第二十六話【ちょっとした過去】
宿屋のソファーに座っている数人のプレイヤーが、こちらを見て来ていて恥ずかしかった為、俺は無言で二人の後を追う。
その後、俺達は部屋の中を確認すると、一旦晩御飯を食べる為にそれぞれログアウトした。
■ □ ◻ □ ■
一応俺達三人は、現実世界でいう四十分後に【デスティア・オンライン】で集合する約束をした。
つまりゲームの中では六時間四十分が経っている計算だ。
さっきログアウトしたのが午前の10時くらいだったから、みんなが集まるのは約16:40のはずだ。
俺はフルダイブのマシンを外して体を起こし、「ふぅ」と一息ついた。
それにしてもまさか鉄さんがいるとはな。
予想外だったわ。
絶対ゲームしなさそうな子だと思ってたのに。
まあ、ゲーム友達が増えるのは良い事だ。
素直に喜ぼう。
で、一つ気になるんだが‥‥‥、あめ、言いたい事が言えて無かった様な気がする。
いや、俺と鉄さんが喋りすぎなのかな?
明らかにあめのセリフが少なかった。
ちょっとは話題を振ろうとしたんだけど、どうにも鉄さんと言い合ってしまう。
全く、あの高身長女だけは、俺を弄って来やがるからな。
俺もどちらかと言うとボケるタイプだから、まあそりゃー、会話が増えるわな。
明らかにツッコミ役のあめが入って来れていない。
表情を見ていた感じ、会話を聞いて楽しそうにしていたけど、その顔が本心かどうかは分からん。
とにかく、今度からはあめにもたくさん話を振ってあげよっと。
てか、腹減ったな。
「よしあまり時間も無いし、なんか作ろっと」
俺はご飯を作る為に、ベッドから起き上がると冷蔵庫へ向かった。
【五月雨弘人の三分クッキング~~】
「はい皆さんこんにちは! 今日は俺の自慢料理を披露したいと思います。三分で終わるので、チャンネルを変えないでね」
俺は一人でそう呟くと、腰に手を当てた。
ハイ、始まりましたよ!
一人暮らしでの料理。
将来上京しようと考えている貴方!
今現在、親の元を離れてアパートに住んでいるそこの君!
是非参考にしてくださいね?
「まず最初に、冷蔵庫を開けます。そして中からコーラを取り出しましょう」
手に取ったコーラは机の上に置いて、コップを人数分用意しておきます。
「はい、次はこれを出しましょう! そう、カロリーメイト。これは万能で、栄養バランスが偏る心配は不要。なのに美味しい。まさに神からの贈り物ですね」
手に取った冷えているカロリーメイトは、コーラの横に置いておきましょう。
「さて、そろそろ完成が見えてきましたよ? では最終段階に取り掛かります。それでは冷蔵庫からタンスに移動しましょう。そこでカップラーメンを一つ取ってください。ここで工夫なのですが、飽きを感じさせない為に、なるべくたくさんの種類をそろえておく事を、お勧め致します。ではやかんに水を入れ、沸かしている間にカップラーメンの外側についているビニールを取り外し、机の上に置いてください」
まあ、何という事でしょう。
机の上が、立派な料理の美術館へと大変身していますね~。
お湯が沸いたら、完成となります。
視聴者の皆さん。最後までご視聴頂き誠にありがとうございました。
この知識、是非役立ててくださいね?
「ではまた来週!」
という事で、俺はカップラーメンの完成を待った後、パソコンで適当に歌ってみた動画を流しながら、黙々と食べて行った。
やがて食べ終わると、漫画を読んで時間を潰す。
約四十分後─。
ガリガリ!
机の椅子に座り、のんびりと本を読んでいると、スマホの着信音が鳴った。
この効果音はLIMEだ。
スマホの画面に【あめさんから新着メッセージが届いています。】と表示されているので、送り主はもう確定してるな。
俺はスマホを弄ってLIMEの画面を開く。
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あめ『私は今からログインするけど、ひろとくんは?』
弘人『ほぉう。儂も行けるぞよ?』
あめ『じゃあまたあとでね
(;´Д`)』
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おい、趣旨が分からんから、顔文字やめい!
======
弘人『おう!
(;´Д`)y─~~』
======
俺はそう返信すると、フルダイブマシンを頭に被り、再び【デスティア・オンライン】へと旅立った。
■ □ ◻ □ ■
「‥‥‥あ、ひろとくん」
目を開けると、宿屋のベッドに座っているあめがいた。
片目が出ていて、相変わらず可愛い。
ここは海辺の町でただ一つだけ開いていた部屋なのだが、とにかく汚い。
いくらベッドが汚れているからといって、回復量が少なくなったりはしないが、気分的に喜ばしくはない。
壁は不規則に穴が開いていて、掛け布団も所々破れてやがる。
「おう、おまたせー!」
俺はあめの横に座り、そう言った。
「‥‥‥もう一つベッドがあるけど?」
「ん? まあ良いだろ? 隣に座ろうぜ」
俺としては近くに座りたいんだよ。
可愛い子と密着していられるのは大歓迎だし、それにわざわざ、距離のあるもう一つの方に座って会話をしたくない。
「‥‥‥ん‥‥‥い、良いよ」
「で、鉄さんはまだ来てない?」
「‥‥‥うん、私は一分前くらいに来たけど、まだ」
「そっか。‥‥‥じゃあ会話でもして待つか」
「‥‥‥ん」
あめは下を向き、頷いた。
「なんか、あめと二人の時間って、久しぶりの様な気がする」
「‥‥‥そう?」
「ああ、だって常に誰かがいただろ? 例えば、高身長さんとか、他のプレイヤーとか」
「‥‥‥あ、確かに。あ、あのお泊り会以来かな?」
「うん、そのくらいかな」
このゲームは基本的にどこへ行っても、プレイヤーに溢れているからな。
あいつらは、不思議な光景を見たら、すぐに凝視して来やがるから、あまりいちゃいちゃ出来ないんだよ。
「‥‥‥」
「そういえばさ。あめって、鉄さんがいたら話しずらかったりする?」
「‥‥‥え? なんで?」
「だって、あまり会話に入れてないみたいだし」
俺が少し首を傾げて質問すると、あめは首を振る。
「‥‥‥ううん。鉄さんって結構話しやすい。‥‥‥なんかひろとくんと同じ様な雰囲気だから」
「俺と同じ?」
「‥‥‥何て言うんだろう。‥‥‥鉄さんってゲーム好きみたいだし、あまり勢いよく話し掛けて来ないから」
「なるほどな。でも、俺って結構ガンガン喋っているよな?」
かなり弄っていると思うぞ。
「‥‥‥ひろとくんは、何故か大丈夫。‥‥‥他の人がそんな感じだったら多分引くけど」
「そっか。まあよく分からんけど、俺が特別って事かね?」
そう聞いてみると、あめは下を向いてしまった。
そしてしばらくの沈黙が流れた後、何かを決心した様に、俺の方を見て話し始める。
「‥‥‥‥‥‥あのさ、四年前の事覚えてる?」
「四年前って言うと、中学一年生の時か?」
「‥‥‥ん」
「ああ、覚えているぞ」
「‥‥‥なにを?」
「あれだろ、中学校の場所だろ?」
流石に分かるぜ?
「‥‥‥違う。てかそもそも私、ひろとくんとは別の中学校だから、そんなの聞く必要が無い」
あ、そっか。
「だよな! あれだろ、学校の色だろ?」
「‥‥‥興味ない」
「うん、知ってる。あれだよな? うん、あれ」
「‥‥‥分からないなら、正直に言おっか?」
「はい、全く分かりません」
一ミリも心当たりがありません。
俺が正直にそう言うと、あめは一瞬目を細くしながらも、手で布団を触りながら話し始めた。
「‥‥‥実は、私の地域であった夏祭りの事なんだけど」
俺は首を傾げて質問する。
「あめの地域って言ったら、あそこか、海の近くで花火をたくさん上げるやつ」
「‥‥‥そう」
「だけど、それがどうしたんだ?」
「‥‥‥私、その夏祭りで、一度ひろとくんに出会った事があるんだよ?」
「えっ、あ、ああ。そうだな」
「‥‥‥本当に覚えているの?」
「勿論だ。忘れるとでも思ったのかい?」
「‥‥‥どこで出会った?」
何処だっけ。
全く記憶に無いんだけど。
「えーっと、たこ焼きを売っていた所?」
「‥‥‥全く違う。‥‥‥やっぱり覚えて無いよね」
あめは下を向いて少し悲しそうな顔をする。
「あー、ごめん。心当たりが無いわ」
素直に謝ると、あめは首を振って「‥‥‥大丈夫」と呟きながらも続ける。
「‥‥‥花火が良く見えるアスファルトの所なんだけど、私ってそこで誰かにぶつかってこけちゃったの」
「けがとかは無かったの?」
「‥‥‥うん、けど持っていたりんごあめが落ちちゃって」
「あらら」
ぶつかったやつ、誰だよ。
俺がその場にいたら絶対張り回してたわ。
あっ、そんな力無いわ。
「‥‥‥それでさ、たまたま通りかかったひろとくんが手を差し伸べてくれたんだよ?」
「マジで?」
確かに毎年、太陽や健二に誘われて嫌々行ってるけど、そんな事あったかな?
「‥‥‥うん、まじ。‥‥‥「大丈夫?」って言って、私を起き上がらせてくれたの」
「それって本当に俺なの?」
「‥‥‥ん。間違いないと思う。‥‥‥で、私を立たせてくれた後、りんごあめをくれた」
「あー! なんかそんな事あった様な気がする」
微かに記憶にあるわ。
あめにぶつかった奴は、振り向きもせずに連れとそのまま歩いて行きやがったから、それを近くで見て腹が立った覚えがある。
「‥‥‥思い出した?」
あの後、太陽に「弘人やさしぃ~」って冷やかされたなぁ~。
「ああ、通りすがりで可愛い子がいたから、助けた覚えがあるわ」
俺が手を親指を立てて答えると、あめは顔を消防車の様に赤くして呟く。
「‥‥‥そ、その時、この人は優しい人だなって思ったの」
あめは目を大きく開けながらも俺の方を向いて、かなり小さい声でそう呟いた。
「ふむふむ」
「‥‥‥で、一緒の高校になった時は、ちょっと嬉しかった」
「そういう事だったんだな」
納得、納得。
「‥‥‥ん、だからひろとくんは話しやすい」
「そっか。じゃあ今度からはもっと弄るぜ?」
「‥‥‥それは止めて?」
「あ、はい」
なんか重圧を感じた。
「‥‥‥ひろとくんとは普通に楽しく会話したい」
「了解です」
「‥‥‥でさ、今日、結局どこで寝るの?」
あめの質問に、俺は周りをキョロキョロしながら答える。
「う~ん。ベッドが二つしかないからな~」
「‥‥‥床?」
「しかないだろ? 鉄さんは絶対一緒に寝てくれないしな」
「‥‥‥だね」
「それに、あめも、あのお泊り会以来、恥ずかしいんだよな?」
俺がそう尋ねてみると、少しの沈黙が流れた。
そして多少の時間が経ったあと、あめが決心した様に話し出す。
「‥‥‥‥‥‥う、うん。‥‥‥けどもう良いかな」
「え?」
どういう事だ?
夏祭りの事を思い出して、心変わりしたのかね?
「‥‥‥今日は、い、一緒に寝る?」
「勿論! ありがとう」
「‥‥‥でも!」
喜んでいる俺に対し、あめは少し強めの声で遮って来た。
「どうした?」
「‥‥‥変な事したら、床に落とすからね?」
微笑みながら言って来やがった。
恐いからやめて?
「はい、承知しました! 気を付けさせて貰います」
「‥‥‥ん」
「で、早速なんだけど、今夜のシミュレーションをしようぜ?」
「‥‥‥どういう事?」
「ちょっと横になってみよう。距離感とかちゃんとしておかないと、寝返りをうった時とかに変な所に当たったら困るからな」
一緒に横へなりたいだけです。
「‥‥‥そういう事なら、分かった」
俺はあめが返事をしたのと同時に、掛け布団の下に入った。
それに続き、あめも俺と同じ布団に入って来る。
自分で言い始めたのに、なんか恥ずかしくなって来たので、とりあえず反対側を向く。
あー、にしても落ち着くなぁ~。
「普通にこのまま寝れそうだわ」
「‥‥‥ふふ、まだ夕方だよ?」
「あめといたら何故だか分からないけど、落ち着くんだよ」
「‥‥‥あ、私も」
やっぱりあめもか。
俺は、寝るつもりは無いのだが、何となく目を閉じた。
マジで、眠りに着きそうだわ。
と、そこで掛け布団が引っ張られ、体が半分外へ出た。
おい、寒いだろうが。
俺は引っ張り返し、最初よりも多めに面積をキープする。
ふぅ、気持ちが良いな。
じゃあ、おやす─。
サッ
おい!
布団を全部取られたんだが。
なにしてんだよ!
若干顔をしかめながらも、反対を向いたまま無言で布団を取り返す。
最初の二倍くらいの面積を奪ってやったぜ。
思い知ったか? この野郎。
俺の布団を取るんじゃない。
取られない様に布団を握り、身構える。
体重が3キロのあめの事だ、これで取られないだろう。
──と、その時。
背中に僅かな温もりを感じ、腕でお腹の辺りを覆われ、抱き着かれた。
あめはこのゲームの中ではほとんど体重が無い為、そんなに重くは無いのだが、当たっているという事だけは分かる。
俺は未だに初期装備の布の半ズボンなので分かりやすいのだ。
で、今現在布越しっぽい感覚じゃ無く、直接肌が触れているという事は、ローブを少し上に捲っているのだろう。
「えーっと、あめさん? この状況は?」
「‥‥‥ひろとくんが布団を取ってくるんだもん。‥‥‥近づかないと入れない」
あー、なるほどね。
俺が好きとかじゃ無いのね。
「そうか」
「‥‥‥ん」
「じゃあ、振り向いても良い?」
「‥‥‥なんでそうなったの?」
「顔を見たいから」
俺が正直な気持ちを言ってみると、しばらくの沈黙が流れた。
そして何も言わないまま無言で待っていると、小さい声が聞こえてくる。
「‥‥‥だめ」
「本心を言いなさい」
「‥‥‥うん、だめ」
「なんでだね?」
「‥‥‥恥ずかしいから」
「だよな。変な事言ってごめん」
「‥‥‥‥‥‥良いよ」
ふぅ、またこの前みたいな、見つめ合いをしたかったんだけどな。
あの時は何て言うんだろう、何とも言えない、何も言葉では表せられない様な幸せを感じたんだよ。
他の事が一切考えられない様な感じ。
まあ、あめに抱き着かれている今も、結構幸せなんだけどな。
「てかさ、あめ?」
「‥‥‥ん?」
「なんか重要な事忘れている様な気がしない?」
「‥‥‥言われてみれば‥‥‥確かに」
「やっぱりあめもか。なんか思い当たる事ある?」
「‥‥‥‥‥‥なんかフラグっぽい」
「俺も今思った」
とそこで、あめの声量がかなり落ちた。
何かを感じ取ったんだろう。
「‥‥‥この部屋に誰かいるとか無い?」
俺も同じ様に、声を小さくする。
「それはないだろ」
「‥‥‥そうかな」
「ああ、フラグってのは、立てなかったら何も起こらない。だからそういう事を考えるのは止めとけ」
「‥‥‥ん」
俺とあめはしばらくの間、無言で同じ布団で、緊張の数秒を過ごしていく。
あめはずっと俺に抱き着いて来ているままだ。
大丈夫だ。
あめが俺の体から離れないのも、何かの前兆じゃないぞ?
なにも起こらないぞ?
まず、ここは鍵の掛かった宿屋の部屋だし、他の人が入れる訳無いだろ。
そう、偶然にもここでログアウトでもしておかないと。
しかもこのゲーム内では、時間の進みが、現実世界の0.1倍だから、もし今ログインするとしたら、それはかなりの確率だ。
そう、知り合いと集合する約束をしている時くらいしかないだろ。
ん? 知り合い?
「二人は何をしているのかな?」
突然誰かの声が聞こえて来た。
かなり低かった。
そして少し重かった。
あめはゆっくりと俺から離れていく。
俺は渾身の演技で寝たふりをしているなう。
「因みにさっきのフラグがどうのこうのって会話をしていた時には、もういたからね?」
マジかよ。
とりあえず体を起こし、周りを見てみると、腰に手を当てこちらを見て来ている鉄さんがいた。
何とも言えない表情をしている。
「鉄さん? これは違うんだ」
「何が?」
「特に何もしてないからな? ただ今日の寝る体制を確かめていただけだぞ?」
俺の言葉に続いて、あめも体を起こし、かなり恥ずかしそうな表情をして呟く。
「‥‥‥ん。確かめていただけ」
「そっか。でもかなり近くなかった? 布団が薄いから大体中の形が分かったけど、抱き着いてたよね?」
「‥‥‥そ、それは‥‥‥ひろとくんが布団を取って来たから仕方なく引っ付いてた」
「やっぱり悪いのは五月雨君か」
何でだよ!?
「いや、俺じゃねぇだろ。あめが自分から抱き着いて来たんだぜ? その気がないならそんな事しないだろ? まあ俺もされて嬉しかったから、どちらも同じ罪だな」
「‥‥‥」
鉄さんは、呆れた様に目を細くして聞いてくる。
「てかさ、私は別に二人の関係がどうこう言うつもりは無いけど、やっぱり付き合っているよね?」
「さあ、俺は友達のつもりだが?」
「‥‥‥わ、私も友達‥‥‥かな?」
俺達の言い分に鉄さんは、更に呆れた様な表情をする。
「はぁ‥‥‥まあ良いや。でさ、さっきなんで私の存在が無くなってたの? 二人とも忘れてたでしょ?」
「‥‥‥あ」
「そ、それはだな、‥‥‥ちょっと幸せな世界に入っていたせいで他のすべてが見えていなかったんだよ」
「なんか五月雨君と喋ってても疲れるから止めた。じゃあどこかに行かない? まだ寝るには早いでしょ?」
ひどいな、おい!
俺と喋ってたら疲れるだと!?
‥‥‥なんか分かる様な気がする。
「だな」
「‥‥‥わ、分かった」
「私が居たら邪魔だったりする?」
鉄さんのそんな言葉に、俺とあめはブンッブンッと首を振って否定をした。
という事で、俺達三人はボロボロの宿屋を後にすると、町中を歩きだす。
まだこの海辺の町には着いたばっかりで、なにがどこにあるか等は分からない為、適当に歩く。
ここは元々小さい町みたいなので、かなりの人口密度だ。
風が吹くと、少しばかり潮の香りがするのが、またリアルだ。
初見の町中を歩いていると、まず最初に武器、武具屋があったので、買い物をしようとしたが、あまり良い品物が無かった為、何も買わないまま店を後にした。
鉄さんは、金属系の鎧が無いし、武器も始まりの街と同じ物が置かれているだけだったので、買わなかったのだ。
あめも同じ様な感じだ。
俺は、布の服が綺麗になったバージョンを買おうかと思ったのだが、よく見ると敏捷が-20されるみたいなので止めた。
なんで下がるんだよ!?
敏捷が20無くなるって、俺に死ねという事かね?
武器、防具店を出た後、大通りを真っすぐ歩いていると、海岸に大きい船があったので、向かって行く。
「あの船に乗れば別の大陸へ行けるのかな?」
俺は海岸の砂をシャリッシャリッ、っと音を立てて歩きながら呟いた。
「さあ、でもたくさんのプレイヤーが集まっているから、行けるんじゃない?」
「‥‥‥何人かの人達が船の中に入っていくよ?」
あめが船の横側を指差しながら言った。
そう言われ確認してみると、不規則にプレイヤーが入って行っている。
「どうやら移動する用の船で間違いないみたいだな」
「そうね」
俺達はそう会話をしながらも、だんだんと船に近づいていく。
やがて船の横にある木の足場に行くと、海賊みたいな格好をしているNPCの男性に話し掛けてみる。
「この船っていくらで乗せて貰えるんですか?」
宿屋の部屋も借りている為、今すぐに出るつもりは無いが、一応値段を知っておきたい。
もし高額なら、それなりに冒険者ギルドで貯めないといけないしな。
俺がそう質問すると、NPCは少し困った様な表情をして話し始めた。
「おぉ、あんた達、申し訳ないが今この船は出せないんだ。なにせ最近海の魔物の様子がおかしくてな。この村の近くにある洞窟の奥にある神水の真珠が台座から外れているのかもしれない。もしそうなら、それが元の位置に戻るまでは、海の魔物は大人しくならないだろうな」
ふ~む、なるほど。
つまりその洞窟とやらに入って、奥底にある真珠を台座に戻すパターンのクエストだな?
じゃあ今船に乗り込んでいるプレイヤーは全員、それをクリアしている人なのか。
「また明日にでも、洞窟を探してみる?」
俺はNPCさんから視線を外し、二人の方を見ながら言った。
鉄さんは他のプレイヤーの邪魔にならない様に、少し端っこに移動しながらも答える。
「そうね、今日はしっかり休んで、明日レベル上げをしながら、この辺を探索して行きましょ」
「‥‥‥ん」
「だな」
静かな村から、この町に来るまでの道のりにはそれらしい洞窟は無かった。
つまり、ある程度の用意はしておかないと、すぐには見つけられ無いだろうしな。
世界地図でもあれば良いんだけど、今のところそんな物があるって言う情報は聞かない。
そう、自分自身で探索していくしかないのだ。
まあそれが面白いんだけどな。
俺達は船着き場から離れると、海岸を出て、町中へと戻った。
読んでくださりありがとうございます。




