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第二十話【お泊り会・弐】

 俺とあめは、外に出られない様な状況だった為、一度家の中へと戻った。


 突然だが一つ自慢をしても良いか?

 俺の家の冷蔵庫についてなんだが。


 ふっ、全く食材が無いんだぜ?

 笑えるだろ。


 え? 中に何が入っているのかって?


 うん、コーラとカロリーメイト。

 うん、それだけ。


 あとはタンスに箱買いしてあるカップラーメンがあるくらい。

 自分でも、どうして体が壊れないのか不思議だわ。


 とまあ食料事情がそんな感じなので、あめと二人、カップラーメンとカロリーメイトを晩御飯として食べました。


 そして交互にお風呂へ入り、体を清めると、お風呂を後にした。


 俺は一緒に入っても良かったんだけどな。

 あめが、見られるのは嫌って言うから、仕方なく交互に入ったのだ。

 因みに俺はあめの後に入ったぜ。

 つまり、あめの汗等が混じっているお風呂に浸かったのである。


 ‥‥‥いや、お湯を飲んだりして無いからな?

 ゲヘへ、あめ水だぜぇー。恐らくあんなところやこんなところの細胞も入っているだろうな~。ゴクッゴクッ──あぁぁぁ、うめぇ~のぉ~。

 とかやって無いからな?

 ほんとに真面目に普通に入っただけだからな?

 マジで信じてくれよ?


「そういえばさ、あめのパジャマどうしよっか‥‥‥。流石に制服で寝るのは嫌だろ?」


 お風呂から上がり自室に戻ると、制服を着て漫画を読んでいたお風呂上がりのあめに話し掛けた。

 肌がつやつやしとるのぉ~。


 あめは漫画から視線を外し、俺の方を向くと「‥‥‥うん」と頷く。


「そこで一つ提案があるんだけど」

「‥‥‥なに?」


 俺のパジャマを貸すっていう展開だと思うだろ?

 違うんだな。


「シャツと下着だけで寝よっか」

「‥‥‥‥‥‥寒い」


 だろうな。


「そこでだ! 一つの布団に入り、下着同士お互いの体温をシェアして温め合いながら寝れば寒く無いだろ?」


 肌と肌が擦れ合い、互いの熱を送り合う。

 中々効率的な考えだと思わんかね?


「‥‥‥お邪魔しました。‥‥‥雷の危険がある中、帰るね」


 あめは目を細くして呟いた。

 おい、ちょ待てよ!


「冗談だって!! よし、適当な服を貸そう!」

「‥‥‥最初からそう言えばいいのに」


 どうやらとどまってくれる様だ。

 ふっ。

 

「でさ、俺の家って掛け布団が一枚しか無いんだけど‥‥‥なるべく離れて寝るようにするから同じベッドでも大丈夫?」


 しばらくの沈黙が流れた後、あめはベッドの上に読みかけの漫画を置き、顔を苺の様に赤く染めて「‥‥‥‥‥い、いいよ」と答えた。


 やったぜ!


 諸君! 今、俺があめをなんとか引き止めた風に見えただろ。

 否、違うんだな。


 すべて計算通りだぜ。


 仮に最初から、一緒のベッドで寝ない? って言ったら、確実に断られていただろう。

 そこで俺は人間の心理を上手く操ってみた。


 とある目的の為に、まずわざと変な事を言って断られ、その後服を貸したり等、比較的安易なやり方で引き止める。

 元々一緒の家で寝ると言うのは決まっているのにだ。


 人間って言うのは、一度とある事を決めると、ずっとそれを貫いて行った方が楽、また途中で変更するのは面倒くさい。と言った感情が芽生えて来るものだ。

 つまり、一度断らせた後で引き止め、同じ部屋で寝るという思考を再び縫い付けておく。

 そして今更ベッドで一緒に寝るのが嫌だと言えない思考にしておいたのだ。


 ふっ、俺は天才だぜ!

 そういう才能があるのかもしれん。


 俺は自分の頭の良さに見惚れながらも、タンスから少し大きめのTシャツと半ズボンを取り出しあめに渡すと、着替えて貰う様に伝えた。


 その際、着替え中を見られるのが嫌だという事なので、トイレで用を済ませていたぜ。


 スッキリリ~ン!


 やがて大体の大木を伐採した後、消臭元に「匂い消しは任せた!」と言って、あめのいる部屋へ向かった。


 するとあめはもうすでに着替え終わっており、ベッドに座って漫画を読んでいる。


 服のサイズが合っていない所がまたかわいい。

 マスコットキャラクターみたいだ。


 てか、かなりくつろいでるな。

 まるで休日の女子高生みたいだわ。


「俺の服、違和感とかない?」


 俺はベッドではなく、パソコンのある机に向かいながら聞いた。

 それに対し、あめは着ている服の袖を見つめながら呟く。


「‥‥‥少し大きいけど‥‥‥大丈夫」

「なら良かった」


 因みにあめの下着は用意出来ないので、明日の学校では二日連続で同じものを使用して貰う形になる。

 あめはファブリーズを振って、学校用の鞄の中に入れていたから、匂いとかその辺はまあ大丈夫だろう。


 うん、唯一の下着が鞄の中にあるのだ。

 つまり、今はノーパンノーブラである。

 うん、その状態で直接俺のTシャツと半ズボンを着用しているという事だ。


 ‥‥‥安心しろ。

 明日、真っ先に洗うから。

 物色しない様にするから。

 嗅いだりしないから。

 まじまじと観察したりしないから。

 うん、信じてくれるよね?

 俺ってそういう所の信頼性‥‥‥あるよね?


「‥‥‥ひろとくんってまだ寝ないの?」

「ああ、あめは?」

「‥‥‥あと三十分後くらいに‥‥‥寝ようかな」

「分かった。その時は俺に構わず電気を消してくれて良いからな?」

「‥‥‥ん」


 俺は椅子に座ると、パソコンでR─18のサイトを見る訳でも無く、ただ小説を読んで時間を過ごした。


 やがて部屋の電気が消えたので、あめが安らかな眠りについたのだろう。


 暗闇になった事によってパソコンの画面が眩しくなってきたので、明るさを最小まで落とし、サングラスを掛けて、再び小説を読んでいく。


 それからどのくらい経っただろうか。

 ちぃとばかし睡魔が襲って来やがったので、そろそろ寝る事にする。


 俺はパソコンをログアウトさせ、椅子から立ち上がると、ベッドへ向かう。


 とそこでベッドの上の光景が目に入って来た。


 あめが無防備に目を閉じて、布団を首元まで被り静かに寝ている。


 ‥‥‥なんか緊張するな。

 無防備な顔をしているせいか、いつもより可愛く見えるわ。


 自然と自身の顔が赤くなっていくのが分かる。

 寝顔に見惚れながら、あめを起こさない様にゆっくりと同じ布団へと入っていく。


 首元まで布団を掛けた後、恥ずかしいのでとりあえず反対側を向いた。


 こんな事を言うのもなんだが、布団に入ってすぐに温もりを感じるのは新鮮だ。

 結構心地よい暖かさなので、気持ちが良い。


 ‥‥‥てか、寝息が全く無いから、起きているのか、寝ているのか判断が出来ねぇな。


 今、起きてるって事ないよな?


 俺は何となくあめの寝顔を真近で見たくなったので、ゆっくりと振り向いてみる。


 すると、横向きに寝ているせいで前髪が傾いており、普段は見る事の出来ないあめの目が片方だけ見えた。

 とても澄んだ目で、綺麗だ。


 カーテンの隙間からほんの少しだけ入ってきている月の明かりに反射して、幻想的な輝きを放っている。


 ‥‥‥ん?

 なんであめの目が見えるんだ?


 今って寝ているはずだよな?

 普通に開いているんだが‥‥‥。


 起こしちゃったかな?


 あめは無言でこちらを見つめて来ている。

 顔は若干薄桃色で、少し緊張している様だ。


 何故か一切の音が感じられない。


 俺は自分でも理由が分からないのだが、目を逸らして反対側を向こうとは思わなかった。


 ただ、ずっと見つめていたい。


 そう思ったのだ。


 そんな俺に対し、あめも無言でこちらを見つめて来ている。


 一直線に俺だけを見てきているのだ。


 俺はあめの目以外すべての思考が無くなり、なんとも言えない気持ちになった。


 俺だけのものにしたいくらい綺麗で美しい目だ。


 例えるなら、向日葵畑の中に一輪だけ咲いている朝顔の様。


 下手をしたら魂が全て吸い尽くされそうだ。


 この世に生まれ落ちて、ここまで目というものに見惚れてしまった事があっただろうか。


 神秘の水みたいに清らかな目の中心部に映されているのは、俺の目だろう。


 お互いを映し合い、永遠と向こうまで続いている気がする。


 たまにあめの吐息がかかるが、全く気にならない。

 普段のうるさい思考回路はどこへ行ったのだろう。


 これは幸せというやつなのかな。

 目の前の顔を見る、という行為以外の事をしたくない。


 まさか、これって好きという感情なのか‥‥‥。

 恋愛小説とかでよくある、「お前だけを見ていたい」っていう感じに似ている気がする。


 そこであめが少し幸せそうな表情で微笑んだ様な気がした。


 それに対し、俺は少しだけ微笑み返す。


 その時、言葉では言い表せられない気持ちになった。


 この時間が永遠に続いて欲しいとさえ思う。


 この子を犯したいだとか、そう言ったやましい感情は一切出て来ない。


 そう、ずっとこのままでいたいのだ。


 その後、俺とあめは、たったの一度も言葉を交わす事無く、いつの間にか眠りについていた。



 次の日‥‥‥。



 今日、俺は大分早い時間に目が覚めた。


 まだ日が完全に昇っていない事からして、五時か六時辺りだろう。


 目の前にはあめの顔があり、当たりそうなほど近い位置にある。

 あめはまだ眠っている様だ。


 そういえば寝る前ってこんなに近かったかな?


 なんか、もう少し前に行けば唇が触れてしまいそうだな。


 そんな状況に俺は何を思ったのかは分からんが、あめの頬に手を置くと顔を近づけて行く。


 規則正しい寝息がかかってくるが、あまり不快じゃない。


 やがて、後一ミリ程度で唇同士が触れ合う距離まで近づいた。


 その時。


 突然あめの目が開く。


 おわっ、マジかよ!


 まずいと思った俺は、あめの頬に手を置いたまま、目を閉じて寝たふりをした。


 ‥‥‥バレたかな?

 起きているの‥‥‥気付かれたかな?


 ま、まあ大丈夫だろ。

 てか、俺何してんだよ!!

 寝起きで頭がおかしくなってんじゃねぇのか!?

 冷静になって考えてみたら、さっきかなり変な事をしてただろ。


 と、そこで。



 ──ちゅっ。



 唇にでは無い、ほっぺに何かが当たった様な感覚がした。

 かなり柔らかくて、俺は一瞬何が起こったのが分からない。

 だが、音からしてほっぺにキスされたという答えが出るのは遅くなかった。


 でも、された理由が理解できん。


 俺はかなり動揺しながらも、目を閉じたまま寝たふりを貫く。


 ‥‥‥あめ、寝ぼけているのかな?

 絶対ほっぺにキスする様なキャラじゃないだろ。


 あー、目が覚めてしもーたわ。


 しばらく渾身の演技で寝たふりをして行っていると、目の前のあめが動き出した。

 布団から出ると、俺を跨いで床へ降りて行く。


 唇にではないにしろ、キスされたのは嬉しい。

 けど、理由が分からんから、かなり不気味だ‥‥‥。


 まあ俺の予想だと、夢でも見ていたんだろう。

 じゃないと辻褄が合わない。

 だって普通、好きでもないそこら辺の男子にそんな事しないだろ。

 うん。


 あと、弁解しておきますが、さっき俺があめの顔に自分の唇を近づけていたのは、あまり記憶にございません。

 なんか無意識だった様な気がする。

 うん、いつもの俺だったら絶対そんな事出来ないから。


 俺は寝返りを打つようにして、反対側を向き、少し目を開く。


 するとトイレの方向に向かって行っているあめの姿が見えた。

 

 起きて早速トイレかね?

 ‥‥‥俺と同じじゃねぇか。


 実際今、尿を我慢しております。

 若干の便意も我慢しております。


 仕方ないだろ、俺はこういう人間だ。


 起きて三十秒したら来るんだよ!

 誰か理解してくれよ。


 しばらくして、あめがトイレから戻って来たので、俺はいかにも今、目が覚めた感を出しながら起き上がると、話しかける。


「あ、あめ。おはよう」


 そんな俺の言葉に、あめはびっくりしたのか、一度体をビクンッ! と震わせる。


「‥‥‥ひろとくん。‥‥‥い、今起きたの?」


 何か隠している様な仕草だな。

 俺が寝ている間に何もしていないだろうな?

 ほっぺにキスとかしてきていないだろうな?


「ああ、丁度目が覚めたとこ。‥‥‥あめはいつ頃から起きてたの?」


 知っているけど、聞いてみる。

 俺は寝ていましたよアピールだぜ。


「‥‥‥わ、私はさっきだよ。目が覚めて今トイレから帰ってきたところ」

「そっか。じゃあちょっと俺も行ってくる」


 そう言ってベッドから降りると、トイレへと向かう。

 もう我慢の限界だわ。


 やがて大木を伐採し終えると、とある事に気付いた。


 学校の弁当、どうしようか?

 俺の家に食材はねぇぞ。


 俺はトイレから出てあめの座っているベッドまで戻ると、立ったまま話しかける。


「そういえばさ、学校のお弁当なんだけど‥‥‥購買のパンでも良い?」

「‥‥‥へ? あ、うん。大丈夫だよ」


 なんかキョドってるな。

 かなり恥ずかしそうにしているので、俺は聞いてみる。


「あめ、なんかあった?」


 すると、しばらく沈黙が流れた後で答えが返って来た。


「‥‥‥き、昨日の事」

「昨日?」


 何かあったかな?


「‥‥‥ん。‥‥‥ひろとくん‥‥‥ずっと私の事見てた」


 あ、寝る前、お互いを見つめ合ってた時の事か。


「おう、ガン見してたぜ」

「‥‥‥あれって‥‥‥どうして、見てたの?」


 俺が親指を立てて認めると、あめは不思議そうな表情をして質問して来た。

 なので正直に答える事にする。


「自分でもよく分からなかったんだけどさ、あめの目に心を奪われたっていうか‥‥‥気付いたら幸せな気持ちになって凝視してたんだよ」

「‥‥‥冗談?」

「いや、ガチ」

「‥‥‥そっか」


 最初は俺の言動に疑いの目を向けて来ていたが、いつもより真面目な表情を見てからか、信じてくれた。

 俺、いつも真面目だと思うんだけどな。


「そういえばさ、あめはなんで俺を見てたんだ?」


 昨日寝ているものかと思っていたら、普通に目が開いていたしな。

 しかも、無言でこちらを見つめて来ていた。

 やっている事が俺と同じだ。


「‥‥‥‥‥‥そ、それは。‥‥‥ひ、ひろとくんが見つめて来てたから」

「でもさ、俺が振り向いた時にはもう見て来てなかった?」


 すでに目が開いていた様な気がするぜ?

 俺の問いかけにあめは、無表情なのだが、何かを隠している様な顔で静かに答える。


「‥‥‥気のせいだと思う」


 あー、気のせいか‥‥‥。


「そうか」


 俺は素直に引き下がる。

 しつこく無くて、かなり性格の良い男だからな。


「‥‥‥ん」


 あめは、ほっとしたのか、背筋を伸ばしながら頷いた。


 ‥‥‥あ、ちょっとあの話をしてみよっと。


「でさ、俺昨日変な夢を見たんだよ」

「‥‥‥夢?」

「ああ、美少女がほっぺにキスしてきただけの短い夢だったんだけどさ、妙にリアルな感じだったわ」


 そんな言葉に、あめが少しビクッっと動いた。

 どうしたのかね?


 おならを出そうとして、音が出かけたのかね?


「‥‥‥‥‥‥ひろとくんの願望が‥‥‥出たんじゃない?」


 あめはまるで何かを誤魔化す様に横を向いて答えた。


「いやー、それは無いだろ。‥‥‥でさ、キスされた後、その人はベッドから降りて何処かへ歩いて行った。と、ここで目が覚めたぜ」

「‥‥‥」


 無言?


「ん? どうした?」

「‥‥‥何でもない。それより、朝ご飯どうする?」


 なんか話を逸らされたような気がするけど、まあ良いや。


 俺は、豚骨中華そばレベルにしつこく無い男だからな。

 例え、寝ぼけてキスをしていようが、したくてキスをしていようが、引き下がってやろう。


 うん、豚骨の背油並みにあっさりした人間だからな。


「朝ご飯か‥‥‥カロリーメイトとコーラで行こう」

「‥‥‥不健康」

「うん。自覚してる」


 まあ、カロリーメイトだけでも一応生きては行けるし、大丈夫だ。


「‥‥‥私、氷水で良いよ」

「じゃあ俺もコーラで良いぜ」


 その後、二人は仲良く朝食を済ませ、お互いを見ない様に着替えを済ませると、学校へと向かった。


 なんか学校の教室に着くまで、あめがずっと顔を姫りんごの様な色に染めて恥ずかしそうにしていたんだけど、まあ気のせいだろう。

読んでくださりありがとうございます。


第二章 ~ 終 ~

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