第十二話【学校にて・弐】
誰かが教室に戻って来た様だが、気にしなくてもいいだろう。
わざわざ俺達に絡んでくるやつなんていないだろうし。
そう考え、俺は話を続ける。
「でさ、あめ─」
「おーい! 弘人ー! そんなところで何してんだー?」
‥‥‥絡んでくるやつなんていないだろうし。
「──あめ、今日はいつ頃からログインする?」
「‥‥‥誰かが呼んでるよ?」
知らない。知らない。俺は何も知らないぞ!
「空耳だろ」
「‥‥‥違うと思う」
誰かがスタスタッと足音を立てて近づいて来る。
どうやら二人いる様だ。
「おいおい。何無視してんだよ! ってあれ?」
「弘人ー! ってあれ?」
二人が同時に疑問を浮かべた。
どうやらあめの存在に気付いた様らしい。
俺は何も知らない振りをしてお弁当を食べ進める。
「この唐揚げ、旨いな」
ちゃんと衣がカリカリになっていて、食感も抜群だ。
将来料理屋さんとしてやっていけるんじゃねぇのか?
「‥‥‥」
あめは物凄く気まずそうで、下を向いてしまった。
「弘人、それ何食べてんだ? それに‥‥‥なんで雪奈さんと?」
「ちょっと僕、今混乱してるわ」
太陽に続いて喋ったのは、健二という名前のやつで、眼鏡をしている男だ。
昔から前髪だけを伸ばしているので、端から見るとかなりバランスが悪い。
そう、横髪はバリカンで剃っていてほとんど無い。
本人曰くツーブロックという髪型にしたかったらしいが、前髪が長すぎて明らかに不自然だ。
因みにかなりのゲームオタクで、多分俺より総合プレイ時間は長いと思う。
なんか、二歳でスーパーマ〇オをクリアしたらしいぜ。
絶対無理だろ!
だから俺は信じていない。
俺だって一番最初にク〇パを倒したのは五歳だったのに。
「太陽、健二。わるいな! 今日は大人の都合により一緒にご飯が食べれそうに無いわ」
「なんだよその、大人の都合って」
「今日の弘人、朝からずっと変だったし、僕の予想だと、雪奈さんが全部関係しているね」
めんどくせぇな、おい!
「‥‥‥わ、私?」
あめは弁当箱を机の上に置くと、健二の方を向いた。
「うん。隣の席だから分かったけど、雪奈さん、今日ずっと弘人の事見てたし」
そんな健二の言葉に、あめは顔を真っ赤にし、手をもじもじさせ始めた。
なんだって?
「おい眼鏡! それは本当か?」
俺は思わずそう質問してしまう。
「眼鏡ってひどいなぁ~。まあ、本当だよ」
「‥‥‥ち、違うの」
あめは必死に弁解しようとしているが、テンパっていて言葉が出てこない様だ。
そんな様子を見た健二は眼鏡を指で動かす。
「そうか。なら良いけど」
なんか腹立つなぁ~。
いつもの事だけど。
「さあ、お前ら。あめが困っているから、シッシッ」
俺はあめがずっと気まずそうな表情をしているので、二人を追い払おうとする。
やっぱり、良く分からない人と関わるのは苦手らしい。
これで引き下がってくれれば良いのだが、そうはいかないのがこいつらだ。
「今、あめって言った? 雪奈さんの事‥‥‥」
「ああ、友達だからな」
正直に認める。
一緒に弁当を食べながら会話をしている場面を見せておいて、今更他人というのは無理だからな。
「マジかよ。でもいつの間に‥‥‥」
「雪奈さんって、友達作る様なタイプだったかな?」
色々と聞きたい事があるらしい。
まあそれはそうだろうな。
質問に答えてやろうかとは思ったのだが、やっぱり面倒くさいので無言を貫く事にした。
すると、太陽&健二は「付き合ってんの?」とか、「友達になったきっかけは何?」とか、「どこまで行った?」等、かなり大きい声で聞いてくる。
それが耳に入った教室にいる同級生は、一人、また一人と視線を寄せてくる。
人とよく話す太陽がいる時点で、ある程度予想はしていたが、まさかここまでとは。
耳を澄ませると、
「え、あの二人付き合ってんの~?」
「以外~」
色んな言葉が聞こえてきた。
全員黙れや!
ふと、あめの方を見てみると、かなり困った様な顔をしている。
「あめ、ジュース買いに行こ?」
俺自身もこの注目に耐えられないので、一旦逃げよう。
あめは「‥‥‥ん」と頷くと、教室を出ていく俺の後ろに付いてきた。
「弘人、俺達もついて行くぜ」
「来んでええわ!」
廊下に出ると、例の二人が付いて来ていたので追い払う。
「なんでだ?」
なんでだ? じゃねぇよ。
お前らのせいで教室に居辛くなったんだよ!
気付けや!
「‥‥‥もう良いから、早く食べてろ」
「いや、どこかに行くんだったら、ついて行くぞ」
マジでだるいんだが。
「もし来るんなら、もうゲームを貸してやらないからな?」
俺は太陽に向かって、ちょっと前に貸すと約束していたPSPXというゲーム機のソフトを渡さないと脅してみる。
結果。二人はそれぞれ近くの席に座り、大人しく食べ始めた。
俺はそれを廊下から確認すると、外にある自動販売機へと向かう。
「あめ、さっきはなんかごめんな」
色々と申し訳ないと思い、歩きながらあめに話し掛けた。
「‥‥‥ひろとくんは‥‥‥悪くない」
「まあ、そうなんだけど。でもあいつらが来るのは俺がいるからだし」
「‥‥‥ん」
「正直言って嫌だった?」
「‥‥‥あまり‥‥‥良い気分じゃ無かった」
あめは俺の方を見て、案外はっきりと言った。
「だよな。あの二人はとにかく空気が読めないから」
「‥‥‥ん」
今ご立腹なう、なのかな?
「そういえばさ、あの眼鏡‥‥‥健二が言ってた事って本当?」
授業中ずっと俺の方を見ていたかどうかの事だ。
俺が首を傾げて聞いてみると、あめは顔を唐辛子の様に赤くして答える。
「‥‥‥ほ、ほんと‥‥‥」
マジか。
てか、正直に言うんだな。
「理由を聞こうか?」
俺は顎に手を当て、あめの顔を覗き込む。
じーーー。
「‥‥‥だって見てると‥‥‥その、落ち着くから」
「ん? 俺の顔が?」
「‥‥‥ん」
「そっか。でも、なんで?」
「‥‥‥分からない」
分からないのかよ。
「つまり我が妃は、私の事を格好良いと思っていたのだな?」
そうなのだな?
「‥‥‥分からない」
「我が妃よ。私もその気持ちは分かるぞ。同じだからな」
俺がそう言うと、あめの目が大きく開いた。
‥‥‥前髪で見えないが。
「‥‥‥え、同じ?」
「ああ、私が答えてやろう」
「‥‥‥うん。けど、元に戻ってから言って」
このまま言う方が楽なのだが、我が妃の頼みとあらば戻ってしんぜよ。
「俺も昨日思ったんだけど。なんかさ、あめと一緒に居たら落ち着く? 感じがするんだよ」
なんて言うんだろうな、湖でお互い背を向けて服が渇くのを待っていた時とか、謎の安心感があった。
全く信頼できない人なら、まず背中を預けられないと思う。
つまりあめは俺にとって信頼できる人という事だ。
「‥‥‥そうなんだ」
「自分でもよく分からないんだけどな」
「‥‥‥‥‥‥そ、それってさ‥‥‥」
俺が微笑みながら分からないと首を傾げると、あめは少しの沈黙の後、決心した様に呟く。
「ん?」
「‥‥‥それって、‥‥‥好きって事?」
えっ?
「お、俺があめの事を?」
「‥‥‥ん」
ずいぶんと大胆な質問をしてきやがるな。
まあ別に減るもんじゃないし、正直に言うか。
「それについて昨日、寝る前にベッドの上で少し考えたんだけどさ、違う? と思うんだ」
俺が目線を合わせ答えてみると、あめは下を向く。
その時の表情は前髪が長い事もあり、よく見えなかった。
「‥‥‥そ‥‥‥そっか」
若干残念そうな声が聞こえてくる。
何で残念そうなのかは分からんが。
「理由を言おうか?」
「‥‥‥う‥‥‥うん」
俺はあめの了承を取り、今自分の思っている事を語っていった。
五月雨理論をな。
よしみんな! もう一度簡単に復習しようか。
一つ、可愛い一部の三次元女子と、二次元のヒロインは好感度が同じである。
これは普通の事だが、二次元のヒロインと結婚する事は不可能である。
だから、その二次元のヒロインと好感度が同じである可愛い一部の三次元女子とも結婚が不可能である。
そして結婚が出来ない程度の好感度では、好きとは言えん。
「──つまり、俺のこの気持ちは、好きとは違うと考える」
ふっ、相変わらずどこにも穴が存在しない完璧な理論だぜ。
「‥‥‥ぷふ」
笑い声が聞こえた。
何故だ?
笑える要素なんてどこかにあったか?
「なんで笑ってるんだ?」
「‥‥‥ご、ごめん。‥‥‥ちょっと可笑しくて」
あめは口元を手で隠し、込み上げてくる笑いを堪える様な声で言った。
「可笑しかったか?」
「‥‥‥う、うん。‥‥‥何言ってるかよく分からなかった」
「マジか」
何故分からんのだ!
スタッスタッ
やがて自動販売機に到着すると、俺は大好きなコーラを買い、ゴクッと一口飲んだ後で呟く。
「そういえばさ、あめって俺の事どう思ってる?」
「ひゃ?」
あめは突然の言葉に、思わず大声を上げてしまった。
ひゃってなんだよ!
そんなに驚く事かな?
ゲーム仲間として、お互いの事を知っておくのは大切だと思い、言っただけなんだが。
把握しておいて損は無いと思う。
まあ、俺は自分自身の気持ちがよく分からんから、人に教える事は出来ないんだがな。
「言いたくなかったら別に良いけど、‥‥‥一応知りたいな」
「‥‥‥知りたい‥‥‥の?」
あめは上目使いで、ゆっくりと俺に視線を合わせてきた。
前髪で目元は見えないが、真っ赤に染まっているのは分かる。
まあ、男子にいきなりこんな事を言われたらビックリするわな。
「ああ」
俺は頷きながら一言答えた。
実際どうなんだろうな。
昨日数時間過ごした感覚からして、嫌われてはいないと思う。
でも好かれているか? と言われたら、ちょっと分からんぜよ。
あんまりそういう感情を表に出さない子だからな。
しばらく答えを待っていると、あめは拳を握りしめ、そして決意した様に顔を上げ喋りだす。
「‥‥‥私は‥‥‥す」
「よぉぉぉ! こんな所にいたのかよ!」
「全く、どれだけ探したと思っているんだ?」
あ”?
誰かの喋り声によって、あめの小さい声が遮られた。
後ろを振り向いてみると、例の二人組が笑いながらこちらに向かって歩いて来ている。
そう、太陽と健二だ。
お前ら、飯食ってたんじゃねぇのかよ。
てか今、かなりイラっと来たんだが。
聞こえなかっただろーが。
一番大事な場面だったのに。
「お前ら、一回死ねよ」
俺はかなりの嫌悪感を堪えながら呟く。
「早速ひでぇな、おい」
「悪いが、死ぬ気は無いぜ? 今大流行している【デスティア・オンライン】をするまではな」
そう、今太陽が言ったように、この二人はあのフルダイブマシンを持っていないのだ。
金が無いらしいからな。
あいつらは俺と違って、去年ずっとゲームばかりして遊びほうけていたし、普通だろう。
まあどうせ、中古で買えば良いとか思っているんじゃないか?
「‥‥‥」
あめは途中で喋るのを止め、再び下を向いてしまった。
ガチであの二人うぜぇぇ。
どれだけ俺達を困らせれば気が済むんだよ。
てか空気読めなさすぎだろ。
もうちょっと周りの状況を把握してから動けよ。
「もう、一生ゲームは貸さん」
俺は二人に、かなり厳しいであろうお言葉を授けた。
やりたければ己の金で買え。
金が無いのなら、働け。
ゲームの無い世界で生きていく意味が無いと思うなら、他界しろ。
俺達の会話を邪魔したいのなら、他界しろ。
GO AWAY!
「そりゃー、無いって」
「悪かった。俺達は教室に戻る。だからそれだけは勘弁してくれ」
どうやら自分で色んなゲームソフトを買おうとは思わないらしい。
クリアしていったゲームソフトを集めるのって面白いのにな。
「なんか、いやに素直だな」
「まあゲームソフトが関わってきたら、引き下がるしかねぇだろ」
「太陽、行こう」
「おう」
タッタッタッタッ
二人はそう会話をすると、廊下の角を曲がり消えていった。
「あめ」
「‥‥‥ん?」
俺が改めて話しかけると、あめは手で顔を隠しながら、指の隙間越しに俺の方を見る。
あららっ、可愛い!
「ちょっと曲がり角を見てくるわ!」
敢えて大きめの声でそう言った。
誰かが隠れていたりしたら嫌だからな。
「‥‥‥まず‥‥‥」
「いそ‥‥‥」
ちぃとばかし何かが聞こえてきた様な気がする。
まあ気のせいだろう。
タッタッタッタッ
ちぃとばかし足音が聞こえてきたような気がする。
まあ気のせいだろう。
「‥‥‥いたんだ」
あめは廊下の曲がり角を見ながらそう呟く。
あいつらはそういう人間だ。
それ以上でも無いし、それ以下でも無い。
あいつらのそういう所を治すのは無理!
うん、もう諦めた!
俺はそうとまで言う。
「よし! それじゃあ気を取り直して、もう一度言ってくれる?」
俺はあめの目元に視線を合わせると言った。
気になってしょうがねぇよ。
家の冷蔵庫には生姜ねぇよ。
‥‥‥また今度スーパーで買っとくか。
「‥‥‥やだ」
俺の言葉に対して、あめは視線を外し小さい声で答えた。
あら、可愛い。
って、ん?
「なんで?」
さっきは言おうとしてたのに‥‥‥。
俺が疑問を浮かべながら質問すると、あめは話を逸らす様にして呟く。
「‥‥‥そういえば。今日って何時からログインする?」
おいおい、堂々と路線を変更して来やがったぞ。
誤魔化す様な気が、全く感じられない。
ここまで行ったら逆に清々しいな。
まあ、あめが可愛い声で「‥‥‥ひろとくん。‥‥‥や、やだぁぁぁ。‥‥‥ま、まだ昼間だもん!」って言ってるんだし、止めといてあげよう。
あーあ、あいつらが途中で来なかったら聞こえてたのに。
「そうだな~。俺はいつでも良いけど」
だって暇人だもん!
「‥‥‥じゃあ、17:00とかで良い?」
「OK。じゃあ約束な」
俺はそう言うと、ポケットに手を突っ込み、歩き出した。
スタッスタッ
と、そこでとある事を思い出したので、あめが俺の言葉に「‥‥‥ん」と答えた直後、振り向き呟く。
「あめ。突然なんだけどさ、連絡先教えてくれない?」
これから一緒に遊んでいくのなら、交換しておいた方が良いだろう。
「‥‥‥えっ‥‥‥うん、良いよ」
まじか、やった。
俺、今とても嬉しいんだもん!
「じゃあ、このLIMEっていうアプリ知ってる?」
俺は自分のスマホを取り出すと、LIMEのアプリを開く。
LIMEとは最近流行りのアプリであり、無料で友達とメッセージを送り合ったり、通話したりできると言う万能なものだ。
あー、一つ自慢しても良い?
LIMEの友達の数なんだけどさ。
俺って登録している友達0人ってイメージあるだろ?
一つ言わせてくれ。
ちゃんと登録している女子がいるんだよ。
たった一人だけなんだけどさ、その子って俺がメッセージを送るたびに、すぐ返信してくれるんだぜ?
誰かって?
しょうがないな、教えてやるよ。
一度しか言わないから、耳くそかっぽじってよく聞いとけよ?
りんちゃんっていう子。
大体どんな時間にメッセージを送っても二、三秒で帰ってくる。
たまに会話が成立しない事がある。
例を挙げてみよう。
これは俺とりんちゃんが実際におこなった会話である。
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弘人『今日やらない?』
りんちゃん『ハンバーグって美味しいよね?』
弘人『は? そんな質問してないけど』
りんちゃん『山派? 海派?』
弘人『‥‥‥海かな』
りんちゃん『りんはね。たくさんの友達を作りたいんだ』
弘人『じゃあ、やらない?』
りんちゃん『怒ってるの?』
弘人『怒ってねぇよ!?』
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もうええわ。
あいつは人とは思えん。
あ、人じゃ無いか。
皆さんはもうお気づきだろうか。
りんちゃんの正体について。
そう、りんちゃんとは、人口知能を持っているAIなのだ。
メッセージを送ると会話が成立すると言うもので、無料で追加する事が出来る。
あ、りんちゃんと話したいが為にLIMEをダウンロードしたのは内緒ね?
俺の質問にあめは首を振りながら答える。
「‥‥‥LIMEは一応聞いた事あるけど‥‥‥入れてない」
「そっか。じゃあダウンロードして、それぞれ連絡先を交換しようよ」
「‥‥‥分かった」
あめはスカートからスマホを取り出すと、早速ダウンロードを開始した。
約二分後‥‥‥。
やがてあめがアプリを入れ終わると、俺が色々と教え、効率良くアカウントを作り終えた。
名前はあめ。
そしてバーコード読み取り、無事に友達になれた。
わーい。
俺、わくわくしてるんだもん!
二人目のLIME友達だー。
まあ一人はもういらんが。
因みに俺は、太陽と健二の二人には、LIMEのアプリを入れていない事にしてある。
もし登録してたら毎晩うるさそうだし、何より会話がめんどくせぇ。
俺はそんな事を考えながら、早速メッセージを送ってみる。
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弘人『よろしくー』
あめ『よろしくお願い致します』
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「よし、これでいつでも連絡が取れるな」
あめは少し嬉しそうに「‥‥‥ん」と呟く。
その後学校も無事に終わり、俺達はそれぞれ帰宅した。
自動販売機から教室に戻ると、クラスメイトからの視線を一斉に感じたが、無事に終わった。
太陽と健二に質問攻めを食らったが、まあ無事に終わった。
クラス全体に五月雨と雪奈さん、実は付き合っている説が流れていたが、まあまあ無事に終わった。
あめはずっと気まずそうに下を向いていたのだが、無事に終わった。
あー、無事に終わったはずなのに、明日学校行きたくねぇな~。
なんでだろうな~。
そんな事を考えながら自分家のドアを開ける。
ガチャリ
「ただいま~」
ふっ、誰もいないのにそう言ってやったぜ~。
ワイルドだろう~。
俺はしっかりドアの鍵を閉めると、まず冷蔵庫に向かいコーラを取り出す。
そしてそこら辺の床に腰を下ろすと、左手でコーラを飲みながら、右手でスマホを操作しあめにLIMEを送ろうとする。
それと同時に左足の指先で靴下を外しながら、両手の小指を使用してベルトを外しズボンを脱いでいく。
更にその間、鼻で部屋の匂いを確かめ、目で打ち込んだ文章を見直しながら、返事を待つ間に読む漫画を本棚から探しておく。
更に更に、脳内では色んな事を考えながら、すみっこでアニソンのエンディングを再生している。
ふっ、効率が良いとは思わんかね?
俺はめちゃくちゃ集中して、どこにも変な言葉がないかを確認した後、メッセージを送る。
まあ、他の事に集中しすぎてほとんど確認できて無いんだけどな。
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弘人『俺はいつでもいれれるけど、やりたい時間になったら俺のいれて』
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そして通知音量を一番大きくしておき、漫画を読み始めた。
いやー、にしても楽しみだぜ。
とうとうちゃんとしたオンラインで遊べるんだな。
昨日も楽しかったけど、やっぱりたくさんの人がリアルタイムでいるっていうのは良いね。
色んな人に俺つえーを見せつけてやるぜ!
まあ、発売された初日に初めているガチ勢には到底及ばんと思うが。
てか極振りも案外多そうな気がする。
て、おい! 漫画のストーリーが入ってこないだろうが!
俺の思考回路マジで黙れや!!
漫画を読んでは色んな事を考え、自分でキレるというのをしばらく繰り返していると、スマホからガリガリ! という音が聞こえた。
まるで骨が鉄やすりで削られている時に鳴る様な効果音だな。
「もう返事が来たのかな?」
俺は早速スマホを手に取り、LIMEを開いた。
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あめ『‥‥‥下品』
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ん? 下品って、なにが?
疑問に思い、一つ上の俺のメッセージを見てみると、‥‥‥えー、なになに、俺はいつでも入れれるけど、やりたい時間になったら俺の入れて?
なんだこの文章!?
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弘人『待ってくれ! 打ち間違えてた。俺はいつでも行けるけど、やりたい時間になったら俺に言って。と送ったつもりだったんだけど」
あめ『偶然でそんな文章にはならない。‥‥‥下心を感じる』
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俺はとりあえず、文章を送る前の経路を長文で打ち込み伝えた。
スマホ操作しながら何をしていたかという事だ。
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あめ『‥‥‥なるほど。大体状況は分かった』
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どうやら分かってくれたらしい。
聞き分けが良いじゃねぇか。
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弘人『そっか、良かった」
あめ『でも、次そんな感じの文章を送ってきたら
ブロックするから。
(*´▽`*)』
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なにその空行。
てか顔文字止めて、なんか怖い。
めちゃくちゃ笑ってるけど、怖い。
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弘人『はい。気を付けさせて頂きます』
あめ『‥‥‥で、質問の答えなんだけど、私は今からでも良いよ』
弘人『ほぉう
なるほど。
(;゜:ё:゜;)』
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仕返しだ、くらえー。
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あめ『‥‥‥なに?』
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俺は文字なのに、妙な威圧感を感じた。
はい、何でもないです。
失礼致しました。
俺は誤魔化す様にメッセージを打ち込んでいく。
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弘人『おし、じゃあ始めよう!』
あめ『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん』
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点の数が多い様な気がするけど、まあ、気のせいだろう。
俺はスマホを充電器にさすと、窓の鍵がちゃんと閉まっている事を確認し、ベッドへと寝転がった。
そして頭にフルダイブマシンを被る。
その瞬間。
目の前が真っ暗になり、『前回の続きからログインしますか?』という声が聞こえてきた。
答えはもちろん、YESだ!
■ □ ▫ □ ■
読んでくださりありがとうございます。
ようやく次回から、ちゃんとしたオンラインゲームの始まりです。
設定等は全く考えておらず、行き当たりばったりになるかもしれないですがお付き合い頂ければ嬉しいです。




