第八話【階段】
俺は良い事を思い付いてしまった。
これは歴史的大発見かもしれない。
たぶんノーベル賞が貰えるレベルだぜ。
俺って元々、HPとMPが10しかないから【加速】というスキルを使っても、それぞれ5しか消費しない。
つまりこの程度なら、この湖の水をほんの少し飲むだけで回復するのだ。
だから、水筒の代わりになる何かを用意して、この水を常に持っていれば、俺は何度でも【加速】を使用する事が出来る。
すごいとは思わんかね?
まあ問題は、その水筒替わりをどこで手に入れるか、なんだけど。
まあ特にそれらしい持ち物はないし、こんな森の中にある物だけで作るなんて不可能だ。
木を削って入れ物くらいなら作れそうだけど、蓋がないと水が漏れてしまう。
尿漏れみたいにな。
だからといって、ペットボトルの蓋みたいに精巧な物なんて作れない。
だから諦めよう。
うん、もういいや。
無理だからな。
俺はこういう人間だ。
これ以上のものは無いし、これ以下でも無い。
ここからはもう無理。
出来ない。俺はもう出来ない。
諦めたもう。無理!
あ、俺。とある大家族の父親じゃないからな?
と、そこで雪菜さんが水を飲み終えたらしく、顔の水分を拭いながら、その場に立ち上がった。
随分と長い事飲んでたな。
その甲斐あってか、HPとMPのバーは全回復している。
「‥‥‥お待たせ。ごめん待った?」
雪奈さんはこちらに向かって来ながら、申し訳なさそうに謝る。
「大丈夫。雪菜さんの水を飲む姿を見てたから、全然暇じゃなかったよ」
「‥‥‥それってどういう事?」
「我が妃のしている事のすべては、私にとってのご褒美なのだ。
つまり我が妃と聖なる湖の接吻を見ていたこの一時は、とても有意義だった」
「‥‥‥」
雪奈さんは細い目で俺を見てくる。
「次は私と神々しいくらいに激しい接吻を‥‥‥交わしてみないか?」
その瞬間雪菜さんは、顔を真っ赤にし下を向いてしまった。
「‥‥‥真面目‥言っ‥ら‥のに」
ん? 我が妃は今何と言ったのだ?
声が小さくて私には聞こえなかったのだが‥‥‥。
「私の耳が遠かったせいで、すまない。もう一度言ってくれるか?」
「‥‥‥そのノリをやめてって‥‥‥言ったの」
あれ? そんな感じだったかな?
‥‥‥まあ、良いや。
「あ、はい」
俺は元に戻った。
さっきのは、正直自分で言ってて恥ずかしい事ばかりだったわ。
でもなんか調子に乗りたくなるんだよな。
「‥‥‥さっき言ってた事って‥‥‥本心?」
雪奈さんが下を向いたまま呟く。
「う~ん。‥‥‥どうなんだろう。俺、自身自分の事を理解できていないからな」
「‥‥‥ぷっ」
あ、吹かれた。
「別に笑わなくても良いだろ」
「‥‥‥ふふ、ごめん。‥‥‥でもさ。自分の思考が分からないって、ぷっ、かなり重症だと思うよ?」
まあな。
「それは一応自覚してる。けど、こうやって俺が暴走するのってさ、今までで雪菜さんと一緒にいた時だけなんだよ」
「‥‥‥えっ?」
「何ていうかさ。仲良しな男友達にもこんなにふざけた事がないんだ」
俺が本当の事を言うと、なぜだか分からないが、若干、また雪菜さんの顔が赤くなって来ている様な気がする。
「‥‥‥確かに五月雨くん。‥‥‥いつも学校で寝てるもんね」
「ごめん。自分でも何言ってるのかは全然分からないや。‥‥‥でも楽しいのかな?」
「‥‥‥楽しい? ‥‥‥それは、私と一緒にいる事が?」
雪奈さんは決心したような表情でこちらを向くとそう言った。
「まあ、うん。‥‥‥そうだとは思う。少なくとも他の人に、このノリで接するのは無理だと思うから」
「‥‥‥そっか。私も、かも」
「雪奈さんも?」
「‥‥‥うん。近くにいるとなんか安心する。かな?」
「そうなんだ‥‥‥」
「‥‥‥」
その後俺と雪奈さんの間に、気まずい空気が流れた。
どちらも喋る事がなくなったのだ。
にしても俺って不思議だよな。
こんなんじゃ、まるで恋する乙女みたいじゃねぇか!
まあ俺は、この世に生まれて落ちて齢17年。
女子というものに恋した事なんてない。
‥‥‥そもそもよく分からん。
だから、今の俺の感情は恋とは違うと思うぜ?
でもよ、アニメの女の子と、雪菜さんの自分の中での優先度が、なんか同じくらいになっている? のが不思議なんだよな。
丁度同じくらい可愛いと思っているわ。
でも恋とは違うと思う。
だって俺は、三次元の異性に恋した事なんてないんだからよ。
そう言えばさ、恋ってそもそも何?
真実はいつもひとつなんだろう?
なあ教えてくれよ、名探偵コ〇ン君。
いや、工藤新〇よ。
まあ、自分の事を考えても全く答えが掴めないし、とりあえず話しかけるか。
俺は、この変な沈黙を解く為に自分から話しかける。すると、
「なあ」
「あの」
‥‥‥重なった。
なんて日だ!!
余計に気まずくなるじゃねえか。
「‥‥‥雪菜さん。先にどうぞ」
「‥‥‥私はしょうもない事だから。五月雨君が先に言って?」
「ああ、分かった。‥‥‥俺は、なあレベルが3になったし、HP、MP共に全回復しているから、そろそろ試練の場所とやらを探すか? って言おうとしたんだけど。雪菜さんは?」
「‥‥‥そろそろ試練の場所を探す? って聞こうとした」
「ふむふむ。じゃあ言いたい事は同じみたいだな」
「‥‥‥ん」
「よし、行こっか」
「‥‥‥うん」
俺はその場にしゃがむと、雪菜さんをおんぶした。
「よいしょっと!」
「‥‥‥」
あれ?
「雪菜さん、なんか体熱いけど‥‥‥どうしたの?」
なんかさっきおんぶしていた時よりも、熱を帯びている様な気がするんだが、‥‥‥気のせいだろうか。
おんぶをして腕が雪奈さんの太ももに触れた瞬間、少し熱かった。
さっきからずっと顔が赤いしな。
「‥‥‥気にしないで。‥‥‥気のせいだから」
少し恥ずかしそうな声が聞こえてくる。
「気のせいって言っても、さっきとはまるで体温が違うんだけど」
「‥‥‥スカートとかがまだ乾ききってなくて、風邪をひいたのかも」
「まじか。大丈夫?」
「‥‥‥ちょっとしんどい‥‥‥かな」
元気の無い返事だな。
「‥‥‥まぁ、辛かったら俺にもたれかかって、ちぃとばかし寝ててもも良いからな」
「‥‥‥ありがと」
そう会話をし、適当な方向へ走り出した。
どこへ行けば良いかなんて分からないからな。
タッタッタッタッ
そういやー、疑問に思った事がある。
この世界って風邪を引くのか?
何かしらの事で、体や、顔が熱くなったりするみたいだけど、風邪は引かなかったと思うな。
いくらリアルに作られてるって言っても、ここはあくまで仮想世界なんだから。
例えばこの世界で、食事や水分補給は可能な事だが、別にしなくても生きていける。
そして暖かいや、寒いなどの感情。
あくまで魔物以外の熱によって、ダメージを受けたり、死んだりする事は無いと思う。
また体が冷えたからと言って、風邪を引いてしまうというのはないな。
つまり雪菜さんは嘘をついている?
そんな事を考えていると、今まで俺の肩を掴んで来ていた雪奈さんの手が、俺の首元辺りまで降りてきて、「すぅ」という規則正しい寝息が聞こえてきた。
寝たのか?
‥‥‥まさか、本当に気分が悪かったのかな。
てか、ほんとに火照っているな。
「‥‥‥雪菜さん?」
ピクッ
「‥‥‥すぅ、すぅ、すぅ」
おい、なんかちょっと動いたぞ。
てか、いやにわざとらしい寝息だな。
「寝たのか?」
俺は起きている? かもしれない雪菜さんに聞いてみる。
「‥‥‥すぅ‥‥‥すぅ、すぅ」
今、地味に感覚が空いたような気がする。
「‥‥‥起きているよな」
「‥‥‥すぅ‥‥‥すぅ」
あくまで寝たふりを貫くらしい。
確信は無いが、ちょっと試してみるか。
「実は、この仮想世界には‥‥‥風邪というものは無いらしいんだ」
ビクッ
「‥‥‥」
「このアバターは、あくまで自分の意識によって操作しているからな」
「‥‥‥」
寝息が聞こえなくなったんだが。
「つまり、風邪によって、体が火照る事は無い」
「‥‥‥ほんと?」
物凄く小さい声が聞こえた。
やっぱり起きてたな。
「ごめん。適当に言った」
俺の考えは、あながち間違っていないと思うが。
俺が誤りながらそう呟くと、雪菜さんは若干機嫌の悪そうな声で「‥‥‥いじわる」と返す。
いつものふざけた感じで誤魔化そっと。
「我が妃──」
「‥‥‥そのノリ止めて」
止められたー。
反応速すぎだろ。
「─はい」
俺は素直に自分の世界から帰還した。
「‥‥‥」
「でさ、もう一度聞くけど、実際今辛いの?」
「‥‥‥辛く‥‥‥ない」
いつもより長い沈黙の後、そんな声が聞こえてきた。
「分かった。なら良かった」
俺は男らしくそう言うと、走る事に集中する。
何故、体が火照っていたのか聞こうと思ったが、あんまりしつこいと嫌われそうなので止めておいた。
にしてもよ、試練の場所ってどこだよ。
この森、回復するさっきの湖以外、全く特徴がないんだよな。
どんなに走っても、同じ場所をぐるぐると回っている感じがする。
まじでこれを作ったプログラマー誰だよ。
ちょっと出て来いよ。
タッタッタッタッ
因みに、今からはちょっと魔物を無視する事にする。
雪奈さんのMPは出来るだけ取っておいた方が良いだろうからな。
予想では、その試練とやらは、ボス的な強い魔物と戦ったりするんだろう。
となると、その戦いは必ず持久戦になる。
何故かって?
俺達の攻撃方法は、雪奈さんの魔法しかないからな。
明らかにこっちの攻撃力は足りていないが、向こうの攻撃がこっちに当たる事もないはずだ。
俺の敏捷があれば、確実に相手の動きを見て、避ける事が可能だと思う。
相手の周りを高速で走り回りながら、一定の距離を保ち、その状態で雪奈さんに魔法を撃ってもらう。
この事から、強敵との戦いの場合は確実に持久戦になると予想する。
しかし、俺達のこのおんぶ戦法には、欠点がいくつもあるんだ。
何かって?
教えてやろう。
一つ目、相手が相当タフな場合。
雪奈さんのMPが枯れた時点で、俺達の攻撃方法はゼロになる。
だから、MPが0になる前に相手を倒せないと、その場から逃げるしかなくなる。
二つ目、そもそも相手が魔法の効かない相手だった場合。
うん、言わずとも分かると思うが、積みだ。
そんな事を考えていくと、俺達は結構穴だらけで、弱いのかもしれん。
いつか、改善方法を考えていかないとな。
俺はしばらくの間、色々と分析をしながら森の中を走って行った。
タッタッタッタッ
‥‥‥おい、まだ着かないのか?
そろそろなんかあっても良いと思うんだが。
もう探索を始めて30分近く経つぜ?
てか、雪奈さん。一言も喋らなくなったな。
寝ているのか?
「雪奈さん。‥‥‥生きてるか?」
「‥‥‥うん」
「良かった。死んでたらどうしようかと思ったわ」
「‥‥‥。何もないね」
あ、無視された。
「‥‥‥だな。‥‥‥あー。ところでさ、大丈夫?」
「‥‥‥ん? なにが?」
「いや、ずっとおんぶしているけど、飽きないのかなと思って」
俺だったら、多分暇すぎて寝るな。
「‥‥‥大丈夫。‥‥‥楽、だから」
「そっか」
なら良かった。
走り続けて更に約5分後。
なあ、俺達って今進んでいるよな?
周りの変化が無さ過ぎて分からないんだが。
「‥‥‥五月雨‥‥‥くん」
俺が若干、同じ様な風景にうんざりしながら走っていると、後ろから声が聞こえた?
雪奈さんだ。
「‥‥‥おしっこか? トイレ休憩にする?」
「‥‥‥違う」
「あ、そーなの」
「‥‥‥一つ気付いた事があるんだけど‥‥‥」
「ん? この世界はおしっこが出たくならないっていう事? ‥‥‥残念だけど俺は大分前から気付いてたぜ。どうしてかって? 俺は学校から帰ってすぐ、トイレに行きたくなるからな。しかし、今日は早くこのゲームがしたくて、まだ行っていなかった。だが行きたくならないのだよ! つまり、この仮想世界ではそう言った排泄行為は必要ないんだと思う」
俺の体内トイレ時計は、TVに表示されている時間よりも正確だ。
自信があるぜ!
「‥‥‥聞いてない」
「あらっ。じゃあなんだった?」
「‥‥‥なんか‥‥‥この森、全体的に紫色になってきている様な気がする」
紫?
そう言われ、俺は少し周りを確認してみた。
空は青い。
木は‥‥‥ほんとだ、ちょっと紫っぽい。
地面は‥‥‥まじかよ、ちぃとばかし紫っぽい。
雑草は‥‥‥あらら、まあまあ紫っぽい。
「確かに‥‥‥なんか紫色だ。湖の辺りはこんな事なかったよな?」
「‥‥‥ん。‥‥‥普通に緑とか茶色だった」
じゃあ、俺達は確実に進めてはいるのか。
「雪奈さんありがとう。お陰でちぃとばかしやる気が出てきたぜ」
「‥‥‥お役に立てたのなら‥‥‥良かったです」
ちぃとばかし希望が出てきたので、俺は走っているスピードをちぃとばかし速くした。
何で少ししか上げないの? もう少し加速しろよ! だと?
これ以上速くしたら木にぶつかるだろうが。
ひろちゃんは余裕のあるスピードで走るんだぜ~?
マイルドだろう~?
更に約10分後。
明らかに、先程よりも紫っぽい色に変わってきている。
てかもう普通に紫色だ。
緑色を探す方が困難なレベル。
と、そこで俺はとあるものに気付いた。
「雪奈さん、あれ見て」
「‥‥‥ん? ‥‥‥あ!」
少し向こうには、壁が見えてきて、その一部分に階段がある。
見た感じかなり長そうだ。
雪奈さんもそれに気付いた様で、「あっ」という表情をした。
‥‥‥おんぶしているから見えないけど。
タッタッタッタッ
やがてその階段の真下辺りに到着すると、上を見上げてみる。
「うわー、どこまで続いてるんだよこれ」
「‥‥‥長いね」
この階段は、土の壁を削って作ってあるみたいで、若干荒っぽい部分もある。
不規則にひびが入っていたりと、今更だがよく作りこんでんなぁ。
「よし、上るか」
「‥‥‥ん。‥‥‥お願い」
「おう!」
位置について。よーい、どん兵衛!
とか言う奴たまにいるよな?
というくだりは置いといて、俺は物凄いスピードで階段を駆け上り始める。
森と違って一直線なので、俺の敏捷を最大限に活かす事が出来るぜ。
タッタッタッタッ
「‥‥‥五月雨‥‥‥くん。‥‥‥こんなに速かったの?」
雪奈さんが驚いたように呟く。
「ああ、さっきは木がたくさん生えてたせいで、少し遅めに行かないとぶつかりそうだったからな」
「‥‥‥すごい」
「だろ?」
「‥‥‥これだけ速かったら、どんな敵が来ても大丈夫そうだね。‥‥‥でも、私が魔法を当てられるか心配になってくるな」
まあ、だろうな。
森でゴブリン達と戦闘している時よりも、格段に速く動いている。
もしそんな速度で戦うなんて事になったら、魔法を当てるのは困難だろう。
「確かにな。‥‥‥けど雪奈さんが魔法を撃つタイミングとかは大体分かるから、その時はスピードを少し落とすよ」
魔法には詠唱が必要の為、少しばかり発動に時間が掛かる。
俺は何度もその詠唱を聞いている為、覚えてしまった。
だから雪奈さんが魔法を撃つタイミングが分かるのだ。
「‥‥‥ん。お願い」
タッタッタッタッ
しばらく階段を上って行くと、足元がちぃとばかし水色になってきた。
下の方は普通に茶色だったのに。
‥‥‥色が変わったって事は、もうそろそろこの階段、終わるのかな?
「‥‥‥あ、五月雨くん! 後ろ!」
突然後ろから雪奈さんの声が聞こえてきた。
俺は足元に気を使いながらも、後ろを確認する。
「!? 魔物か!」
俺の3メートルくらい後ろには、俺と同じくらいの身長で、翼の生えた青色の悪魔みたいなのがいた。
こっちをじろりと睨んできている。
「グァァァ」
右手には大きめの槍を持っていて、なんか怖い。
よし、ちょっと俺が名前を付けてやろう。
今からお前はガーゴイルだ。
ありがたく思えよ。
‥‥‥あれ?
今気づいたけど‥‥‥あいつ、速くね?
俺、全開で走っているんだけど。
いくら足元が階段だからと言っても、俺の敏捷は群を抜いているはずだ。
なのに何なんだ?
度々後ろを見てみるがその都度、ガーゴイルは翼を動かし、俺を追いかけて来ている。
そこで俺は気付いた。
‥‥‥俺とあのガーゴイル、スピード全く同じじゃね?
特に距離をとれる訳では無いし、迫ってくる訳でも無いのだ。
‥‥‥いや、でも‥‥‥あいつがスピードを抑えているだけっていう可能性もあるな。
俺はちょっと確かめる為に、走るスピードを落としてみた。
「グァァァ」
うわー、近づいてきやがった!
痴漢だわー、来ないで!
痴漢、あかん!
俺は急いで、走るスピードを全開に戻す。
畜生、ちょっと距離が縮まったじゃねぇか。
どうやらガーゴイル君は本気で俺を追って来ている様だ。
俺の敏捷を持ってしても撒けないという事は、普通のプレイヤーは戦う事前提なのだろう。
俺は必死で走った。
死ぬほど走った。
必ず死ぬんじゃないかというくらい走った。
ガーゴイルと絶妙な距離を保ちながら、走る事約2分。
また階段の色が変わった。
今度は緑だ。
タッタッタッタッ
「‥‥‥五月雨くん‥‥‥あの魔物、止まったよ?」
雪奈さんは首を傾げながら疑問を浮かべている。
一応全力のスピードを維持しながら後ろを振り返った。
「ほんとだ。‥‥‥止まっているな」
それを確認した俺は一旦その場に立ち止まる。
見た感じこちらを睨んできているのだが、追いかけてくる様子は無い。
「‥‥‥階段の色が変わった瞬間から‥‥‥来なくなった?」
よく見てみると、確かに青色の階段の部分で立ち止まっている。
「確かに。そうかもな」
恐らくプログラム上、あいつの持ち場はあそこまでだろう。
「‥‥‥そういえば。さっきから嫌な予感がする」
ふと雪奈さんがそんなことを呟く。
おい、今の絶対フラグだろ。
「嫌な予感?」
俺は一応聞き返す。
特にそんな変な感じはしないがな。
「‥‥‥うん。あの魔物が来なくなったって事は、別のが来る可能性、あるよね?」
「なるほど」
「‥‥‥それも。もっと強いやつ」
その通りだ。
プログラム上青色の領域専門がいるなら、俺達が今立っているこの緑色にも当然いるはずだよな?
「グゴァァァ」
色々と考えていると、突然横から迫力のある叫び声が響いた。
俺と雪奈さんは一斉に振り向く。
「へ、蛇‥‥‥いや」
「‥‥‥大蛇」
「おう」
その大蛇は、余裕で直径1メートルは超えているであろう。
壁を伝って、俺達のいる階段までにゅるにゅると這って来ている。
あれを作ったプログラマー‥‥‥絶対性格悪いだろ。
めちゃくちゃ気持ち悪い。
しかも全身がちょっと緑っぽい色をしているから、集中しないと他の色と混ざって分からないだろう。
「‥‥‥逃げて」
雪奈さんは立ち呆けている俺の肩を少し揺らしながら言った。
「りょ、了解」
俺は大蛇がかなりのスピードでこちらに近づいてきているのに気付き、急いで上へ向かう。
タッタッタッタッ
その大蛇は赤い目をしていて、絶対逃がさんとばかりにこちらを睨んできている。
「‥‥‥あの蛇‥‥‥階段には来ないんだね」
雪奈さんが気付いた様に言う。
少し後ろを振り返ると、確かに階段の直前の崖を這って、俺達を追いかけて来ているのだ。
段差だとそこまで速く動けないからであろう。
タッタッタッ
と、そこで俺は気付いてしまった。
読んでくださりありがとうございます。