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第七話【謎の湖】

 俺はまず、服を脱ぐ為に立ち上がった。

 雪奈さんは反対側を向き、こっちを見ていないアピールをしているが、たまに目線が合う。

 見たいんだったら素直に見たいって言えばいいのに。


「雪奈さんや」

「‥‥‥なに?」

「今から服を脱ぐね?」

「‥‥‥報告は良いから、‥‥‥勝手に脱いで」


 冷たいなぁ~。

 俺はまず片腕を袖から通すと、脱ぎやすい体勢を作る。


「おっと、五月雨弘人。脱ぐ為に服の下辺りを持ち上げました」

「‥‥‥」

「あぁっとぉ! 五月雨弘人。今、胸元が露わになりました。割れていなさそうで、実は少しだけ割れている腹筋がまた見どころですねぇ」

「‥‥‥」


 チラッ。


 あ、今雪奈さんがちょっとこっちを見たぞ。

 五月雨くん。もう我慢できない。あなたのすべてを見させてー、って言ってくれれば、いくらでも見せてあげるのに。

 だって減るもんじゃないしな。


「うおぉぉぉっと。五月雨弘人。布の服を首に通しました。全部脱ぎ終わるまであと少しですね」

「‥‥‥ナレーションは良いから、早くして」


 雪奈さんは、わざとらしく実況をしながら脱いでいた俺に、目線を逸らしたまま言った。

 俺は「あ、はい」と返事をし、無言で脱ぎ始める。


 やがて上半身裸になると、俺は雪奈さんの横へ座った。

 雪奈さんはわざとらしく反対方向を向いている。

 さっき何度かチラ見をしてたし、俺のナイスボディーに興味はあるんだろうな。

 自分で言うのもなんだが、俺、身長が無いにしては良い体形だと思うぞ。

 昔、太鼓〇達人というリズムゲームにはまっていたせいか、やたら腕や胸筋があるし、太ってもいない。

 運動部達には到底及ばんがな。


「‥‥‥なんで横に座ったの?」


 たき火のパチッパチッ、っという音が鳴っている中、ふとそんな声が聞こえた。


「なんでって、まあ正面だと俺の裸が見えてしまうだろ?」

「‥‥‥横でも視界に入ってくる」


 だろうな。


「やっぱりさ。雪奈さんも脱いでお互い楽になるっていうのはどう?」


 実際濡れた服を着ていない今、物凄く楽だ。

 ズボンとパンツは濡れたままなのだが。

 流石に下は脱ぐ訳にはいかんだろう。


「‥‥‥絶対見ない?」


 雪奈さんは少しの時間を置いた後。決心した様にそう呟いた。

 おっ!?

 やっぱり気持ち悪さには勝てないのかな。


「あっ、まあ見ないよ」


 俺は突然の事に少し動揺しながらも、そう答える。


「‥‥‥じゃあ‥‥‥今からずっとあっち向いててくれる?」

「わ、分かった」


 俺は素直に横を向いた。

 雪奈さんの立ち上がる音が聞こえる。

 なんか、いざ脱がれると‥‥‥緊張するな。


 しばらくして。


「‥‥‥今脱ぎ終わったけど‥‥‥もしこっちを振り向いたら、‥‥‥試練が終わった後名前で呼ぶっていうのは無しね」

「そ、そんな」

「‥‥‥見なければ良い」

「まあな。安心しろ。俺は自分からは見ない」


 因みに今、俺達はお互いに背中を向けている状況である。

 なんで分かったかって?


 そりゃーさっき、半分命がけで少しだけ振り向いてみたからな。

 仕方ないだろ。

 気になってしょうが無かったんだよ。

 だが安心して良いぞ。

 反対側を向いてたから、谷間は見えていない。

 それに、背中に白のブラジャーが見えた。

 だから仮に正面から見に行っても、見たい所は見えないのだ。


 てかさ、ちょっと気付いたことがある。

 俺って前に比べてなんか変わったわ。

 このゲームを始めて雪奈さんと出会ってから、まるで人が変化したみたいだ。

 今までは同級生の女子を見ても、覗きたいだとかそんな感情が一切無かった。

 アニメの女の子の方が可愛いからな。

 しかし、雪奈さんと行動を共にしだしてから、まだ三、四時間程度だとは思うが、少しづつ女子に興味が出てきている。

 これは自分ではっきり分かる。

 現に、見たいという感情があるからな。


 これと同じ状況で、後ろにいるのがギャルとかだったら、そんな感情は出てこない様な気がするが。

 ‥‥‥あれ? となると、こういった事を考えてしまうのは、雪奈さんだからなのか?

 ‥‥‥う~ん、どうなんだろう。

 よく分からないな。


 確かに雪奈さんは小さくて可愛いし、なんかいじったり、調子に乗りたくなる。

 でも、クラスの他の女子は相手にする気にもならないんだよな。

 ‥‥‥だが待てよ。

 俺は去年から雪奈さんと同じクラスだった。

 だけど、今まで一緒に遊びたいだとか思った事ないぞ?

 静かに小説を読んでいる姿を見て可愛いなとは思った事があるが、それだけだ。

 ‥‥‥こういう一緒にいて楽しいとか思ったのが、今日いきなりなんだよ。

 今日初めて遊んだからかな?


 ‥‥‥誰かヘルプ。教えてくれー。

 真実はいつも一つなんだろ?

 名探偵コ〇ン君よ。

 いつもの調子で俺の心の中の謎を暴いてくれよ。


 まあな、いくら考えても分からないし、やめだー。やめやめ。


「‥‥‥ねぇ五月雨くん」


 色々と考え事をしていると、後ろから声が聞こえてきた。


「どうした?」


 だがすぐに言葉が返ってこない。

 ん?


「‥‥‥あのさ」

「はい?」

「‥‥‥学校での事なんだけど‥‥‥五月雨くんって‥‥‥昼ご飯‥‥‥あんまり食べて無いよね?」

「まあ、一人暮らしだし。作るのが面倒くさくてな。大体購買のパンを一つ食べる程度かな」


 正直作る技術すらない。

 でもいきなりどうしたんだろう。


「‥‥‥じゃ、じゃあわ、私が作ってきても良い?」


 少しテンパった様な声が聞こえてくる。

 ん? ‥‥‥な、なんだって?


「えっ!? それってどういう」

「‥‥‥私達って友達‥‥‥だよね?」

「あ、うん。そうだと思うよ」

「‥‥‥私はよく分からないんだけど‥‥‥友達ってお弁当を作り合ったりするものでしょ?」


 なんか知識が偏っている様な気もするが。

 まあ、良いだろう。

 作ってくれるっていうなら歓迎だ。


「じゃあ、お願いしても良い?」

「‥‥‥ん。‥‥‥口に合うかどうかは分からないけど‥‥‥一生懸命頑張ってみるね」

「ありがとう。楽しみにしてる」


 こりゃー、明日はいつもみたいに寝るわけにはいかないな。

 だって、お話しするって約束したり、弁当を作って貰ったりするのに、ずっと寝るのは流石に罪悪感が半端じゃない。

 という事で今日はなるべく早く寝よっと。

 てかこのゲームがあったら、別に夜更かしする必要無いと思う。

 時間の進み方が十分の一だからな。


 それからしばらくして、俺達はたき火の近くに置いて乾かしていた服を触って、乾いている事を確認すると、それぞれお互いを見ない様に着ていく。

 俺は別にお互い見合っても良かったんだけどな。


「雪奈さん‥‥‥もう見て良い?」

「‥‥‥ん。大丈夫」


 俺は待ちきれんとばかりに後ろを振り向く。

 するとそこには、顔を若干赤くして座っている雪奈さんがいた。

 多分顔が赤いのは、長くたき火の火に当たっているせいだろう。


「そういえばさ。さっきずっと思っていた事があるんだけどさ」

「‥‥‥なに?」

「この湖‥‥‥なんか綺麗過ぎない?」


 雪奈さんは俺にそう言われ、じっくりと湖を見る。


「‥‥‥確かに。普通の水っぽくない」

「だよな。‥‥‥で、ちょっと考えたんだけど、この水‥‥‥飲んだらHPとかMPが回復するかもしれない?」

「‥‥‥そんな事あるの?」

「ああ、結構RPGゲームとかでは定番なんだ」

「‥‥‥そうなんだ。‥‥‥じゃあちょっと試してみる」


 雪奈さんはそう言って湖に向かって歩き出す。

 俺も一応ついて行くぜ。


 多分回復するとは思うけどな。

 もしこれで何も起こらなかったら悲しいよな?

 だがなんの根拠も無く言っている訳では無い。

 実は先程、向こう岸にゴブリンがこの水を飲みに来ていたのだ。

 単に喉が渇いていただけという可能性も無い事は無いのだが、もしそうなら、もっとたくさんのゴブリン達がやってくると思う。

 俺が確認した中では一匹だけだった。

 つまり体調が悪いとかそんな感じで来たんじゃないのか? っていうのが俺の考えだ。


「‥‥‥じゃあ飲んでみるね」


 やがて水のあるところまで近づくと、雪奈さんは少し不安そうに呟いた。


「俺も飲もっと」


 そうすればお互い口を付けるから、間接キスになるぜぇ。

 いやっほおぉー。みたいな感じの事、考えて無いからね?


 ただ、提案した張本人が飲まないのはどうかと思っただけだ。

 で、今気づいたんだけど、この世界って喉とか全然乾かないんだな。

 俺達この世界に来てから、かなり走ったりしているけど、一切渇きを感じない。


 俺と雪奈さんは、水面に顔を近づけると、ゴクッゴクッ、という音を立てて飲み始める。

 あー、うまいなぁ~。

 雪奈さんの口が一緒に付いているから、余計においしく感じるぜぇ。


 ぴちゃぴちゃ


 ん?

 は?

 なんだって?

 だったらゴブリン達の口も付いているんじゃないかって?

 ゴブリン達、やたら涎を垂らしているから、結構入っているんじゃないかって?


 やめろぉぉぉー!

 ふざけんなぁぁぁぁ!


 そんなの知りたくなかったわ。

 てか全然気づいて無かったわ。


 俺は飲むのを止めると、その場で立ち上がった。

 なんですぐに飲むのを止めたかって?


 言わせんな。

 考えたくねぇんだよ。


 あ、この事‥‥‥雪奈さんには黙っていてあげよう。

 俺は常識の備わった男だからな。


 しばらくすると、雪奈さんも飲むのを止め、その場で立ち上がる。

 口元が濡れていて、若干いやらしい。

 俺はそんな雪奈さんの顔から目線を外し、頭上のバーを見てみた。


「お、やっぱり回復してるじゃん。MPは全回復してないけど、ほとんど回復してる」


 それを聞いた雪奈さんは安心した表情を浮かべる。


「‥‥‥良かった。‥‥‥これでまた役に立てる」

「ああ、ゴブリンや蝙蝠なんて瞬殺だぜ」


 絶命させるのに、最低でも二発はかかるがな。


「‥‥‥じゃあ、早速魔物を倒す?」

「うん。そうしよう。試練の為のレベル上げだ」

「‥‥‥ん」


 という事で、俺達は森の中を走り始めた。


 勿論おんぶ戦法だ。

 俺が蝶の様に舞い、雪奈さんが蜂の様に刺す。


 レベル上げを始めて気付いたことがある。

 森の中にいるゴブリン達‥‥‥こっちを見ると追いかけて来るのではなく、逃げていくのだが。

 何でだろう。


 俺が物凄いスピードで動き、雪奈さんが火弾ファイアーボールを打ち込む。

 ただ、これだけの事なのに。

 その間のゴブリン達の表情は、人間の言葉で表すと『狡猾』みたいな感じだ。

 そんなにずるく無いだろ?


 しばらくして。


 ピコリーン!


 俺達二人は順調にゴブリンを狩っていき、それぞれ同じタイミングでレベルアップした。

 そう、レベル3となったのだ。


「おー、やったぁ!」

「‥‥‥嬉しい」

「早速ステータスを振り分けよっか」

「‥‥‥ん」


 俺はステータス画面を開くと、残量の1030ポイントをどう使うか、必死になって考えた。

 やっぱりHPには振っておいた方が良いよな。

 でないと今後困るし。

 あと、攻撃力もそこそこ鍛えていた方が良い。

 俺は迷った。

 毎回の如く悩んだ。

 死ぬほど悩んだ。


「よし、俺は終わったけど」

「‥‥‥私も今終わった」

「じゃあお互い見てみよっか」

「‥‥‥うん」


 俺はメニュー画面を開き雪奈さんをのぞく。


────────────────────────────────────

Name レイン 女

Lv 3

称号 魔術師見習い


H P 400/600

M P 560/1320


攻 撃 10

防 御 400

魔 攻 1000

魔 防 800

敏 捷 60


スキル 【火炎魔法(小)】【防御魔法(小)】【火炎魔法(中)】


残りステータスポイント 0

────────────────────────────────────


 ふむふむ。

 中々良いじゃねぇか。

 てか【火炎魔法(中)】が増えてる。

 これがあればゴブリンでも瞬殺出来そうだな。


 で、これが俺のステータスだ。

 あー、楽しみだな~。

 なんか新しいスキル、覚えているかな~。


────────────────────────────────────

Name ひろってぃー 男

Lv 3

称号 盗賊


H P 10/10

M P 10/10


攻 撃 10

防 御 10

魔 攻 10

魔 防 10

敏 捷 7630


スキル 【敏捷適性(小)】【敏捷適正(中)】【加速】


残りステータスポイント 0

────────────────────────────────────


 ふっ。

 流石俺、あまりのバランスの良さに、思わず笑ってしまうぜ。

 って‥‥‥ん?

 【加速】? ‥‥‥というスキルが増えてる。

 なんか格好良い名前だな。

 俺が自分のステータスを見て、新しいスキルに気付いた時、隣で雪奈さんが口を開く。


「‥‥‥この【加速】って何だろうね?」


 目線は俺の方を向いておらず、メニュー画面を通して俺のステータスを見ている。

 俺のステータスのバランスの良さにビックリしているのかしら?


「さあな。ちょっと使ってみよっか」

「‥‥‥うん」


 俺は画面を閉じると、頭の中で【加速】と思い浮かべる。

 すると突然あの女神さんの声が聞こえてくる。


『スキル【加速】を使用しますか?』


 それに対し、『はい』と心の中で返事をした。

 ──その瞬間。


 俺の体全身に赤色のオーラーが纏い始め、何故だか少し体重が軽くなった様な気がする。


「‥‥‥さみ‥だれ‥くん‥どう‥?」


 雪奈さんが不思議そうな表情でそう質問してくる。

 なんかいつもより喋るの遅くない?


「なんか全体的に軽くなったみたい。結構いい気分だよ」


 俺が普通に答えると、雪奈さんは少し目を細めた。

 ‥‥‥前髪で見えないが。


「‥‥‥しゃべ‥るの‥早‥い」


 ん? 俺が早い?

 あーなるほど。

 俺が少し加速してるのか。

 感覚で言うと大体1.2倍くらいかな?

 つまりこれを使えば、他のプレイヤーや魔物より、早く動けるというか‥‥‥俺からすると、自分以外のみんなが遅くなっている感じ。


 約一分くらい経つと、俺の体に纏っていた赤色のオーラが、次第に無くなっていき、いつも通りに戻った。


「‥‥‥凄い。なんか速くなってた」

「だな。雪奈さんの喋りがなんか遅く感じたもん」


 雪奈さんはふと俺の頭上に視線をやると、驚いた表情をした。

 いきなりどうしたんだろう。

 俺がイケメンすぎるのかな?


「‥‥‥五月雨くんの‥‥‥HPとMPが、‥‥‥減ってる」


 ん?

 あんだって?


 それを聞いた俺は急いでステータス画面を開く。

 するとHPが5/10、MPも5/10と表示されている。


「どっちも半分になっているじゃん」

「‥‥‥という事は‥‥‥もう一度使ったら‥‥‥五月雨くん死ぬのかな?」


 なんか物騒な言葉が聞こえてきたぞ!

 だが雪奈さんの言っている事は正しいだろう。


「ああ、消費MPが5だろうと半分だろうと死ぬはずだ。因みに俺は、このスキルの発動条件はそれぞれ5消費じゃなくて、HPとMPを半分消費だと考えるぜ!

 レベルアップするごとにステータスポイントが1030も貰えるこの世界で、たった5しか消費しないなんてありえないと思う」


 使ってみた感じかなり強いやつみたいだし。


「‥‥‥なるほど‥‥‥確かに5しか使わないんだったら、私の場合ずっと使っていられる量だもん」

「なんか、怖いスキルだな」

「‥‥‥試しにもう一度‥‥‥使ってみる?」

「おい。それは死ねという事か?」


 かなり酷な事を良いやがる。

 雪奈さん、こんな人だったかな?


「‥‥‥冗談。‥‥‥それより、早く湖の水を飲んでおいた方が良いと思う」


 間違って使ったら死んじゃう可能性あるしな。


「そうだな。じゃあちょっと湖まで戻ろう」

「‥‥‥ん」


 とは言ったものの、無事に戻れるかな?

 正直方向が分からないんだけど。


「なあ、雪奈さんって‥‥‥来た方向覚えてたりする?」

「‥‥‥う~ん。‥‥‥あっちかな?」


 自信なさげに指を指したのは‥‥‥特徴がねぇ。


「なんで?」

「‥‥‥なんとなく‥‥‥かな」


 なんとなくかい!


「信じても良いパターン?」

「‥‥‥あまり信じない方が良いパターン」

「そうか。‥‥‥じゃあ行ってみよう」

「‥‥‥えっ? なんでそうなったの?」

「良いから。早く乗って」

「‥‥‥ん」


 雪奈さんはしぶしぶ返事をして俺の背中に乗った。

 どうやら本当に自信がない様子である。

 だが俺はそんな雪奈さんの勘を信じてみることにする。

 よし、行こう!


 位置について、よーい、‥‥‥ドンッ!! って言ったらスタートしましょう。

 とか、一人でやってみる。


 ‥‥‥自分で言うのもなんだが、何の意味があったんだろう。

 

 というのは置いといて、俺は走り出した。

 どの方向を見ても同じにしか見えないので、進んで行っている方向が途中で曲がったりしても多分気づかないと思う。

 てかさ、この森を作ったやつ、かなり性格悪いな。


 俺は、どこを走っているのか全く把握できないまま、約五分ほど走り続けた。

 途中でゴブリンを二、三体見つけたので、一応殺害しておいた。

 優しいだろう~?

 次は、【森の掃除人】っていう称号が貰えそうだぜ。


 タッタッタッタッ


 ‥‥‥ん?

 あ、あれって!

 障害物を避ける事に集中しながら走っていると、だんだん綺麗な青色が視界に入って来た。


「雪奈さん。‥‥‥あったぞ」

「‥‥‥本当だ‥‥‥合ってたんだ」

「ああ。凄いな」


 まさか本当に当てるとはな。

 俺と同じで、能力者なのか?

 そうなのか?


「‥‥‥今度は落ちないでね?」


 雪奈さんはふと、心配そうに呟いた。


「任せろ。多分大丈夫だから」

「‥‥‥」


 俺は同じ過ちを繰り返さない為に、ゆっくりと近づいていく。


 タッタッタッタッタ


「やった。戻ってこられたな」

「‥‥‥なんかここ、安心する」


 あー、その気持ち分かるわ。

 自宅みたいな、謎の安心感あるんだよな。


 たき火の残骸が近くにあったので、俺達が先程までいた同じ湖で間違い無いだろう。

 俺は雪奈さんを地面に降ろすと、早速水を飲みに行く。


 スタッスタッ


 膝を地面につけ顔面を入れると、勢いよく水を飲み込む。

 掃除機並みに吸っているんだぜ?

 ワイルドだろう~?


 ゴクッゴクッ


「あー、うめー」


 HPとかが減ってから飲んでみて気付いたけど、なんか体の中に何かが溜まっていく感じがする。

 何て言うんだろう。

 とにかく、いい気分だ。


 横を見てみると、雪奈さんも俺の隣で水を飲んでいた。


 雪奈さんや。

 俺との間接キスの味はどうかね?

 ‥‥‥まあ、聞くまでもないか。


 さぞかし、溶けかけのチョコレートみたいな感覚を楽しんでいるんだろうな。

 表現すると、とても濃密で溶け合う様な感覚。

 濡れた唇同士が自分の欲望を満たす為に相手を攻め続ける。そうする事で自然とお互いを求めあっている形になっていき、そして二人とも快楽の深海に溺れ、いずれ果ててゆくのだ。

 どちらも途中で止めようとしないので、舌と舌が絡み合い、互いを吸い尽くそうとする時に鳴る神水の音は永久に続く。

 一度こうなったらもう、深海の底から抜け出す事は不可能だろう。


 え? 俺がなんでこんなに詳しいのかって?

 そりゃー、今まで歩んできた人生の中で体験した事だからな。


 え? 何回くらい口付けの経験があるのかって?

 ‥‥‥仕方ないな。

 特別に教えてやるよ!

 耳垢をかっぽじってよく聞いておけよ?

 恥ずかしいから一度しか言わねぇぞ?


 ゼロだ、馬鹿野郎!


 そんな経験ある訳ねぇだろ、馬鹿野郎!

 俺は所詮ゲーム好きの男だ、馬鹿野郎!

 よくも言わせやがったな、馬鹿野郎!

 奈良県にたくさん生息しているのは、鹿野郎!


 若干、下心ありで雪奈さんを眺めていると、ふと頭上のバーが視界に入ってきた。

 少しづつ回復していっている。

 という事は、ここの水は飲んだ分だけ回復するという仕組みだろう。


 ‥‥‥あ、良い事思いついたかも。

読んでくださりありがとうございます。

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