第三十五話【武闘大会・予選】
「よし、それじゃあ着替えに行こうぜ?」
腕輪を付けて貰った後、二人の方を向いて言った。
「‥‥‥ん」
俺とあめと鉄さんは、右手に見える更衣室へと向かう。
俺はあめの横に並んで歩いて行く。
俺はあめの横に並んで歩いて行く。
俺はあめの横に並んで更衣室へと入って行く。
「ちょっと、五月雨くーん?」
後ろから鉄さんの声が聞こえて来た。
どうしたんだろう。
「なんだ?」
「なんだ? じゃないわよ。どうしてこの更衣室に入って来てるのよ?」
はい? 着替えちゃ駄目なのかね?
更衣室に入って着替えないと大会に出場出来ないんだが。
「どういう事だ?」
「‥‥‥ひろとくん、捕まるよ?」
訳が分からないのでそう聞き返そうとすると、横にいるあめが即答をした。
「雪奈さんの言う通りよ。よく澄ました顔で女子更衣室へと入っていけるわね」
俺はそこで今の状況を理解した。
「おいおい、マジかよ。全然気付かなかったわ! えーっと‥‥‥じゃあまた後でな?」
急いで後ろを振り向くとピンク色の通路を戻り、隣にある男子更衣室へと移動した。
いやー、危なかったわ。
あのまま進んでいたら変質者扱いされていたわ。
鉄さんに感謝しなきゃな。
俺は気を取り直して、かなり広めの男子更衣室の中へ入ると、他のプレイヤー達に並んでロッカーを開け、初期装備の布の服と布のズボンを脱いでいく。
そしてロッカーの中から初期装備の布の服と布のズボンを取り出して装備していく。
‥‥‥えーっと、これって意味あるか?
一応用意されたやつに着替えたけどさ、俺って元々初期装備なんだよね。
うん、隣のプレイヤーに変な目で見られたわ。
で、次に武器を選べばいいんだろ?
とは言っても正直何を持っていても意味無いんだよな。
だって敏捷以外の数値が10しかないんだもん。
つまり剣とか盾とか無意味、うん、無い方がいい。あると逆に邪魔。
という事で、結局借り物の布の服と布のズボンだけを装備し、更衣室を後にした。
先程の開催式を行った巨大な部屋へ戻ると、初期装備を着終えた数人のプレイヤーと、ステージには先程何処かへ行ったセクシーな女性NPCがいる。
あめと鉄さんはまだ来ていないっぽいな。
しょうがないから少しの間待っておくか。
そう考え、すでに待っていたプレイヤー達の近くに立ってあめ達が来るのを待つ。
数分後‥‥‥。
やっぱり平均すると女性陣が遅いな。
色々と時間が掛かるのだろう。
確か街中の屋台とかにメイク用品みたいなのが売ってたっぽいし、まさかわざわざそれを使って顔を整えているやつなんていないよな?
まあ何にせよ、どうせ布の服とかなんだからどんなにおしゃれをしても意味無いだろう。
あめとか鉄さんは今まで一度もメイク系の道具は買ってなかったし、あの二人はそのまま出て来ると思うけど、それにしては遅く無いか?
ただ単に俺が早いだけかね?
‥‥‥ちょっと想像してみるか。
まずあめの着替えシーン。
最初に靴辺りまで伸びている魔法ローブを脱いでいく。
するとどうでしょう。中は恐らく下着のみ。
全くと言って良いほど発達していない、サハラ砂をも思わせるサイズの胸部。
その砂漠にはピンク色のオアシスが二つあり、そのどちらの中心部分には、とても可愛くそびえ立つ桜桃色のさくらんぼがある。
そんな神秘的かつ綺麗な部分を隠すかの様に、白色のスポーツブラが装着されている事だろう。
その後、ロッカーに元々入っている布の服を着ていく。
いやー、可愛すぎる。
俺の脳内で雪奈雨が生きているぜ!
次に鉄さんの着替えシーン。
赤い鎧を脱いだ。
その後、布の服を着た。
おしまい。
「なんか楽しそうね。何を想像しているの?」
横から何やら声が聞こえて来た。
誰だろうと思いながら向いてみると、鉄さんとあめが立っている。
どちらも初期装備に着替え終わっていて、見た目に違和感しかない。
てかあめのこの姿をみるのは久しぶりだな。
小さいサーバー以来だわ。
「いや、特に何も。‥‥‥ただ少し考え事をしていただけだ」
とりあえずそう答えておいた。
二人の着替えシーンを想像していたなんて絶対に言えないだろ。
「‥‥‥若干にやけてたよ?」
「えっ、マジで?」
「‥‥‥まじ。‥‥‥まさか変な事考えてた?」
「ノー! それは無い。安心して下さい」
「‥‥‥そっか」
「別にどうでもいいけどさ、さっきの状況で言ったら五月雨くん、かなり変な人だったわよ?」
「俺ってそんなに表情に出てたか?」
全く気付かなかったんだが。
「ええ。頬を釣り上げて嬉しそうだったわ。それでいて何も考えて無かったんでしょ? 五月雨くんって障害者?」
「ひどい言い様だな、おい」
何も無い状態で笑っていただけで変人扱いをするとか、絶対に頭がおかしいだろ。
まあ同じ様な状況の人に出くわしたら、「あー、変な人がいるな~」とかって思ったりするけどさ。‥‥‥って今の俺がそれなのか。
『はい、それでは皆さんお揃いの様なので、今からルール説明をさせていただきます』
セクシーなNPCがステージの上から全体を一度眺めた後でそう言った。
もうプレイヤー全員が揃ったらしい。
「お、ルール説明だから黙ろうぜ?」
「‥‥‥あ、逃げた」
あめさんや、俺は逃げてなんかいないぞ?
ただ単に他のプレイヤーの邪魔になるだろうから静かにしておこうと言ったんだ。
勘違いしてもらっては困るぜ?
『まず最初に武闘大会の予選を行います。予選は45~55人を一グループとし、それぞれ一斉に戦ってもらいます』
平均すると約50人が同じ試合場で戦うと言う訳か。
なんか予想が当たってたわ。
「50人ってかなり多いじゃん」
近くにいるプレイヤーもかなり驚いている様子で、思わず声に出ている。
『一番最後に残っているプレイヤーのパーティーが予選突破となり、本戦に進む事が出来ます』
なるほどな。
つまり勝者20組のパーティーがその本戦とやらに参加出来るのか。
まあ俺達が進むのは確実だろうな。
なんてったって、天才五月雨様がいるからな。
『それでは今からパーティーリーダーの名前を点呼していきますので、呼ばれた順から向こうに見える大きめの扉をくぐって試合場へと向かってください。なお、一度しか呼びませんのでご注意を───』
セクシーNPCさんは大きめの声で次々と名前を呼んでいく。
やがて数人の名前を呼ぶと、セクシーNPCは約50名と共に大きな扉の奥へと進んで行った。
どうやら呼ばれなかった俺達はこの広い準備室で待つらしい。
しばらく待っていると、ここのステージ辺りに大きなスクリーンが上から降りて来た。
画面には試合場が綺麗に映っていて、先程呼ばれていたプレイヤー達が観客席に囲まれた砂のフィールド上へと入って行く。
「‥‥‥凄い大きい」
あめがその場に座りながら驚きの声を上げた。
俺も隣に腰掛けて呟く。
「めちゃくちゃ見やすいな」
画質が良すぎるわ。
その後、予選は順調に進んで行った。
人数が多いせいか、かなり早く終わっている。
やがて、およそ九割くらいが終わっただろうか。
この準備室には勝ち上がった18組のパーティーと、俺達を含めた予選待ちの100名程度が残っている。
どうやら負けたパーティーは帰るらしい。
「てか、中々呼ばれないな」
「うん。五月雨くんがいるせいだと思うわ」
鉄さんが首を縦に振って何かを言った。
「あーなるほどね」
「‥‥‥納得するんだ」
とそこで、予選の実況を完璧にこなしているセクシーなNPC女性が、試合場から戻って来た。
後ろには最後まで生き残っていたプレイヤーが歩いている。
そのプレイヤーを迎えに行く様に、同じパーティーであろう先に戻っていたメンバーが近づいて行く。
「お前、マジでよくやったなー。ありがとよ!」
「正直言って俺もどうして勝てたか分からねぇ」
八回ほど予選を見て来て気付いたけど、全員同じレベルの為か、明らかに強い人がいない。
一人くらいチート級のがいると思ったんだが、大体苦戦して終わっている。
『はい、それでは次の参加者を呼んで行きます。最初に、ひろってぃーさん』
セクシーNPCが効率よくステージのマイクを持ってくると、すぐに喋り始めた。
「あ、俺達だ」
いきなりだな。
「‥‥‥行こう?」
「そうね」
俺達は、次々と名前が呼ばれていく中、大きめの扉を開けて試合場へと歩いて行く。
「じゃあ、二人共頑張ろうぜ!」
「‥‥‥ん」
「五月雨くん‥‥‥張り切るのは良いけど、始まってすぐに死んだりしないでよ?」
「鉄さんや? 俺のHPの量を見て言っているのかね?」
俺が砂のフィールドへと繋がっている通路を進んで行きながら、頭上にはてなを浮かべて聞いてみると、鉄さんは呆れた表情をする。
「どうしてそのセリフが出て来るのかしら」
「ん? 俺の最大HPが何か?」
「いえ、何でも無いわ。‥‥‥10しかないのに自慢げでいられる人に言っても分からないだろうから」
あらら。
「冗談だって。ちょっとでも二人の緊張が解けるといいなと思って」
とか言ってる俺自身がかなり緊張しているんだよな。
心臓がバクバクしてるわ。
そんな会話をしていると、やがて試合場へと到着した。
うわ、凄ぇぇぇ。
めちゃくちゃ観客がいるじゃん。
こんな中で戦わないといけないのかよ。
この試合場は準備室のスクリーンで見た通り、屋外で、観客の部分まで少し高めの壁がそびえ立っている。
いやー、かなり広いな。
これだけあれば存分に暴れられそうだぜ。
「‥‥‥緊張する」
「ああ、俺も緊張のせいでおしっこが痛いわ」
「さだみれくん、それ文章になって無いわよ?」
「くろぎゃねさんも俺の名前を間違っているぞ?」
どうやらお互いやばいらしい。
口が思い通りに回っていない。
ふと振り向いてみると、後ろから続々とプレイヤー達が歩いてくる。
なんか全員が強そうに見えるんだけど。
あかん、手が震えて来た。
俺達三人は試合場の丁度ど真ん中にやって来ると立ち止まる。
「と、とりあえず他の参加者を待とう」
「‥‥‥だね」
緊張の中、しばらく他のプレイヤーが来るのを待った‥‥‥。
だんだんと俺達三人の近くに参加者が集まって来る。
『続いて第19回目、予選大会を行います! 今のところすぐに決着が着いていますが、今回はどうなるのでしょうか』
どうやらセクシーNPCさんが到着したらしい。
この人‥‥‥よく働くなぁ。
一人で全部こなしてるじゃん。
セクシーNPCは、壁の近くにある実況室みたいな所に入って行き、アナウンスを続ける。
『先程と同じ様に今から三十秒後、試合を開始致します。それまでにご自由な所へ移動ください』
スピーカーからそう聞こえたのと同時にほぼ全員が動き出す。
「お、俺達も行こうぜ」
「‥‥‥端っこにする?」
「おう」
一応準備室で決めていた通り、最初は壁に寄って様子を見る事にする。
と、行きたい所だったんだけど‥‥‥ほとんどのプレイヤーが端っこに寄ってるじゃん。
えー、まあいいか。
それなりに間隔が空いているし、これだけ距離があったら開始直後にやられる事は無いと思う。
てかさ、この中にステータスを極振りしているプレイヤーってどのくらいいるんだろうな。
今まで一度も出会った事は無いけど、恐らくここは強者ばかりの集まりだろうし、一人くらいはいてもいいだろう。
『残り十秒!』
「あめ、しばらくは魔法を撃たずに様子を見るんだぞ?」
「‥‥‥ん、分かってる」
俺があめに近づきながら確認すると、あめは頷いた。
うん、やばいわ。
物凄く周りが怖い。
だってあめと鉄さん以外、皆が敵だもん。
『残り五秒!』
「よし、そろそろ乗って?」
「‥‥‥ん」
俺はあめの正面に立ち、太ももを腕に絡ませおんぶした。
他のプレイヤーの顔を見てみると、大体の人が気にしていない様子。
皆自分の事で精一杯なのだろう。
『始め!』
NPCの大きい声と共にピストルの様な音が響いた。
それと同時に俺は、走り出すと見せかけてその場に立ったまま周りを見渡した。
他のプレイヤーは大体70パーセントくらいの割合で走り出し、近くのやつにめがけて武器を向けている。
だがやはり俺と同じで、立ち止まって様子を見ているプレイヤーもいる。
「‥‥‥動かないの?」
「ああ、下手に走ってやられるのは嫌だし。それに俺の敏捷で動いたら目立ちそうだろ?」
「‥‥‥それはそうだけど、魔法とか弓の遠距離攻撃をする人にとっては、いい的だと思う」
あ、確かに。
「それもそうだな。じゃあ警戒しながら三割くらいのスピードで動いておくか」
「‥‥‥ん」
どうやら俺の隣にいた相手プレイヤー達はそれぞれ別方向へ行っているらしい。
そして近くにいた鉄さんはと言うと、盾を持って俺達の近くにいた。
何をしているのだね?
まさか、怖いとか言わないよな?
俺が抑えめに走り出すと、鉄さんもついてくる。
とそこで、左側から剣を持った男性プレイヤーが突っ込んで来た。
こちら三人に対して一人で攻め込んでくるとは、勇気のあるやつだな。
「おんぶとか、お前あほだろぉぉ!」
と叫んで切りかかって来る。
俺は下半身に力を込めると、約七割ほどまでスピードを増やしそのまま反対方向へ走り去った。
「よっと!」
「は!?」
「鉄さん、後は任せたぜー?」
「ちょっと、何でよ!?」
うん、鉄さんなら何とかなるだろ。
あの人が負けるって想像がつかんわ。
常に暴力を振っているイメージしかない。
「‥‥‥後で殺されるよ?」
「言わないでくれ。今丁度そう思っていた所だ」
「‥‥‥あ、次は正面から二人来てる」
「お、おう!」
よく見てみると、まだ少し距離があるが盾を持った男子と杖を構えている女子の二人が来ている。
俺は同じく七割くらいのスピードで進路を変えると無視してあげた。
「は!?」
「えっ!?」
二人共、この速度を初めてみた様な顔をしているな。
まだあまり本気を出していないのだが。
空中移動すら使っていないぜ?
俺はなるべく中央に寄らない様に気を使いながら、攻撃を避けるのではなく、プレイヤー自体を避けて行った。
結果。
気付いたら、周りに人が少なくなっていた。
「あれ? こんなに少なかったっけ?」
「‥‥‥ひろとくんが逃げている間、他のプレイヤーはずっと攻撃し合っていたもん」
にしても減りすぎだろ。
見た感じ俺とあめ以外、残り二人しかいないし。
「おーーん? そういえば鉄さんってどこに行ったんだ?」
「‥‥‥少し前に一人の女性プレイヤーに負けて退場してたよ」
「へぇ、よく見てるな~」
「‥‥‥ん。他にする事が無いから」
そーいやー、あめってまだ魔法を一回も撃って無いな。
する必要性が無いと言うか、他の人達が勝手に殺し合っているんだもん。
だが、今は違うな。
何か残っている二人が話し合っているぞ?
「あめさんや、少し遠くにいる二人組は何をしていると思う?」
「‥‥‥あくまで予想だけど、別のパーティー同士の二人で協調しようとしているんだと思う」
「何でだ?」
「‥‥‥私達が何もしていなくてせこいから」
「あーなるほどね。じゃああめ、ここから魔法を撃ってみてくれる? あいつらそれぞれHPを消耗しているみたいだし」
「‥‥‥あ、うん。‥‥‥分かった」
そう会話をすると、少しゆっくり目にあの二人の元へ近づいていく。
見た感じどちらも、残りHPが半分くらいだしあめの魔法を数回当てれば勝てるだろう。
やがてあめの詠唱が終わった様で、俺の顔の横にある手から風の刃が複数飛んで行った。
それにいち早く気付いた一人のプレイヤーがサッ! と横にステップしギリギリで躱す。
だが、もう一人のプレイヤーは気付いたのが遅かった様で、刃の一つが腹に直撃し残りHPが約三割となった。
この風魔法はレベル20くらいで覚えられるものなので、かなりダメージを与えられる方のはずだ。
つまりあいつには、初期に覚える弱めの魔法はほとんど効かないと見た方がいい。
あいつの魔法防御がかなり高いか、あめの魔法攻撃が足りていないせいだろう。
でもあめは敏捷とかHPをほとんど上げていない分、魔法系に振っているからあめが弱い訳では無いと思う。
「チッ」
あら、何か舌打ちされたんだが。
「あめ、もう一発撃ってやれ」
俺は小さい声でそう言った。
「‥‥‥結構罪悪感を感じるんだけど‥‥‥勝つ為には仕方ないよね?」
「ああ、そうだな」
あめが詠唱を始めるのと同時に、あの二人組はそれぞれ散開してこちらに向かって来た。
「全く、どうしてあの二人はHPがマックスなんだよ!」
「大方ずっと逃げ回っていたんじゃねぇのか?」
痛い言葉が聞こえて来るわ。
おっしゃる通りです、ずっと逃げていました。
だが逃げてはいけないと言うルールは無い。つまり正攻法なのである。
とそこで、あめの魔法が飛んでいく。
今度は火属性のムチみたいな魔法だ。
これは横に広い範囲攻撃の為、素早い相手にダメージを与えやすい。
赤色のムチはHPが三割残っている方のプレイヤーへと向かって行く。
結果は見事に命中。
大体HPバーの一割ほどを減らす事が出来た。
だが、そのプレイヤーは攻撃を受けても止まらずに、こちらへ一直線に進んでくる。
そして俺の前に来て剣を振り降ろしてくる。
「おりゃっ!」
俺は剣が到達する前に横側へステップし避けた。
申し訳無いけど遅いわ。
正直当たる気がしない。
多分防御とかにステータスを振りすぎて、敏捷が足りていないんだと思う。
それとほぼ同じタイミングで、あめの比較的詠唱が少なくて威力も弱い魔法が発射され再び相手に当たった。
あめさん、めちゃくちゃ上手いやんけ。
とにかく最善の方法を取れているよな?
命中率も半端無いくらい高いし。
「くそっ! なんで人をおんぶしているのにそんな速いんだよ。おかしいだろ」
相手はかなり気が悪い様子。
自分が負けそうだからって人に当たるのはどうかと思うがな。
あー、因みにもう一人の奴が背後に回っているのも忘れていないからな?
見えてましたよ?
という事で俺は普通に前へ走り出し、後ろから迫って来ているであろうプレイヤーから距離を取った。
「は? 早すぎだろ」
あめの詠唱が終わりそうなタイミングで振り向き、命中させやすい様に立ち止まる。
そして先程の複数出て来る風魔法の刃がHPの少ない方のプレイヤーを襲う。
そいつは若干であるが油断していたらしく、まともに食らいHPバーがほとんど黒になった。
そのプレイヤーは青い光に包まれると、そのまま消えて行く。
「さてと、後は一人か」
「‥‥‥あ、あの人が何かしてる」
そう言われ、もう一人のHPが半分くらい残っている方をよく見てみると、何かを詠唱しているっぽい。
「あれは魔法か?」
「‥‥‥でも剣を持っているから、スキルじゃない?」
あー、確かに。
まあ集中しておこう。
「あめ、適当に魔法を頼む」
「‥‥‥了解」
そう会話をし詠唱を始めた瞬間、向こうの準備が整ったらしく、大きめの声と同時に剣を横に振った。
と思ったら、真空刃みたいな風がかなり速い勢いで飛んでくる。
あ、横にも後ろにも躱せないわ。
となると、上だな。
俺は刃が飛んできていると認識したのと同時に、上へジャンプした。
そして空中移動で更に上へと飛んだ。
うん、普通に飛び越えられました。
他の参加プレイヤーにステータスとかがバレそうだから、あまり空中移動は見せたくなかったんだけどささっきのはしょうがないよな?
「チッ、すばっしこいやつめ」
相手は悪態をつきながらも、こちらに向かって走り出す。
そこであめの氷魔法が綺麗に飛んでいく。
「──光盾!」
確実に当たると思い見物していると、相手の前に約三メートルくらいの黄色い壁が出て来て、あめの氷を食い止めた。
「‥‥‥あっ」
「あれは防御魔法だな」
上手い使い方をしてきやがる。
「‥‥‥あの人、防御魔法とか使ってくるんだ」
「じゃああれが出て来る前に魔法を当てるしかないな」
この【デスティア・オンライン】では、魔法攻撃力に応じて魔法の威力や使用MPの量が増えるのである。
つまり剣を使う様なプレイヤーにとって魔法はMPの無駄だろう。
今の所一番MPの使用効率が悪いのは回復系だとされている。
とにかく消費するMPが多いのだ。
だから、たぶんあのプレイヤーも回復魔法を持っているのだろうが、よっぽどの事が無いと使いはしないのだろう。
一方あめは特にMPに特化している為、バンバン使用しても残りMPの心配は無いのである。
「‥‥‥とりあえず、詠唱が少ない魔法を連続で撃つから、相手の攻撃は任せるよ?」
「おう、安心しろ。何が何でも躱してやるよ」
俺が自信満々に答えると、あめは早速詠唱が短くて威力も少ない魔法の連射を始めた。
大体が命中しているが、相手は当たるのを覚悟でこちらに向かって来ている。
近づいて剣を振り降ろしてくるのかと思いきや、相手は一番最初に覚える事の出来る火炎弾丸を放って来た。
遅いな。遠距離魔法を使うなら、魔法攻撃力をもっと上げた方がいいんじゃねぇのか?
剣を持って魔法も使う‥‥‥万能の魔法剣士を目指しているのかもしれんが、レベル20現在では中途半端でしかない。
俺は普通のステップで躱し、そのまま相手の背後に回り込んだ。
そしてあめの小さい魔法がいくつも相手の背中に直撃していく。
「ぐっ、くそー!」
相手はすぐに振り向きもう一度、光盾を出し時間を稼ぐ。
その間に剣の遠距離スキルを使おうとするが、MP切れが起こったらしく何も出て来ない。
俺達と戦う前にかなり消費していたみたいだったし、仕方ない事だろう。
「もう少しだ、最後に大きい魔法を行ってやれ!」
あめは俺の言葉に答えず、そのまま別の詠唱に取り掛かった。
「マジでお前ら、せこ過ぎだろ!」
どうやら自棄になっているらしく、マックススピードであろう速さでこちらに近づいてくる。
だが相手が俺達に届く事は無かった。
あめの火魔法が直撃したのだ。
『勝負ありぃー!! 勝者が決まりました! なんとひろってぃーパーティーのプレイヤーが二人残っています。今大会初めての事です。予選突破はひろってぃーパーティー!』
読んでくださりありがとうございます。




