第三十一話【学校にて・参】
第四章の始まりです!
「やべー、遅刻するー」
そう言いながら学校の校門を通り、校内に入って行く十七歳青年がいた。
顔の表情からしてかなり眠たそうだ。
夜遅くまでゲームでもしていて、朝寝坊したのだろう。
良い感じに前髪が伸びているその青年は、12月なのにも関わらず汗をかいて下駄箱に入り、スニーカーを脱ぐのと同時にスリッパを履き、二階にある二年生教室へと向かう。
えっ、この青年が誰なのかって?
まあ、言わなくても分かるだろう。
自称結構イケメン。
そしてかなりのゲーム好き。
因みに友達と呼べる存在は二人しかいない模様。
一人は竹村太陽。
高身長で、この青年よりもイケメンだ。
もう一人は五月雨弘人。
この青年より少しだけ小さく、顔のスペックも同じくらい。
そうここまで言えば分かると思うが、この青年の名は米田健二。
そう、あの眼鏡を掛けて横髪をバリカンで剃っている健二である。苗字を出すのは初めてである。
ガラガラッ!
健二が勢いよくドアを開けると、教卓にはもうすでに一限目の授業担当の教師がいて、他のクラスメイトが起立をしていた。
どうやらギリギリで間に合ったらしい。
「おぉ、米田か。珍しくギリギリだな」
そんな先生の声が聞こえて来る。
「あはい、すいません。ちょっとゲームに夢中になってて」
健二は少し微笑みながらそう呟くと、机の横に鞄を置きみんなと同じ様に起立をする。
「ゲームも良いがたまには勉強も頑張れよ?」
「はい、分かりました!」
元気よくそう言っているが、顔の表情からしてそんな気は全く無いだろう。
「それでは授業を始めます。気を付け、礼」
「「「お願いします」」」
約半分ほどの生徒が「します」とだけ言って座ってやがる。
全く、面倒くさがり屋じゃのう。
将来就職とか進学の時に困るぞ?
まあ、俺もだけどさ。
あ、俺の名前は五月雨弘人です。
格好良くて、どこにも欠点の無いあの五月雨弘人です。
なんかさっき健二が遅刻寸前で来たけど、珍しいな。
いつもならどれだけゲームにハマっていても、学校には早くから来ていたのに。
まあ大方、時間が経つもの忘れるくらい面白いゲームにでも出会ったのだろう。
因みに俺は今日も時間に余裕を持って登校したぜ。
昨日はかなりの時間を【デスティア・オンライン】で過ごしたけど、ログアウトしてすぐに寝たからいつも通りって感じだ。
にしてもさ、昨日は疲れたぜ。
ゲームの世界では何度か宿屋に泊まり、数日を過ごして行ったが、やはり現実世界の時間だと大した事は無い。
まあ時間の進み具合が0.1倍となればそんなもんか。
とにかく、昨日は本当に色んな事があった。
まず一番大きいのは、新しい仲間が増えたという事だ。
そう、鉄雨花さん。
このクラスで一番の美少女と呼ばれていて、教室の一番前の列にいる高身長でスタイルの良い女子だ。
容姿端麗にも関わらず、スポーツ万能で他の女子ともよくカラオケに行ったりと、充実している生活を送っているらしい。
あれだけ万能なのだから、一つくらい裏があってもおかしくは無いと思うが‥‥‥まあ、昨日一緒に過ごした感じ無いだろう。
実はゲーム好き‥‥‥という事も無いだろう。
実は暴力野郎‥‥‥という事も無いだろう。
次にあれかな、船に乗って新しい大陸へと渡れた事かな。
海賊のNPCさんに到着したと言われ、降りてみるとそこは小さい港だった。
色々と探索していくのはまた明日にして、今日はログアウトしようと決め、それぞれ現実世界へと戻ったのである。
俺は暇潰しの為に考え事をしながらも、たまに前の方にいる鉄さんの様子を見たりして午前中を過ごしていった。
そして昼休み‥‥‥。
俺はチャイムが鳴り授業が終わると、みんなが動き出すのを見計らってあめの所に向かった。
「なあ、あめ? 今日はこの教室で食べない?」
もうクラスのみんなには、五月雨と雪奈さん付き合っている説が広まっていて、正直覆すのが面倒くさいレベル。
まあ裏を返せば、堂々とあめと一緒にお弁当が食べられるという事だ。
だから、今更教室で一緒に食事をしていても大丈夫だろう。
俺の言葉にあめは一瞬驚いた様な顔をするが、すぐに下を向いて呟く。
「‥‥‥えっ、うん、‥‥‥いいよ」
俺は小さい声で理由を追加しておく。
「鉄さんはいつもこの教室で食べているし、ちょっと気になるだろ?」
「‥‥‥たしかに‥‥‥でも、あの二人が購買から帰ってきたらどうする?」
あめは納得した様に頷きつつも、太陽と健二の二人が気になるらしい。
「あいつらはマジでうるさいからな‥‥‥でもそろそろ俺達の詮索に飽きているかもよ?」
「‥‥‥ん、確かに。‥‥‥それじゃあ食べよっか?」
あめはそう言って、鞄からお弁当箱を二つ取り出し、片方を俺の近くに寄せてくれた。
「いつもサンキュー。‥‥‥それではありがたく頂きます」
「‥‥‥どうぞ」
手を合わせて小さくお辞儀をすると、弁当箱の蓋を開けて食べ進めていく。
相変わらずの美味しさだ。
カップラーメンやカロリーメイトよりもおいしく感じるぜ。
「やっぱり美味しいわ」
「‥‥‥ありがとう」
「そういえば今気付いたけど、あめって学校でも結構話せる様になって来たよな?」
【デスティア・オンライン】の小さいサーバーで試練をクリアした次の日とは大違いだ。
あの時は言いたい事が言えていない感があったからな。
「‥‥‥でも、ひろとくんだけにだと思う」
「鉄さんとは話せそうか? あそこの女子グループでお弁当を黙々と食べているけど」
俺が小さく指を差しながらそう聞いてみると、あめは少し考える様にしながらも答える。
「‥‥‥う~ん。‥‥‥他の女子がいなくて二人きりとか、ひろとくんを入れて三人だったら行けそう」
「そっか」
「‥‥‥ん」
まあ一週間前よりかはスラスラと話せて来ているので、十分進歩している。
俺とあめは適当に会話をしながらも、お弁当を食べ進めていく。
なんか今思ったけど、あめが作るお弁当って毎日食べても飽きないな。
同じ献立が二日連続で続く事は無いし、かなり工夫してくれているんだろう。
特に今日のハンバーグは肉の中に微かな愛情を感じて、より味が引き立っている様に思える。
というのは置いといて、さっきから気になるわ。
うん、気になって仕方無いわ。
何故かって?
そう、鉄さんがちょくちょくこっちを見て来てやがるからだ。
何か用かね?
「なあ、あめ?」
俺は口に含んでいたハンバーグを飲み込むと、あめの方を向いた。
「‥‥‥どうしたの?」
「さっきから目線を感じない?」
「‥‥‥えっ、‥‥‥感じないけど」
「ちょっと向こうを見てごらん?」
俺はあめの顔を見たまま、数人の女子グループを指さす。
正確な人数は四人で、そのどれもがギャルっぽい。
鉄さんは一人黒髪で清楚だが、それを感じさせないほどのオーラがある。
あまり関わりたくない人達だな。
あめは俺の指さしている方向を一瞬だけ確認すると、納得した様に答える。
「‥‥‥鉄さん?」
「そう、たまにこっちを確認してきているんだよ」
そう言ってもう一度鉄さんの方を向いてみた。
すると目が合った。
‥‥‥。
俺はゆっくりと顔を回転させると、あめの方に視線を戻す。
「なんかさ鉄さんって、教室だと高嶺の花って感じがするな」
体が勝手に上の存在だと認めている。
昨日は同じ仲間って感じがしてたのに‥‥‥やっぱり違うのだろうか。
ゲームをしているなんてこれっぽちも分からないな。
「‥‥‥ん。分かる」
とそこで、教室のドアがガラガラ! と開いた。
誰かが戻って来たのだろう。
俺は誰だろうと思い見てみた。
正直、見る前から分かってけど、太陽と健二の二人だ。
二人は教室に入って来るなリ、俺とあめの存在に気付いたらしくあっ! という顔をする。
「おー、弘人! 教室にいるの久しぶりじゃん」
最初に太陽が笑いながら言った。
俺は箸を弁当箱の蓋の上に置き、太陽と健二の方を向いた。
「ああ、たまにはここもいいかなと思ってさ」
「へぇ、そうなんだ」
そう答えながらも二人はこちらに向かってくる。
ん? なんでこっちに来ているんだ?
おかしく無いか?
太陽はあめの隣の机に座ると、購買で買ったであろうパンを置く。
健二はその太陽が座った机の前に座り、こちらを見ながらパンの袋を開いていく。
おーい! なんで隣に座っているんだ?
しかもこれが普通だと言わんばかりの顔だな。
一切の遠慮が感じられない。
「あれ? 雪奈さん‥‥‥ヘアピンしてるじゃん」
パンをかじりながら太陽が驚いた顔をした。
それを聞いたあめは恥ずかしそうにしながらも、ヘアピンを手で触りながら答える。
「‥‥‥あ‥‥‥うん。そう、だよ」
やっぱり他の人とは話しづらいのだろう。
「結構に似合ってるね」
健二がにやけながら呟く。
おまえ、結構って‥‥‥どの立場から言っているんだね?
人の容姿をどうのこうの言う前に、その髪型を直さんかい。
「‥‥‥あり、がと」
あめは下を向いて、恥ずかしそうにしながらもそう答えた。
そして、気まずそうにお弁当を食べ進めていく。
ちょっと会話を変えてあげようかな。
そう思い俺は、健二の方を向いて話し掛ける。
「そういえばさ、健二って今日なんで遅れそうになってたんだ?」
それを聞いた健二は、よくぞ聞いてくれましたという様な表情をして喋り始めた。
「それなんだけどさ、聞いてくれよ!! テレビのプレゼント企画に応募してた商品が、昨日家に届いてたんだよ。‥‥‥マジで奇跡だろ!」
ほう、よく当たったな。
正直テレビのプレゼント企画って誰にも届けていないのかと思っていたが、ちゃんと当たる人もいるんだな。
疑っていて申し訳ありませんでした。
健二の言葉にまず太陽が質問する。
「何が届いたんだ?」
すると健二は椅子を後ろに引きずって、急に立ち上がった。
「なんと! あのフルダイブマシンと、かの有名な【デスティア・オンライン】!!」
「は!?」
「はっ!?」
「‥‥‥へっ?」
俺と太陽とあめは、全員口を開けて健二の方を向く。
「みんなどうした? で、昨日届いてずっとやっていたんだけどさ、小さいサーバーから大きいサーバーに行くのがかなり苦労したぜ? だって試練をクリアしないとダメとか言いやがってさ、頑張ったわ。それで今は、海辺の町って所の近くでレベル上げ中」
はい? こいつマジで何?
俺とあめは一瞬目を合わせる。
その表情からして、かなり驚いている様子だ。
てか、この眼鏡野郎‥‥‥やり込みすぎだろ。
なんでもうそんな場所まで行ってんだよ!?
俺達が一週間以上かけてやっと昨日攻略し終えた場所に、僅か一日でたどり着いてやがる。
絶対朝までログアウトして無かっただろ。
「マジかよ‥‥‥ずる過ぎ」
太陽が嫉妬の視線を向けている。
「ほんとに嬉しいわ! だって約60万円が無料で手に入ったんだもん」
こいつ、今無性に殺したいわ。
俺の一年間のバイト生活は何だったんだ?
「‥‥‥」
あめはまだ口を小さく開けて、唖然としている。
そこでふと鉄さんが視界に入って来た。
‥‥‥口を開けて唖然としている。
しかもこっちを見て来ている。
鉄さんは、箸で摘まんでいた卵焼きを弁当箱の中に落とした。
「ちょっと雨花~、どうしたの?」
名前が分からんけど、茶髪の女子が、そんな鉄さんの様子を見て笑いながら言った。
鉄さんはそれで現実に魂が戻って来たらしく、再び卵焼きを箸で摘まみ、笑って誤魔化す。
「ふふ、何でも無いわ。それよりさ、最近人気のペンちゃんって可愛いよね? あの女子中学生の読モ」
「あ~、それ超分かる! 年齢に似合わず服が良いセンスでさ、うちもあんな感じの服買おっかな~?」
おーおー、めちゃくちゃ馴染んでますね。
あれって本当に昨日の鉄さんか?
違うんじゃねぇのか?
そんな事はよそに、眼鏡野郎は俺の方をじっと見て来る。
「確か弘人はまだ買ってないんだったよな? まあ、のんびりとプレイしながら待っていてやるから、早く買って追いつけよ?」
あー、そういえば。‥‥‥貸してとか言われるのが面倒くさそうだから、買っていない事にしていたんだ。
「お、おう。待ってろよ?」
俺は若干動揺しながらも答えた。
太陽がそんな俺に続く。
「俺も絶対手に入れてやるぜ!」
いや、お前は無理だろうな。
働いていないからからお金も無いし、お小遣いも毎月1万円とかだろ?
その後、何事も無く学校が終わり放課後になった。
「よし、じゃあ僕は【デスティア・オンライン】をする為に早く帰ろうかな?」
帰りのHRが終わり、俺と太陽と健二の三人が廊下に集まった所で、健二が眼鏡を触りながら呟いた。
太陽はそんな健二を見てとても羨ましそうにしている。
「はぁー、いいなぁ~」
「じゃあな、健二!」
俺は別に羨ましいとか思っていないので、軽く手を振りそう言った。
「ああ、また明日な!」
健二はそう答えると背を向けて歩き出した。
生きがいを見つけたせいか、とても生き生きとしてやがる。
「じゃあ俺達も帰ろうぜ?」
太陽が鞄を肩に掛けながら俺の方を向いた。
「ああ、そうだな。‥‥‥あめ、またな!」
俺はまた後でLIMEをすると言う意味を込めて、近くに立っていたあめにそう言って太陽と一緒に歩き出した。
「‥‥‥あ、うん。じゃあね」
この反応からして、多分伝わっただろう。
正直途中まであめと一緒に帰りたいけど、太陽がいる傍では言いづらいし。
たまには太陽と帰るのも悪くは無いだろう。
俺と太陽は学校の校門を出ると、一緒の方向へ進んで行く。
因みに太陽の家は学校からかなり近い。
徒歩で約一、二分くらい。
普通にずるいと思うわ。
「いやー、マジで健二のやつ羨ましいわ」
太陽は冷たい手を温める様にポケットに手を突っ込んで言った。
「そうだな、無料で手に入るのはせこ過ぎ」
「俺も欲しいんだけどさ、なんかいい方法無いかな~」
「バイトすればよくね?」
「えぇ、それはだるい。‥‥‥だからさ、弘人が買ってくれよ? 去年バイトしてたろ?」
「いや、自分のものくらい自分で何とかしろよ」
流石に厚かましいわ。
機械とソフトで60万だぞ? おい。
「そう言わずにさ!」
「正直言って、お金全然ないから無理」
「えっ!? でもこの間までかなりあったろ?」
あー、こいつ俺が大金を持っていたの知っていたんだな。
「まあそれはそうだけどさ、最近ドカッと使ったんだよ」
「へぇ、何に?」
「簡単に言うとゲーム」
「なるほど‥‥‥ってそんなに使うか?」
「ああ、数十万は出て行った」
俺が真面目な顔をしてそう言うと、太陽は一瞬はっ!? みたいな表情をしたが、すぐに何かを察したらしい。
まあ太陽って何気に頭いいし、洞察力あるからな。
「なるほどね、大体分かったわ。‥‥‥ずばり弘人ってフルダイブのマシンを買ったんだろ?」
「まあそういう事」
「ま、マジかよ!? いつ?」
自分の推理が当たった事に驚いた様で、獲物を見つけたライオンみたいな顔をしてこちらを見て来る。
「約一週間前くらいかな」
「なんで隠してたんだよ!?」
それは違うな。
「いや、隠していた訳じゃ無いぞ? 言う機会が無かっただけだ」
「今日健二がプレゼント企画で当たったって言ってた時に、俺も持っているって言えただろ」
「あの時な、まあうん。‥‥‥健二、家に着いたみたいだな。じゃあまた明日な!」
俺は横にある健二の家を指さして言った。
決して誤魔化した訳じゃ無いからな?
「またな! っておい!! 何誤魔化してんだよ!」
「あー、空が青いし、明日も良い天気だろうな~!」
決して誤魔化している訳じゃ無いからな?
思った事をすぐ口に出してしまう性格なだけだ。
「まあ良いや。俺もどうにかして手に入れてやるから、待ってろよ?」
おぉ、珍しく爽やかじゃねぇか。
「おう、ずっと待っているぜ?」
俺は手を上げてそう答えると、再び歩き出す。
あー。にしてもさ、こうなったら太陽が可哀そうだよな?
とは言ってもどうしようも無いし。
貸したら俺が出来なくなるしな。
そんな事を考えながら、自分の家の方向に向かって足を進めていく。
やがて電化製品屋の目の前を通ると、誰かが店の中から出て来た。
高身長で、スタイルが良く、制服が良く似合っている女子だ。
あれは、‥‥‥鉄さん?
鉄さんってここら辺に住んでいないだろ。
ここって普通に駅とは反対方向じゃないか?
なんかビニール袋を手に持っているけど‥‥‥大方ゲームソフトでも買ったんだろう。
どうやら一人みたいだし、話しかけてみるか。
「おーい、鉄さん?」
俺が近づきながら名前を呼んでみると、鉄さんは声の主を探して周りを探していったが、すぐに俺の存在に気付いた様で、恥ずかしそうに後ろを向いた。
「ひ、人違いよ!」
「いや、絶対鉄さんだろ。‥‥‥ビニール袋を持っているけど、何を買ったんだ?」
俺の質問に鉄さんは反対側を向いたまま答える。
「こ、これは‥‥‥親に頼まれていた家電製品よ!」
ほう、そうなんだ。
「じゃあどんなのを買ったのか見せて貰ってもいい?」
その言葉と同時に鉄さんはこちらを向くと、手を後ろに回してビニール袋を隠した。
なんで隠すのだね?
「だ、駄目よ! うん、無理」
「ふーん、携帯型ゲーム機のソフトか」
顎に手を当ててそう言ってみると、鉄さんは飛び跳ねて分かりやすく驚く。
「な、な、何でそうなるの!?」
「だって、さっき袋の中身が透けて見えていたからさ」
「あ、あ」
何も言えないらしい。
「まあ、いいや。でさ学校では言いづらかったんだけど、LIMEの連絡先を教えてくれない?」
「はい? なんであなたと交換しないといけないの?」
「だって【デスティア・オンライン】を始める時間とかお互いに分からないだろ?」
「あー、確かにそうね」
「だろ、だから教えてよ」
「それは良いんだけどさ、一つだけお願いがあるわ」
「何?」
一日一回は必ず連絡を頂戴とか?
無視したらお・こ・る・ぞ? とか?
大方そんな感じだろう。
「絶対に私の投稿しているタイムライムに、スタンプを押したりメッセージを送ってきたりしないでくれる?」
「んん? タイムライムって何?」
なんか聞いた事はあるな。
「はっ!? 知らないの? えーっとね、タイムライムって言うのは、連絡先を登録している人なら全員が見られるものなの。ホームの画像を入れ替えたりしたら勝手に投稿されるんだけどさ、そこに高評価とか押して来たら、私のLIME友達に、私が五月雨くんと連絡先を交換している事がバレちゃうもん」
「あー、なるほどね。分かった。それは約束しよう」
詳しくはよく分からんが、とにかくタイムライムとやらに関わらなかったら良いんだろ?
なら大丈夫だ。
という事で俺と鉄さんは連絡先を交換し、それぞれの家へと向かった。
そして自室に戻ると椅子に座り、早速LIMEのアプリを開く。
えーっと、ちょっとタイムライムとやらを見てやろっと。
鉄さんの事が色々と分かるかもしれんしな。
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うか
京子とカラオケなう!
やっぱり京子めちゃくちゃ歌上手いよ~。
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京子 14分前
めっちゃ楽しかったね!
ゆうな 15分間
マジで? 私も行きたいな~
あず 18分前
こんどいこ?
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なるほどなるほど、こんな感じなんだ。
ちょっと面白いな。
てか、マジでちゃんと溶け込んでやがる。
まるで昨日ゲームをしていた鉄さんが偽物みたいだ。
まあ違う一面を見られるし、たまに覗いてやろっと。
「とこれは置いといて、あめと鉄さんと俺の三人でグループでも作っておくか」
一斉に連絡が取れたら便利だし、鉄さんとあめもまだ交換してないみたいだから、このグループを通じてお互いに渡しあったらいいだろうし。
そう考え、俺はグループを作ってみた。
早速メッセージを送ってみる。
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【デスティア・オンライン】
あめが参加しました。
うかが参加しました。
弘人「便利そうだからグループを作ってみたなう! やっぱり俺って天才だよ~」
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ちょっと鉄さんのタイムライムを真似してみた。
まあ、バレないだろう。
少しして。
漫画を読んでいると、スマホがガリガリ! と鳴った。
おっ、どっちからだろう。
俺は早速スマホを持って確認してみる。
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うか「殺すわよ?」
弘人「えっ、なんでだよ!?」
うか「あんた絶対私のタイムライムを見たでしょ?」
弘人「知らないぞ? 俺は何も見ていないからな?」
うか「嘘をつきなさい」
あめ「あの、通知がたくさん来てて気付いたけどグループ作ったんだね。よろしくお願いします」
弘人「おう、よろしくな! これでいつでもみんなで連絡が取れるだろ?」
うか「今度私の真似をしたら殴るからね?」
弘人「因みに、俺はいつでも始められるから、家に着いて一段落したら連絡して」
あめ「うん」
うか「‥‥‥五月雨くん? 絶対私の事無視しているわよね?」
弘人「いや、ちゃんと気にかけているぞ?」
うか「ふーん」
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まさかバレるとはな。
てか、鉄さんやっぱり暴力的だわ。
あのタイムライムのノリはどこへ行ったのやら。
その後俺は携帯型ゲーム機を手に取ると、オフラインのゲームをして時間を潰していった。
しばらくして。
ガリガリッ。
おっ、来たな。
俺は何のゲームかは言わないが、セーブをする為に近くの教会に向かいながら、もう片方の手でスマホを見る。
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うか「私はもう行けるわよ?」
弘人「俺はいつでも大丈夫だぜ?」
あめ「今家に着いて水分補給をしていたところだから、大丈夫だよ?」
弘人「そっか、じゃあ始めようぜ?」
あめ「うん」
うか「了解」
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俺はスマホを充電器に差し込むと、いつも通りドアや窓の鍵をチェックしてベッドに寝転がった。
そして頭にマシンを装着すると、【デスティア・オンライン】の世界に飛び立って行く。
読んでくださりありがとうございます。




