第十三話【始まりの街】
始まりの街。
ここは小さいサーバーの試練をクリアした者のみが来る事の出来る、巨大サーバーの最初の場所である。
今現在も試練をクリアしている人がたくさんいるらしく、二分に一度くらいプレイヤーがワープしてやって来ているのだ。
この町はかなり広い様だが、とにかく人口密度が多い。
これから色々と見て回る予定なので、詳しい事はまだよく分からないのだが、ほとんどのプレイヤーが、初期装備の布の服を装備していない事からして、どこかに売ってあると予想できる。
そんな街の中に、イケメンでハンサムで、格好良くてモデルの様な一人の男がログインした。
そう俺だ。
着ている服は布製で小汚いのだが、そんな身なりにも負ける事の無い中身があり、更に内面も良い。
そんな完璧で非の打ち所が全く無い様な俺は、今噴水の近くにあるベンチに座ってとある人を待っているのだ。
え? どんな人かって?
そりゃー、まあ可愛いぜ?
二次元のヒロインレベルにな。
よし、今から五月雨理論を復習しようか。
その待っている人に対する俺の気持ち、知りたいだろ?
知りたくない、もういい、って言っても勝手に教えるぜ?
一つ、三次元の可愛い女の子と二次元のヒロインの好感度は同じである。
もちろんだが二次元のヒロインとは結婚なんて出来ないよな?
それは分かるよね?
だからその二次元のヒロインと、好感度が同じの三次元の可愛い女の子とも結婚が出来ないという事だ。
そして結婚というのは愛する人とするものだよな?
だから二次元のヒロインよりも少しだけ可愛く感じるかな? っていうレベルでは好きとは言えないのだ。
だから俺は今待っている人に対する感情は、好きというものとは違うと考えている。
しばらく色んな人を観察しながら考え事をしていると、少し向こうにいきなり前髪の長い女の子が現れた。
俺と同じ様な布の服を着ているが、俺と同じ様に綺麗な容姿を持っている。
間違いない、俺の待っていた人だ。
その女の子は辺りを見渡して、何かを探している様子でちょっと可愛い。
「おぉーい、あめ!」
俺はベンチに座ったまま名前を呼んだ。
あめはそれでこちらに気付いたらしく、「‥‥‥あ」と小さく呟き歩き出した。
「‥‥‥ひろとくん、待った?」
「いや、一分くらい早く来てただけだから安心して」
「‥‥‥良かった」
実際にそのくらいしか待っていないので、ログインした時間の違いは十秒ほどだと思う。
かなり早い方だろう。
「で、早速なんだけど。今から街の中を色々と見て行かない?」
あめは俺の提案に頷きながら呟く。
「‥‥‥だね。まだ何をしたら良いか全然分からない状態だし」
という事で俺達は人口密度の多い、この街を探索して行く事にした。
少し街中を歩いて行くと、いくつかの事に気付いた。
まず最初にお店について、武器屋や防具屋等はまだ行っていないので分からないが、雑貨売り場とか飲食店を覗いた限りだと店員はNPCの様だ。
中にはプレイヤーが経営してるのもあるだろうが、大抵の店はNPCらしい。
次にこの街について。
ここ始まりの街は、外側が壁で覆われており、外から魔物が侵入してくる危険性は無い。
一応プレイヤー同士では、ダメージを与えられないと思うので、ここの街にいる限りは安全だと言えよう。
因みに出口は正門の一つで、そこから出るともう安全は保障されない。
どれだけ強い魔物がどこに潜んでいるか、どんなダンジョンや街があるのか、それは正門から出て己自身の目で見て行かねば分からないのだ。
もちろん死ぬ確率は色んな所にあるだろう。
死んだら、もう一度小さいサーバーの試練から始めなければいけないし。
この街で色んな事をして、平和に楽しむ方が利口かもしれん。
この街にはたくさんの大会や、アルバイトなどが存在し、それぞれ賞金や給料が支払われる。
だからそのお金を使って、娯楽施設を利用して行くのも悪くは無い。
だが、俺はそんなに地味な生活を送るつもりはないぜ?
誰も行った事のないような迷宮をクリアして、財宝手に入れ世界で一番有名になってやる。
しばらく、人混みを避けながら街中を歩いていると、道路の真ん中あたりに一際目立つ大きな掲示板があった。
今日のイベントという大きい文字の下に、たくさんの紙が貼ってある。
「あめ。あれ見てみよっか」
「‥‥‥ん」
掲示板の目の前には、鉄製の様な鎧を身につけている強そうな人達が数人集まっていて、前側には出られそうに無いので俺達はその人たちの間から覗く。
【腕力自慢求む】
腕相撲大会。
場所・武道館。
開始時刻・14:00。
優勝・5000G。
準優勝・2000G
【風のように駆け抜けろ!】
長距離走大会。
場所・正門前。
開始時刻・17:00。
優勝・10000G。
準優勝・5000G
その他色々なイベントがある。
そのどれもが優勝するとかなりの大金を貰えるらしく、この世界では魔物を倒してもお金は手に入らないみたいなので、出来れば優勝しておきたい。
「たくさんの種類があるな~」
「‥‥‥ひろとくんなら優勝できそうなのが、一つある」
ふとそう呟いたのはあめだ。
ほう、俺の事良く分かっているじゃないか。
「俺もそれは思った。腕相撲大会の事だろう?」
この攻撃力があれば、どんな力自慢がやってきても瞬殺できるだろう。
腰に手を当て自信満々に言ってみると、あめは細い目でこっちを見てきた。
前髪で見えない為、現在細いのかどうかは知らんが。
「‥‥‥無理だと思う」
「え? 何で?」
全く意味が分からないんだけど。
「‥‥‥ステータス画面を見てごらん」
「あ、はい」
ここは人が多くてなんか覗き見されそうだったので、俺は人の少ない道の端っこ辺りに移動し、ステータス画面を開いた。
────────────────────────────────────
Name ひろってぃー 男
Lv 7
称号 隼
H P 10/10
M P 10/10
攻 撃 10
防 御 10
魔 攻 10
魔 防 10
敏 捷 13750
スキル 【敏捷適性(小)】【敏捷適正(中)】【加速】【敏捷適正(大)】【緊急回避】【索敵(小)】
残りステータスポイント 0
────────────────────────────────────
「‥‥‥どう?」
「あれっ? 何で攻撃力が10しかないんだ? こんなんじゃ勝ち目なんてないじゃん」
おかしいなぁ~。
バランス良く振ってきたはずなんだが。
「‥‥‥そういう事。でも敏捷がたくさんあるから、長距離走大会なら勝てると思う」
ほう。
「なるほどな。あめって物凄く頭良いじゃん」
「‥‥‥ん」
となると、これからちぃとばかし頑張らねぇとな。
「でさ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「‥‥‥なに?」
「優勝賞金の半分をあげるから」
「‥‥‥なにを?」
「勿論、あめにもたくさんと得があると思うから」
「‥‥‥」
「だめ?」
「‥‥‥早く言って」
ん? 早く言って?
あらっ、まだ内容を言ってなかったわ。
「おぉ、わりぃー。今から街の外に出て少しレベル上げをしない?」
今この世界での時間は13:30ぐらいだ。
長距離走大会が始まるまでは、まだ三時間以上ある為少しでもレベル上げて敏捷を増やしておいた方が良いだろう。
新しいスキルの性能を試したり、外がどんな感じなのか等、知りたい事もたくさんあるしな。
「‥‥‥私は良いよ」
あめは俺の提案に、うんと頷いた。
やったぜ!
「ありがとう。じゃあ頑張ろう!」
「‥‥‥ん」
俺達はそう会話をし、その場でメニュー画面を開く。
そしてパーティーになった後で、正門へ向かった。
最初はどこに行けば良いか分からなかったが、途中で街全体の地図が貼ってある壁を見つけたので、大体方向を把握する事ができ、無事に正門へ到着出来た。
「うわー、でかいな」
「‥‥‥うん。びっくりした」
外へと続く穴を塞いでいる扉はかなり大きく、NPC? の兵隊さんが二人並んで立っている。
どちらも同じ格好で、鉄の装備一式に鉄の槍。
おいおい、俺より良い装備してるじゃねぇか。
一つくらい寄こせよ。
で、なんかこの辺り、全然布の服を着ている人がいないんだけど。
みんな良い装備をしてんなぁ~。
全部くらい寄こせよ。
俺達は色々と観察しながら扉へ向かっていく。
スタッスタッ
すると、「君達ー!」と言う男性の声が突然聞こえてきた。
声のした方を振り向いてみると、全身鉄の装備で、腰に大きめの剣をさしている優しそうな顔の男性がこちらに向かって来ている。
見た感じ年齢は30代ぐらいだろう。
言ったら悪いけど、どこにでも居そうな人だ。
まあ、俺もなんだけどな。
あめはいきなりの事で怖かったのか、俺の後ろに隠れる。
あらっ、可愛い。
‥‥‥普通に良い人そうだし、隠れるほどでもないと思うけど。
「どうしたんですか?」
俺が首を傾げながらそう返事をすると、男性は真顔で喋り始めた。
「まさかとは思うけど、外へ行くつもりかい?」
何か問題でも?
「まあ、そうですが‥‥‥」
「やめといた方が良い。その装備だと一撃でやられるよ? これは攻略組がたくさんの犠牲を払って調べて行った情報らしいんだけど、この街の外にいる敵は、小さいサーバーにいた魔物とは比べ物にならないほど強くて、敏捷が一万を超えていないとろくに相手の攻撃を躱せないらしく、ダメージを受ける事前提で行かないといけないんだ。だから初期装備だとすぐにやられてデータが無くなってしまうんだよ」
攻略組ですらたくさん犠牲を払ったのか?
「それは本当ですか?」
「ああ、俺もこの街でアルバイトをして貯めたお金を使い、かなり良い装備を揃えているんだけど、多分四発くらい食らったら死ぬと思う」
それだけ金属装備で固めても四発しか耐えられないのかよ。
じゃあ、俺だったら確実にワンパンされるな。
‥‥‥あ、俺‥‥‥敵の攻撃力関係無いわ。
そういえばHP10しかないわ。
防御力10しかないわ。
小さいサーバーの敵が放つ攻撃ですら死ぬわ。
「なるほど。じゃあ大丈夫そうですね」
俺は自信満々にそう答えた。
それに疑問を抱いた男性は「は?」という様な表情をし、質問してくる。
「今レベルいくつだい?」
嘘をついても得が無いし、ここは正直に答えるか。
俺はあめの方を向き、目線を合わせると、自慢げに言う。
「俺達は二人ともレベル7です」
「‥‥‥ん」
そこで男性は「ふっ」と笑った。
「俺は今13あるんだけど、それでも死にかけているんだよ?」
「そうですか」
俺達に、敵の攻撃力なんて関係ない。
「‥‥‥その自信はどこから来るんだ?」
「まあ現時点で、敏捷が一万以上あるので大丈夫かなと」
するとそれを聞いた男性は、驚いた様な氷上をして思わず声を上げる。
「えぇー! 俺でも敏捷は三千しかないのに‥‥‥」
「じゃあ、とりあえず行きますね。何事も経験ですし」
俺が若干面倒くさそうにそう呟くと、男性は頭をかきながら申し訳なさそうな顔する。
「‥‥‥引き止めて悪かったね。まあ、気をつけて」
「はい。ご忠告ありがとうございます」
男性の表情からして、俺の敏捷の数値を完全には信じれていないみたいだ。
だけど他の人がどう思ったって別に良いや。
「あめ、行こっか」
「‥‥‥ん」
いやー、にしても急に相手の速度とか上がるんだな。
だって一万くらい無いと相手の攻撃が躱せないんだろう?
これは気を抜かない方が良いな。
俺達はNPCの兵隊さん二人組に「あばよ!」と挨拶をし、正門の巨大な扉を開けると、街の外へと向かった。
すると視界に、物凄い風景が一気に広がる。
見た感じ山や森等は無く、一面が草原だ。
めちゃくちゃ見通しが良い。
そして一切の段差が見られない。
そう、真っ平なのだ、まるであめの胸の様‥‥‥やめとこう。
なんか殺されそうだわ。
‥‥‥実際あめってかなり貧乳なのだが、そんな事を考えてたら殺されそうだから、やめとこう。
昨日湖の所で、一瞬ブラジャーをする意味があるのか? とかって思ってしまったのだが、考えてたら殺されそうだから、やめとこう。
MS.まな板。‥‥‥やめとこう。
小さいのがまた可愛い‥‥‥やめとこう。
てか、正直に言っても良い?
家の二重底に入ってある聖書の種類を思い出して貰えれば分かると思うけど、俺って大きいやつより、小さい方が好みなんだわ。
変わっているのかな?
高校で周りが結構そんな感じの会話をしているんだけど、みんな大きい方が良いって言うんだよ。
何がどう良いのか分からんわ。
成長していないからこその魅力が分からんのかね?
確かに大きい方が、目の保養になったり、触り心地が良いのかもしれん。
だが待てよ!
一度小さい方の魅力にも、目を傾けて欲しい。
よし、とりあえず、大きい方の悪い所に注目していこうか。
まず最初に、大きい女子は大抵、自己主張が強い傾向がみられる。
私ってこんなにもあるのよ~? 的なのが態度に表れているんだよ。
次に、大胆な服装をしている方々が多すぎて、若干鬱陶しい。
単純に目のやり場に困る。
自分から見せに来ているくせに、見られたら、いやー! とか、なに見てんの、きもっ! 的な感じの事言うんだもん。
じゃあ見られない工夫をしろよ!
てめぇが自分自身の意志で見せに来ているのに、道理が合わんだろっていう話になるだろ!
さて、小さい方の魅力について語ろうか。
「‥‥‥恥ずかしいから、あまり見ないで」
俺が貧乳の良さについて夜通しで説明して行こうかと思っていたその時、あめが小さい声で呟いた。
ん?
「あっ! ごめん」
俺は気付いてしまった。
いつの間にか、横を向いてあめの胸をガン見している事に。
全く自覚が無かったわ。
失礼しました。
「‥‥‥ねぇ。この草原と私の胸を見て、同じだな‥‥‥とかって思ってた?」
‥‥‥おい、鋭すぎだろ。
当たってるよ!
図星だよ!
だがそんな事認める訳にはいかん!
流石に嫌われそうだ。
「い、い、いいいや、全く。あめって綺麗な容姿してるのに、布の服じゃかわいそうだなと思って」
ふっ。俺の頭の回転速度は、神のレベルにまで達しているぜ。
これであめは恥ずかしさのあまり顔を赤くし、胸の事など忘れるだろう。
「‥‥‥挙動不審で怪しい」
‥‥‥って疑われてるじゃん。
なんでだよ!
「いやいや、ほんとだよ。俺って小さくて、ぺしゃんこの方が好きなんだって‥‥‥あ」
やば、ミスった。
さっき考えてた事を言っちまった。
やっべぇぞ!
ゆうとる場合か。
あめは俺の言葉を聞いた途端、今までで一番目を細くし、睨んできた。
まるで獲物を狙っているハイエナの様に。
「‥‥‥どうせ大きい方が良いんでしょ?」
‥‥‥あれっ?
俺が胸を凝視していた事に怒っていないのか?
てっきり俺が胸を見ていたからオコなのかと思ってたんだけど。
‥‥‥まあ、良いや。
よし、その路線で行こう。
「あめ、信じてくれ。小さいのが好きと言うのは本当だ」
「‥‥‥うそ」
どうにも信じられない様だ。
まあ小さい人って、結構自信を無くしがちだしな。
普通と言えば普通か。
「これはガチで本当。俺大きい人無理だし」
「‥‥‥でも男子って大きい方が良いとか‥‥‥よく話しているよね?」
学校のやつらか。
「確かに‥‥‥ほとんどのやつらがそう言ってる。だけど俺は違うんだ。何なら証拠を見せても良いぜ?」
「‥‥‥証拠?」
あめは不思議そうに首を傾げる。
「俺の家に来れば分かるさ」
あの薄い本を見せれば納得するだろう。
俺がナイスな提案をすると、あめは顔をプチトマトの様に赤くし、下を向いた。
そしてしばらくの沈黙が流れた後、俺に聞こえるか聞こえないかくらいの音量でぼそっと呟く。
「‥‥‥いく」
え? 今行くって言った?
マジで!?
「おぉ、分かった。じゃあ部屋を綺麗にしておくよ」
俺は戸惑いながらもそう返す。
自分で提案しておいてなんだが、かなりビックリしています。
だって可愛い女子が俺の家に来るんだぜ?
やる事なんて決まってるだろ!
‥‥‥えっ? 何かって?
ゲームとか読書ですが、なにか?
「‥‥‥あ、明日とかで‥‥‥良い?」
「あ、うん。大丈夫だぜ!」
なんか、かなり急展開だけど‥‥‥嬉しいな。
でもさ、そこまでして俺が貧乳好きかどうか知りたいのかな?
別にそこまで重要な事じゃないと思うんだけど。
まあ、さっきの話の流れからして、そうとしか考えられないし。
‥‥‥まさか俺の家に来たいだけだったりしてな。
まさか俺と一夜を明かしたいだけだったりしてな。
まさかそんな事はないよね?
うん、違うと思っておく。
多分俺の勘違いだからな。
「‥‥‥そ、そろそろ‥‥‥レベル上げ、しよ?」
あめが未だ顔をパプリカの様に赤くしたまま言った。
やっぱりそういう本を見るのは恥ずかしいんだろうな。
まあこれ以上を触れないであげよう。
百聞は一見にしかず!
口でいろいろと説明するより、見せた方が早い。
明日はたっぷりあめに貧乳の素晴らしさを教えてやるぜ。
「そうだな。じゃあまずはあいつを倒してみよう」
「‥‥‥ん」
俺は少し向こうで昼寝をしている、ダンゴムシの大きいバージョンを指差す。
あいつなら先手を取れそうだし、他のプレイヤーも結構遠くで戦っているところを見ると、かなり狩りやすいのだろう。
てかあのダンゴムシ以外見当たらないわ。
よし、巨大サーバーで初めての戦闘だ。
絶対死なないぞ!
「じゃあ乗って?」
俺がしゃがんでそう言うと、あめは周りにプレーヤーが数人いるせいか、少し恥ずかしそうにしながらも乗る。
‥‥‥うーん。なんか体が熱いけど、そっとしておいてやるか。
多分、聖書見る事が恥ずかしくてしょうがないんだろう。
俺は少しゆっくりめに走り出すと、寝ているダンゴムシ君の約一メートル辺りまで近づく。
ここから見ると良く分かるが、こいつかなり気持ち悪いぞ!
目が真っ黒で起きているのかどうか判断できないし、足が多くてガサガサとたまに動いている。
なんかエグイ。
「あめ、【火炎魔法(中)】を撃ってみてくれる?」
見た目が明らかに虫っぽいので火が有効そうだ。
あめは「‥‥‥ん」と頷き、詠唱に取り掛かる。
「汝、我の求むる大炎の力を今解き放て、火炎放射!」
ゴォォォォォォ!!
詠唱が終わるのと同時に、あめの手から炎が一直線に飛んでいく。
「ギィィィィィ」
かなり大きめの炎を食らったダンゴムシ君は一瞬にして飛び起きると、かなり早いスピードでこちらの方向に向かって地面を這って来た。
それにいち早く気づいた俺は、ダンゴムシ君の周りをぐるぐると走り回ると、とにかく距離を取る事に集中する。
もしかしたら遠距離の攻撃を放ってくる可能性があるので、なるべく同じ直線上にはならない様に気を付ける。
確認した限りだと、【火炎魔法(中)】によって与えられるダメージは、およそダンゴムシ君のHPバーの四分の一。
つまり四発当てれば、一匹倒せる計算だ。
俺とあめはとにかく同じ作業を繰り返し、やがて無事に倒す事ができた。
一応遠距離系の攻撃は放ってこなかったが、まだ油断はできない。
でも、もしそういうのが無いのならこのダンゴムシ君、大した事は無いぞ。
だって、そもそもあいつは俺に近づく事ができないからな。
「‥‥‥無事に終わったけど。レベルは上がらなかったね」
俺の背中であめがそう呟いた。
あは~ん。吐息が首元に当たって気持ちいぃわぁ~。
何とも言えんこの温度が良いんだよな。
ちょっと生々しいと言うかさ。
‥‥‥はい、冗談です。
「てっきりすぐに上がるものかと思ってたけど」
「‥‥‥そうだね」
「じゃあ、次行こっか」
「‥‥‥ん」
俺は新たなダンゴムシ君を探す為に、少し控えめに走り出した。
まだ何が起こるか分からないので、一応始まりの街の正門周辺からは離れないようにしておく。
やがて二匹目のダンゴムシ君を見つけ、同じような戦法で戦っていた時、ふとある事に気付いた。
俺達、ずっと見られてる?
ちぃとばかし気配を感じ正門の方を確認してみると、二人の男性がずっとこちらを見て来ていた。
読んでくださりありがとうございます。
次の投稿は二日後の火曜日になります。




