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第二十九話【海周辺の洞窟・弐】

 で、今現在。


 一つ下の階層に落ちたんだけど、‥‥‥ここが普通じゃない。


 今立っている足元は普通のアスファルトなのだが、目の前に毒沼が3メートルくらい広がっていて、その毒沼を抜けた先には複数の魔物が見える。


 動いている骸骨とか。

 動きそうなガーゴイルの様な石像とか。

 床を這っている死にかけっぽいゾンビとか。


「まあ、何にせよ。この地獄をどうにかして抜け出さないとな」

「‥‥‥怖い」

「わ、私はゾンビとかそう言うの、全くこ、こ、怖くないからね?」


 あめの言葉に続いて、鉄さんがかなり震えながら呟いた。

 それ、絶対怖いやつが言うセリフだろ。

 お決まり過ぎて分かるわ。


 まあ、一応試してやるか。


「うわっ、後ろにゾンビが!!」

「きゃああああ!!」


 俺が冗談でそう言ってみると、鉄さんは大声を出して俺とあめに飛びついて来た。


 危ない、押すなって。

 毒沼に落ちるって。


「冗談だぞ?」

「‥‥‥ひろとくん。‥‥‥性格悪い」


 無表情で種明かしをしてみると、鉄さんが涙目を細くして睨んで来る。


「五月雨くん? 毒沼へレッツゴー‥‥‥」

「俺に死ねと?」

「それ以外に何があるの?」


 はぁ〜、仕方無いな〜。


「分かりました。行ってきます」


 そう言い残しなるべく助走をつけると、その勢いにのって飛んだ。


 ダッッッ!!


「‥‥‥あ、落ちる」

「訳が無い」


 あめの言葉を遮る様にして、俺は空中ジャンプを使用し、更に上へ飛んだ。


 今現在の俺は、空中移動(Ⅲ)を持っている為、後二回空中で飛べる。

 ふっ、余裕すぎるぜ。


 結局俺は、三回中の二回を使って毒沼を飛び越えた。


 ふっ、俺に毒沼なんてものが通用すると思ったら大間違いだぜ。


 若干バランスを崩しながらも着地を決めると、周りに魔物がいない事を確認したのち、後ろを振り向く。


「無事に超えられたけど、次は鉄さんの番だぜ?」

「なんで無事に飛び越えてんのよ!? 落ちなさいよ?」

「落ちなさいよ‥‥‥ってひどいな、おい」

「当然よ。だって私の苦手なゾンビがいるとか言って来たんだもの」


 ゾンビが嫌いなのを認めおった。

 まあ、敢えて口には出さないけどな。

 俺は、抹茶の代わりに山葵を用意しておくレベルで優しい男だからな。


「それについては悪かったけどさ、早くこっちに渡って来なよ?」

「はいはい。‥‥‥ってここ歩いたら毒によるダメージを受けてしまうわよね?」


 ほう、よく知っているじゃないか。

 まるで、別のゲームで同じ様な状況を経験した事のあるみたいな言い分じゃないか。


「まあ、鉄さんのHPなら大丈夫だろ」


 毒のダメージは二つに分かれる。


 一つ目は、固定ダメージ。

 一定距離を歩く事によって、どのプレイヤーも同じダメージを受けるパターン。


 二つ目は、最大HPによって変わって来るダメージ。

 一定距離を歩く事によって、そのプレイヤーの最大HPの数パーセントを削って来やがるパターン。


 今の俺にとって嫌なのは固定ダメージだが、生憎飛び越えられる手段を持っていたのでな。

 もしそれが無かったら、鉄さんにおんぶして貰って渡るしかなかったぜ。


 俺の言葉に鉄さんは頷きながら、ゆっくりと毒沼に足を踏み入れた。

 そして「うわ~、気持ちが悪い」と顔をしかめて、黙々と歩いている。

 この毒沼は案外浅いらしく、靴が丁度入りきるくらいだ。

 見た感じ浸水しているので、かなり中身が気持ち悪いだろう。


 やがて渡り終え、アスファルトの床に上がると、鉄さんは眉間にしわを寄せ、かなり不愉快そうな表情をしている。

 どうやらHPはあまり減っていないようだが、靴に毒が入ったのが嫌だったみたいだ。


「‥‥‥鉄さん、大丈夫?」


 俺におんぶされているあめがそう聞いた。


「いえ、あまり大丈夫じゃない‥‥‥靴の中がぐちょぐちょで、気持ち悪いわ」

「しばらく脱いでおいた方が良いんじゃないか?」


 俺のナイスな提案に、「ええ、そうね」と言って下を向くと靴を外し、ポーション等が入っている袋の中に入れようとしている。


 おいおい!


「ちょい待ち! なんでそこに入れようとしてんの!?」

「えっ、駄目なの?」


 なに平然と疑問を浮かべているんだよ。


「駄目だろ。袋に毒が染み込みそうだし‥‥‥それにポーションとか雑貨に付着するだろ?」

「じゃあ他にどうしろと言うのよ?」


 鉄さんは首を傾げて聞いてくる。


「手に持って歩くのは?」

「盾と剣を持って戦う事が出来なくなるわ」

「そうだな‥‥‥捨てれば良いんじゃないか?」

「勿体無いでしょ!?」

「いや、よく考えてみろよ。そんな毒の付いた靴を持って行ってどうなるんだ? 海辺の町では売れないし、装備も出来ないだろ?」

「あー、そう言われたら確かに、‥‥‥普通に新しいのを買った方が楽ね」


 分かってくれた様で何よりだぜ。


「だろ?」

「あ、でも。私‥‥‥裸足でここを攻略して行くの?」

「‥‥‥あの」


 俺と鉄さんが会話をしていると、あめが入って来た。

 鉄さんは疑問そうな顔をして反応する。


「どうしたの?」

「‥‥‥私の靴‥‥‥使っても良いよ?」


 あ、なるほど。


「それは良い考えね。でも私が使っても良いの?」

「‥‥‥ん。お役に立てるなら」


 ちょっと俺も入ってみよっと。


「鉄さん、俺の靴も使うかね?」

「臭そうだから遠慮しておくわ!」


 おい! なんだよその反応。

 おかしいだろ!

 てか、臭くねぇよ!?

 まぁ、一応和やかにいこう。

 俺は可愛い子と美人には優しい男だからな。


「遠慮しないでも良いぞ? 俺があめの靴を代わりに履くから」

「‥‥‥意味が無いと思う」

「そうか? 全員の足の匂いを共有する事が出来るから、良いと思うんだが?」

「‥‥‥発想が汚い」

「発想が汚いわ」


 そんな事ないだろ?

 お互いの匂いを共有したくなるのって普通だろ?

 なあ、そうだろ?


 ‥‥‥冷静になって考えてみたら、俺も嫌だわ。

 いや、あめの靴なら良いかもしれん。

 友達としてそう言った事は出来るぜ?

 必要とあらば、舐めて差しあげるぜ?


 あ、冗談です。

 本心が漏れたりしていないので、気にしないでね?


 結局、鉄さんはあめの靴を履いて先に進む事になった。


 どうしても俺の靴が嫌らしいからな。

 因みに鉄さんが履いていた毒まみれの靴は、毒沼に放り投げておいたぜ。

 これで一見落着。


「よし、すぐ向こうには魔物がいるから、一旦、ある程度倒しておくか?」

「ええ、でも戦い方はどうするの?」

「それについて何だが、良い考えがある──」


 俺はさっき思い付いたこの地形ならではの戦い方を話していった。


 どうやらここに落ちて来るプレイヤーは、かなり少なく滅多に来ないっぽいので、そこまで邪魔になる事は無いだろう。


「─なるほどね。で、私は毒沼すれすれの所で魔物を引き寄せておけば良いのね?」

「そういう事、じゃあ任せたぞ?」


 俺は、もう一度毒沼を飛び越えて戻った場所でそう答えた。


 やり方としては、今存在している魔物達を向こう岸で壁役の鉄さんが引き寄せておき、その間にあめが魔法で倒す。

 上の階から落とされたこの場所は、毒沼の向こうに渡るまでは魔物と接触しなくても良いので、安全地帯から存分に狙う事が出来るのである。

 そして大体を倒し終えたら、次の魔物達が出現するまでにこの道を抜けていくと言う訳だ。

 全部を無視していくよりもレベル上げになるし、安全面でも良いだろう。


 という事で、鉄さんは少し向こうにいる魔物をおびき寄せ、毒沼周辺の所で盾を構えて敵の攻撃を受けていく。

 流石の防御力で、ほとんどHPが減っていない。


 あめは鉄さんの近くにいる魔物に向かって、容赦無い強めの魔法を当てていく。

 流石いつも俺におんぶされている状況で魔物を狙っているせいか、とにかく命中率が凄い。

 普段あのスピードの中魔物に命中させている為、立ち止まって敵を狙うと言う行為は、流れない流しそうめんを箸で掴むレベルで簡単なのだろう。


 因みに俺は何をしているのかって?

 言わなくても分かると思うが、一応言っておこう。


 うん、見学。


 適当に座ってその様子を見ています。

 だって何もする事が無いんだもん。

 仕方ないだろ。


 しばらくして、大体の敵がいなくなったので新しい魔物が出て来る前に、あめをおんぶして鉄さんのいる向こう岸に渡ると、三人で通路を歩いていく。


「ねぇ。さっき五月雨くんが何もしていない様に見えたんだけど、気のせいかしら?」


 早歩きで広めの通路を移動しながら、隣にいる鉄さんが呟いた。


「気のせいじゃないか?」

「そっか。じゃあ何してた?」


 おーーん。


「えーっとだな。俺は二人の戦闘をプライオリティしていただけであって、何もしていなかった訳ではない」


 俺が言葉を絞り出す様にしてそう言うと、鉄さんが難しそうな顔をする。


「意味の分からない言葉を使わないでくれるかしら?」

「‥‥‥私もよく分からないから、簡単に言って?」

「つまり、二人の戦いたいという意思を優先していただけだ」

「私、戦いたいなんて思っていないんだけど」

「‥‥‥私も」

「そうか、なら言ってくれれば良かったのに」


 鉄さんとあめの冷たい目線が飛んでくる。

 あめはおんぶしている為分からんが。


「言ってどうにかなってたの? 五月雨くんに戦えるとは思わないのだけれど」

「あ、あそこに何か見えるぞ? ツボか?」

「話を逸らしやがったわね」

「‥‥‥逸らしたね」

「ちょっと見てみてよ。上につながっている階段とツボが一つある」


 少し向こうには、上へとのぼっている階段とその横に灰色のツボが立っていて、とても中身が気になるぜ。


「確かにあるわね。なんか誤魔化された感が半端じゃないけど、追及するのが面倒くさそうだから見に行きましょ」

「‥‥‥ん」


 という事で、俺達はツボの目の前に行くと、誰が割るかという会話に移る。


「鉄さんが割りたいなら、別に良いぜ?」

「なんでかしら?」

「そういうイメージがあるから」


 俺が正直にそう言うと、鉄さんに睨まれた。

 どうしてそんなに怖い顔をしているのだね?


「参考までに聞いておくわ。どういうイメージなの?」

「一言で表現すると、「暴力」かな」

「そう、じゃあ今度叩きのめしてやるわ。覚悟しときなさい」


 あまりの威圧感に、俺は頭を下げて謝る。


「大変失礼致しました!! 俺が割るんで許してください」

「いえ、私が割るわ。だってストレス発散になりそうだもの」


 結局お前が割るんかい!

 なら最初からそう言えよ。


「そうか、なら俺は周りを気にしておこう」


 俺はそう言って、索敵スキルを使用し周りに注意しながらも鉄さんの様子を見ていく。


 おっと、鉄さんがツボに手を掛けた。


 鉄さんは両手でツボを持ち上げているぞー。


 はたして、ぼうりょくろがねさんはどの様にして割るのか。


 床にぶつける?


 階段に向かって放り投げる?


 壁にぶち当てる?


 頭で頭突きをして破壊する?


 さて、見所ですねぇ。


 あぁっと、頭の上まで持ち上げた。


 これは床に突き落とすつもりの様だ。


 さぁスローインをしているぞ。


 と、ここでこちらを振り向いた。


 何をしているのだろうか。


 おっと、鉄さんが投げたー!


 鉄さんが投げたー!


 鉄さんが投げたー!


 ってちょっと待てよ!?


 なんで俺に向かって投げて来てんだよ!?


 まずい!!


 そう思った俺は急いで横にステップし、飛んで来るツボを躱した。


 ガシャァァン!!


 ツボはアスファルトの床に落ちると、大きめの音を立てて割れる。

 すると、割れた部分のツボはどこかに消え、その代わりに青色の回復薬が現れた。

 見た感じMPを回復させるアイテムだろう。

 って、それより。


「おい、あぶねぇだろ!?」


 もう少しで当たっとったわ。

 暴力女の方を見てみると、嬉しそうに微笑んでいる。


「あら、ごめんなさい。ついうっかり手が滑ってしまったわ」

「絶対うっかりじゃねぇだろ。明らかにこっちを振り向いていただろ」

「気のせいよ」

「そんな事はないじゃろ」

「気のせいよ」

「そんな事はないじゃろ」

「気のせいよ」

「そんな‥‥‥あー、そう言われたら確かにそうかもしれん」

「でしょー?」

「うん。疑ってすまん」


 多分俺がおかしいのだろう。

 そう、俺が鉄さんに投げられたと思い込んでいるせいだ。

 あれは間違えて振り向いてしまったという不良の事故だ。

 そうに違いない。


 鉄さんは満足そうに頷いている。


「それでは行きましょう?」

「って、おい! やっぱりおかしいだろ!?」


 もう少しで惑わされていたわ。

 鉄さんの良い様にされてたわ。


「何がよ?」

「うん、わざとだろ?」

「ばれたら仕方無いわね、わざとよ? でも理由があるもの」


 理由?

 リーズン?


「ほう、では言ってみなさい」

「あんたが心の中で、私の事をぼうりょくろがねとか思ったからよ」


 ‥‥‥。

 おーーん?


「えっ、聞こえてたの?」


 いや、でもそれは無いだろ。

 超能力者じゃあるまいし。


「聞こえて無いわよ? でも今の反応から見て図星だったみたいね」


 くそ、図られたか。

 もう無理だと思ったので、俺は素直に謝る。


「はい、余が悪ぅ御座いました! 許しておくんなし?」

「プフッ。何よそれ。‥‥‥でも良いわ。私はインド洋並みに心が広いから」


 普通そこは太平洋だろ。

 まあなんでも良いけどさ。

 ちょっと乗ってやるか。


「ありがとよ! じゃあ俺も立ち直るぜ? 俺は大根並みに図太いからな」


 そう言って周りを警戒しながらも、あめをおんぶしたまま階段を上って行く。


「例えが全然ピンとこないわ」


 後ろからなんか聞こえて来るが、まあ気にしなくても良いだろう。


 という事で、俺達は階段を踏みしめて行った。


 やがて上り終えると、そこは‥‥‥知らない所だな。


「俺、てっきり最初の辺りにつながっていると思ってたんだけど‥‥‥どこだ?」

「それ、私も思ってたわ」

「‥‥‥新しい所っぽいね」


 目の前には先程の通路とは打って変わって、狭くて四角い部屋に出た。

 丁度正面に向こうへと続く道があるのだが、石像によって塞がれている。

 因みに魔物はいない様なので、一旦あめを降ろす。


 てか、俺達以外に全くプレイヤーがいないという事は、この部屋もパーティーによってA、B、Cと分けられているみたいだな。


「とりあえず、道を塞いでいる石像の所に行ってみるか」

「‥‥‥ん。何か手掛かりがあるかもしれないし」


 そう会話をすると、剣を上に掲げている石像に向かって歩き出した。


「あ、真ん中のプレートに何か書いてあるわね」


 鉄さんがふとそう呟いた。

 言われてみると確かにあるな。


 他の国の人にも分かる様になのか、数字だけが彫られている。


「えーっと、何々──」


──────


A+B=7


A=√9


B=□



□=?



1‥‥‥4


2‥‥‥2


3‥‥‥1


──────


 いや、余裕すぎるだろ。


「二人とも、これ‥‥‥俺が答えても良い?」

「‥‥‥良いけど、一応答えを言ってみて?」


 あめが俺を疑う様にして聞いてきた。


「三番だろ?」


 他になにがあるんだ?


 俺の答えを聞いた鉄さんは呆れた表情をしてこちらを見て来る。


「五月雨くん、馬鹿でしょ? どうやったらその回答に辿りつくのよ?」

「じゃあ聞くが、正解はどれなんだ?」

「一番よ」


 ほぉう。


「因みにあめは?」

「‥‥‥一番」


 二人ともかよ!


「ふーん。じゃあ信じても良いんだな?」


 どうなっても俺は知らんぞ?


「良いわよ」

「‥‥‥良いよ」

「そこまで言うなら仕方ないな。俺の回答はあくまで三番だからな? どうなっても知らんぞ?」


 鉄さんとあめは俺の言葉に反応せず、一歩前に出る。

 そして鉄さんが、一のスイッチを押した。


 ピンポーン!!


 なんか正解っぽい音が響いて来た。


「プフッ、誰よ、三番とか言ってたのは」

「‥‥‥流石にこれを間違えたらやばいと思う」

「だよね? 雪奈さんも言うじゃない」

「‥‥‥ん。これってただ単に、√の中身を整数に直すだけだから、誰でも出来る」

「雪奈さん? その発言ははまずいと思うわ。だって現に一人出来ていないのがいるんだもの」

「‥‥‥あ、そっか」


 なんかひどく無いか?

 気のせいかな?


 先程の回答が正解した事によって、石像が横にずれ、先に進める様になった。

 俺は二人の会話を後ろで、無言で、細い目で、心の中でツッコミを入れながらついて行く。


 しばらく細い通路を歩いていくと、更に狭い部屋へと出た。


 どうやらさっきとパターンが同じらしく、今度は道の前に盾を構えている石像が立っている。

 俺達三人は、早速中心にあるプレートを確認する。


──────


A=9


B=6


A=B+C


C=□



□=?



1‥‥‥2


2‥‥‥3


3‥‥‥10


──────


 いやいや、馬鹿にしすぎだろ。

 こんなの小学生でも分かるわ。


「なあ、ちょっとさっきのリベンジをさせてくれ」


 俺は二人の背中を見ながらそう呟いた。

 さっきはちょっと調子が悪かっただけなんだ。

 だから安心しろ。


 俺の言葉にあめが振り向くと、信頼の無さそうな顔をしながらも口を開く。


「‥‥‥正解は何番?」

「三番!!」


 俺がそう答えると、鉄さんがこちらを向かずにプレートを見ながら頭を抑えた。

 どうしたのかね?

 頭痛がするのかね?

 偏頭痛かね?

 もしそうなら、マグネシウムを良く取った方が良いぞ?


 鉄さんは何の反応も見せないまま、二番をポチッと押した。


「あ、おい。それ──」


 ピンポーン!!


 俺の言葉を遮る様にして、正解の音が鳴り響いた。

 石像がゴゴゴッっと動き、道を譲ってくれる。


「さてと、次に行きましょう」


 鉄さんは一人で歩いていく。


 と、そこであめがこちらを振り返って、話しかけて来る。


「‥‥‥ひろとくん。‥‥‥また今度お勉強教えてあげるね?」

「いや、勘弁してくれ」


 多分死んでしまうわ。

 という事で、俺達は更に狭くなった通路を進んで行く。


 そして、更に更に狭くなった部屋に出た。


 幅に余裕がなくなって来たな。

 因みに今度は、翼の生えた天使の様な石像が道を塞いでやがる。


「よし、気を取り直して、今度は正解するぞー!」

「五月雨くん安心して? 私達が解いてあげるから」

「‥‥‥ひろとくん。誰にでも得意、不得意はある。‥‥‥だから、頑張らなくても良いよ?」


 マジでひどくない?

 だんだんと俺の扱いが貧相になって来ているよな?

 うん、それは確実だわ。


 色々と考え事をしながらも、俺は二人が問題を解くのを待つ。

 正直、中学生レベルの数学は無理です。

 それは自覚しています。

 だが、馬鹿ではないぞ?


「‥‥‥鉄さんごめん。私分からない」


 ふとそんな声が聞こえて来た。


「雪奈さん‥‥‥私も何を書いているのかさっぱりだわ」


 ふとそんな声が聞こえて来た。


「‥‥‥ひろとくんに頼んでみる?」


 ふとそんな声が聞こえて来た。


「意味無いでしょうけど、何もしないよりはましかもね」


 ふとそんな声が聞こえて来た。


 ふっ、やっと俺の時代が来たな。


「そんなに難しいのか?」

「‥‥‥ん、こんなの見た事無い」


 あめの返答を聞きながらも少し前に行くと、プレートを見てみる。


──────


1~10


An=2(n-1)+2



1‥‥‥20


2‥‥‥50


3‥‥‥100


──────


 おーーん?

 いや、簡単じゃね?


「えっ、さっきのが解けていたのに、これは分からないのか?」

「分かる訳ないでしょ!?」

「‥‥‥こんな数学やった事ないもん」


 いやいや、普通さっきの二問の方が難しいだろ。


「それって本当に言っているのか?」


 俺は眉間にしわを寄せ聞いてみた。

 すると鉄さんも同じ様に、眉間にしわを寄せて答える。


「逆に五月雨くんは分かっているの?」

「ああ、余裕だろ」

「答えを言ってみて」

「良いぞ、これは三番の100だ」


 さっき頭の中で計算していたからな。

 答えが丁度100になったので、特に凡ミスもしていないと思う。


「‥‥‥因みにどうやったの?」


 あめが不思議そうに聞いて来た。


「えーっとだな。これって見た感じ、変数が1~10までの和をシグマで出す問題だと思う。だから色々と計算して行ったら、答えが100になった」


 女性陣二人組は唖然とした表情でこちらを見て来ている。


「‥‥‥なんでさっきの二問が出来ないのにこれは出来るのよ!?」

「いや、逆に俺からしたら、どうしてさっきの二問が解けたのかが不思議だわ」


 あめと鉄さんは俺よりも頭が良いと思ってたんだが、この程度の問題が解けない所を見ると違うのか?


「絶対五月雨くんの方がおかしいと思うわ。普通反対よ!」

「そうか? あんな高度な数学よりもシグマの方が楽だろ」


 そこで鉄さんが何かを悟ったように頷く。


「雪奈さん、やっぱり五月雨くんは普通じゃ無いわ。深く考えるのは止めときましょう」

「‥‥‥ん、そうだね。‥‥‥で、ひろとくん、三番を選んでみるけど、合ってるんだよね?」

「ああ、ほぼ間違いなく合っていると思うぞ」


 俺が腰に手を当てそう言うと、あめはプレートを触り三番を選択した。


 ピンポーン!!


 正解の音が鳴り響いた。

 ふっ、やはり正解だったぜ。

 まあ、小学生レベルの問題を解いただけだがな。


「本当に合っているわ。‥‥‥もう何も言えないわよ」

「‥‥‥うん」


 二人はそう呟いて立ち止まっている。


「よし、先に進もう」

「そうね」

「‥‥‥そうだね」


 ‥‥‥。

 俺達は、更に狭くなっている道を進んで行く。


 すると、どこかの通路に出た。

 俺達三人が狭い通路から、広い通路に出たタイミングで、さっき通っていた狭い通路が壁に埋もれてしまった。

 どうやら片側通行なのだろう。


「なんかここ見覚えあるぞ?」

「‥‥‥どこだっけ?」


 あめがそう聞いてくる。

 えーっと、どこだったかな。

 なんか見た事がある様な気がする。


「あー、ここってさっきの落ちる前の所だわ」


 鉄さんはそう呟いて、左側を指さした。

 見てみると、奥にツボが置いてある。

読んでくださりありがとうございます。

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