第三十九話 【クリスマス・壱】
あの武闘大会が終わって、現実世界の数日が経った。
今日は12月25日。今現在学校の帰り道で、寒いなかあめと一緒に電車に乗っている。
何をしているかって?
うん、色々あってあめの家に向かっているのだ。
どうやらあめが、両親に「家へ友達を連れて来い」って言われたらしい。
鉄さんは、女友達とクリスマスパーティーを開く予定みたいで、「雪奈さん、本当にごめんね」と申し訳なさそうにしていた。
太陽と健二は、二人で彼女いない会を開くぜ、とか言ってカラオケに向かいやがった。
俺も彼女いないんだが‥‥‥。
あと実は、武闘大会が終わった次の日の学校で、健二は、俺と鉄さんとあめが【デスティア・オンライン】をしている事に気付いたらしく、「おい、弘人。お前すげぇな、あの大会で優勝してたじゃん」と話しかけて来た。
聞いた話だと、プスウィッツ城下町に着いた時に、街中に巨大なスクリーンがあって、たまたま表彰式の場面が見れたらしい。そこで俺達三人って気付いたんだとよ。
でも健二は鉄さんやあめがゲームをしている事を言いふらす事はなかった。
お前結構いい奴じゃん。
と、まあ‥‥‥結局二人で両親に会いに行っています。
めちゃくちゃ緊張してるわ。
他の人がいるならまだしも、俺一人だぜ? なんか胃が痛いわ。
しばらくして。
「‥‥‥あ、ここだから降りよう?」
「お、おう」
ついたのは結構都会の街だ。
あめはいつもここから学校に来てんだな。
俺は駅のホームを後にすると、夕暮れの中あめの隣に並んで歩いていく。
今日はクリスマスだからか色んな装飾品が飾られていて、色々と目を惹かれる。
「‥‥‥ひろとくん。‥‥‥今日は静かだね?」
なかなか喋って来ない俺に疑問を持ってからか、あめがそう聞いて来た。
そりゃそうだろ。
「まあ緊張しているからな」
「‥‥‥私の親はあまり怖くないから大丈夫だよ?」
「そっか。でもやっぱり心臓がバクバクしてるわ」
わしの娘はやらんとか言って、ぶん殴られたりしたら嫌だぜ?
「‥‥‥本当に面白い人達だから安心して」
「お、おう」
やがて到着したらしく、あめはとあるマンションの前で「‥‥‥着いたよ」と呟いた。
かなり大きめの建物で、見るからに高級そうだ。
俺は緊張の足取りで進んでいく。
ガチャッ
「ただいまー」
あめがドアを開けてそう言うと、奥から声が聞こえて来る。
「あら、おかえり」
俺は少し大きめの声で「お邪魔します」と言っておき、靴を脱いで中へと入っていくあめに続く。
そして少し短めの廊下を通り、もうすでにドアの開いているリビングであろう場所に入る。
すると、ソファーに座っている父親と母親の姿が見えた。
母親の方は、めっちゃあめそっくり。
父親の方は‥‥‥うわっなんか怖いんだけど。髪型がオールバックで、黒縁のサングラスをしていらっしゃる。
俺‥‥‥銃でぶち殺されんのか?
ソファーの目の前にある机には、大きいケーキと、大きいチキンと、サラダと、ワインが置いてありとても色鮮やかだ。
とそこで、両親と目が合った。
お母さんの方は可愛い系だけど‥‥‥お父さん怖っ! サングラスで目が見えんやん。
「お邪魔します!」
俺は一礼をしてそう言った。
「あら、礼儀正しい子ね。そこまでかしこまらなくてもいいのよ?」
ソファーに座っているあめのお母さんがそんな事を言ってくれたけど、いつも通りでいたらあめのお父さんに殺されそうなんだが‥‥‥。
「‥‥‥あ、ひろとくん。そこのソファーに座って」
「お、おう」
俺はあめに誘導され、あめの両親が座っているソファーの向かいに座った。
お互い顔が見えるから、普通に緊張するわ。
いやー、あめのお父さん‥‥‥めっちゃこっちを見て来てるやん。
「‥‥‥お父さん。何をしてるの?」
サングラスをして足を組んでいるお父さんの姿を不思議そうに見ているあめが、首を横に傾げてそう言った。
「ちょっと我が娘の男とやらと会う為にお洒落をしているのだよ」
「‥‥‥普通にすれば?」
「ふっ、面白い事を言いおる」
「‥‥‥」
この人‥‥‥どういう人なんだ?
「ところで、そこのひろとくんとやら」
うわー、サングラスのフレームを上下に動かしながら話しかけて来たー。
「あ、初めまして。五月雨弘人と申します」
「どうも。私は雪奈浩二だ」
お父さんは、組んでいる足を元に戻すと、反対の足を組んだ。
意味ねぇ。
「あなた、いつも通りにしたら?」
「あ、ああ。そうだな。でもその前に一つ聞いておきたい事がある。君はあめの何だね?」
お父さんは組んだ足を戻し今度は太ももに肘を置いて、若干俺を威圧して来るように聞いて来た。
「‥‥‥ちょっと、お父さん!?」
「まあ一言でいうと、友達です」
俺が顎に手を当てて答えると、お父さんは少し表情を歪ませる。
「ほう。友達の男女がお泊り会をしたりするのかね?」
その事、知ってたんだ。
「はい、まあそうですかね。因みに一線は超えていません」
「‥‥‥ひろとくんも何を言っているの!?」
「それは本当かね?」
「完全にオールホワイトです」
「そうか‥‥‥ならよかった。てっきり出来ちゃったという報告に来たのかと思ったぞ?」
「そうでしたか、そういう事でしたらご安心を」
「ああ、そうさせてもらう」
お父さんはそう言って、サングラスを外した。
意外と可愛い目をしてるな。
そこでふと周りを見てみると、女性陣二人が唖然としている。
「ん? 我が妻よ。どうしたのかね?」
お父さんが、あめのお母さんにそう言った。
「いや、こっちのセリフよ。‥‥‥あなたさっきから何をしてるの?」
「‥‥‥お父さん。普通にしないと恥ずかしいよ?」
女性陣二人の冷たい視線が、お父さんに向いている。
この状況からして、お父さんは今日、普段とかなり違う態度や喋り方をしているのだろう。
「ちょっと何を言っているのか分からないな」
お父さんが顔に手を当てそう言うと、お母さんが俺を見て呟く。
「あなた、ひろとくんって言ったかしら? ごめんね、見苦しい所を見せちゃって‥‥‥普段はこんなんじゃないんだけどね」
「いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください」
「そう。‥‥‥でも、私はてっきりあめが女友達を連れて来るのかと思ってたけど、男の子だったんだ」
「やっぱりまずかったでしょうか?」
「ううん、むしろ逆よ。あめに仲のいい友達が出来て嬉しいわ」
この人‥‥‥めちゃくちゃいい人じゃん。
「いえ、こちらこそ、仲良くさせてもらってます。な、あめ」
「‥‥‥あ‥‥‥うん」
俺が横にいるあめの方を向いて確認してみると、あめは少し恥ずかしそうな表情で頷いた。
「あれ? みんなお父さんの事を無視してないか?」
俺達三人に向かって、お父さんがそう言った。
「あなたが普通にしないからよ」
「‥‥‥お父さんがおかしいからだと思う」
お母さんとあめがほとんど同時にそう答える。
俺、なんか気まずいんだけど‥‥‥。
多分お父さんが変になっているのって、俺がいるせいなんだよな?
「おお、そうか。じゃあそろそろ普通にするかな」
「‥‥‥最初からそうすればいいのに」
という事で、お父さんはいつも通りに戻ったらしい。
「さてと、では気を取り直して‥‥‥君はヒーローくんと言ったかね? 今日は存分に召し上がっていきなさい」
「あ、ありがとうございます。ですが俺はヒーローではなく、ひろとです」
俺は英雄なんかじゃねぇぞ?
「おお、そうだったな。まあ気にするな」
いや、気にするなって‥‥‥こっちのセリフだろ。
その後、俺はあめの家族と一緒に会話をしながら、食事を楽しんでいった。
少しして。
「あ、そういえば」
お母さんが唇についたケーキのクリームを舌で取った後、何かを思い出した様に手を叩いた。
「‥‥‥どうしたの?」
「今日は街中で大きなクリスマスツリーが用意されているみたいよ。あめ、ひろとくんと一緒に見てくれば?」
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