第四話【洞窟探検・壱】
思ったよりも大きいな。
洞窟の目の前までたどり着くと、明らかに不気味な気配が漂ってくる。
ここ絶対何かあるぞ。
俺の予想で言うと、一番奥に幻の聖剣が存在している。
その剣は岩に刺さっていて、とある一人の王子様にしか抜く事ができない。
過去に色んな人達がその聖剣を抜くために足を運び入れたが、結局誰も抜けず。
やがて月日は流れ、聖剣の存在は人々に忘れられていった。
そのせいで、この洞窟に足を運ぶ人は減る一方で、次第にツタや雑草が生えてきて、次第に目立たなくなった。
で、今に至る。
つまり、来るべき時は来た。
俺が選ばれしもの、伝説の王子様だ。
奥で眠る剣よ、ずっと私の帰りを待ち望んでいたのだな。
遅くなってすまなかった。
だが今迎えに行くぞ、しばし待っていろ、聖剣よ!
俺が自分の世界観を作り上げ、ポケットに手を突っ込み洞窟に入ろうとした、その時。
雪菜さんが俺の服を摘んだ。
「‥‥‥ちょっと待って」
なんだ?
「引き止めるでない、我が妃よ。私は相棒を待たせている」
俺が妃と言った瞬間、雪菜さんは少し顔を赤くしたが、すぐに冷静になって続ける。
「‥‥‥良く分からないけど、私が先頭を行く」
「自分が何を言っているか分かっているのか?」
「‥‥‥うん。この洞窟は見るからに危険そうだから」
「だからこそ、私が先に行こう。我が妃の身に何かあっては私が後悔する事になる」
雪奈さんは呆れた表情をしている。
「‥‥‥一回自分の世界観から帰ってきて」
‥‥‥。
「あ、はい」
無事に帰還しました。
「‥‥‥冷静になって考えてみて。五月雨くんは‥‥‥一度でもダメージを食らったら死んじゃうかもしれないんだよ?」
確かに。
「仰る通りです」
「‥‥‥だから私が先頭を行くね」
「分かった。でも危険だと思ったら、無理しなくて良いからな?」
「‥‥‥うん」
という事で、俺は雪奈さんの後ろについて行く事になった。
‥‥‥‥。
で、俺はさっき何をしていたんだ?
雪奈さんの事を、我が妃とか言ったり。
自分を伝説の王子様だとか、私だとか。
正直ずっと自覚はありました。
若干頭おかしいかもしれないです。
‥‥‥‥ん?
今更だって?
うるせーな!
俺自身もちょっとそう思ってたところだよ!
傷口を掘ってくるんじゃねぇよ。
洞窟の中に入っていくと、少し肌寒くなり、視界が薄暗くなった。
所々に小石や小さい動物? の糞が落ちてある。
横の広さはおよそ二メートル程度か。
一応自由に動けそうだな。
つまり戦闘になったら、俺のスピードが十分に活かせそうだ。
「思ったより広いな」
「‥‥‥だね」
いつ何が出てもおかしくない。
俺達は気を引き締めて、洞窟の奥へと進んでいく。
タッタッタッ
足音が反響する。
いやー、やっぱりリアルすぎるだろ。
こんなところまで作り込まれているんだな。
もうこれはゲームだと思わない方が良いかもしれない。
体感温度。
地面を踏んだ時に感じる足の感覚。
現実世界の俺と同じ、顔、体格。
感じる痛み以外は全部一緒だ。
死んだら、現実世界では死なないものの、データが削除され、仮想空間での自分は死ぬ。
つまり最初からになるのだ。
だからむやみに死んだりできない。
まるで現実じゃないか。
俺はこういうゲームを待っていたんだ。
いやー、わくわくするぜ。
「‥‥‥あ、五月雨くん。あれ見て?」
雪奈さんがそう呟いて指をさした方向には、蝙蝠みたいな奴が、天井にぶら下がっていた。
おい、落ちている糞はお前の仕業だったのか。
薄暗い中あの蝙蝠も黒いので、一見目立たないが、集中すると分かる。
雪奈さん、よくあんなの気付いたな。
「魔物か」
「‥‥‥倒す?」
俺は雪奈さんの頭上にあるMPバーを確認した。
残り十分の一ってところか。
雪奈さんの最大MPは多分900だったから、今は約80前後くらいだろう。
「いや、雪奈さんのMP残量が心配だ。無視しよう」
一応残しておかないと、奥で何があるか分からないしな。
「‥‥‥分かった。でも、素通り出来るかな?」
「出来るよ」
方法はある。
「‥‥‥あるの? ‥‥‥ん? まさか、それって」
「そう、お姫様抱っこ」
これしかないだろう。
正直雪奈さんの敏捷だったら逃げられないと思う。
「‥‥‥却下」
雪奈さんは即答した。
「えぇー、なんで?」
「‥‥‥恥ずかしいから」
やっぱりか。
「でも、そうでもしないと通れないよ」
「‥‥‥他に方法は無いの?」
すると蝙蝠が俺達に気付いた様で、天井から離れると、こちらに向かってきた。
「ガァァァ」
バサッッ
「まずい、来たぞ!」
俺はそう叫んで、雪奈さんをお姫様抱っこする。
そして蝙蝠の体当たりを躱すと、そのまま奥へとダッシュした。
「あ!」
雪奈さんは一瞬声を上げたが、すぐに状況を把握した様で、恥ずかしさを誤魔化す様に手で口を押えた。
タッタッタッタッ
「もう少しだけ我慢しててな。まだ追って来てるから」
「‥‥‥ん」
「「「ガァァァ」」」
まじか。
なんか声が増えたぞ。
「‥‥‥五月雨くん、後ろから三匹来てる」
雪奈さんが後ろを向いて言った。
俺の背中越しに見えるのだろう。
「了解」
俺は更にスピードを上げた。
この洞窟は、あまり曲がり角が無いみたいで、ほとんど一直線である。
めちゃくちゃ走りやすい。
「「「ガァァァ」」」
タッタッタッタッ
まだついて来てやがる。
こいつら相当速いな。
「‥‥‥五月雨くん、凄い」
「ん? 何が?」
「‥‥‥出会った時より速くなってる」
「まあ、バランス良くステータスを振ってるからな!」
「‥‥‥」
なんで無言!?
俺のステータス、バランス良いだろ?
なあ、そうだろ?
うんって言ってくれよ!
まるで俺がステータスを振るのが下手みたいじゃねぇか。
しばらく猛スピードで洞窟の中を駆け抜けていると、やがて後ろから迫ってきていた蝙蝠の叫び声が、全く聞こえてこなくなった。
「ふぅ、逃げ切れたみたいだな」
ガハハ、かけっこは俺の勝ちだぜ!
‥‥‥まあ、もし追いつかれていたら、相当ショックを受けてただろうが。
だって極振りして自信のあるものが、そこら辺の雑魚に負けたら、そりゃーショックだろ。
「‥‥‥お疲れ様」
雪奈さんは静かに呟く。
「おう、余裕だぜ」
途中若干、追いつかれるかも知れないと思ったが。
「‥‥‥はやく」
「ん?」
なんか言ったかね?
「‥‥‥はやく、降ろして」
おっと。
「すまん、忘れてた」
「‥‥‥わざと?」
雪奈さんは地面に足を付けながら、ちぃとばかし威圧してくる。
いや、断じて違います。
「ごめんよ。よし、気を取り直して進もう」
俺は誤魔化す様に、腰に手を当てて言った。
「‥‥‥」
雪奈さんは目を細める。
‥‥‥‥前髪で見えないが。
「よし、気を取り直して進もう」
もう一度言ってみる。
「‥‥‥ねぇ」
「は、はい」
「‥‥‥今度から‥‥‥別の持ち方にして欲しい。‥‥‥恥ずかしくて死にそう」
俺が持つ事自体は否定しないんだな。
「う~ん。‥‥‥なんか希望とか‥‥‥ある?」
特に良いアイデアが無い為質問してみた。
すると雪奈さんは真面目に考え始める。
顎に手を当て、真剣に悩んでいる。
「無いなら、お姫様抱っこで良い?」
俺がそう言うと、すぐに答えが聞こえた。
「‥‥‥おんぶ」
なるほど、おんぶかー。
良いじゃねぇか。
「分かった。それで行こう」
「‥‥‥ん」
よし、これで解決だな。
という事で、俺と雪奈さんはとりあえず歩いて奥へと進む。
先程もの凄いスピードで走ってきたから気が付かなかったけど、よく見たらここ、入り口の場所と全然違うじゃん。
入口辺りの壁は、普通に茶色だったけど、ここは全体的に青色だ。
天井には、至る所に水晶のようなものがぶら下がっている。
物凄く綺麗だけど、絶対なんかありそうだよな。
ダンジョンの壁の色が変わってきたら、大体ボスが近くにいるって言うのが相場だからな。
スタッスタッ
それにここら辺、なんか寒いな。
前を歩いている雪奈さんも、肩をさすりながら歩いている。
「雪奈さん、大丈夫? 寒くない?」
「‥‥‥ん、ちょっと寒い」
「じゃあ、おんぶしようか?」
「‥‥‥えっ?」
「お互い近づいていれば少しは暖かいだろうし。それに俺が走った方が速く行けるだろ?」
「‥‥‥それも‥‥‥そうだね。‥‥‥じゃあ‥‥‥お、お願い」
恥ずかしそうにそう呟く。
寒さには勝てない様だ。
俺は雪奈さんの目の前に行くと、少し薄汚れた布のスカートから出てきている、鼠径部周辺に腕を絡ませ持ち上げた。
その際に感じた、お互いの細胞が擦れ合う様な感触に、思わず異性として意識してしまう。
予想通り、腕に伝わってくる温度は少々冷たいが、もう少し腕を上に動かせば、まだ誰も踏み入れた事の無い聖域へと続く通路を塞いでいる扉があると思うと、何故だか体全身が暖かくなってくる。
また、腕に力を入れちょっと締め付ける様にしてやると、ブランド品の桃みたいに一切の染みが存在しない太ももが、ぷにゅっとへこむ。
柔らかくて、とても優しい感触だ。
‥‥‥雪奈さん、相変わらず軽いな。
「あー、抱っこより持ちやすくて楽かも」
「‥‥‥抱っこより‥‥‥恥ずかしくないかも」
お互い得だな。
なんで最初にこれが思い浮かばなかったんだろう。
「よし、行くぞ!」
「‥‥‥お尻、触らないでね?」
聞こえるか聞こえないかくらいの音量で、恥じらいを隠す様な声が聞こえてきた。
やばい、そそられる。
「もし触ったらごめん」
「‥‥‥やっぱり降ろして」
「いや、ごめん。冗談だって!」
「‥‥‥本心に聞こえた」
「ほんとに冗談だから!」
「‥‥‥」
「安心してください。冗談ですよ」
少し前にブレイクした芸人の真似をすると、雪奈さんは俺の背中で、「‥‥‥ぷふふ」と笑い出した。
なんか出会った時よりも素直に感情を出せるようになっている様な気がする。
良い事だ。
という事で、走り出した。
タッタッタッ
‥‥‥。
‥‥‥寒い。
スピードがある分、体感温度がやばい。
タッタッタッ
俺は雪奈さんの太ももから温もりを頂きながら、約三分くらい走り続けた。
にしてもこの洞窟はどこまで続いてるんだよ!
ちょっと長すぎる様な気がするんだけど。
入ってそこまで時間は経っていないが、俺の全力疾走により魔物とかを無視して走り続けているんだ。
そろそろ一番奥までつかないとおかしいだろ。
「おっ」
色々と疑問に思いながら走っていると、途中で、通路のど真ん中に置いてある宝箱を見つけた。
赤色の箱が堂々と地面に置いてある。
‥‥‥。
いや、流石に不自然すぎるだろ。
普通宝箱って見難い所に置いてあるものなんだけどな。
必然的に見つけられる宝箱って、絶対罠だろ。
50%以上の確率で人食い箱だろう。
「雪奈さん。あの宝箱、どうする?」
そう聞いてみると、雪菜さんは俺の背中で疑問を浮かべる。
「‥‥‥宝箱って開けるもの‥‥‥でしょ?」
「そうなんだけどさ。こういったわざとらしい所に設置してあるのは、大体罠っていうのがお決まりなんだよ」
「‥‥‥そうなんだ。‥‥‥でも気になるよね?」
そこなんだよな。
人間って罠と分かっていても、開けたくなるもんなんだよ。
過去に何度もそういう経験をした事がある。
明らかに開けさせる為にそこに置いてあるだろ! って言いたくなるくらい、目立つ場所に置いてある宝箱。
素通りすれば全く問題ないのだが、もしかしたら何か良いアイテムや、強い武器が入っているのではないか? と考えてしまう。
そうなると、もうス〇エニさん思うつぼだ。
あ、間違えた。
この【デスティア・オンライン】の製作者の思うつぼだ。
‥‥‥〇クエニさんはこのゲームに関係無かったわ。
過去に俺は一度死んだ。
いや、何度も死んだ。
スク〇ニさんの開発した、ドラ〇エというRPGのダンジョンにある宝箱によってな!
やったー、宝箱だ!
何が入っているんだろう。
さっそく開けてみよっと。
ガチャリ
『なんと 宝箱は
ひとくいばこだった!』
‥‥‥。
ひとくいばこだった! じゃねーよ。
帰れ!
ただでさえ普通の攻略でいっぱいいっぱいなんだよ。
まあ、結局その後は全滅した。
あいつは俺達の仲間がHPが満タンの状態でも、痛恨の一撃により、一発で戦闘不能にしてきやがるからな。
俺はあの日の恨みを忘れないぜ。
スクエ〇さんよ!
まあ、そんな話は置いといて。
「開けてみるか」
「‥‥‥私が開けるから‥‥‥一旦降ろしてくれる?」
「分かった」
俺はその場でしゃがみ、雪菜さんを地面に降ろす。
スタッスタッ
そして彼女は宝箱の目の前まで歩いて行くと、宝箱を開け‥‥‥ない?
なんか立ち止まっている。
どうしたんだろう? と思ったその時。
雪菜さんは俺の方振り向いて呟いた。
「‥‥‥やっぱり‥‥‥怖い」
「じゃあ俺が開けようか?」
「‥‥‥だめ。‥‥‥五月雨くんはダメージを受けたりしたら、すぐに死んじゃうから」
「それはそうだけど」
「‥‥‥だからもし私が開けた瞬間、罠だって思ったら‥‥‥私を抱っこして、すぐに逃げてくれる? 何かが急に飛び出して来たとしても、私なら一度くらい耐えられると思うから」
まあ雪菜さんは今、一応HP310あるからな。
決して多いとは言えないが、俺に比べたら断然上だ。
だって俺は最大HP10だからな! ふっ。
「了解! 抱っこしてあげる」
俺は親指を立てて決め顔をする。
「‥‥‥下心を感じる」
「いや、無いって」
「‥‥‥まあ、良いか」
雪奈さんはそう言って、宝箱の方を向いた。
俺はいつでも助けに入れるように構える。
「‥‥‥開けるね」
「気をつけて」
「‥‥‥ん」
このゲームの死は、リスクが大きすぎる。
だからなんとしてでも、HPがゼロになるのは避けたい。
雪菜さんは宝箱に触れた。
雪菜さんは一度唾を飲み込んだ。
‥‥‥後ろ姿の為、分からないけど。
雪菜さんは緊張しているのか、一瞬瞬きをした。
‥‥‥後ろ姿の為、分からないけど。
‥‥‥そもそも前髪が長いから見えないけど。
雪菜さんは蓋をゆっくりと持ち上げ始めた。
雪奈さんは目を大きく開けている。
‥‥‥後ろ姿の為、分からないけど。
‥‥‥仮に正面だったとしても、どうせ前髪で見えないけど。
ガチャリ
「‥‥‥あ」
雪菜さんは宝箱を開けると声を漏らした。瞬間!
俺はダンッ! と地面を蹴って走り出す。
そして雪菜さんを抱っこした。
その時、宝箱の中身が視界に入ってきた。
‥‥‥瓶?
中には、青色の液体が入った透明の瓶がある。
罠では無かった様だ。
「回復薬かな?」
「‥‥‥五月雨くん‥‥‥降ろして‥‥‥」
‥‥‥。
「液体がMPバーと同じ青色だから、もしかしたらMPが回復するアイテムなのかも」
「‥‥‥おーい」
「あ、でも俺が使っても意味無いから、雪菜さんにあげるね」
俺は最大MPが10しかないからな。
「‥‥‥わざとらしい」
「じゃあこのアイテム俺が取るね? あら、両手がふさがっているから取れないや」
「‥‥‥」
「そういえば雪奈さんを抱っこしてたんだー。ごめんー。今降ろす」
そう言って雪奈さんを丁寧に地面へ降ろした。
「‥‥‥」
「よーし。回復薬ゲット!」
俺が誤魔化す様に宝箱の中身を手に取ると、隣から冷たい声が聞こえてくる。
「‥‥‥やっぱり、学校で話すのとかは無しね」
今いるこの洞窟の温度よりも冷たい。
ん? ‥‥‥‥まじかよ!
「ちょい待ち。ごめんって」
「‥‥‥明日からは他人のふりをしなきゃ。‥‥‥だから、今までと同じだね」
口元が微笑んでいるが、目が全然笑ってない。
‥‥‥前髪で見えないが。
「おい、ちょ待てよ!」
口を曲げて、とある芸能人の真似をしてみると、雪菜さんは一瞬「ふっ」と笑ったが、すぐに冷静になる。
「‥‥‥私、ちょっと明日‥‥‥楽しみだったのに」
「本当にごめんって!」
「‥‥‥」
「本当にごめんって!」
「‥‥‥」
「本当にごめんって!」
「‥‥‥ふ」
「本当に、ぶふっ。‥‥‥ごめんって!」
やばっ、同じ言葉を繰り返してたらなんか面白くなってきたわ。
思わず吹いちまったぜ。
「‥‥‥ふふ‥‥‥」
俺は手で口を押えながら続ける。
「ほほ、おほほんとうに‥‥‥ごめんゲフッ! って」
なんかつぼる。
発声が出来なくなってきたぜ。
「‥‥‥ぷふ‥‥‥ふふっっ‥‥‥」
雪菜さんは肩を動かして、クスクスと笑い始める。
頑張って堪えている様に見えるが、許してくれたのかな?
「ゲヘッ! んとうに──」
「‥‥‥もういい。ふふ。‥‥‥もう良いから‥‥‥やめて‥‥‥ぷっ」
俺が笑いながら声を絞り出していると、雪奈さんは必死にこみ上げてくる笑いを押えながらそう呟く。
許してくれた。
あ~良かった。
「じゃあはい、これ」
俺は雪菜さんに、先程手に入れた瓶を差し出した。
雪奈さんの表情からはもう冷たい視線が感じられない。
何とかなって良かったぜ。
せっかく出来そうだった、数少ない友達が減ってたら、俺ちょっとショック受けるよ?
‥‥‥あら?
そういやー、俺ってこんな思考回路してたかな?
ついこの間まで友情なんて、どっちでも良かったんだけどな。
‥‥‥‥いや、クラスのゲーム友達はどっちでも良いわ。
‥‥‥とすると、俺は雪奈さんを失いたくないのか?
可愛い子だから?
アニメっぽくて清楚な雰囲気だから?
‥‥‥うーん、よく分からんな。
病気かもしれん。
「‥‥‥ありがとう。MPがなくなりそうになったら‥‥‥飲んでみるね‥‥‥ふふ」
今思ったけど雪菜さんってツボが浅いよな。
学校ではずっと静かだけど、根は明るいんだと思う。
雪菜さんは瓶を受け取ると、スカートのポケットにしまった。
そういえばこのゲーム、アイテムを収納できるものって無いのかな?
ファイナ〇ファンタジーでいう【アイテム】。
ドラゴンク〇ストでいう【道具】。
モンスターハ〇ターでいう【アイテムポーチ】。
ペル〇ナでいう【ITEM】。
モンスタース〇ライクでいう【モンスターBOX】。
ポケットモン〇ターでいう【バッグ】。
M〇THERでいう【グッズ】。
G〇D EATERでいう【所持品】。
と、まあ‥‥‥こんな感じのやつで、どんなゲームにあるよな?
疑問に思い、メニュー画面を開いてみた。
一応上から下まで探したのだが、それらしい項目は無い。
「‥‥‥どうしたの?」
「いや、ちょっと気になって」
「‥‥‥何が?」
「今雪奈さんがポケットに瓶を入れているの見て思いついたんだけど、アイテムをしまう様な機能が無いかな? と思って」
雪奈さんは俺の言っている事を理解したみたいで、コクッコクッと頷く。
「‥‥‥なるほど。確かにあってもおかしくはなさそうだけど‥‥‥無いの?」
「うん、なさそうだ」
「‥‥‥そっか」
「まあ、このゲームはあくまでリアルを追及しているみたいだし、普通のゲームにある様な便利な機能は、あまり無いのかもしれないな」
「‥‥‥私はこれ以外のゲームをやった事無いからよく分からないけど、‥‥‥そうなんだ」
雪奈さんは理解した様で、続けてふむふむと頷く。
「なあ、雪奈さん?」
「‥‥‥ん?」
「なんか順応力高くない?」
「‥‥‥えっ。そう?」
「うん。初めてゲームをプレイしているのにしては、要領が良い。ステータスの振り方も俺と一緒でバランス良いし」
「‥‥‥まあ、いつも小説で、ゲームに閉じ込められるストーリーとか、異世界ものを読んでいるからかな?」
ん? なんだって?
「えっ? 雪奈さんってそんな感じの小説読むの?」
「‥‥‥うん。ほぼ毎日読んでるけど」
「そうだったんだ。いつもブックカバーしてて何読んでるかは分からなかったけど、文学とか、頭のいい人が読むようなジャンルかと思ってた」
「‥‥‥そういうのは基本的に読まないよ」
あれ? 雪奈さんって俺と同じ様な人種?
ゲームはしないらしいけど、読んでいる本の種類は同じだ。
それにゲームも、今日始めちゃってるし。
まさか、仲間なのか?
そうなのか?
「そうなんだ。よろしくね」
俺は思わずそう言って手を差し伸べ、握手を求めてしまう。
「‥‥‥言ってる意味がよく分からないけど、‥‥‥とりあえず‥‥‥よろしく」
雪奈さんは首を傾げながらも、握手をしてくれた。
契約成立だ。【男女混合ゲーム&アニメ系同好会】へようこそ。
人数は二人しかいないが。
そう、俺と雪奈さんの二人だ。
もっと言えば、この同好会は今作った。
ふっ。
これからが楽しみだぜ。
俺は真の仲間を見つけたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ストックが残り6話程度あるので、そこまでは毎日投稿で行きたいと思います。