第五話【洞窟探検・弐】
俺は自分と同類の仲間をみつけたのだった。
雪奈さんはどうやら、ライトノベルが好きみたいで、家でもずっと読んでいるという。
多分今までゲームをしていなかった分、俺よりたくさん読んでいると思うよ。
にしても嬉しいな。
ゲームやライトノベル好きの女子が学校にいるって。
一応男友達にも二人くらいいるんだけど、正直なんか微妙。
何て言うんだろう。
会話をしててもすぐに寝たくなる。
なんか退屈になるんだよな。
でも雪奈さんは今日ここまで一緒に探索してきて、たわいもない話とかしているけど、男友達とゲームについて語り合うより楽しかった。
そんな女子と、これからゲームとか小説の会話が出来るんだろ?
最高じゃねぇか。
あ、そういえば早くここを攻略しないとな。
寒いし、ずっといたら辛いぜ。
「雪奈さん、進もっか」
「‥‥‥ん。でも、どこまで続いてるんだろう」
「そうだな。ちょっと長すぎる様な気がする」
普通最初にあるダンジョンってこんなに長いかな?
俺の記憶だと、どのRPGでもここまで広いのは無いぜ?
「‥‥‥これって攻略しないといけない所、なのかな?」
ふと雪奈さんがそう呟いた。
「そういえば確かに。‥‥‥この洞窟はかなり目立たない所にあったな」
初めて見た時は雑草やツタのせいで、かなり分かりづらかった。
「‥‥‥うん」
「まさか、攻略の最後ら辺に来るような所じゃない‥‥‥だろうな?」
俺はいくつかそういう仕様のゲームを知っている。
完全に初見殺しだ。
例を挙げると、ロマン〇ングサガ。
まだ最初ら辺なのにやたら長くて、下まで降りられる所があるんだ。
行かないといけない所なのかな? と思いながら下まで進んでいると、やがてラスボスの部屋に入る前の扉がある。
一応ストーリー上、まだ開かないのだが、そこら辺の敵がやたらめんどくさいし、それに倒せない相手じゃ無いっていうのがまたいやらしい。
結局上まで上る余裕が無いからその場で全滅だ。
いい加減にしやがれ!
「‥‥‥可能性は、あるかも」
雪奈さんはうんうん、と頷きながら言った。
「ああ、俺達は一度もこの洞窟で敵と戦っていない。もしかしたら、あの蝙蝠強いんじゃなかったのか?」
俺の敏捷を持ってしてでも、途中追いつかれそうになったからな。
俺がレベルアップをして、敏捷値が4600になった時点で、外のゴブリン達では話にならなかった。
だがここの蝙蝠はやたら素早い。
もし魔物にもステータスがあるなら、俺の様に極振りでは無く、バランス良く作られてあるはず。
だから、ここの蝙蝠はあのスピードに相当するステータスを持っているんじゃないか?
だとしたら、今の俺達では100パーセント勝てない。
「‥‥‥どうする? 引き返す?」
「う~ん。どうしようかな‥‥‥確かに一度戻った方が賢明な選択だけど、でもここまで来たら先も気になるんだよな」
正直ここまで来て戻るのはもったいないと思う。
それにこの洞窟が、この森から脱出する為の、ストーリーイベントが用意されたダンジョンだという可能性もあるし。
「‥‥‥じゃあもう少しだけ行ってみよ? ‥‥‥危なそうだったらすぐに逃げれば良いしね」
「だな、そうしよう。‥‥‥じゃあ、乗って」
俺はしゃがむと、雪菜さんの方を向いて言った。
「‥‥‥お尻‥‥‥触らないでね?」
‥‥‥。
誘っているのかい?
「我慢できなくなって触っちゃったら‥‥‥ごめん」
雪奈さんは俺の言動に目を細める。
‥‥‥前髪で見えないが。
「‥‥‥私乗らない。‥‥‥私歩く。‥‥‥2人共、長時間この洞窟にいる」
突然片言で喋り始めた。
「いや冗談だって! ごめんって!」
「‥‥‥じゃあ乗る」
そう呟くと、いやに素直に乗ってくれた。
なんか企んでいるんじゃないだろうな?
それとも寒さに耐えられないからかな?
まあ、男の俺でも普通に寒いし、少しでもくっ付いてた方が得だ。
きっと雪奈さんも、俺と同じ様な考えだろう。
「よし、出発!」
どさくさに紛れてちょっと触ってみようかなー。
多分バレないよな?
少しくらいならむにゅって──。
「‥‥‥もし触ったら、頭に火弾当てる」
後ろから冷たい声が聞こえてきた。
やっぱりやめとこう!
まあな、元々触る気なんて無かったしな!
うん!
「神に誓って触りません」
俺はそう決意し走り出した。
タッタッタッ
そういえばここら辺、魔物が全然出ないんだけど。
確か最初に蝙蝠達から逃走したきり何も出てない様な。
何か強い魔物でも潜んでいるのかな?
‥‥‥。
いや、まさかいる訳無いよね?
いる訳無いよね?
これってフラグじゃないよね?
タッタッタッ
俺はひたすら走った。
疲労で死んじゃうんじゃないか? というくらい走った。
‥‥‥ゲームの中なので疲れは無いが。
たまに雪奈さんの吐息が俺の首元にかかるのが、唯一の至福だ。
因みに変な意味は無いです。
ここ寒いから、人の吐息がもの凄く暖かくて助かるんだよ。
それだけだぜ?
あ、‥‥‥なんかさっき雪菜さんが、お尻を触ったら火弾を当てるって言ってたよな?
このゲームを始めた時から疑問に思ってたんだけどさ、プレイヤー同士ってお互いダメージを与えられるのかな?
最初に一度自分をつねったが、その時はダメージを受けなかった。
だがそれは単に、俺の力が弱いだけかもしれない。
つまり雪菜さんの火弾をくらったら俺、死んじゃうかもしれないよな?
このゲームってやたらリアルだから、人殺しでも出来そうだよな?
「雪菜さんはどう思う?」
俺は洞窟の中を走りながら呟いた。
「‥‥‥どう思うって‥‥‥なにが?」
雪奈さんは疑問を浮かべる。
あらっ、まだ何も言ってなかったわ。
「いや、ちょっと疑問に思ってさ。このゲームってプレイヤー同士で、ダメージを与えられるのかな?」
「‥‥‥う~ん。良く分からないけど、でも出来ないんじゃない? 現実世界でやっちゃいけない事だから、‥‥‥ゲームの中だからといってやっても良い訳じゃないし」
あーなるほどな。
確かこのゲームは、12歳以上プレイ可能なやつだ。
普通人間を殺したりする感じのゲームは、18歳未満禁止のやつである。
それに、これはオンラインで、大勢の人がプレイしているゲーム。
NPCを殺したりするのとは意味が違う。
流石、雪菜さん。頭良いで御座います。
でも何にせよ確証が持てないし、一度検証した方が良いかもしれない。
「ふーむ。ちょっと試してみる?」
「‥‥‥どうやって?」
「火弾を俺に当てる」
俺は雪奈さんを地面に降ろしながら言った。
「‥‥‥死んだらどうするの?」
雪奈さんはとても不安そうな顔をしている。
そんな顔をしないでおくれ。
「我が妃よ。もしそうならば‥‥‥私は死ぬ運命だったのだ」
「‥‥‥ふ」
「だからもうこの地に眠る聖剣の事は諦めるしかない。ここで私が死んだなら、それは偶然なんかじゃない。必然だったという事だ」
俺が顔に手を置いて自分の世界に入ろうとしていると、隣で我が妃が呟いた。
「‥‥‥そのノリやめて。‥‥‥笑える」
「あ、はい」
俺は無事に自分の世界から生還した。
めでたしめでたし。
「‥‥‥ふふっ。でも、だめだよ? もしダメージを受けたら五月雨くん‥‥‥死んじゃうもん」
「承知しました。じゃあちょっとヘルプ確認みようか?」
もしかしたら説明文があるかもしれない。
「‥‥‥私も」
俺たちはメニュー画面のヘルプを開き、それらしい項目を探す。
だが、
「うーん。なさそうだな」
どこにもそれらしいのが無い。
「‥‥‥これって結構重要な事だと思うんだけど。書いてないのはおかしいよね?」
「だな。死に関わる事なんだし」
やっぱりプレイヤー同士でダメージを与えられるかどうか、というのはお互いを傷つける事でしか分からないのか?
物騒な世の中になったものだな。
「‥‥‥一つ提案がある」
雪奈さんが静かに言った。
ん?
何かいい案でもあるのかな?
「何?」
「‥‥‥私を殺ってみて?」
‥‥‥。
はい?
俺が雪奈さんをやる?
「WHAT? いきなりどうしたの?」
「‥‥‥五月雨くんの‥‥‥だったら私‥‥‥大丈夫だから。それに、痛みは無いんだし‥‥‥良いよ。きて?」
五月雨くんのだったら?
ぬっ?
「‥‥‥いや、そういう事は結婚してからじゃないと、俺も責任取れないし。それにいくらゲームの中って言ってもさ、もう少し深い関係になってから‥‥‥ね?」
雪奈さんいきなり積極的になったな。
「‥‥‥ん?」
「もちろん誘ってくれるのは嬉しいんだよ? 嬉しいんだけど、ちゃんと将来の事も考えないと‥‥‥家族計画っていうのか? まあ、うん」
親しくなりだして一日目は流石に早いと思う。
「‥‥‥しーん」
雪菜さんが言った。
そう、言ったのだ。
しーん、と。
「何? 今のしーんって?」
俺、なんかおかしい事言ったかな?
普通の事しか言ってないと思うんだが。
「‥‥‥何でもない‥‥‥それより早く‥‥‥きて」
早くって言われてもな。
確かにしたい気持ちはある。
でも、
「まだ心の準備が──」
「‥‥‥しなくて良い」
──できてない。
んんん?
マジかよ!
「いや、でも‥‥‥初めてだし」
まあ、した事ある方がおかしいと思う。
「‥‥‥人を殴るのが?」
「ああ、入れ‥‥‥そう、‥‥‥人を殴るのが」
その瞬間、雪奈さんは物凄く冷たい表情をした。
「‥‥‥今の入れってなに?」
ゲッ! 聞かれたか!
‥‥‥俺はちぃとばかし勘違いをしていた様だ。
人を殴るの? って言われるまで気付かなかったわ。
てか、雪奈さんの喋り方にも問題があると思うが。
あれは勘違いするわ。
‥‥‥まあ、とにかく誤魔化さねぇと。
「入れっていうのは‥‥‥うん‥‥‥。レインさん、そうだよっていう意味。つまり(イ)ェㇲ、(レ)ィンって事」
自分の頭の回転速度に感謝。
「‥‥‥しーん」
あらっ? なんか変な空気になってきやがった。
よし、検証に入ろうか!
「あー、準備が整ったみたい。じゃあ行くよ?」
「‥‥‥ん」
俺は変な空気をぶち壊すために、力いっぱい雪菜さんの肩へと拳を振りかぶった。
俺だって女子にこんなことはしたくねーよ。
だが、これ以外に方法なんて存在しねぇんだよ。
ゆ、許してくれ。
「ごめん!!」
ペチッ
相変わらずしょうもない音だ。
「‥‥‥大丈夫、痛くない」
なんかショックを受けるんだけど。
システム上痛みがないと言っても、さっきのパンチは弱すぎる。
雪菜さんは恐怖を感じたのか、目を閉じていたが、何事もなかった様に立っている。
俺、何でこんなに弱いんだろう。
I am 草食系男子!
言うとる場合か。
「ちょっとステータス画面を見せて」
雪菜さんは一言「‥‥‥ん」と呟き、ステータス画面を開く。
そしてHPを見てみると310/400。変わっていない。
全く減ってないな。
「でもこれって俺が弱いのか? それともプレイヤー同士ではダメージを与えられないって事か? どっちか判断出来ないよな?」
「‥‥‥ヘルプ画面を見ている時にダメージの計算式があったから、それを使えば判断できるかも」
「そんなの書いてあったんだ」
良く見てるなぁ。
「確か、ダメージ=(攻撃力÷4−防御力÷2)×乱数。だったと思う」
なるほどな。ちょっと計算してみるか。
俺はそこら辺に落ちてあった石を拾い、地面に計算式を書いていった。
「雪奈さんの防御力って確か‥‥‥300だよね?」
「‥‥‥うん」
ダメージ=((俺の攻撃力)10÷4−(雪奈さんの防御力)300÷2)×乱数。
ダメージ=((俺の攻撃力)2.5−(雪奈さんの防御力)150)×乱数。
ダメージ=-147.5×乱数。となる。
どんなゲームでもマイナスは、恐らくシステム上0の扱いにされるから、俺が雪奈さんに与えられるダメージは0という事だ。
「これって、0に乱数が入るから、確率で1は与えられるよな?」
「‥‥‥あってると思う」
雪奈さんが納得した様に頷く。
「じゃあ俺が連続で雪菜さんにダメージを与え続けて、もしHPが1でも減ったらプレイヤー同士でもダメージが通るってことになるよな?」
「‥‥‥そう、だからやってみよ?」
「うーん。けどさ、殴っている方の心って結構痛むんだぜ?」
これ罪悪感半端ねぇぜ?
だって女子を殴るんだぜ?
自分より小さい体の子を殴るんだぜ?
「‥‥‥安心して五月雨くんのやつじゃ、ダメージ通らないから」
雪奈さんはそんな俺を安心させようと、微笑んで言った。
ぐおぉぉ。
傷つくぞー、やめてくれマジで。
俺が弱いみたいじゃないか。
勘違いされるからやめろー。
ってあれ? 本当じゃん。
「よし、始めるぞー」
「‥‥‥ん」
「おらぁぁ」
ペチッペチッペチッペチッペチッ──。
どのくらいパンチを繰り出しただろうか。
感覚で言うと30回くらいだとは思うけど。
まぁ検証するには十分だろ。
これだけ通常攻撃を食らわせて、死なないメ〇ルスライムはいないからな。
はぐれメ〇ルも多分行けると思うぜ?
メ〇ルキングも‥‥‥う~ん。まあ、なんとかなるだろう。
うん、なんとか。
とにかく、これで1ダメージも与えられて無かったら、プレイヤー同士で殺し合いは不可能だという事。
「雪奈さん‥‥‥どう?」
雪奈さんは再びステータス画面を見て答える。
「‥‥‥やっぱり1ダメージも食らってない。‥‥‥310のまま」
ふむふむ。
「そうか、じゃあプレイヤーがプレイヤーにダメージを与えられる可能性は、ほとんどないな」
全部の攻撃がダメージ0だったという確率は極めて少ない。
「‥‥‥そうだね」
結果、この世界で人殺しは不可能。でも、もしかしたら出来るかもしれない。
ということになった。
「最後に1つの疑問が出てきたんだけど」
俺はどうせならと思い、雪奈さんに質問を始めた。
「‥‥‥どうしたの?」
「俺ってこんなもに力がないのに、何故雪菜さんを持ち上げたり、おんぶしたりできるんだろう。雪奈さんって体重、少なくとも40キロはあるよな?」
俺こんなに力持ちだったかな? と今疑問に思っている。
首を傾げて質問する俺に、雪奈さんは即答した。
「‥‥‥多分、私の体重が軽く設定してあるから」
‥‥‥はい? 軽く設定してある?
「最初に体重を聞かれた時、何キロって答えたの?」
俺は確か50キロと答えたはず
そう、素直に。
「‥‥‥23キロ」
んんん?
なんかおかしい数値が聞こえたぞー。
「はい?」
「‥‥‥間違えて小学生の時の体重を言っちゃった」
‥‥‥。
「じゃあ身長はどう答えた?」
「‥‥‥140センチ」
雪菜さんは頷きながら答える。
「リアルでは?」
「‥‥‥145センチ」
おいっ!
「嘘ばっかりじゃねえか!」
末恐ろしいな。
「‥‥‥間違えて中学生の時の身長を、答えちゃった」
どうりで小さい女の子だなと思ったわ。
てかそれ間違えたのか?
わざとじゃねーのか?
「嘘だと判断された場合、データを削除されるって言われなかった?」
「言われたけど間違えたものは仕方ない」
雪奈さんは頷きながら呟く。
「おお、そうか」
初めてお嬢様抱っこした時、何かやたら軽いなとは思ったが、小学生の時の体重で設定していたとはな。
最初の方はこれが女子の軽さなのか?
とかって疑ってたけどさ、途中からは女子ってこんなもんなんだー。って勝手に自分を正当化させたんだぜ?
ワイルドだろう~?
てか、キャラのメイキングをした謎の声さんよ。
身長140センチに対して体重23キロなんて、違和感を感じなかったのかね?
明らかに拒食症レベルだろ。
で、その女の子にダメージを与えられない俺が、23キロを持ち上げられるという事は、そう言った力と攻撃力とは無関係という事で良いのかな?
つまり、持ち上げたりする力は、体重とかを元に作られているのだろう。
「‥‥‥くしゅん」
突然雪奈さんがくしゃみをした。
あら、可愛い!
「大丈夫か?」
「‥‥‥寒い」
言葉の通り、肩をさすっている。
確かにこの洞窟、だんだんと気温が下がってきている。
まるで冷蔵庫の中にいるみたいだ。
もしかして、魔物がこの辺にいないのって、このせいなのか?
まあ、とにかく先を急ごう。
ちょっとのんびりしすぎた。
「じゃあ乗って」
「‥‥‥ん」
おんぶをしていればお互い、多少は寒さが紛らわせられるだろう。
愛をどうこう言わずに、冬の寒さのせいにして温めあうぜ!
でた、俺の名言。
‥‥‥何もパクってないからな?
T.M.rev〇lutionの曲なんて真似して無いからな?
WHITE BRE〇THの歌詞なんてパクって無いからな?
俺は雪奈さんを背中に乗せると、再び猛スピードで走り出す。
タッタッタッタッ
あー寒い。
てか、もはや冷たすぎて肌が痛い。
だが首元はなんか暖かい。
雪奈さんの可愛い吐息がハァハァと当たるからな!
気分が良いぜ!
うひょー!
‥‥‥ダメだ。寒すぎて頭がおかしくなってる。
‥‥‥何? 元々おかしいから安心しろって?
うるせーなー! ほっとけ!
‥‥‥しかし、否定が出来ない。
正直頭がおかしいという自覚はある。
それから約2分ほど走った。
途中から通路がめちゃくちゃ狭くなってきて、閉所恐怖症が芽生えるかと思いながら走っていたその時、一つの扉が見えてきた。
青色の扉で、一瞬他の壁と見分けがつかないが、そこで行き止まりになっているので大体分かる。
「雪奈さん、多分あそこが最終地点だ」
俺の言葉を聞いた雪奈さんは、たくさんの吐息を吐きながら答える。
「‥‥‥ほんとだ。やった」
あは~ん。
首元が暖か~い。
‥‥‥はい、すいません。
冗談です。
やがて蒼色の大きな扉の目の前に着くと、そこで走るのをやめた。
やめないと壁に当たるからな。
俺は雪菜さんを地面に降ろし、扉をじっくりと見る。
「でかいなぁ」
「‥‥‥うん。大きい」
でこれはどうやって開けるんだろうな。
「とりあえず二人で押してみよっか?」
「‥‥‥ん」
俺と雪菜さんは扉の中央付近に寄ると、扉に触れた。
俺の馬鹿力を見せてやるぜー。
どんな小細工がされていようとも、俺の攻撃力の前では無力だな。ふっ。
「いくよ。せーの!」
ふんぬぅぅぅ。
ゴゴゴゴゴゴォォォ
あらっ、もう開きだした。
てっきり頭を使うようなパターンのやつだと思ったのに。
鍵とか無しで、こんなに楽に通れて良いのか?
「入ろっか」
「‥‥‥うん」
だいたい人が一人通れるくらいの隙間が出来ると、俺たちは奥へと進んでいった。
読んでくださりありがとうございます。
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