表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/40

第三十八話 【武闘大会・決勝戦・弐】

 グレーブさんは途中で進行方向を変え俺達についてくる。

 また俺が金髪の女の子の元へ向かっているとでも思ってんのか?


 生憎だが‥‥‥向かっている。

 

 もう一度あの子の実力を見ておきたいしな。

 正直言って、魔法使いがあめの魔法を躱せるとは思えない。

 

「あめ、もう一回あの子に魔法を撃ってみてくれ」

「‥‥‥えっ?」

「本当にあの子が魔法を躱せるのか気になるんだよ」

「‥‥‥あ、うん。分かった」


 あめは早速、先程と同じ範囲魔法の詠唱に取り掛かる。


 さてと、俺の仕事は‥‥‥後ろから追って来ているグレーブさんの攻撃を受けない様に気を付ける事だな。

 そう心に決め、後ろをちょくちょく気にしながらも、マックススピードで女の子へと近づいていく。


「───火炎鞭ファイアーウィップ


 そんな言葉と同時に、あめの手からオレンジ色の魔法が飛んで行った。


 と、その時。


 後ろの男性が、剣を振って真空波を飛ばして来やがった。

 俺はあめの魔法を目で追いつつも、空中移動のスキルを二回ほど連続で使用し、迫って来る刃を避けた。


『今、レイン選手の範囲魔法がエリリ選手に迫っています。───って、おぉ! 当たるかと思われましたが、見事に空中移動のスキルで対処しました。これまであまりスキルを見せてこなかったエリリ選手ですが、ここに来て使用しました』


 はっ!? 空中移動?

 レベル20の魔法使いが空中移動を覚えてんのかよ。

 あの子、絶対ステータスポイントのほとんどを敏捷に割り振ってるだろ。


「あめ! 何か当たりやすそうな魔法ってない?」


 後ろにいる男性から距離を取る為に一旦横にずれながら聞いてみた。

 あれだけの敏捷を持っているなら、普通の魔法程度じゃまず当たらんだろうな。


「‥‥‥うーん。‥‥‥あるとしたら詠唱が短い弱めの魔法くらいかな」

「えーっと、まあそれで行ってみるか」

「‥‥‥ん」


 あめの事だから、結構命中率はあると思う。


「───真空波!」


 少し遠くから鉄さんの声がした。


『ウカ選手がグレーブ選手に向かって剣スキルの真空波を放ちました。これは相手の不意を突いた良いタイミングかと思われましたが、グレーブ選手は横ステップで冷静に躱して行きます』


 そういえば、‥‥‥鉄さんもいたな。

 うん、別に忘れてなんか無かったからね?


 あー、あと。今気付いたけど、あの金髪エリリちゃん‥‥‥空中移動を使えるって事は、魔法系のステータスはそこまで強く無いはずだよな? という事は、恐らく接近戦向けのステータスになっているはず。

 なのに杖を装備している。

 つまり武器の攻撃系スキルは何も仕様出来ないという事だ。


 この世界では、装備している武器の種類によって使えるスキルが変わって来るからな。


 えーっと例えば、今俺が剣を装備した場合とかには、何もスキルは増えない。

 何故かって?

 攻撃力が10しかないからな。

 

 で、攻撃力をある程度持っている鉄さんが、武器を剣から弓に持ち替えたりすると、剣のスキルが消えてその代わりに弓系のスキルを覚える訳だ。

 

 つまりだ! 今この試合場に代わりの武器が無いという事は、あのエリリちゃんには威力が弱くスピードの遅い魔法くらいしか攻撃手段が無いことになる。

 

 ふっ、相手に魔法使いだと思わせる作戦だったのだろうが、俺に見透かされてやがる。


 まあとにかく、あのエリリちゃんは別に怖い相手じゃない。

 一番気を付けるべきはグレーブさんだ。

 

『グレーブ選手は、不意打ちをされた事が癇に触ったのか、不機嫌そうな表情でウカ選手に真空波を飛ばしています』


 まずい、鉄さんはほとんど敏捷が無いから対処出来ないだろうな。


「よし、鉄さんを助けに行くぞ」

「‥‥‥ん」


 俺は急いでグレーブさんのいる場所へ向かう。

 一応途中でエリリちゃんを確認してみたけど、彼女はずっとあの場所に突っ立っている。正直何がしたいのか分からん。仲間のアシストをした方が絶対良いだろうに。

 

 俺が走っている途中にもあめはずっと魔法を放ち続けていた。

 グレーブさんは鉄さんに真空波をぶつける事だけに集中していたせいか、一度あめの魔法をくらう。


『おっと、ひろってぃーパーティーの攻撃が初めて命中しました! 見た所グレーブ選手のHPは残り四分の三ほどの様です』


 グレーブさんは、俺達三人と同時に戦うのは分が悪いと踏んだのか、エリリちゃんの場所へと戻って行く。


「あめと鉄さん、追い打ち!」

「‥‥‥ん」

「言われなくても」


 俺の言葉と同時に、あめと鉄さんはそれぞれ魔法と真空波で、遠ざかって行くグレーブさんの背後を狙う。

 だが、ジグザグに動かれていたのもあり、結局すべて当たらなかった。

 

「にしても、あのグレーブさんって結構守備力弱いみたいだな」


 あめの魔法一発でHPが四分の一も減るって、かなり装甲が薄い様だな。

 まあ俺よりは固いけど!

 

「‥‥‥それ思った」

「まあ、あれだけ攻撃力と敏捷があるんだから当然だと思うわよ」


 そこでふと鉄さんのHPバーが視界に入って来た。


「鉄さん、結構ダメージ受けているじゃん」

「ええ、防御とHPがかなり高い私でも目に見えて減るんだから、相当強い方でしょうね」


 となると、グレーブさんはアサシン系で、エリリちゃんも恐らく同じアサシン系なのかな?

 

 ‥‥‥う~ん。どちらも攻撃が当たりづらいとなると、かなり面倒くさいわ。

 少しでも気を抜いたらこちらがやられる可能性があるしな。

 

「‥‥‥ひろとくん! 横!!」


 突然背中からあめの声が聞こえて来た。


 向いてみると、その方向にはエリリちゃんがいて、魔法を複数放って来ている。

 やばっ、このままじゃ当たる!?


 俺は声に出すよりも先に、


『【超加速】───はい!』


 頭でスキルを思い浮かべ急いで発動した。

 

 すると体中に青色のオーラが纏い始めて、迫って来ている魔法や、観客の声などがすべて遅くなった。

【超加速】とは、最大HPとMPの七割を消費し、一分間自分の速度を急激に底上げするものだ。

 つまり、今現在俺の残りHPは3だ。

 かなり少なく思えるかもしれんが、元々10しかないから、そう大して変わらない。


 俺はあめをおんぶしたまま、横にステップして体制を立て直すと、少し距離の空いた所にいるグレーブさんへと向かって走る。


「‥‥‥は‥‥や‥‥っ」


 あめの言葉、遅っ!?

 加速系の【超】って使うの二回目なんだけど、やっぱり落ち着かないわ。

 何か普通に二倍くらいの速度で動いている感がある。


 で、今実況が何か喋っているけど、遅くてイラつくから聞き流しておこう。

 どうせ、『ひろってぃー選手が加速系のスキルを使用し、間一髪でエリリ選手の魔法を躱しましたぁ!!』みたいな感じの事を言っているだけだろ。


 やがてグレーブさんの場所に到着すると言った辺りで、あめの攻撃が発射された。

 グレーブさんは、普通に躱すかと思いきや? ───、おーーん!? 向こうも【加速】を使って来やがった?


 おいおい、これはちょっとやばいかもしれん。

 体に赤色のオーラを纏ってやがる。


 えーっと、うん。俺の方が先にスキルを使っているから、効果が切れるのも早いはずだ。

 そうなったら、恐らく向こうの方がスピードが速くなるだろうし‥‥‥普通に追いつかれるかもしれん。

 下手したらその間にやられる可能性がある。


 そんな事を考えながらも、俺はグレーブさんから距離を取る為に反対方向へと走り出した。

 向こうも俺の超加速の効果が切れた数秒を狙うつもりらしく、逃げる俺を追って来る。


 その間にも、鉄さんはエリリちゃんの魔法と、杖の物理攻撃を必死で耐え忍んでいる。

 あれだと、あまり長くは持たないだろうな。


 という事で、俺は鉄さんの手助けをする為に二人の元へと向かった。


「あめ、鉄さんの援護を頼む」

「‥‥‥わ‥‥か‥‥っ‥‥た」


 鉄さんは剣と盾を駆使して、相手の攻撃をさばいているが、やはり敏捷が劣りすぎているせいで背後に回られたりしている。

 

 さてと、ここからは頭脳戦とか一切関係なくなりそうだな。

 力と力の戦いだぜ!


 そう決意し、俺はエリリちゃんへと近づき、あめが魔法を当てやすい状況にした。

 裏を返せば、杖の物理攻撃や魔法を食らう可能性があるという事でもあるのだが、そこは頑張るしか無いな。


 エリリちゃんは鉄さんを無視し、俺に攻撃しようと杖を力強く振って来る。

 

 一応一定距離を保っているけど、一歩間違えたら当たるぜ? マジで。

 あー、このスリルたまんねぇわ。

 とか考えている余裕は無いんだよな。

 だって後ろからもう一人来ているから。

 

 俺はエリリちゃんの杖をしゃがんで躱した後、すぐに横ステップをしてグレーブさんの剣から逃げた。

 うわー、流石に二人になったら難しくなるな。

 けどやってやるぜ。


 とは宣言したものの、よく考えたら一度鉄さんを置いてここから距離を置いた方がいいかもしれんぞ。だって加速の効果が切れるタイミングって、かなり戸惑ってしまうもん。正直速度の変化に順応出来る自信が無い。という事で、あばよ! 鉄さん。

 

 早速この場から離れ、全速力で反対側へと走って行くと、やはり後ろからグレーブさんが付いて来た。どうやら俺の加速の効果が切れるタイミングを狙っているという事で間違いないらしい。


 ふぅ、まあそろそろだろ。と思った瞬間、俺の体から青色のオーラが消滅し、急に実況や観客の声がいつも通りになった。

 後ろを振り向いてみると、赤色のオーラを纏っているグレーブさんが、さっき頑張って作った距離の差をだんだんと縮めて来ている。これはまずいぞ。


『ひろってぃー選手の【超加速】スキルが切れました。ここがチャンスと言わんばかりにグレーブ選手が赤色のオーラと共に追っています。───それに対し、ひろってぃー選手は元からある敏捷を駆使し、必死に逃げていく!』


 マジで近づいてこないでおくんなし。怖いでありんす。

 あめはグレーブさんを少しでも足止めしようと、範囲魔法の詠唱を何度も繰り返してくれている。だが彼はジャンプをしたり、低姿勢で下をくぐったりして躱している為、そこまでスピードを落とせていない。


「───真空波!」


 後ろからそんな声が聞こえて来た。よし、落ち着けよ! 真空波なら空中移動のスキルを使えばどうにでもなる。

 俺は早速一度ジャンプし、更に一回、二回、三回と今使える最大の数を使用し、余裕を持って躱した。

 そして綺麗に着地をすると、進行方向を変え、再び鉄さんとエリリちゃんの元へと向かう。


『おぉっと、ここでグレーブ選手の【加速】スキルが切れた模様。ひろってぃー選手は無事に逃げ切る事が出来たみたいです! これは中々面白い展開になって来てますよね? ‥‥‥って私は誰に問いかけているのでしょうか?』


 知らねぇよ。お前が一人でナレーションしているだけだろ。こっちは戦いで忙しいんだからあまりツッコミをさせようとしないでくれ。


「───火炎鞭ファイアーウィップ!」


 あめはエリリちゃんに向かって幾つかの魔法を打ち込んで行く。しかしエリリちゃんは鉄さんとの戦闘だけでなく、こちらにも気を使っていたらしく全て避けた。


『ひろってぃー選手は、グレーブ選手から逃げつつも仲間の場所へと向かっています。仲間の手助けをする為に行っているのでしょうが、もう一人の敵を連れて行く行為でもある為、果たしてこれが凶と出るか、吉と出るか、それは誰にも分かりません!』


 やがてエリリちゃんの近くに到着すると、俺は靴で地面を蹴り上げ進行方向を横に変え、一定の距離を保ちながらも周りをグルグルと移動する。


 その途中、ふと左右のスクリーンが目に入って来たのだが、そこにはエリリちゃんの真顔がアップで映されていた。おー、可愛いねぇ。でも、欲を言えば笑顔か、泣き顔のどちらかでいて欲しいな。うん、その方が萌えるから。

 

 と、そこで。後ろから追って来ていたグレーブさんがこちらに到着したらしい。

 早速走っている俺に向かって剣を振って来やがった。

 くそ、俺ばかり狙って来やがって。そんなに俺の事が好きなのかね?


 俺は進行方向を真逆に変え、すれすれのところで剣を避ける。

 それと同時に、エリリちゃんの魔法が飛んできた。弾丸系の魔法なのだが、この距離で撃たれたら厳しい。てか現在かなり危ないなう。

 とっさに身の危険を感じた為、俺はスライディングをし、魔法と地面の間を通った。

 

 ───その瞬間。

 

「きゃっ」


 鉄さんの声が聞こえて来た。

 スライディングから立ち直り、急いでその場に立ち声のした方を向いてみると‥‥‥鉄さんが青い光と共に消えていく。

 えっ‥‥‥。やられた!?

 

『あぁっと! 一人目の戦闘不能が出ました。ひろってぃーパーティーのウカ選手です。グレーブ選手の斬撃をまともに食らい、残りHPが1になった模様です』


 おいおい、マジかよ。

 こりゃー、かなり厳しい状況になったぞ。


「‥‥‥ひろとくん、あぶない!」


 少し気を逸らしていると、あめの厳しめの声が後ろから聞こえた。

 それと同時に周りを見ると、グレーブさんの木刀が俺の顔の近くまで迫っている。


「おっっ───っと」


 俺は後ろに体をずらし、ほぼギリギリの距離で躱した。

 いや、あめのお陰で助かったわ。‥‥‥って安心している場合じゃねぇ。今度はエリリちゃんの杖が迫って来る。

 くそ、こいつら二人共速い。あめの魔法もろくに当たってない。

 

『ひろってぃー選手、防戦一方です』


 実況の言う通り、このままだとジリ貧だ。いずれ俺の集中力が切れてやられるだろうな。

 それにしても、おんぶだとこういう時に小回りがきかないな。スライディング等、地面を使う様な行動がやりずらい。

 ちょっと戦い方を変えてみた方がいいかもしれん。

 とは言ってもそんなすぐには思いつかないから、色々と試して行ってみよっと。


 そう考え、俺は相手から少しだけ距離を取ると、一度あめを地面に降ろし、お姫様抱っこに変更した。

 そして猛スピードで木刀を薙ぎ払ってくるグレーブさんの攻撃を、後ろに下がりつつ躱す。


「‥‥‥えっ、ちょ」


 あめは突然の事に驚いているらしい。


「ごめん。けど、あのままじゃ素直に負けるだけだ。何か違う方法を試してみないと」

『ここでひろってぃー選手が驚きの行動に出ました。おんぶだけでも十分大胆だったのに、大勢の観客の前でお姫様抱っこを始めました。抱っこをされているレイン選手は、物凄く恥ずかしそうな表情をしています。果たしてどうするつもりなのか、目が離せません』


 実況うるせぇよ!? 更に恥ずかしくなるだろーが。流石の俺も観客の目が気になっているというのに。


「‥‥‥恥ずかしい」

「少しの間だけ、我慢してくれ」

「‥‥‥‥‥‥う、うん」


 よし、許してもらえた。


「無駄話をしている暇があるのか?」


 木刀の薙ぎ払いと共に、グレーブさんがふとそんな事を言って来た。

 俺、この人の声初めて聴いたわ。

 めっちゃ声低いやん。


 俺は作り笑いをして答える。


「ありますよ、このくらいの速度であれば余裕ですから」


 はい、ギリギリです。もう反応速度の限界が近づいて来ています。


「そうか」


 声‥‥‥めっちゃ低いやん。


 俺は後ろに下がりながら下を向くとグレーブさんの声を真似する様にして、小さい声であめに話し掛ける。


「あめ、ちょっと上に投げるから、魔法の詠唱をしておいて」

「‥‥‥えっ、あ、うん」


 一瞬戸惑いつつも、返事をしてくれた。


 という事で、俺はエリリちゃんの方へ走り出すと、杖が届くか届かないかくらいの距離でジャンプをした。

 そして更に空中移動を三回連続で行い、今自分が到達できる最も高い場所に行くと、あめを上に放り投げた。流石体重三キロ、軽いわ。


『ひろってぃー選手がレイン選手を上に投げましたぁ! さっきから行動が不可解です』


 不可解で悪かったな。


「───火炎鞭ファイアーウィップ!」


 俺が地面へと落ちて行くのとほぼ同タイミングで、あめが下にいる二人に向かって範囲魔法を放った。

 その魔法は、エリリちゃんには当たらなかったものの、グレーブさんに命中した。どうやら上から攻撃が飛んでくるというのに慣れていなかったらしい。

 グレーブさんは、先程の加速でHPを消費していたのもあり、青色の光と共に消えていく。

 

『あぁっと、グレーブ選手が、レイン選手の魔法により戦闘不能になりました。これによりグレーブパーティーはエリリ選手一名です』


 やった、まさか上手く行くとは。

 俺はすぐに気持ちを切り替え、落下して来ているあめをジャンプして受け取ると、そのままエリリちゃんから距離を取る為に走る。

 そしてしばらく行った所で、後ろを確認してみると‥‥‥あれ? エリリちゃんはどこに行った? いないじゃん。


「‥‥‥ひろとくん、右!」


 えっ!? ‥‥‥無言で向いてみると、弾丸系の魔法が迫って来ていた。


 俺は躱そうと、横ステップをする。


 バシィィィン!!

 

 動いた瞬間、乾いた音と、俺の顔に何かが当たった様な感覚がした。

 目の前を見てみると、杖を薙ぎ払い終わったであろうエリリちゃんの姿がある。


 WHAT!? 俺、まさか攻撃を食らった!?

 

 えっ、でも攻撃魔法が飛んできた方向とは反対方向から殴られたんだけど‥‥‥。


 ‥‥‥まさか、魔法を囮に使いやがったのか。


 そんな思考と共に、俺の体が青色に光る。

 

 と思ったら、一瞬にして視界が準備室へと変わった。

 

 目の前には、グレーブさんと鉄さんがスクリーンを見ている姿がある。


 そのスクリーンには、あめとエリリちゃんがお互い立って見つめ合っている様子が映っている。


「五月雨くん‥‥‥何死んでんのよ!」


 俺の戦闘不能に気付いた鉄さんがこちらを向くと、意地悪そうな顔でそう言って来た。


「いやー、死って‥‥‥思ったよりもあっけないな」


 何かを悟った様に目をつぶって答えると、鉄さんは呆れた様な表情をして来る。


「五月雨くんがいきなり何を言っているのかは分からないけど、でも、あなたが攻撃をくらうの、初めて見たわ」

「まあ、実際攻撃を食らったの初めてだしな」


 顎に手を当て自慢げな表情をしてみると、グレーブさんがこちらを振り向き、目を大きく見開いて俺を見つめて来た。


「今お前、何て言った?」


 声‥‥‥めっちゃ低いやん。

 

「何って言われても、攻撃を食らうのが初めてと」

「その話は本当か?」

「あ、はい。俺HPが10しか無いので、魔物の攻撃なんて食らったら死んじゃいますしね」

「じゅ、10!? ‥‥‥ふむ。なるほどな。これでお前のスピードの謎が解けた。まさかステータスポイントのほとんどを敏捷に振っていたとは」


 グレーブさんは一人で納得した様に頷いている。

 

『なんと! 今までずっと無傷だったひろってぃー選手が、エリリ選手の物理攻撃により戦闘不能になりました。これで両パーティー残り一名となっています。これまで自分の足で動かなかったレイン選手ですが、どうなってしまうのか。それがまた見どころですね』


 実況の声が聞こえて来たのと同時に、俺はスクリーンの方に目をやった。

 鉄さんとグレーブさんも、無言で様子を見始める。


 あめとエリリちゃんの一騎打ち。

 

 この勝負の結果が出るのは、早かった。

 

『一瞬でした! 勝者は──────エリリ選手!! これにより、優勝は最初から二人で参加というかなりの不利を背負っていたのにも関わらず、勝ち進んできたグレーブパーティーです!!』


 実況の声と共に、たくさんの歓声が試合場へと届いている。


 ふと気が付くと、横にはあめがいた。

 とても申し訳なさそうな顔をしている。

 

「‥‥‥二人共‥‥‥ごめん」

「いいえ、雪奈さんは悪くないわよ」

「ああ、元はと言えば俺が戦闘不能になったのが悪いんだから」


 そもそもあめは敏捷やHPがほとんど無いんだから、接近戦で戦うと言うのは無理な話だ。

 だからこの敗北は仕方ない。


 その後俺達は、表彰式でセクシーな女性NPCから準優勝の景品である100000Gと生の指輪を受け取り、コロシアムドームを後にすると、それぞれログアウトした。

 

 これはあの後聞いたなんだけど、決勝で戦った二人は、どうやらプロのゲーマーだったらしい。

 あのグレーブを倒すなんてなかなかやるじゃない。ってエリリちゃんに言われたわ。

 そりゃー強い訳だ。


 まあそんな感じで、武闘大会は幕を下ろした。


 いやー、にしても強い奴ってやっぱりいるもんだな。


 また新たな目標が出来たぜ!

読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ