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第十五話【長距離走大会・壱】

 正門前を見てみると、知らないうちにまた人が増えていて、中心辺りにはメガホンを持ったNPC? がいる。


「じゃあ俺、そろそろ行くわ」


 そう呟き、立ち上がる。


「‥‥‥ん。‥‥‥頑張ってね」


 あめは俺の方を向き、まだ顔をアメリカンチェリーの様に赤くしたまま言った。


 あ、ちょっと機嫌が戻ってきたのかな。

 なんかちぃとばかし安心したわ。


「あめー」

「‥‥‥ん?」

「もし俺が優勝したら、なにか美味しいもの食べような!」


 さっき悪い事しちゃったし、なにかお詫びがしたい。

 じゃないと俺の気が済まん。


「‥‥‥うん。楽しみにしてる」


 俺はあめの返事に対し親指を立てると、正門のNPCがいる所へと向かった。

 こりゃー、絶対勝たないとだめだな。


 人はプレッシャーや緊張感の中で成長していくものだ。

 だからこの程度のプレッシャーは心地が良いくらいだぜ!


 やがて大勢のプレイヤーの中に入ると、数人のNPC達から配られるゼッケンの配布を待つ。

 どうやらNPCは手のひらからゼッケンを無限に出せるらしく、参加人数に関係なく用意できるという事だろう。


 しばらくすると俺にも赤色のゼッケンが手渡された。

 番号は072番。


 この数字を平仮名に置き換えるのは止めとけ!

 絶対後悔するぞ!

 一度忠告したからな!


「おい! 雑魚共ー! 道開けろや」

「ぎゃはは!」


 布の服の上からゼッケンを来ていると、突然後ろから男二人の下品な声が聞こえてきた。

 あー、俺の嫌いな人種来たー!

 こんなゲームの中にもいるのかよ。


 絶対、あほだろ!

 だって現実世界の顔がそのまま使われているんだぜ?


 どんな奴なんだろうと思い振り向いてみると、めちゃくちゃ強そうな装備を着ている男二人が、色んなプレイヤーをはねのけながら中央へと近づいて来ていた。

 全身赤色の装備で、ここら周辺では初めて見る代物だ。


 ほとんどの人が、そいつらに驚きの視線を向けている。


「おいおい、弱そうなやつらが集結してんな~」


 右耳にピアスを六個くらい付けている、二十代っぽいお兄さんが笑いながら言った。

 髪型もモヒカンみたいな感じで、かなりいかつい。


「俺達なら、重装備をしててもぶっちぎりだろ」


 続けてそう言ったのは、同じく二十代であろうスキンヘッドの男だ。

 正直めちゃくちゃヤクザに見える。


 ほぼ全員が、誰だあいつ? みたいな視線を向けていると、プレイヤーの一人がいきなり大声で呟く。


「おい、もしかして、攻略組の人達じゃねぇか?」


 それに続いて色んな人が喋っていく。


「あ、ほんとだ。あの赤い閃光じゃん」

「まじかよ! 何でこんな最初の街に」

「あいつらも出場すんのか?」

「俺、勝てる気しねぇよ」


 どうやら有名人らしい。

 まことに申し訳ないが全く知らんわ。

 赤い閃光と呼ばれている二人組は、NPCからゼッケンを受け取ると、周りのプレイヤーを観察し始めた。

 あー、見られるのは嫌だなぁ~。

 まあ、これだけたくさんの人がいたら多分目線が合う事は無いだろう。

 これはフラグでは無いだろう。


 二秒後。


 スキンヘッドの方と目線が合った。


 なんでだよ!

 普通合わない確率の方が高いだろ!

 いい加減にしろよ!


 向こうは数秒俺の事を見つめると、いきなり笑い出す。


「がはは。おいギルツ! こいつ見てみろよ。初期装備じゃねぇか」


 たくさんの視線が俺に向いた。

 やめろー、見るんじゃねぇ!

 俺は注目と言うものが嫌いなんだよ!

 嫌な物トップ千位に入るくらい苦手だわ。


 ピアスを六個付けているギルツさんも、こちらを嘗め回す様にして観察してくる。

 そして気持ちの悪い笑みを浮かべると近づいて来た。


「おいおい、君。これは長距離走大会だぜ? まだ早いんじゃねぇの?」


 早い?

 何言ってるか分からないんで、とりあえず聞き返す。


「え? 何でですか? この装備の方が鎧よりも軽そうだと思うけど」


 普通に初期装備の方が効率が良いと思う。


「あれあれ、君、ちょっと周りを見てみよっか。みんなの頭には何が付いているかな?」


 みんなの頭?


 なんかイラつくけど、まあ言われた通りにプレイヤーたちを観察していく。

 そこで気づいたのだが、ほとんどのやつらが俺を見て笑っていやがる。

 感じがわりぃのぉ。


「あ」


 見始めてすぐに、俺に無いものが分かった。

 なるほどな。

 赤い閃光の二人組は付けていない様だが、多分俺以外のほぼ全員が着用している。


「気付いた? この大会に出るんなら疾風のバンダナくらい付けよっか? あれを装備しているだけでも敏捷が1500上がるんだぜ? つまり君に勝ち目はないな」


 1500!?


 そんなギルツさんの丁寧な解説に、俺は必死で堪えた。

 え?

 何を堪えたのかって?


 うん、笑いを。


 だって1500ってしょぼ過ぎだろ!


 疾風のバンダナが無い=勝てないって言ったんだぜ?


 1500でそこまで変わらねぇよ。


 そんなしょうもないギルツさんに、スキンヘッド君が続く。


「まあ、たとえ疾風のバンダナを付けていたとしても、勝てないけどな! だって俺達が出るんだぜ?」

「ちげぇねぇ。ぎゃはは」


 俺はイラつきよりも先にこみあげてくる笑いを抑えながら開始時刻を待った。


 言っとくが笑いを抑えるのってかなり苦痛なんだぜ?


 高校受験のペーパーテストをしている時に、試験官の顔にツボって、自分の横腹を殴ったり太ももをつねったりして、必死に堪えた事がある。

 だが抑える事は出来ず「ゲフッ!!」という声を上げてしまい、数人の注目を集めた事がある。

 試験官も「は? なんだあいつ」みたいな表情で見て来ていたからな。

 その顔で更に笑えていて、一人ずっと笑っていたのは良い思い出だ。

 結局無事にその高校に合格する事が出来たのだが、まじで落ちたかと思ったわ。

 あれほど合格発表が怖かったのは初めてだったぜ。

 あ、これは実話じゃないからね?

 信じてね?

 

 過去の楽しい思い出していると、再びギルツさんの声が聞こえてくる。


「ねぇねぇ君?」

「はい?」


 俺は意識を目の前に戻し、聞き返す。


「どうせ、ステータスポイントを防御力とかHPにガンガン振っているんだろ?」


 は? なんだって?


 ふっ、俺がバランス良くステータスを振っている事によく気付いたな。

 俺は毎回死ぬほど悩んで、防御力とかを強化して行っているからな。


「まあ、そうですが」

「がはは、じゃあこの大会から降りた方が良いぜ? 何故かって? 俺のレベルは27だから」


 高っ!!

 そんなにあるんならこの街に来るなよ。

 と、そこで俺はとある疑問が浮かんだ為、笑いを抑えながら質問する。


「あの、失礼ながら、敏捷ってどのくらいあるんですか?」

「おぉ。よくぞ聞いてくれた! いい機会だ他のお前らも良く聞いとけよ? 俺の敏捷は17000以上だと言っておこう」

「‥‥‥グフッ」


 他のプレイヤーが「マジかよ」とか、「私。降りようかな」等、弱音を吐きだした中、俺は思わず吹いてしまった。

 耐えようと努力はしたが一秒で撃沈した。

 まあ予想通り、赤い閃光さん二人組にばれてしまう。

 かなりまずいぜ~。


「お前、今笑った?」


 ギルツさんの表情から笑顔が消えた。

 心狭いな、おい。

 俺みたいに太平洋並みの広さを持っていた方が将来得するぜ?


『大変お待たせしました! これより長距離走大会を開催したいと思います! 参加者は正門の外に出てください!』


 と、そこで二人組の声を遮るようにして、NPCの大きな声が聞こえて来た。


 それに対し、ギルツさんは舌打ちをしてこちらを睨んでくる。


「チッ、まあ良いや。格の違いを見せてやるよ」


 そう言い残し、一番乗りで正門をくぐって行った。

 どうやら相当自信があるらしい。

 俺は他のプレイヤーの後ろ辺りを歩き、外へと出ていく。

 人数は大体300人程度くらいだろう。


 そして全員が正門の外へ集まると、NPCによるルール説明が始まった。


『まず、最初にルールを説明させて頂きます。コースはこの始まりの街を囲っている城壁の周りを一周し、一番最初にこの正門へ戻って来た人が優勝になります。

 禁止事項は、特に無し。

 プレイヤー同士はお互いダメージを与える事が出来ないので、スキルの使用、妨害、何をしても許されます。

 また、城壁の至る所にカメラがセットされているので、始まりの街にいる人にもスクリーン越しに見られます。ご了承ください。

 そして、魔物にやられた場合は自己責任となりますのでご理解をお願いします。

 それでは、皆さん、準備は良いですか?

 五秒前スタートになります!』


 もうスタートするのかよ!

 早いな、おい!

 心の準備もくそもねぇよ!

 てか、スキル使用、妨害ありって、嫌な予感しかしないんだが。


『ごぉぉ!』


 よーし、あめ、スクリーンから見てろよ!

 格好良いところを見せてやるぜ!


『よんっっ!』


 ふと横を見てみると、ギルツさんや他の数人のプレイヤーが俺の方を見て笑ってる。

 感じがわりぃのぉ~。


『さんっっ!!』


 まあ気を付けるのは、赤の閃光達の妨害くらいかな。

 あいつらは見た感じ何をしてくるか分からん。


『にぃぃぃ!!!』


 とりあえず先頭集団の後ろ辺りについて行くか。

 で、ラストで加速すれば良いだろ。


『いちぃぃぃ!!!!』


 周りのプレイヤー達は全員スタートダッシュの構えを取る。

 そんな中、俺一人は突っ立っている。


『すたぁぁとぉぉぉ!!!!!』


 ダンッッ!!

 ガッッ!!

 ダッダッダッダッ!!


 NPCのド迫力の声と同時に、全員が一斉に走り出した。

 俺はみんなが走り出すのと同時では無く、五秒ほど遅れてスタートする。


 タッタッタッタッ


 何故かって?

 ‥‥‥まあ、教えてやろう。

 うん、単純に大勢の中が嫌だから。


 てか、体がめっちゃ軽いわ。

 あめの指輪マジぱねぇ。

 指輪に付着しているであろう、あめの指の細胞と汗により、元気百倍、ひろってぃーマン!


 俺は一旦、最後尾辺りのプレイヤーと一緒に走る事にした。


 タッタッタッ


 それで気付いた事があるんだが。

 こいつら、遅くね?

 俺、一割もスピード出して無いんだけど‥‥‥。


 と、そこで始まりの街にあるスピーカーからナレーションが大音量で聞こえてくる。


『現在トップは、やはり赤い閃光! 攻略組なだけあって強いです。でも、それに負けじと数人のプレイヤーがついて行っています。赤い閃光さん達はステータスが桁はずれですが、重たい鎧のせいか、最大のスピードが出せない様です!!』


 やっぱりトップはあいつ等だよな。

 よし、俺も先頭集団へ行こっと!

 俺は軽くそう決断した。


 そして約八割の力を使い、猛ダッシュした。


 ダッダッダッダッ


 後ろから驚きの声が次々と上がっているが無視。


『おぉぉと、ここで驚きの新星が現れましたぁ! 一人だけスタートダッシュが遅れて、最下位にいた地味な青年が、瞬く間に先頭集団に追いついています。彼は一体何者なのでしょう!』


 おい、地味ってなんだよ!

 明らかに俺の事を言っている実況が聞こえてきた瞬間、先頭集団の数人が後ろを向き、ビックリした様な表情で見てくる。

 

 俺はとりあえず、先頭集団の一番後ろに着いた。

 それと同時にスピードを落とす。


 タッタッタッタッ


 そこでも気付いた事がある。

 今、六割くらいしか出して無いんだが。


 あ、良い事思いついた。


 ふっ、ちょっと今からギルツさんを、からかってこよっと!

 さっきは色々と言われたからな。


 ダッダッダッダッ


 そう考え、俺は先頭集団を外側から圧倒的なスピードで追い抜くと、四人のトップ集団の横に並んだ。


 タッタッタッタッ


「おい、なんだよあいつ!」

「外側から抜いていきやがったぞ!」


 後ろの先頭集団から声が聞こえてくるが無視。

 面倒くさいからな。


 タッタッタッ


 どうやらトップ集団のうち二人は、赤い閃光こと、ギルツさんとスキンヘッド君だ。


 タッタッタッタッ


「ギルツさん‥‥‥? でしたよね。どうも、さっきぶりです」


 俺は一番前のギルツさんに笑いながら話し掛けた。

 それはもう、満面の笑みで。


「えっ? はっ!?」

「なんだてめぇ!?」


 ギルツさんは勿論の事、スキンヘッド君も驚いている様子である。

 別にビックリする事でも無いんだけどな。

 だって追いついただけだもん。

 ちぃとばかし敏捷があれば出来る真似だぜ?


『なんという事でしょう! 謎の地味青年が最下位から一瞬のうちにトップ集団へと合流しました! どうなっているんだ地味男! 何をしたんだ地味男!』


 実況うるせぇよ!

 なんか俺に恨みでもあんのか?


 タッタッタッ


「あのー、重たそうなその鎧、外した方が良くないですか?」


 俺は親切心でそう言った。

 なのに、ギルツさんの顔は強張ってしまった。

 かなりイラっと来たらしい。


「あ? こんな序盤で本気を出す訳ねぇだろ。あほか?」


 あぁらららぁぁぁ。

 絶対本気で走っているのかと思ってたんだけど、ここから更に上げられるのかよ。


「まじですか?」


 タッタッタッ


「たりめぇよ。お前がなんでここにいるのかは知らんが、俺らは後ろに付いて来ている二人に合わせているところよ」

「まあ、そういうこった」


 俺は一応後ろの二人というのを確認してみる。

 すると、そこにはなんと!


 ‥‥‥全く知らん人がいた!

 一回も見た事ないわ。

 普通知り合いがいるパターンだろ!

 誰だてめぇら。


 そう、後ろには疾風のバンダナを頭につけ、必死こいて軽量化しているのであろう装備を身に着けているプレイヤーがいた。

 どちらも男性で、このスピードがいっぱいいっぱいの様子だ。

 そんな二人は、赤い閃光達の会話を聞いて、弱音を吐きだす。


「俺ら、遊ばれてんのかよ」

「‥‥‥もうやる気が無くなって来たわ」


 諦めたらそこで試合終了だよ?

 なに諦めちゃってんの?

 お前らはその程度の人間なのか?

 まあ、仮に諦めずに一生懸命走ったとしても、赤い閃光とやらがいる為、勝率は無いだろうが。


 タッタッタッタッ


 と、そこで目の前から大量の魔物が迫って来た。

 ダンゴムシ君の集団だ。

 普通のプレイヤーからすると、かなり邪魔な存在だが、赤い閃光は気にも留めない様子である。


「へ、雑魚のお出ましか」

「おい、後ろの三人! 俺らがほんとの戦闘ってやつを見せてやるよ!」


 まじか。

 ラッキー!

 俺、戦わなくて良いんだ。


「お願いしまーす」


 俺は誰よりも早くそう返事をした。

 するとギルツさんは、俺を睨んでくる。

 おぉ~、怖い怖い。


「嘗めてんのか? おい」


 タッタッタッ


 なんでそうなった?


「えっ? あなた方が戦うって言ったんですよね? 自分の口で」

「あ? てめぇのその態度が気に食わねぇっつってんだろ。理解しろ」

「あ、はい。じゃあ俺が一番前を走って行けば良いんですよね?」


 そう言う事だろ?


「あほどころか馬鹿だな。まあ良いぜ。最初に突っ込んで行ってみろよ!」

「分かりました」


 とそこで俺は大会が始まって初の全開を出した。


 シュバッッ!! 


 ダッダッダッダッ


 目の前辺りを走っていた赤い閃光達が一瞬で見えなくなる。


「まじで行きやがった」

「初期装備で対処出来る訳がねぇ」

「‥‥‥あの子。早くね?」

「まじかよ」


 後ろから色々と声が聞こえてくるが、放っておこう。

 特徴の無い二人組は、どうやら格の違いに気付いたらしい。

 だが赤い閃光二人組は、俺の全開スピードを見ても、驚きの一つすらない。

 余裕なのかそれとも気付いてないのか。

 それは分からん。


『おっと。約一名がスピードを上げ、後ろの四名を引き離しました! 正面には大量の巨大ダンゴムシが迫って来ています。大回りすれば問題ないでしょうが、そうするとかなりの時間をロスしてしまいます。そんなダンゴムシの集団に対し物凄い勢いで近づいているのは、やはり地味男だぁぁぁ! どうするつもりなのか! ますます地味男から目が離せません」


 だまれぇぇぇ!

 はりまわすぞ、おい!


 まあ正直に言うと、作戦は無い。

 下手したらダンゴムシの攻撃を食らって死ぬかもな。

 だが、空中移動のスキルがあれば何とかなるかもしれない。

 あのダンゴムシ集団は横にかなり広いのだが、奥行きは大した事無い。

 普通のやつがジャンプしたら届かず、巻き込まれてダメージを受けるだろうが、物凄いスピードで飛び、そして空中で連続一度しか使えないジャンプをすれば行けそうだ。


 タッタッタッタッ


 だんだんとダンゴムシが気付いてくる。


 よーし、行くぜ?


「うおぉぉぉらぁぁ」


 ダンッッ!!


 やがて目の前まで迫ってくると、俺は勢いよくジャンプした。

 あー、風が気持ちいい。


『地味男、飛んだぁぁぁ!! 地味男、飛んだぁぁ!! 地味男、飛んだぁ!! 本当にそのまま突っ込んで行きました。という事は行ける算段があるのでしょう!』


 ええ加減にせぇ!

 三回も繰り返さんでくれ。

 あまりの恥ずかしさに、今後、街中を歩く事すら困難になりそうだわ!


 俺はあまり高くまで飛ばず、勢いに任せて低空をちぃとばかし早めに飛ぶ。

 その方がたくさんの距離を飛べるのだ。

 ふと下を見てみると、ダンゴムシ君が俺に噛みつこうとジャンプしているが、当然の事届いていない。


 やがて重力に負け、ダンゴムシ君の牙が当たりそうな範囲にまで降りて来たので、空中移動のスキルを使用し更に上へと飛んだ。

 今のところ連続で一度しか使えないが、それで十分だ。

 そう、もう無事に集団を超える事が出来たのだ。


 スタッ!


 タッタッタッタッ


 俺は綺麗に着地をすると、勢いを殺さずそのまま走り出した。


「あー、ドキドキしたー」


 でも楽しかったぜー。

 まあ後ろの四人組なら軽く蹴散らしてくるだろうから、まだ油断は出来ないぞ。

 ギルツさんは敏捷が17000以上あるって言ってたからな。


 17000<ギルツの敏捷。


 つまり一億あってもおかしくはない。

 という事は油断なんてしてたら一瞬で抜かれてしまう。


『いったぁぁぁ! 地味男が見事なジャンプを決めましたぁぁ! 物凄い飛距離だったぞぉぉぉ! おっと、ここで後ろにいる赤い閃光の二人組がスピードを上げた! そしてダンゴムシを一瞬で散らした。今のは何だったのか、私も初めて見る攻撃スキルでした!』


 街の中から実況が大声で聞こえてくる。

 ‥‥‥もう良いや。

 うん、地味男で良いや。

 なんでも良いや。

 あはは!


 てかやっぱり瞬殺だったな。


 ナレーションが聞こえてふと後ろを見ていると、赤色の巨大な竜巻と共にダンゴムシ君が散って空に舞っていた。

 あれはやばい。

 今初めてギルツさんとスキンヘッドさんが攻略組だって言うのを実感したわ。

 あめの魔法と比べてもレベルが違い過ぎる。


 俺は再び前を向き、走る事に集中する。


 タッタッタッ


 と、その時、俺の足に何かが当たった。

読んでくださりありがとうございます。

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