第十八話【装備購入】
赤い閃光の二人がいなくなった後俺は、何故か顔を赤くしているあめに話し掛ける。
「あめ、何故そんなにも顔が赤いのだね?」
このソファーに座ってからずっとなのだ。
あめは恥ずかしさを紛らわす為か、ソファーの近くに置いてあったミルクコーヒーを一口飲んだ後で答える。
「‥‥‥ひろとくんのせい」
おーーん?
「俺のせい?」
「‥‥‥ん」
「どんなところが?」
「‥‥‥色々」
しばらく質問を続けていったのだが、結局あめは理由を教えてくれなかった。
だが大体予想はつく。
考えられる事としては、俺があめに指輪をはめてあげたから。
俺があめの肩に手を置いたから。
俺があめの太ももを撫でたから。
俺が巨乳の女性が無理と言ったから。
この中で言うと、答えは四つしかないな。
そうつまり全部だ。
俺に変な行為をされた事によって恥ずかしくなり、顔が赤くなった。
それに続き、巨乳の売春をしている人を無理だと即答して、俺が貧乳好きだという事が分かり、嬉しくなって更に顔が赤くなった。
少し前、本当に貧乳好きなのかどうかを知りたがっていたしな。
‥‥‥けどさ、一つ疑問なんだけど。
肩に手を置いたり、太ももを撫でたりと、こんなセクハラみたいな事を好きじゃない男子にされたら、絶対嫌がるはずだよな?
普通ならビンタとかが飛んで来てもおかしくないレベルだ。
でもあめは無言。
まるで受け入れているかの如く無言。
まあ、だからといって俺の事が好きだとも思えん。
‥‥‥うーん。そろそろあめの俺に対する気持ち、知りたいよな?
一度学校で、教えてくれそうになってたのに、あのどこぞの太陽と眼鏡のせいで聞こえなかったしな。
あれはマジでイラっと来た。
まあ、俺が考えた限りだと、今のところあめには嫌いな印象は持たれていないと思うんだよ。
嫌われてもおかしくないレベルの事を何度も言ったりしているがな。
うん、けどそれでも一緒にいてくれるって事は、決して嫌では無いのだろう。
‥‥‥よし、決めた!
明日、あめって俺の家に来るよな?
だからそこで真実を聞いてみるよ!
もし教えてくれないんだったら、聖書を見せないぞ? って言えば良いんだし。
うん、決定。
みんな、楽しみにしていてくれよな!
おら、ワクワクすっぞぉ!
その後俺とあめは、存分に猫とコーヒーとお菓子を堪能すると、【Embelir─CAT─】のお店を後にした。
外へ出ると、もうほとんど日が暮れていて、街の至る所に街灯の明かりが灯っている。
本当に今更なのだが、やっぱり仮想世界の中とは思えない。
ちゃんと夜空には不規則に星があり、月も存在している。
この世界でずっと暮らしていくのも悪くは無いと思えてくる。
多分向こうの現実世界で生きがいを持っていない人なんかは、この世界の宿屋に泊まって、目が覚めると外の攻略をして行くっていう感じの生活をずっと送っているんじゃないか?
俺は生憎、現実のあめに会うっていう楽しみがあり、ちゃんと戻る理由がある為、廃人と化してはいないが。
日が落ち、昼間とはまるで雰囲気の違う該当の光が灯った大通りを、俺達は横二列で歩いて行く。
「‥‥‥ねぇ、ひろとくん」
色んな屋台の間を歩きながら、横にいるあめが呟いた。
俺は人に当たらない様に注意しながら、あめの方を向く。
「どうした?」
「‥‥‥‥もし良かったらなんだけど、服とか‥‥‥買わない?」
「あー、確かに。ずっとこの布の服のままだもんな。‥‥‥じゃあ買いに行くか」
流石にずっと布の服って言うのは恥ずかしいよな。
「‥‥‥ん」
俺達は色んな壁に貼ってある地図を見ながら、防具屋を目指して歩いた。
てかここ、最初の街にしては広すぎると思うんだけど、気のせいかしら?
だって俺、まだこの街を全然把握できて無いもん。
複雑すぎるんだよ。
正直地図が無かったら、どこの曲がり角を曲がっているかとか分からないと思う。
今は夜だから、なおさらだ。
ちぃとばかし道に迷いながらも、街中を歩いて行くと、やがて防具屋と武器屋が見えて来た。
「おー、やっとだぜ」
「‥‥‥分かりづらいね」
「だな。ここってかなり裏の方にあるよな?」
飲食店が並んでいる様な所とは少し違い、なんか怪しい感じがする。
存在しているお店は、合成屋とか、鍛冶屋とか、改造屋とか戦闘に関わるジャンルばかりである。
「‥‥‥ん。そうだと思う」
ここの武器屋と防具屋は、どうやら同じ場所らしく、一つの建物に看板が二つ貼られている。
さてと、俺達の残り残高は、あの猫がたくさんいるお店で使ったのから差し引き、後9500Gくらいだろう。
この世界の物価は全く知らないので、どのくらい買えるのかは分からない。
ガチャリ!
俺達は金額の不安を抱えながらも木のドアを開けると、お店の中に入って行った。
「へいっ、らっしゃい!!」
店内に入るのと同時に、元気の良い男性の声が聞こえてくる。
声のした方を向いてみると、頭にタオルを巻いて、いかにも鍛冶をやっていそうな感じの人が、カウンターの前に立っていた。
HPバーがない事からしてNPCなのだろう。
そう、俺もついさっき気付いたのだが、プレイヤーと違いNPCは頭上にバーが存在しないのだ。
まさか今まで気が付かなかったとは。
あちきの不徳の致すところでありんした。
許しておくんなし。
俺はNPCのおっちゃんに「よぅ!」と挨拶すると、店内に置いてある装備品を見始めた。
まず最初に壁際のタンスを確認する。
【疾風のバンダナ】100G。敏捷+1500。
あ、赤い閃光の人たちが言ってた疾風のバンダナって‥‥‥これか?
あの大会でほとんど全員のプレイヤーがつけていた黒色のやつ。
めちゃくちゃ安いじゃねぇか!
100Gって‥‥‥。
買おう!
俺は迷わず黒色のバンダナを手に取り、別の商品を物色していく。
【鉄の鎧】700G。防御+800。魔防+420。体重+5キロ。敏捷-200。
‥‥‥いらね。
敏捷が下がる装備なんて粗大ゴミと一緒だろ!
その後、ほぼ全部の武器や防具を見ていったが、全て下がりやがる。
ここは廃品回収でも行ってんのか?
まるでごみ溜めじゃないか。
俺達はより良い装備を買う為に、しばらくの間悩んだ。
必死こいて悩んだ。
他のプレイヤーに怖がられるくらい真剣な顔で悩んだ。
やがて買うものが決まると、おじさんの所に持っていき、精算を済ませた後でお店を後にした。
よし、ちょっと装備しているものを整理しようか。
俺はメニュー画面を開くと、装備品を確認していく。
ひろってぃーこと俺。
・装備品。
疾風のバンダナ。敏捷+1500。
布の服。特に効果無し。
布のズボン。特に効果無し。
風の腕輪。敏捷+500。
速の指輪。敏捷+2000。
生の指輪。生命+1
【総合】
敏捷+4000。
生命+1。
レインことあめ。
・装備品。
木のロッド。魔攻+950。敏捷-20。
革の帽子。防御+300。魔防+350。敏捷-50。
革のローブ。防御+400。魔防+700。敏捷-80。
想の腕輪。MP+500。
軽の指輪。体重-20キロ。
生の指輪。生命+1。
【総合】
M P+500。
防御+700。
魔攻+950。
魔防+1050。
敏捷-150。
体重-20。
生命+1。
うん、なんだこのスペックの違い。
俺明らかに弱そうに見えるんだけど。
気のせいかしら?
「‥‥‥ひろとくん‥‥‥私ばっかり、ごめんね」
武器防具屋から外に出て、近くにあったベンチに腰を降ろしながらあめがそう呟く。
ふと顔を見てみると、とても申し訳なさそうな表情をしている。
「いや、大丈夫だよ。俺は敏捷が落ちるのを防ぐ為に買っていないんだし」
俺はあめの横に座りながらそう答えた。
付け加えるなら俺に防御力なんて関係ないんだぜ?
何故かって?
ふっ、HPが10しかないからな!
「‥‥‥でも、ひろとくんが手に入れたお金なのに」
かなり罪悪感があるらしい。
気にしなくても良いのにな。
「あめの指輪があったからあの勝負に勝てたんだし、良いって!」
実際あの場で体重が50キロのままだったら、ギルツさんを抜かす事は出来なかったと思う。
本当に僅差だったしな。
「‥‥‥う、うん」
頷いてはいるが、まだあんまり納得していない様子だ。
なので俺は話を続ける。
「それにさ。俺自身もあめに何かを買ってあげられて、嬉しかったよ?」
「‥‥‥え? ‥‥‥そうなの?」
それに対し、少し微笑みながら呟く。
「なんでか分からないけど、あめが装備品を着替えて出てきた時の笑顔を見ただけで、幸せな気持ちになったんだよ」
因みにこれは本心です。
どうして自分の事の様に嬉しくなるのかは知らんがな。
あと、やはりこの世界は、メニュー画面をワンタッチして防具をチェンジする、みたいな事は不可能らしい。
その為、元の装備を脱がないと、新しいものは着用出来ない。
それくらいゲームっぽくても良いと思うんだけど。
‥‥‥やっぱりここ、現実世界だろ!
うん、そうとしか思えん。
あめは俺の言葉を聞いて、恥ずかしいのか、嬉しいのかよく判断ができない表情し「‥‥‥そっか」とだけ呟いた。
そしてしばらくの沈黙が流れた後、俺はなんとなく自分のステータスを確認する。
敏捷は合計で23870。
てか、数値が2000増えても、何も覚えていないという事は、指輪とかそういう装飾品で底上げをしてもスキルは増えない可能性があるな。
あ、敏捷で一つ疑問が出てきたけど、あめって今色んな装備を身につけて、敏捷の数値がかなり落ちているよな?
じゃあこのゲームって、ステータスがマイナスになったりするのか?
そう考え、オレンジ色のメニュー画面を開き、あめのステータスを表示した。
その光景を見た、隣に座っているあめが不思議そうな顔をして画面を覗き込んでくる。
「‥‥‥どうしたの?」
「いや、あめって装備品を着て敏捷が下がってるだろ? だから数値がマイナスになるのかなと思って」
「‥‥‥なるほど。でも、見た感じ1って表示されてるね」
あめが敏捷の部分を指差して言った。
「あめって元々敏捷の値が60だったよな?」
「‥‥‥うん。ひろとくんにおんぶされるようになってから、ずっと上げてない」
「ふむふむ。じゃあ結果としてはどんなに装備品で数値を下げられても、ステータスの数字はマイナスにならないと事だな」
「‥‥‥ん。だね」
そう結論を出した時、また疑問が浮かんでしまった。
「あ、そういえばさ、急なんだけどちょっとおんぶさせてくれない?」
「‥‥‥へっ。なんで?」
あら、可愛い反応じゃないのぉ~。
「その皮の帽子とかローブって、金属の装備品に比べて体重の事については何も書かれてなかっただろ? だから総重量が増えていないのかなーと思って」
「‥‥‥私自身の感覚から言ったら、変わってない様な気がするけど、おんぶする?」
「もちろんさぁ~」
「‥‥‥」
‥‥‥俺はあめをおんぶした。
その行為により、他のプレイヤー達に見られたが無視。
通りすがりのほぼ全員が目を合わせて来ているが、ほっとけば良いだろ!
「‥‥‥どう?」
背中にいるあめが吐息交じりに聞いてきた。
俺は体を上下に揺らしながら答える。
「う~ん。個人的にはローブになった事によって、肌に密着できなくなったのが残念かな」
今まではスカートから出てきている太ももに腕が直接当たっていたんだけど、革のローブになったせいであめの太ももの感覚が楽しめなくなったかもしれん。
「‥‥‥」
「あ、でも俺は、布越しでも大丈夫だよ?」
‥‥‥あれ? 何故か冷たい視線を感じるんだが。
「‥‥‥重さは?」
重さ?
「あらっ、そういえば本題を忘れてた。ごめん! ‥‥‥で体重なんだけど、俺が持ってみた感じ、増えてないみたいだな」
俺が焦ったようにそう答えると、あめは下を向いてしまった。
‥‥‥背中越しなので分からないが。
「‥‥‥‥‥‥だめ?」
小さい声が聞こえて来たが、あまりにも小さ過ぎて前半がよく聞こえない。
「ん、何?」
俺は首を傾げながらそう聞き返す。
「‥‥‥スカートじゃないと‥‥‥だめ?」
‥‥‥えっ、俺の言った事を真に受けているのか?
「いや、そのローブで良いぞ! さっきのは冗談だから」
「‥‥‥本心に聞こえた」
はい、本心です。
「本当に冗談だって! 俺はこういう人間だから」
「‥‥‥そっか。でもスカートの方が良いなら‥‥‥そ、そうするよ?」
なんか積極的じゃございませんか?
こんな子だったかな?
「ローブで大丈夫です。このゲームは防御力が大事だから」
あめを地面に下ろしながら、ふと顔を見てみると蠟燭の火みたいに赤くなっている。
まあ、あめって結構赤くなりやすいみたいだし、恐らく人と話していると緊張してしまうからだろう。
他意は無いと思う。
「よし!」
「‥‥‥どうしたの?」
いきなり大きめの声を出した俺に対し、あめは不思議草に首を傾げる。
「今日はこの辺でログアウトしよっか。きりも良いしな」
「‥‥‥うん、分かった」
「じゃあまた明日!」
「‥‥‥じゃ、じゃあね」
と言う事で、俺は青色の画面を開き、ログアウトのボタンを探す。
えーっと、たしか下の方にあったよな?
下の方っと‥‥‥えっ!?
な、無い?
「あめ! ログアウトのボタンがないんだけど!?」
俺は大きく目を見開いて言った。
それに対し、あめは無表情でオレンジ色のメニュー画面を開くと下の方を見た。
と、そこで驚いた様にしてこちらを見てくる。
「‥‥‥‥‥‥!?」
「ん? どうした?」
俺は状況がよく分からないので、そう聞いてみた。
するとあめは、少し深刻そうな顔をし呟く。
「‥‥‥ほ、本当に無い。‥‥‥なんで」
は!?
無いの!?
「マジで!?」
「‥‥‥うん。普通だったらあるのに‥‥‥空白になってる」
く、空白?
どういう事だ!?
まさか不具合かな。
それとも、デスゲームと化したのか?
俺はあめの言葉にかなりの焦りを感じながらも、わざと出していた青色のステータス画面をしまうと、急いでメニュー画面を開く。
そして必死にログアウトボタンを探す。
無いはずが無いだろ。
これは人気のオンラインゲームだ。
もし仮にそんなバグがあったのなら、運営の被害は凄まじいものとなるはず。
つまり、そう言った所に手を抜くはずが無い。
色んな思考をしながら、ログアウトボタンを探す。
だが、ログアウトボタンがあるはずの所には‥‥‥ログアウトのボタンがある。
‥‥‥あれ?
普通にあるぜ?
「あめ。どういう事かね? 普通にあるんだけど」
俺がびっくりしながらそう呟くと、あめは口を押さえて「‥‥‥ふふっ」と笑い出す。
「‥‥‥冗談だよ。‥‥‥ふふ」
あんだって?
冗談?
JOUDAN?
「おいおい! マジで心臓に悪いからやめてくれよ」
心臓麻痺で倒れるかと思ったわ。
とある死のノートに名前を書かれて、四十秒経ったのかと思ってしもーたわ!
「‥‥‥いつもの仕返し」
可愛い声が聞こえてくる。
くそ、やられたわ。
でーれぇーびびったがな。
「いつもの仕返しって‥‥‥俺、そんなに変な事してるか?」
全く覚えが無いんだけど。
「‥‥‥してる」
「ほぉぉう。では具体的に説明してもらおうか?」
俺がにやけながら問い詰めると、あめは真顔で語り始めた。
「‥‥‥我が妃がどうのこうの言って、人の気持ちをもて遊んでみたり」
「ほぉう」
「‥‥‥若干セクハラっぽい事をしてきたり」
「ほ、ほう」
「‥‥‥昨日、回復する湖で服を乾かしていた時、絶対見ないって言ってたのに一度振り向いて来て、人の背中姿を覗き見してみたり」
えっ!?
ちょ、待てよ!
あれ、バレてたの?
「‥‥‥ほぅ」
「‥‥‥たまにやらしい思考をしてたり」
あれ?
あめって、超能力者?
「‥‥‥ぅ」
「‥‥‥思考回路がうるさかったり」
ほっとけ!
自分で気にしてんだよ!
てか、聞こえてねぇだろ!
だが、当たってんだよ!
どういう事だよ!
「‥‥‥」
「‥‥‥おんぶをしている時に、ちょっとだけ揉んできたり」
マジかよ!
気付かれない様に、ほんの少しだけ太ももと、お尻の柔らかさを確かめていたのに。
分かってたのかよ!
「もうお腹いっぱいです。すいませんでした」
俺が敗北を認め、約45度くらいのお辞儀をすると、あめは満足げに「‥‥‥ん」と頷く。
「see you !」
俺は、この状況を誤魔化す為に、英語で別れの挨拶を呟きログアウトボタンを押した。
「See you tomorr─」
■ □ ◻ □ ■
気が付くと、目の前が真っ暗だった。
フルダイブマシンをつけているからな!
俺はマシンを取り外すと、例の如く冷蔵庫に行き、買いだめしているコーラを飲み始める。
いやー、今日も楽しかったな。
ゴクッゴクッ
「ぷはぁー。やっぱりコーラはうめぇぜ」
あの、何とかCATっていう店で飲んだミルクコーヒーよりおいしいわ。
でも、喉越しの感覚は、全く同じだな。
と考えると、やっぱり【デスティア・オンライン】の中って凄いわ。
体の動きやすさとか以外ほぼ全部一緒だもん。
‥‥‥てか、あめってめちゃくちゃ鋭いじゃん。
なんで俺のそんな細かい所を見てんだよ。
思考回路まで覗かれてたじゃねぇか。
にしても、かなりの急展開だけどさ、明日俺の家にあめが来るんだよな。
理由は勿論、あめが聖書を見たいと言ったから? である。
という事で、俺はそれなりに部屋の中を綺麗にし、しばらく漫画読んだり、携帯型ゲーム機でオフラインのゲームをプレイしたりして遊んだ後、眠りについた。
読んでくださりありがとうございます。




