第三十七話 【武闘大会・決勝戦・壱】
俺達は試合場を後にし、準備室へと戻った。
そして次の出番まで座って待つ。
他の参加者も、じっとスクリーンを見て待機している。
「ふぅ、やったな!」
「‥‥‥結構余裕があったね」
「ああ、それもこれも鉄さんのお陰だ」
鉄さんの方を向いて親指を立ててみると、少し照れたような表情をした。
「そんな事無いわよ。だって相手を倒したのって全部雪奈さんだもん」
今言った通り、四人全員を戦闘不能にしたのはあめ。
まあ、俺と鉄さんは全然火力が無いしな。
「でも、鉄さんが最初に魔法使いとリーダーを足止めしてくれていたから、こちらのペースで戦う事が出来たんだぜ?」
「そう? なら素直に喜んでおくわ」
やっと役に立てたという実感が沸いたからか、少し生き生きとし始めたな。
これで次も頑張ってくれるだろう。
にしても、俺達って結構行けるじゃん。
普通に優勝できるんじゃね?
その後‥‥‥。
俺達三人は、若干危なげながらも順調に勝ち進んで行った。
やはり上へと行くごとに戦いのレベルが上がって来ている。
でも、まあ今までシード枠に選ばれたりなんかして、なんとかここまで来れた訳なんだけどさ‥‥‥まさか決勝戦にまで残れるとはな。
今現在、ここの準備室には六人しかいない。
敏捷がやたら高い、俺(五月雨弘人)。
ステータスポイントのほとんどを魔法系に割り振っている雪奈雨。
HPと防御力馬鹿、基本的に暴力女、鉄雨花。
案内役や実況など色んな事を一人でこなしている、セクシーな女性NPC。
今までかなりの実力を見せつけ、一人で相手を全員葬って来た、謎の男性プレイヤー。
大会が始まって未だ何もしておらず未知な存在、金髪の女の子プレイヤー。
で、俺達はそんなよく分からない二人と戦う訳なんだが‥‥‥とりあえず男性の方には注意しないとだめだな。
金髪の女の子に関しては全く分からん。
杖を持っている事からして、恐らく魔法使い系だろうけど。
まあとりあえず、三人で男性を潰さないと話にならないな。
『はい、それでは勝ち残った二組は、私について来てください』
そんな女性NPCの言葉に、俺達と例の二人パーティーは無言で頷く。
そして一度深く深呼吸をすると、緊張の足取りで試合場へと向かう。
やばい、めちゃくちゃ緊張するわ。心臓が喉から出て来そうだぜ。
「手が震えているわよ、五月雨くん?」
無表情で横を歩いている鉄さんにそう言われ、自分の手を見てみると‥‥‥目に見えて動いている。
「く、鉄さんだって胸が震えているじゃん?」
「う‥‥‥うるさいわね。歩いたら勝手に動くのよ!!」
なんか自慢っぽいな。
「ふ~ん」
「ふ~ん、って何よ?」
「いや、胸が邪魔そうだなと思って」
実際かなり鬱陶しいだろう。
「だまらっしゃい。胸の大きさは女子にとって重要なのよ。この変態貧乳好き野郎!」
「男子はみんな貧乳好きだと思うけど‥‥‥」
だって小さい方が可愛いし、引かれるもん。
大きいのは正直どっちでもいいわ。
「いいえ、それはあなただけよ!」
「‥‥‥二人共、そろそろ到着するから集中しよ?」
俺の隣を歩いているあめが、一人冷静な顔でそう呟いた。
「それもそうだな。‥‥‥という事で、鉄さん? 落ち着こうぜ?」
「五月雨くんにだけは言われたくないわ」
やがて試合場に出ると、観客の声が今まで以上に大きく聞こえて来る。
セクシーな女性NPCは今まで通り実況室に入ると、観客の声に負けないくらい大きな声で話し始める。
『さぁ、お待たせしました! これより武闘大会決勝戦を始めます!! ここまで勝ち上がって来た二組はどちらも相当な実力者で、見ごたえのある戦いが見られるでしょう。
男女二人組のグレーブパーティーは、これまで男性のグレーブ選手一人で相手をすべて葬って来ました。それに対しひろってぃーパーティーは、今まで類を見ないおんぶという手を使って、若干狡猾ながらも確実に相手を倒して来ています。
では、今から三十秒後に開始致しますので、双方は各自お好きな所に移動してください』
その言葉と同時に、相手チームは端っこに向かって歩き出した。
若干狡猾って‥‥‥うるせぇな、おい!
まあ、そう言われたらそうだけど。
「なあ、俺達も端っこでいいよな?」
「‥‥‥ん。それが無難だと思う」
という事で、俺達三人は相手チームの反対方面の壁に向かう。
うん、最初は距離が開いている方が状況を把握しやすいからな。
『十秒前‥‥‥』
にしても、あの前にいる男性の威圧感と言ったらマジでやばいわ。ずっとこちらを睨んで来てやがる。
「よし、じゃあ乗ってくれ」
「‥‥‥ん」
俺はいつも通りあめをおんぶすると、いつでも戦える様に身構えた。
『三秒前』
‥‥‥これに勝てたら一躍有名になれるかもな。
『───始めっ!!』
試合場全体にセクシーなNPCさんの声がエコーと共に響いた。
それと同時に相手の男性が剣を手に持ち、こちらに向かって走り出す。
鉄さんは、物凄い勢いで走っている男性を止める為に、盾と剣を構えると一歩前に出た。
「あめ、じゃあ俺達は後ろの女の子を狙ってみよう」
「‥‥‥ん。了解」
俺は今までみたいに出し惜しみをすることなく、全速力で右方向に向かって走り出した。
正面から来ているグレーブさんは、鉄さんに任せよう。
あと、気にしないといけないのは、金髪女子の魔法だ。
範囲魔法が飛んで来たらちゃんと躱さないとな。
と、ここであめの範囲魔法が飛んでいく。
よし、敏捷が高い魔法使いなんてそうそういる訳無いだろうし、恐らく命中するだろう。
俺は相手の魔法を警戒しながらも、あめの魔法を見届ける。
「五月雨くん! 後ろっ!!」
「はっ!?」
突然の鉄さんの言葉に、戸惑いつつも振り向いてみると‥‥‥グレーブさんが俺の目の前まで迫っていた。
盾を構えていた鉄さんを無視して、金髪女子を守りに来たのだろう。
俺は横にステップし、グレーブさんの斬撃を間一髪で回避すると、体制を立て直す為に後ろを警戒しながらも鉄さんのいる場所へ戻る。
いやぁ、あぶねぇ。
もうちょっとで直撃してたわ。
敏捷が俺より劣っているはずなのに。‥‥‥何と言うか、体の使い方が上手い。動きに無駄が無いんだよな。
「鉄さん、ありがとう」
鉄さんの場所に到着し、相手二人がこちらに近づいて来ていないのを確認した後、俺はお礼を言った。
「いえ、あいつを止められなかった私も悪いから‥‥‥」
おん? 鉄さんが珍しく自分の非を認めている!?
まあ、今回は俺の警戒不足何だけど‥‥‥って、反省をしている時間は無いな。
「えーっと、とにかく。あいつは想像以上に強いから気を付けよう」
「‥‥‥そうだね」
見た感じどうやらあのグレーブさんは、金髪の女の子に戦闘をさせたくないらしい。
つまりグレーブさんを先に戦闘不能にしないと、女の子とはまともに戦えないだろう。
「あ、そういえば。あめが放った魔法って、女の子に命中したのか?」
確か俺が逃げる前に一発撃ってたよな?
そんな俺の問いに答えたのは鉄さんだった。
「ううん。私も見てて驚いたんだけど、あの子‥‥‥しゃがんで躱してた」
「えっ、嘘だろ?」
「本当よ!」
まじかよ。あの速度で迫っていたムチ状の魔法を躱すのって、かなりの敏捷と反応速度が必要だと思うんだが。
「‥‥‥あの子って‥‥‥魔法使いなのかな?」
俺と鉄さんが会話をしていると、背中に乗っているあめがふとそう呟いた。
「杖を装備してるし、そうなんじゃないのか?」
「‥‥‥だよね。じゃあ三人で男の人を倒そっか」
「おう」
「そうね」
とそこで相手のグレーブさんが地面を蹴り、こちらに向かってくる。
さてと、一丁やりますか。
「壁役を頼む!」
「任せてっ」
グレーブさんは先程と同じ様に、正面から突っ込んで来た。
速い方だが、やはり見える。敏捷はそこまでずば抜けていないっぽいな。
鉄さんは俺達の前に立つと、早速スキルを使用する。
「───シールド!」
すると、突然左手の盾が大きくなった。
面積が約三倍に増えた事により、相手の攻撃をガード出来る確率が大幅に上がるだろう。
それと同時に、あめの比較的詠唱が少ない魔法が飛んでいく。
グレーブさんは、その魔法を横ステップで躱し、そのまま鉄さんめがけて地面を蹴り飛ばした。
やはりこの人は、体を物理的に効率良く使っている。
横に移動したのにも関わらず、ほとんどスピードが死んでいない、
俺もあんな風に動ける様になりたいぜ。
そんな事を考えながらも、特に男性の口元に集中しておく。
いつスキルを使ってくるか分からないしな。
「遅い」
「きゃっ!!」
木の剣で足元を斬られた鉄さんが、レモン色の声を上げた。
おいおい。盾が巨大化しているの関係無しかよ。
そう、グレーブさんは鉄さんの盾と地面の間に刃を通し、そのまま斬りかかって来たのだ。
しかも、スピードを殺さないまま俺達の方へと向かって来てやがる。
あめはそれに慌てることなく、ムチ状の範囲魔法を放った。
しかしグレーブさんは、魔法と地面の間をスライディングで通り抜け、すぐに立ち上がると再び走り出す。
あめの攻撃魔法が当たらないって、マジで何なんだよ。
まあとりあえず逃げるか。
そう考え今出せる最大のスピードを出し、右方向へと走り去った。
だが、グレーブさんは途中で進行方向を変え俺達についてくる。
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