の称号って影の暗殺者だよね?

 スピードには自信があるし、確かに合っているかもしれないけどさ、‥‥‥俺‥‥‥誰も殺せないじゃん。

 最初の雑魚的であるゴブリンですら、ダメージを与えられないんだぜ?

 暗殺者なのか?


 ‥‥‥まあ良いや。

 次くらいに良いスキルを覚えると期待しておこう。

 おい、俺よ!

 良い技覚えろよ?

 覚えなかったらHPに全振りするからな?


「‥‥‥五月雨くん‥‥‥なんか凄いね」


 雪奈さんがメニュー画面を見ながら言った。


「そうか? 俺は雪菜さんの方が良いと思うけどな」

「‥‥‥私は普通と言うか‥‥‥みんながやっていそうな振り分け方だから」

「まあ‥‥‥うん」

「‥‥‥でも、死んだらデータが削除されるこのゲームで、一切HPとか、防御力をあげないっていうのは、他の人には真似出来ないと思う」

「確かにそうだけど、‥‥‥俺がこのやり方を貫き通せているのって、雪奈さんのおかげなんだぜ?」


 雪奈さんは首を傾げる。


「‥‥‥私の‥‥‥おかげ?」

「だって、俺一人じゃ敵にダメージを与えられないからな。‥‥‥だから、もし仮に俺一人で攻略する様な事になってたら、確実に攻撃力やHPに振ってた」


 流石に一人で敏捷極振りは自殺行為だ。


「‥‥‥そっか」

「なあ、雪奈さん」

「‥‥‥どうしたの?」

「俺は‥‥‥雪奈さんの事が─」

「‥‥‥ん」


 雪奈さんは恥ずかしそうにしながらも、俺の言葉を待っている様子だ。

 少しばかりそわそわしている。


「─わ、私は我が妃の事を物凄く大切に思っているのだ。‥‥‥私一人では絶対にここまでたどり着けなかった。だからもう一度だけ感謝の気持ちを伝えさせてくれ、ここまで一緒にいてくれてありがとう。そしてこれからも私と一緒にいてくれないか?」

「‥‥‥それは良いけどさ。‥‥‥五月雨くん?」


 俺が顔に手を当てちょっぴり恥ずかしい自分の気持ちを伝えると、雪奈さんは一度頷いてくれたのだが、その後首を傾げて少し納得していないような表情をした。


「どうしたんだ? 我が妃よ」

「‥‥‥そういう‥‥‥重要な場面でふざける癖って‥‥‥直せないの?」


 うぐっ、痛いところをついてきやがる。


「う~ん。でも素の俺で言ったら、多分恥ずかしさで死んじゃう」

「‥‥‥そっか。‥‥‥だよね。やっぱりさっきのは忘れて」


 雪奈さんが少し小さい声でそう呟いた。

 その時の顔は、たくさんの葉っぱが枯れ落ち、地面に一枚、また一枚とたまって行っている秋の風景画の様に、少しだけ悲しそうだった。


 季節を変えて例を挙げるなら、まるで桜が咲き乱れて、空を舞っている綺麗な景色を楽しんだ次の日の、静けさみたいな感じだ。

 俺は色んな意味の込められている、雪菜さんの顔に罪悪感を覚え素直に謝る。


「なんか、ごめんな」


 その時の俺の表情は、まるでドーピングの使用がばれてしまった、陸上競技短距離走選手の様‥‥‥て、やめろ!!

 そんな顔してへんわ!


「‥‥‥大丈夫だよ。‥‥‥じゃあそろそろ上に行く?」


 雪菜さんは、ちぃとばかし無理して作った様に微笑んで聞いてきた。


「ああ、そうだな。もうお互いレベル5だし、行けるだろ」

「‥‥‥うん」


 という事で俺たちは、更に上を目指す事にした。


「一応魔物が出てきても無視して走るから、雪奈さんはMPの温存をお願い」

「‥‥‥分かった」


 俺は雪奈さんおんぶすると、水たまりの向こうにある階段へ足を踏み入れる。

 そして息を整えると、全速力で走り始めた。


 ダッッッタッタッタッ


「‥‥‥はやっ」


 雪奈さんは俺が走り出した瞬間、思わずそんな声を上げる。


「‥‥‥俺もちょっと今ビックリしたわ」


 敏捷が一万を超えているのもあり、先程とのスピード差がやばい。

 多分レベル5になった時に、振り分けたポイントによって手に入った、【敏捷適正(大)】がかなり大きいと思う。

 おそらくこれなら、あのガーゴイルから逃げる事も可能だろう。


 階段を上り出して、約30秒後──。


「‥‥‥」

「‥‥‥着いたんだが」

「‥‥‥私てっきり、さっきの回復地点が中間辺りだと思ってた」

「それ、分かる。俺もだ」


 俺達はめちゃくちゃ速く頂上に到着してしまった。


 だが、見た感じ何もない。

 周りには壁も無く、俺たちの上がってきた階段以外全部崖で、一歩でも足を踏み外すと、どこまで落ちるか分からない。

 結構上の辺まで上って来ているから、下の様子が全く見えないしな。


 恐らくこのゲームは、ドラ〇エやファイナ〇ファンタジーの様に、段差から落ちない為のプログラムは組まれていないと思う。

 昔ゲームをしてた頃は、この主人公、崖から落としてみたいなーとか、海にそのまま入って行きたいなとか考えてたけど、自分がその立場になったらかなり怖いわ。

 一応止めてくれるかもしれないが、試してみる勇気は無い。


 過去にダークソ〇ルというゲームで、プログラム上落ちないだろうと思いながら、崖に向かって走って行ったら、そのまま落ちて死んだ事がある。

 あの時の悲しさは忘れない。


 という事で俺、落ちる気は無いからな?

 もし俺が端っこに立ったとしても押すなよ?

 絶対押すなよ?


「‥‥‥何もないね」

「多分、少し進んだらイベントが発生して、何かが出てくるパターンだと思う」

「‥‥‥なるほど」

「よし、準備は良いかね?」

「‥‥‥ん」


 俺は雪奈さんを地面に降ろすと、前に進んだ。

 絶対油断はしないぞ。


 スタッスタッ


「グギャオォォォォォォ!!」


 俺が中央に向かって2、3歩進むと、突然上空から物凄く大きな叫び声が聞こえてきた。

読んでくださりありがとうございます。

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