第三十ニ話【プスウィッツ城下町】
船着き場。
ここは海辺の町から出発する船に乗って新大陸へと渡る時、最初に着く場所だ。
かなり狭くて、木の足場と椅子がいくつかあるだけである。
昨日俺達は長い間船に乗りこちら側の大陸に渡った後、この船着き場でログアウトしたのだ。
船が停まる木の足場から少し離れた場所にある海岸の倒れた木に座ってログアウトしていた為、目を開けると大きな海が目の前に広がっている。
そして数人のプレイヤーが船から続々と下りて来ている。
俺から見る船は全く動いていないので、そこからちょくちょくプレイヤーが出て来ているのは少し不気味だ。
まあ実際に乗ったら動き出すんだから、上手い事作られているのだろうな。
海辺の町で船に乗った時には、外にいた周りのプレイヤーが一人としていなくなったし。
とそこで、隣に誰かが現れた。
横を向いてみると、そこには金属の鎧を身に着けている鉄さんが座っている。
「おう、鉄さん!」
「あ、五月雨くんじゃない」
鉄さんは横に座っている俺に気付いた様で、こちらを見て来た。
「ほとんど同じタイミングだったな」
「そうなの?」
「ああ、俺もほんの数秒前に来た」
「そうなんだ。‥‥‥まあそれはさておき、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
いきなりどうしたんだろう。
まさか、あめのいない内に、俺の鉄さんに対する気持ちを聞かれたりするのか?
悪いけど、恋愛感情は抱けないぜ?
俺は人が好きとかどうのこうのって言う会話が苦手で、全然分からないからな。
正直どこからが好きで、どこまでが普通なのかが分からん。
だから、実際あめの事が好きなのかも把握できていない。
多分普通の友達だと思っているはずだけどさ。
「どうしたんだ?」
俺は色々と考えながらも首を傾げた。
「昼休みの時に、あの米田健二くんが言ってた事なんだけどさ、あれって本当?」
あー、あれか。
やっぱり気になるんだな。
まあ鉄さんがゲームをしている事がバレる確率もある訳だし、気にならないはずは無いだろうな。
「ああ、本当らしいよ? で、今現在海辺の町にいるみたい」
「へっ!?」
「マジであいつは化け物だろ。一日であそこまで行けるなんてさ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! じゃあ今あの船から出て来る可能性もある‥‥‥のよね?」
「ない事はないな。あいつの事だから、帰ってすぐに始めているだろうし」
なんか鉄さんの顔が青ざめて来ている様な気がする。
「よし、雪奈さんがログインしたらすぐにここを離れましょう」
「それは別に良いんだけどさ、まだこの辺の地形とかよく分からないし、慎重に行った方が利口だと思うぞ?」
「そんな事をしている暇は無いわ。私にとっては死活問題なのよ」
ならオンラインゲームをするなよって思うんだが。
それでもやりたいのかしら?
「‥‥‥あ、お待たせ。‥‥‥結構待った?」
俺達が健二について会話をしていると、あめの声が聞こえて来た。
「おー、あめ。俺達も来たばかりだから大丈夫だぜ?」
「‥‥‥そっか、なら良かった。で、なんの話をしていたの?」
俺と鉄さんは、同じクラスの健二がここに来る可能性がある事を話した。
「‥‥‥なるほど、確かに今日の昼休みに、もう海岸の町にいるって言ってたもんね」
「そうなのよ。だから見つからない為に早く次の場所へ向かおうという会話をしてたわ」
「‥‥‥うん、じゃあ早速先に進む?」
「そうだな。実際あめも見つかったら嫌だろ?」
「‥‥‥ん」
という事で、俺達三人は倒れた木から腰を上げると、海岸を出て魔物に気を付けながらも草原を歩いて行く。
かなり遠くなのだが、街を囲んでいる大きな壁っぽいのがが見えるので一旦あそこに行けばいいだろう。
とても賑やかそうで、たくさんのプレイヤー達が入って行っているのが分かる。
今歩いているこの草原の魔物は、やはり新しくて今まで見た事のないやつらだ。
どんな行動をしてくるか分からないので、油断は禁物である。
「‥‥‥ひろとくん。目の前に猫みたいなのがいるから気を付けてね?」
「ああ、任せろ」
所々に落ちている岩を踏みつけながら草原を歩いていると、俺におんぶされているあめがそう言ってくれたので、親指を立てて自慢げに答えるとそのまま魔物に近づいていく。
多少なら俺の敏捷で対応出来るだろう。
「ねぇ、五月雨くん。あれ倒す?」
「おうこの大陸に来て初めての魔物だし、行っとくか」
「了解」
「あめはとりあえず火属性の魔法を頼む」
「‥‥‥ん」
そう会話をすると、俺はあめをおんぶした状態で横に旋回し、鉄さんは剣と盾を構えて正面から向かって行く。
鉄さんが猫にたどり着く前に、まずあめの火魔法が発射された。
大きめの火の弾が猫に近づいていく。
とそこで、猫が前足を浮かせると、人間の様に立ち上がった。
そして近づいている火の弾の方を向くと、浮かせている前足を向け、氷を発射してきた。
あめの放った大きめの火の弾はその氷に相殺され、少し溶けて小さくなった氷がこちらに向かってくる。
「‥‥‥えっ」
「まじかよ!」
自慢の火弾が負けて驚いているあめをよそに、俺は反射で空中移動を使いとにかく上に飛ぶと、氷を飛び越えて躱した。
その隙に鉄さんが接近し、剣で斬り付ける。
攻撃力の関係であまりHPは減っていないが、数回当てれば倒せるだろう。
着地しながら猫の魔法を警戒していると、今度は何やら変な動きをし始める。
その場でグルグルと回っているのだ。
そんな訳の分からない行動に、鉄さんは斬り付けるのを止め、少し距離を取る。
とその時、回っている猫の体から風の刃みたいなのが出てきて、鉄さんに向かう。
突然の事で鉄さんは間に合わず直撃してしまった。
「きゃっ」
流石の防御力でHPはさほど減っていないが、俺とあめが食らったらまずいレベルだ。
「あめ、MPを惜しまずに今度は大きめの魔法を撃ってくれる」
これは節約とか言っている場合じゃないわ。
「‥‥‥ん。分かった」
俺は恐らく遠距離専門家であろう猫の攻撃に気を付けながらも、あめの詠唱が終わるのを待つ。
それを阻止する為なのか、猫野郎はお尻を地面につけている鉄さんを無視して、こちらを向いて来た。
そして今度は、両手を重ねて俺の方に集中している。
「おいおい、今度は何が来るんだ」
変なのが来たりしないよな?
猫は重ねた手を左右に広げると、頭上に火の魔法を生み出す。
と思った瞬間、勢いよくその火を放ってきた。
俺は火が動き出したのと同時に、本気で横にステップしておく。
久しぶりに敏捷を生かしたかもしれん。
とにかく、猫の火は俺達に当たる事は無かった。
その直後にあめの強めの魔法が発射され、火を放ったばかりで無防備だった猫に当たった。
猫野郎のHPは残り三分の一程度だ。
しつこいな。
「あめ、もう一発頼む」
「‥‥‥了解」
俺は走り出すと、容赦なく猫の周りをグルグルと回り始めた。
今持っているスピードは、ほぼ全開で使っている。
正直、これだけ飛ばしていたら、猫ちゃんの魔法は100パーセント当たらないと思う。
そう、俺のスピードはそれくらいに桁違いなのだ。
最近全然走って無かった様な気がするから、自分でもちょっと驚いている。
やがて詠唱が終わりそうだったので、かなりスピードを落とし、あめが狙いやすい様に調整した。
あめは手を魔物の方に向けて先程と同じ場所に打ち込んだ。
流石の命中率で、あめの魔法は物凄いスピードで猫の胸に直撃した。
そしてその猫はHPバーが真っ黒になった為、ガラスの様に散っていく。
「ふぅ、なんとかやったわね」
鉄さんが剣をしまってこちらに向かって来ながら呟いた。
「だな。てかここの敵って‥‥‥向こうの大陸に比べて強くなり過ぎじゃね?」
めちゃくちゃ強くなっているじゃん。
一匹に苦戦するなんて思わなかったわ。
しかもこんな小さめの猫に。
という事は、もっと大きいやつとは戦わない方が良いだろうな。
「‥‥‥一旦街に急ごう?」
「それが良さそうね。新しい装備とかが無いと対処できないかもしれないし」
そう会話をすると、俺達三人は不規則に生息している魔物を避けて遠くに見えている街へと向かって歩き出した。
プスウィッツ城下町。
安全第一で草原を進んで行き、無事に門をくぐり街へと入る事が出来た。
少し遠めに城が見える為、ここは城下町という訳だろう。
「凄い都会だな」
「‥‥‥ほんとにファンタジーの世界って感じ」
あめが言った通り、ここは今まで以上にゲームの中に存在している所って雰囲気なのだ。
俺は門をくぐってすぐあめを地面に降ろすと、左右に広がっている屋台の商品を見ながら歩いて行く。
「まず最初に装備を整えておかない?」
「‥‥‥私も賛成。別の事してたら忘れそうだし」
「おう、じゃあ探そっか」
「‥‥‥ん」
にしても色んな物が売ってあるな。
見た事も無いアクセサリーや雑貨。
片っ端から欲しい物に手を出して行くと、絶対にお金が無くなるわ。
てかさ、回復薬みたいなのを3000Gで売っている店とかあるんだけど‥‥‥ぼったくりかね?
金色の腕輪とか、ネックレスを6000Gで売っている店もあるんだが‥‥‥97パーセントの確率でぼったくりだろ。
やり方によって値引きが出来るとかなのかな?
まあ良いや、お金に余裕がある訳でも無いし、とりあえず武器、防具の店を探す事に集中だ。
そう考え、剣と盾の絵が表示されている場所を探して行く。
恐らく防具の場合は、一度鎧とかを脱がないと装備を変えられない為、建物で間違いないだろう。
野外だといくらでも覗かれそうだしな。
俺は別にそういうのでも良いけどさ、常識的に考えて駄目なのかね?
適当に会話しながら屋台の間を歩いて行くと、やがて横に盾の絵が描かれた建物があったので寄ってみる。
そしてそれぞれ防具を整えると建物の外に出た。
まず俺なんだけど、この店には布の服よりも性能の良い服があったんだよ。
しかし買わなかった。
何故かって?
うん、敏捷が-50されるらしいからな。
いい加減にしろよ。
何で敏捷を減らさないといけないのだね?
結局敏捷が1000上がる腕輪だけを購入した。
それで気付いた事があるんだけどさ‥‥‥俺の装備ってこのままずっと初期装備?
そしてずっと武器を持てないパターン?
次にあめ。
魔法系の服を一式揃え、MPが+1000される腕輪を購入した。
金がかかるのぉ。
可愛いから良いけどさ。
最後に鉄さん。
いつぞやの赤い閃光さんが装備していた赤色の装備一式と防御が+1000される腕輪を購入しやがった。
大金がかかるのぉ。
体で返さんかい。
そんな感じで再び大通りに戻る。
「さてと、無事に防具は揃える事が出来たんだけどさ、武器を買うお金はもう無いぜ?」
「‥‥‥じゃあ冒険者ギルドで稼ぐ?」
「それしか無さそうね」
とは言っても、これだけ広かったらどこに何があるか分からないんだよな。
冒険者ギルドは盾に剣を刺した絵が描かれているはずだけどさ、屋台とかが多すぎて見えんわ。
「とりあえずこの城下町を見て回るか」
「‥‥‥ん」
そう決めると、俺達三人は人混みをかき分けながらも街中を把握して行った。
地図とかがあったら楽なんだろうけど、生憎どこにも売っていない。
しばらくして。
「‥‥‥あ、あれじゃない?」
突然あめがとある方向を指さして呟いた。
見てみると、扉が開いていて例の絵が描かれている建物がある。
「間違いなさそうだな」
「行きましょ」
俺は他のプレイヤーが入っていく後ろについて、中へと進んでいく。
うわ、めっちゃ広いやん。
階段も設置されていて二階まである。
どうやらここにも飲食をする所があるらしく、数人のプレイヤーがお酒を持ってどこかの机に向かっている。
正面のカウンターには、優しそうなお姉さんのNPCがいて、あの人が受付らしい。
そのカウンターの横には掲示板が立てられているので、あそこから依頼を見つけてくればいいのだろう。
机の間を進んで行き、早速掲示板を確認してみる。
静かな村と同様、いくつかは英語で書かれているのもあるが、日本語のやつと描かれている絵が一緒なので同じクエストっぽい。
「なんか気になったのある?」
俺は顎に手を当てて、端っこから内容を確認していきながら二人にそう質問した。
「‥‥‥う~ん。これとかどう?」
あめが指さした先にあったのは、この城下町の外にいる二息歩行の槍を持った豚‥‥‥つまりオークを十匹倒すクエストだった。
確かにレベル上げがてらにいいかもしれん。けどさ、
「この外の魔物って大丈夫かな? あの猫ですらかなり強かったぜ?」
「一応やってみましょうよ? 私の鎧も新しくなったし盾役として役に立つと思うわ」
それもそうだな。
正直壁役としてはいらんが‥‥‥。
「‥‥‥じゃあ引き受ける?」
「ああ」
と言う事で、俺達三人はこのオークを倒すクエストの紙をカウンターの美人なお姉さんに持って行き、城下町の外に出た。
実は、冒険者ギルドから出る前、カウンターの美人さんにウインクをしてみたのだが、向こうは無表情‥‥‥。
おーーん。
まあ結果は分かっていたんだけどな。
でもさ、やっぱり反応して欲しいわ。
おい、このゲームの製作者さんや、そういうプログラムをちゃんと入れとけよ。
今度アップデートを求むわ。
美人の受付さんと仲良くなれるというのは男の夢だからな。
「よし、なるべくこの辺りから離れない様にしましょ」
「‥‥‥ん、じゃああそこに歩いているぶたさんを倒そっか」
門をくぐって外に出た後すぐ、鉄さんが腰に手を当てて呟いたので、俺の背中に乗りながらあめが答えた。
ぶたさんって‥‥‥言い方が可愛いのぉ。
俺はあめの太ももをローブの上から支えると、鉄さんのペースに合わせて歩き出した。
目指すは近くにいる二足歩行のぶたさんだ。
「あめ、とりあえず強力な魔法を頼む」
「‥‥‥ん」
あめは俺の背中で一度頷くと、詠唱に取り掛かった。
それに気付いた鉄さんは走り出し、豚野郎に近づいていく。そして目の前に立ちはだかると盾と剣を構えて、豚の攻撃を受け始めた。
流石新装備って感じで、見た所余裕そうだ。
俺は一瞬でスピードを上げると、鉄さんを攻撃しているぶたさんの背後に回り、それと同時にあめが魔法を放った。
地面から赤色の竜巻が巻き起こり、ぶたさんを切り刻む。
この魔法って‥‥‥あれ、確かいつぞやのスピード大会で見た事あるな。
赤い閃光のガリックさんが、大量のダンゴムシを倒す為にやっていた魔法だよな?
竜巻が収まった後、ぶたさんのHPバーは残り半分程度となっていた。
竜巻が収まった後、ぶたさんと同じ様に鉄さんも出て来た。
システム上HPは減らないが、ビックリしただろうな。
そこであめが、鉄さんを巻き込んだ事に気付いたらしく、焦った様に喋り始める。
「‥‥‥あ、鉄さんごめん。‥‥‥大丈夫!?」
それに対し鉄さんはと言うと‥‥‥。
ん? なんか嬉しそうにしているんだが。
「えぇ、大丈夫よ! それより、もう一度さっきのをやってくれる?」
「‥‥‥えっ、でもまた当たっちゃう」
「HPは減らないし良いわ。このままこのぶたさんを引き留めておくからお願い」
「‥‥‥う、うん。‥‥‥分かった」
若干嬉しそうな鉄さんを前に、あめは罪悪感のせいか申し訳なさそうに答えて頷きつつも、しぶしぶ詠唱を始める。
そして数秒後──。
先程と同じ赤い竜巻が地面から現れて、鉄さんとぶたさんを巻き込む。
やがて竜巻が収まると、HPが0になった豚さんはガラスの様に砕け散って消えて行った。
「おーい、鉄さん? 無事かー?」
俺はあめをおんぶしたまま、鉄さんの場所へ向かう。
「ちゃんと無事よ。システム上プレイヤー同士ではダメージを与えられないんだから」
「それはそうだけどさ、普通あんな中に入れられたら不快だろ」
「なんでもいいわ。早く次に行きましょ」
鉄さんは誤魔化す様にそう答えると、少し向こうに見えるぶたさんに向かって歩いて行く。
その時、俺は何となく気付いてしまった。
いや、気付くべき運命だったのかもしれん。
鉄さん‥‥‥何かに目覚めました?
この予感は当たって欲しくないな。
何か気持ち悪い。
「あめ、次行こう」
「‥‥‥ん」
俺が切り替える様にしてそう言うと、あめは何かを悟ったみたいに答えた。
そしてそのまま無言で鉄さんの後ろを走っていく。
その後俺達は順調にぶたさんを狩っていき、やがて無事に十匹を狩る事が出来たので、報告の為に城下町の冒険者ギルドへと戻って来た。
そして受付の美人お姉さんに報告をし、それなりの報酬を貰った。
「う~ん、この街の防具の値段からしてこれだけだと、武器屋に行ってもほとんど買えないよな?」
「それは分かるわ」
この街‥‥‥案外物価が高いんだよな。
今まで貯めて来たゴールドが全て防具に消えた事からして、武器もそれの半分くらいは必要だと考えられる。
という事でね、次のクエストへ行く事にしました。
しばらくして──。
どれくらいのクエストをクリアしただろうか。俺達の手元には防具を買い揃える前と同じレベルの金額が貯まった。
おそらく武器は、防具よりも安く済むと思うので足りるだろう。
俺は広い街中を歩いて行き、やがて剣の絵が描かれてる建物を見つけたので、早速入ってみる。
そしてそれぞれの最強装備を購入し、武器屋の外へ出た。
まずあめの買ったものなんだけど、先っぽに赤色の宝石が付いてある杖。
どうやら炎系の攻撃魔法の威力が10パーセント増加するらしい。
次に鉄さんは、強そうな剣を買っていた。
最後に俺だけどさ、聞いて驚くなよ?
驚くなよ?
何も買ってねぇわ!
だって敏捷が下がるんだもん。
元々攻撃力が10しか無いんだもん。
てかさ、なんかここに来てからずっと目立っている様な気がするんだが。
たくさんの視線を向けて来やがって‥‥‥俺のファッションセンスに文句でもあるのかね?
何の武器も持たずに、布の服と布の半ズボンですが、何か?
たしかにこの街で初期装備の人って他に全くいないけどさ、別に不思議な事じゃないだろ?
「さてと、次は何しようかな」
俺は武器屋の外に出て、大通りを歩きながらそう呟いた。
すると隣を歩いていたあめが答える。
「‥‥‥そういえば、ここって何かイベントとかしてないのかな?」
「あー、確かに。始まりの街みたいに、スピード大会とかありそうだな」
もしあるんだったら、どんなジャンルでも一位を取ってやるぜ?
「それだったら、門の近くに掲示板があったわね」
鉄さんが後ろからあめの隣に移動しながら、思い出した様に言った。
「じゃあ、門へとレッツゴー!」
という事で、俺達三人は入口の門周辺へと移動すると、早速掲示板に貼ってある紙を確認していく。
へぇ、色んなのがあるじゃん。
軽く始まりの街にあった量の数倍は貼られているぞ。
にしても色々と興味深いのがあるわ。
見た感じスピード大会はなさそうだけど、料理自慢大会とか、カラオケ大会とか。けっこう楽しそうだな。
中でも一番目を引かれるのは、この武闘大会ってやつ。
「‥‥‥ひろとくん。どれかやってみたいのある?」
あめが俺の顔を覗いてくる。
「まあ、この武闘大会かな」
他にも色んな種類があるけど、やっぱりこれが一番気になる。
「あら、気が合うじゃない。私もそれが気になってたのよ」
鉄さんも俺に続いてそう呟いた。やっぱり目に入るよな。だって掲示板の中心に、しかも一番大きい紙に書いてあるんだもん。
俺は紙の日本語部分を見ていく。
【腕自慢達よ、集え!】
武闘大会。
場所・コロシアムドーム。
開始時刻・19:00。
優勝・?。
準優勝・100000G・生の指輪。
詳細ルール。
パーティー人数制限‥‥‥1~4人。
仕様によりコロシアムドームの中はプレイヤー同士でもダメージを与えられる様になっているが、0になる事は無い。HPが1になった時点で戦闘不能扱い。
また全員のレベルを20に統一する為、それ以上のレベルのプレイヤーは、レベル20時点での自分のステータスに戻る。レベルが20以下の場合はそのレベルで戦わないといけなくなるので、かなり不利である。
一人での参加も可能だが、おすすめはしない。
この大会は現実世界の時間で、約一週間に一回行われている。
そして装備品は全員初期装備に着替えてもらう。
「ん? これってあと三時間後くらいに始まるよな?」
「‥‥‥そうみたいだね。でも詳細を見た感じレベル上げとかは必要なさそう」
まあ俺達は全員レベル20以上あるからな。
「となると、かなり時間があるわね」
うん、三時間って結構長いぞ?
「一度現実世界に戻るか? それともこの街で過ごす?」
俺は首を傾げて二人に尋ねた。
別にどっちでもいいから、あめ達のヤリたい様にしてくれ。
現実世界で一緒に寝てもいいし、こっちのホテルで休憩をするのもいい。
俺の質問に先に答えたのは鉄さんだった。
「私はこの街で過ごす方がいいと思うわ」
「ほう、どうしてかね?」
「だって四人まで参加出来るんだから、あと一人誰か手伝って貰える人を探した方が良くない?」
あー、なるほどね。でもさ‥‥‥普通に考えて見ず知らずの人と一緒に戦ってくれるプレイヤーなんているのかな?
必ず賞金が貰えるとも限らないのに、普通協力なんてしてくれるか?
不意に気になったので言ってみる。
「探すのはいいんだけどさ、一緒に戦ってくれる人なんているの?」
すると、二人も似た様な事に気づいたらしく、あっ! という表情をする。
「‥‥‥確かにいないかも」
さてどうしようか。
「とりあえず三人で出場してみるか?」
後ろのプレイヤーに掲示板が見やすい位置を譲りながらそう言うと、二人とも同じように後ろへ下がりながら答える。
「それがいいと思うわ」
「‥‥‥私もそれでいいよ?」
という事で、俺達は三人で出場してみる事にした。
自分の実力も把握しておきたかったし、丁度いい機会だ、思いっきり暴れてやろっと。
俺の実力があれば一撃で倒せるぜ。
「じゃあ一旦このコロシアムドームって所に行ってみようぜ? 参加できるのは先着千名みたいだし」
「おっけー」
そう会話をし、まだほとんど把握出来ていない街中をしばらく探索して行った。
読んでくださりありがとうございます。




