第二十七話【洞窟を目指して】
俺達は船乗りのNPCから話を聞き、船着き場から離れると、海岸を出て町中へと戻った。
どうやら船に乗って新しい大陸へと渡るには、この辺りのどこかにある洞窟に行き、その奥底にある神水の真珠というものを台座に戻さないといけないらしい。
という訳で一度この町に泊まり、明日そこを目指して探検していくつもりだ。
俺達三人は町中に入り黒色のステーキ屋さんみたいなお店で食事を楽しんだ後、適当に雑貨等を見ていき、やがて少し暗くなって来たので宿屋の部屋へと帰った。
色々と観光したお陰で大体この町の仕組みも分かって来たわ。
正直、一つ前の静かな村よりも色んな所を見ていると思う。
よく考えたら、あの村はほとんど何もしていない。
冒険者ギルドで幾つかのクエストをこなして、宿屋で一夜を明かして、鉄さんを仲間に入れてこの海辺の町に来たって感じだからな。
まあ始まりの街が長居をしすぎてたのかな?
多分この海辺の町も、洞窟に行って船が乗れる様になったら用無しになりそうだしな。
「でさ、五月雨くんは結局雪奈さんのベッドで寝るの?」
宿屋の部屋に入り、端っこ辺りにあるタンスに所持品をしまいながら鉄さんが呟いた。
それに対し俺はタンスの横にある木製の机に、さっき買って来た全員分のアクセサリーを綺麗に置いていきつつ答える。
「ああ、そのつもりだが。‥‥‥まさか一緒に寝て欲しいのか?」
もしそうなら、俺は三人で同じベッドに寝ても良いぜ?
寧ろ大歓迎だ。
「は!? 何でそうなるのよ!? おかしいでしょ」
あら、違うみたいだわ。
てっきりそう言う事なのかと思ったのに。
「だってわざわざ聞いてくるって事は、鉄さんも俺達に交じって一緒に寝たいのかなと思って」
俺が疑問そうに喋っていくと、鉄さんはタンスの扉を閉めながら眉間にしわを寄せ、睨んでくる。
「馬鹿じゃないの!? 絶対嫌よ」
「なんでだ?」
「逆にどうしてその発想が出て来るのかが不思議だわ」
「まあ、寂しくなったらいつでも入ってくれば良いからな?」
イヤリングやネックレス等のアクセサリーを並べ終わり、近くにあった木の椅子に腰掛けてそう呟いてみた。
「五月雨くんがいる限りは、まずありえないけど、気持ちだけはありがたく受け取っておくわ」
「ほぉう、気持ちだけじゃなくて、この体も受け取ってくれて良いんだぞ?」
「気持ち悪いから、剣の刃で薙ぎ払っても良い?」
そう言って、タンスの横の床に置いていた鉄の剣を手に持つと、こちらに向かってくる。
かなりの威圧感だ。
滅茶苦茶怖いです。
「ご、ごめんって! 冗談だから」
「別に痛みは無いんだし、ちょっとくらい良いじゃない」
「おい! 俺をストレス発散に使おうとしていないか?」
絶対、思い切り剣をぶち当てたいだけだろ。
顔が若干にやけてやがるし。
「そんな事ないわよ。ただ普段の怒りをあなたにぶつけようとしているだけだから」
「同じじゃねぇか。絶対にさせんぞ! あれってまぁまぁ心臓に悪いんだからな」
静かな村で、ぶっ飛ばされた時は、ダメージが無いと分かってても死を覚悟したからな。
「そう、じゃあまた今度にさせて貰うわね」
「ああ、‥‥‥っておい、やめろ。俺が対人恐怖症になったらどうするんだよ?」
そこでベッドにちょこんと座っているあめが、会話に入って来る。
「‥‥‥ひろとくんが対人恐怖症になるのって‥‥‥想像がつかない」
「言えてる。幾ら殴ったりしても、すぐに立ち直って、ボケをかまして来そうだわ」
「二人共、ちょっとひどくない?」
「そうかしら」
「‥‥‥そう?」
二人はどちらも首を傾げて見て来る。
「そうだよ!! まぁあめはまだ良いけど、ぼうりょくろがねさんは静かにしておきなさい」
「なんで雪奈さんだけ良いのよ」
「だって可愛いからな」
俺が何の躊躇いも見せず、気持ちを言葉に表すと、あめは「‥‥‥ふぇぇ」と言って下を向いてしまう。
いつも言っている様な気がするんだけど。
まだ慣れないのかな?
「あんた、よく普通の事みたいにそんなのを口に出来るわね」
「言いたい事を言うって普通じゃ無いか?」
「普通じゃ無いわよ!? 今のご時世、自分の気持ちを伝えられない人ばかりなんだから! ‥‥‥恋愛シミュレーションゲームとかした事ないの?」
「無い。‥‥‥すまん。同じゲーム好きとして申し訳ない」
「べ、別に良いけどさ。‥‥‥って良く無いわよ!? ちゃっかりゲーム好きにしようとしないで貰えるかしら?」
あ、バレた。
てかそんな恋愛ゲームがどうのこうのって言う会話を持ってくる時点で、ゲームをたくさんしているんだなって、誰でも気付くと思うんだが。
「それなんだけどさ、やっぱりゲーム好きって認めた方が楽じゃないか? あー、少なくとも、俺は素直な子が好きだぜ?」
「そ、そう? じゃあ‥‥‥って、よく考えたら、何で五月雨くんに好かれないといけないのよ!?」
「それってさ、無意識に少しだけ俺に好意を寄せてくれてるんじゃないか? 最初に素直な気持ちが出て来そうなのを、無理矢理遮っているみたいだしな」
「そんな訳ないでしょ!? いい加減な事言わないでよ」
「いい加減って言うか、素直な気持ちがそうなんだとしたら、それは自分自身では分からないだろ。ただ、本能的に自分と合う人に引かれているって言うのは人間の心理からして当然の事だからな。学校で話の合う奴がいない状態で俺に出会ったんだから、その可能性はほんの少しだけどあると思う」
俺が思考をそのまま口に出して伝えていると、鉄さんはあめの隣のベッドに腰掛け、呆れた様な表情で見て来る。
「たまにそう言う正論っぽい事を言うの止めてくれる?」
「正論って言うか、これが人間だからな。結局は自分に嘘がつけない様になっているんだよ」
「五月雨くんと話してたら疲れるから、もう寝るわ。おやすみなさい」
鉄さんは疲れ切った様な顔をして、着ていた金属系の装備を外すと、中に着ていた布の服だけの姿になって、ベッドへと入って行った。
「確かに俺も色々と疲れたな。あめ、もう寝るか?」
「‥‥‥あ、うん」
俺はベッドとベッドの間にある照明を消して、布の服のまま掛け布団の中へ入る。
あめも同時に入って来た。
まだ暗闇に目が慣れていないので、周りの様子が分からない。
俺はとりあえず真上を向いて寝ようと努力してみる。
だが、全く眠気が無い。
正直、最近よく寝ているからな。
しばらくして。
あまりにも眠たく無いので、俺は暇つぶしにあめの方を向いてみた。
するとあめは反対側を向いて寝ている。
窓から入ってきている月明りのお陰である程度は周りが見える。
てっきり前のお泊り会みたいにこちらを見ているのかと思ったが、予想が外れたな。
俺は何となくゴロゴロと転がって、あめの背中へと近づいていく。
そして少しの躊躇いも無く、夕方あめにされた様にあめの体に腕を回し、抱きしめる様に覆ってみた。
するとあめは一瞬体をビクンッ! と動かしたがすぐに静かになり、両手で俺の手を握って来た。
この反応から見て、ビックリしたみたいだけど、嫌では無い様だ。
俺はかなり小さい声で話し掛けてみる。
「あめ、起きてる?」
しばらくの沈黙が流れた後、あめは聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームで「‥‥‥ん。お、起きてるよ」と返してくれた。
「そっか」
「‥‥‥ひろとくん?」
「どうした?」
「‥‥‥恥ずかしいから‥‥‥それ、やめて?」
「じゃあなんで手を握って来ているんだ」
俺がそう言うと、あめは「‥‥‥えっ、いや違うの!」と答えて、手を離した。
「別に握っててくれても良いぞ?」
「‥‥‥やだ」
「そうか」
いやー、にしてもこれって落ち着くなぁ。
暖かい体温も感じられるし、なんか良い。
ずっとこのままでいたくなる。
なんか友達って感じがするわ。
「‥‥‥ねぇ?」
「ん?」
「‥‥‥なんで抱きしめて来ているの?」
「さあ、自分でもよく分からない。‥‥‥でも、したいからかな?」
「‥‥‥したいから?」
「ああ、多分体がこうやりたがっているんだと思う」
「‥‥‥そ、そうなんだ」
「あめも夕方やって来てたから、そんな感じだったんだろ?」
「‥‥‥えっ? ‥‥‥いや、あれは違う‥‥‥布団が欲しかっただけ」
なんか嘘っぽいけど、まあ信じてあげようか。
俺は何事も疑わない、綺麗な心の持ち主だからな。
「なるほど。じゃあ俺は温もりが欲しいだけ」
「‥‥‥う、うん」
俺はそう呟くと、更に抱きしめている腕に力を込めた。
特に下心は無い、したいからだ。
「‥‥‥でも、やっぱりやめない? 隣に鉄さんがいるし」
「あ、そういえば。‥‥‥でもまあ、寝ているから大丈夫だろ」
「‥‥‥ん」
あー、これなら寝れそうだわ。
心地良い暖かさだしな。
その後俺はいつの間にか眠りについていた。
次の日‥‥‥。
「‥‥‥て」
どこからか声が聞こえて来る。
「‥‥‥きて」
この声は鉄さんか?
俺は目を開けてみた。
すると、目の前にはあめの髪がある。
腕はあめの体に巻き付いていて、どうやら抱き着いたまま寝ていたらしい。
目の前にいるあめは動いていないので、まだ寝ているのだろう。
「二人共起きて!」
今度ははっきりと聞こえて来た。
俺はあめから離れると、体を起こしてベッドの横に立っていた鉄さんの方を見て話し掛ける。
「おう、鉄さんおはよう! で、何かあったのか?」
見た感じかなりビックリしている様だけど、泥棒でも入ったのかな。
「何かあったのか? じゃないでしょ。なんで抱き着いて寝てたのよ!?」
そんな事かい。
「朝から騒がしいやつだな。驚く事でも無いだろ」
「驚くわよ。朝目が覚めたら、隣のベッドで密着して抱き着いている男女がいたんだもん」
「‥‥‥ん? どうしたの?」
そんな俺達の会話にあめが反応した。
目が覚めたらしい。
「あめ、おはよう」
俺は隣にいるあめに話し掛けた。
「‥‥‥おはよう。‥‥‥で、何かあったの?」
よく状況が分かっていないらしい。
そんなあめに対し、先に口を開いたのは鉄さんだった。
「雪奈さんおはよう。‥‥‥別に事件があったって訳じゃ無いんだけど、五月雨くんと雪奈さんが抱き合っていたからビックリしちゃっただけ」
そんな鉄さんの言葉に、あめは顔をダリヤの花みたいに赤くした。
「‥‥‥あ、えっ!? ‥‥‥ひろとくん、ずっとくっ付いてたの?」
「そうみたいだな。寝ている間に自然と離れるかと思ってたんだけど、どうやらずっと抱きしめていたみたい」
「‥‥‥は、恥ずかしい」
「そんなの今更だろ。あめも昨日俺の手を握って来ていたし」
「‥‥‥そ、それは言わないでよ」
俺達の会話に鉄さんは唖然としている。
「もう、何も言えないわね」
「どうしてだ?」
「それで付き合ってないって言い張るんでしょ? 普通じゃ無いわよ」
またその話題かよ。
「確かに付き合ってないけどさ、こういうのって友達っぽいだろ?」
「うん、それで良いわ。多分私がおかしいんだと思う」
鉄さんは何かを納得した様に頷くと、タンスに歩いていき、鎧を装備し始めた。
「あめ、俺達も準備しようか」
「‥‥‥う、うん」
あめは動揺しながらもそう返事をし、ベッドから降りて用意を始める。
さてと俺も準備するか。
その後俺達は宿屋を後にし、アイテム等を準備すると、心を引き締めて海辺の町周辺の砂浜へと出て行った。
目的は勿論、レベルを上げながらも、神水の真珠があるという洞窟を探す為だ。
「‥‥‥で、どの方向から探してみる?」
俺の背中にいるあめがそう呟いた。
先に答えたのは隣に立っている鉄さんだ。
「そうね~、まずはあっちから行ってみない?」
そう言って指を差している先には、岩場がある。
「確かにあそこなら洞窟があってもおかしく無いな」
反対側の草原を探索していくよりも、ゴツゴツの岩がたくさんある岩場を探していく方が確率がありそうだ。
という事で俺達は海沿いの砂浜を歩いていく。
「‥‥‥鉄さん、横から蟹が来てる」
海水に当たるか当たらないかくらいの場所をしばらく移動していると、突然あめがそう言った。
一応横を確認してみると、鉄さんの近くに、人間の腰くらいの高さがある蟹が迫っていた。
しまった、索敵のスキルを使うのを忘れていたわ。
鉄さんは余裕そうに「了解」と答えると、盾を構え、蟹の突進をまともに食らう。
ダンッッッ!!
「なあ、もう少し避ける努力をしないか?」
俺は索敵のスキルを使用しながらも、蟹から距離を取り、盾を使って蟹と対立している鉄さんに話し掛けた。
流石に攻撃を食らうのが早すぎだろ。
まだ海辺の町を出て数分しか経っていないぞ。
そんなんで持つのか?
「避けれる訳ないでしょ!? 敏捷が1しか無いんだから」
「まあ、それはそうだけどさ」
「‥‥‥ずっと思ってたんだけど、私達のパーティーって結構バランス悪いよね?」
あめが落ち着いた声で冷静にそう呟いた。
「確かに。‥‥‥魔法が万能のあめと、スピードが速すぎて一切の敵を寄せ付けないイケメンでハンサムで皆のあこがれである俺と、タンクの三人だからな」
「ちょっと!! 私だけ三文字でまとめるの、やめて貰って良いかしら? あと、自分をそうやって大袈裟に言うの、やめた方が良いわよ? 端から見ていてかなり気持ち悪いから」
「ひどいな、おい」
「こっちのセリフよ! タンクだけじゃなくて、私にもなんか付けなさいよ!?」
「つけて欲しいのか? じゃあ、暴走タンクで良いか?」
鉄さんって暴力的で、廃墟の中を戦車で暴走しているイメージがある。
「ふむふむ、中々良いわね」
鉄さんは顎に手を当て納得した様に頷く。
「良いのかよ」
「‥‥‥良いんだ」
俺達は少し離れた所で、小さく言い合った。
「て、五月雨くん達も手伝ってよ。私一人じゃこいつのHPを削れないわ」
「あ、了解。‥‥‥あめ、適当に攻撃魔法を頼む」
「‥‥‥ん」
俺とあめはいつも通り、魔物が追いつけないくらいのスピードで走り回り、攻撃魔法が発射するタイミングでスピードを落とす、という戦法で、蟹のHPを削っていき、無事に倒す事が出来た。
この辺の魔物とは初めて戦ったけど、大した事ないな。
別に最大のスピードを出さなくても、余裕で躱せるし。
どこかに俺の敏捷が生かせる魔物がいないかな~。
「よし、先に進もう」
「‥‥‥うん」
俺は再び海水の近くを歩いていく。
「ねぇ、このパーティーって致命的なほど連携が取れていないわよね?」
右手に持っていた鉄の剣を腰に戻し、急ぎ足で俺の横に来ると、そう言った。
「ああ、特に攻撃の手段が少なすぎる。鉄さんの物理攻撃はお世辞にも強いとは言えないし。俺はそもそも与えられない。そう、つまりあめの攻撃魔法しか無いんだよな」
「そうね。しかも私の存在意味が無いし。だって‥‥‥明らかに壁役が必要無いわよね?」
「‥‥‥確かにそうだね。ひろとくんの敏捷が早すぎてそもそも攻撃が当たらない」
「なんかいい方法無いか?」
俺は索敵スキルで背後を警戒しながらも、二人に尋ねてみた。
色々と考えてみたのだが、俺には無理だ。
全く浮かばない。
「‥‥‥う~ん。‥‥‥敏捷が1の人間が二人いる時点で、どんな戦法でも厳しいよね?」
早速正論を言いやがった。
流石あめだな。
「ねぇ、五月雨くんって、二人おんぶ出来ないの?」
ふと鉄さんがそう呟いた。
「いや、無理だ」
「即答!?」
「ああ、体重の関係で無理」
「それってどういう事かしら?」
めちゃくちゃ威圧して来てやがる。
怖いから止めておくれ。
「一応聞くけどさ、鉄さんって最初のキャラを作る時に体重何キロって答えた?」
「えっ? 嘘をついたらデータが消されるって言われたから、正直に52キロって答えたわ」
俺より2キロ重たいんだな。
なんか殺されそうだから、口には出さないが。
「そうなんだ。で、あめなんだけど、どのくらいだと思う?」
「それはまあ、40キロとかじゃないの?」
「‥‥‥違う。23キロって答えた」
「はい? 雪奈さん? それって本気で言ってるの?」
あめの言葉に鉄さんは信じられないと言った様な表情を浮かべる。
「‥‥‥うん、本気。‥‥‥間違えて小学生の頃の体重を答えちゃったの」
「末恐ろしいわね」
「それだけじゃないぞ? あめは小さいサーバーで軽の指輪を貰っているから、総重量は3キロなんだよ」
鉄さんは口を開けて、「何も言えねぇ」みたいな顔をしている。
「もう人間の体重じゃないわ」
「‥‥‥ん」
「まあ、そういう訳だから、多分普通のプレイヤーだったら、おんぶするのが精一杯で、速く走れないと思う」
「なるほどね~、じゃあおんぶ戦法はあなた達しか出来ないわね」
分かってくれて何よりだ。
結局俺達は海岸を歩きながら、色々と作戦を考えて行ったのだが、あまり良いのは浮かばなかった。
例えば、鉄さん囮戦法。
その名の通り、鉄さんが防御系のスキルと、盾を駆使して一か所に留まり、魔物の攻撃を受け続ける。そして鉄さんの所に集まっている魔物を、あめが魔法で叩く。
うん、俺の出番が無い。
という事で却下。
次に、鉄さん仁王立ち作戦。
これは、鉄さんが仁王立ちという、自分のサイズを三倍にするスキルを使い、魔物の攻撃を受けて行く間に、あめが魔法で叩く。
うん、俺の出番が無い。
という事で却下。
次に、五月雨弘人囮作戦。
その名の通り、俺が盾を持って魔物の攻撃を受けている間に、鉄さんが近距離で攻撃していき、更にあめが遠距離で魔法を使って行く。
おい、誰が提案した?
ええ加減にせぇ。
なんでHPが10しかない俺が壁役をしなくちゃいけないんだよ。
却下だ、馬鹿野郎!
とまあこんな感じで、良い作戦が浮かばないまま、俺達は岩場へと足を踏み入れた。
結局戦闘は後から考える事にした。
そう、三人で力を合わせるとすべて効率が悪くなってしまうので、今すぐには結論が出せないだろうからな。
「ふぅ、足場が悪くて歩きづらいわね」
岩場に差し掛かってすぐ、鉄さんが弱音を吐きだした。
気持ちは分からんでもない。
普通に足場が悪すぎる。
岩と岩の間に落ちたら、そのまま海に落ちてしまいそうな場所もある。
恐らく幅からして、落ちない様にはなっているのだろうが、怖いわ。
てか、見た感じずっと上っていやがる。
まるで登山だな。
いや、登山よりハードだわ。
だって少しでも海側に行ったら、落ちるもん。
反対側は崖があり、安全なのだが、もう片方はそのまま海だ。
絶対飛び込む馬鹿がいるだろうな。
「ほんとに歩きづらいな」
「‥‥‥私は楽に感じるけど?」
俺達二人が弱音を吐いている中、あめが余裕そうに呟いた。
「いや、当たり前だろ! 俺におんぶされているんだから」
「‥‥‥ふふ」
珍しく、ボケをかまして来やがったな。
よし、ここは勢いに乗ってやるか。
「突然なんだけどさ、俺って何座だと思う?」
「‥‥‥天秤座?」
なんで知っているんだよ。
正解だよ!!
「否、不正解だ」
「‥‥‥正解は?」
「ゴッドファーザー!」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
あれ、無言?
「五月雨くん? 今の‥‥‥かなり面白く無いわよ?」
隣を慎重に歩いている鉄さんが目を細くして言った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥ひろとくん。‥‥‥しょうもない」
俺におんぶされているあめが冷静に言った。
「五月雨くん? 悪い事は言わないから、海に飛び込んだ方が良いわよ?」
岩と岩の間を跨ぎながら、鉄さんが言った。
「‥‥‥ひろとくん。もう少し考えてから言った方が良い」
俺におんぶされているあめが言った。
「五月雨くん? 素直に餃子って言っておけば良かったのに、さっきのだとウケを狙っているのが丸分かりで、逆にしらけるわ」
鉄さんが言った。
「‥‥‥正直言って‥‥‥面白く無かった」
あめが言った。
「普段のやたら回る口はどこに行ったの?」
「‥‥‥いつもはもう少し面白いのに」
「でもまあ、一部の大人にはウケるんじゃない?」
「‥‥‥うん、でも間は良かった。‥‥‥ただ単に、内容がしらけただけ」
「俺、泣いても良いか?」
なんでそんなに言われないといけないんだよ!?
ひどすぎるだろ!?
別に良いじゃねぇか!?
俺、ガチで泣くよ!?
その後俺達は、魔物のいない岩場をひたすら上って行き、洞窟とやらを探した。
だが、全然洞穴みたいなのが無い。
うん、ずっと危ない岩場が続いてやがる。
「なあ、そろそろ町に戻るか?」
「そうね、洞窟なんていう雰囲気の場所じゃなさそうだし、方向が違ったのかも」
俺と鉄さんがそう決意して振り向こうとすると、あめが突然呟く。
「‥‥‥ちょっと待って。‥‥‥あそこに頂上が見える」
そう言われ再び前を向くと、少しだけ植物が視界に入って来た。
読んでくださりありがとうございます。




