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第十話【試練】

 その叫び声は、今までのゴブリンやガーゴイル達の唸り声の音量を格段に上回る大きさだ。

 正直ビックリした。


 尿が漏れるかと思ったぜ!

 念の為にムーニーマ〇のおむつを履いておくべきだったぜ!

 いや、個人的にはナプキンの方が良いかな?

 ‥‥‥ってそんな冗談を言っている場合じゃ無いだろ!

 俺は言葉が出るよりも先に、上を向いた。


 するとそこには、とても大きなオレンジ色の竜がこちらに向かって降下して来ていて、結構なスピードだ。

 あれっ?

 これって避けないと当たるよな?


 ダッ


 直感でそう感じた俺は、急いで雪奈さんをお姫様抱っこし、ダッシュで向こう側へ走った。

 いきなりお姫様抱っこをされ驚いたのか、雪奈さんは一瞬声を上げる。


「‥‥‥きゃっ! 五月雨くん?」


 ドゴォォォン!!


 丁度端っこに着いた辺りで、背後から激しい音が聞こえてきた。

 俺の直感は正しかったらしい。

 あのままあそこに立っていたら、確実にダメージを食らっていたわ。

 巨大な竜は奇襲に失敗したのが癇に触ったのか、真っ赤な瞳でこちらを睨んできている。


「雪奈さん、いきなり抱っこしてごめんね」


 俺がそう言うと、最初は恥ずかしそうにしていた雪奈さんも、状況を理解した様で納得した様に呟く。


「‥‥‥ありがとう。‥‥‥五月雨くんが助けてくれてなかったら、下敷きになってた」

「良いって事よ」


 俺は雪奈さんを一度地面に降ろすと、なるべく早くおんぶへとチェンジする。

 それと同時に竜がこちらに迫って来た。

 かなりのスピードだ。


 ダッダッダッダッダッダッ


 だが追えないほどじゃ無い。

 正直言って少し遅く見えるくらいだ。


「雪奈さん、何か攻撃魔法の詠唱をお願い!」


 俺は竜の突進を避けながら指示する。

 こいつ、ガーゴイルと同じくらいの敏捷か?


「‥‥‥ん。任せて」


 雪奈さんはその返事と同時に、火弾ファイアーボールの詠唱を始めた。


「グギャオォォォォ!!」


 一方この竜は、俺に攻撃を躱されているのが腹立たしいのか、咆哮を上げながら勢いで突進してくる。

 こいつ、なんかワンパターンだな。

 だが、油断はしない様にする。

 HPが一定以上減ったら急に行動パターンが変わる可能性があるからな。

 俺は警戒しながらも横にずれ、竜から逃げる。


 と、そこで雪奈さんが一発目の魔法を放つ。

 火弾ファイアーボールは一番最初に習得していた技で、一番威力の無いやつだ。

 これでどのくらい与えられるんだろうな。


 ボウゥゥ!!


 赤色の炎の弾は、竜の背中へと直撃した。

 そして竜のHPバーを確認してみると‥‥‥あれ?

 全然減ってない。


「‥‥‥あんまり効いていない感じだね」

「だな、次は氷の魔法をやってみて。確か覚えてたよね」

「‥‥‥ん」

「グギャオォォォ!!」


 ダッダッダッダッ


 竜は思い通りに行かないのか、イラついている様だ。

 叫び声を上げて、ほとんど勢いだけで向かって来ている。


「よいしょっと!」


 タッ


 俺は横にステップをし、先程と同じ様に躱す。


「───てつかせよ。氷弾アイスボール!」


 ヒュォォォ。

 ダンッ!!


 詠唱が終わると共に、火弾ファイアーボールよりも速い速度で、氷の塊が一直線に飛んで行った。

 それをまともに顔面へ食らった竜は、一瞬辛そうな表情を浮かべるが、すぐに切り替えて、こちらへ突進してくる。


 ダッダッダッダッ


 竜のHPバーを見てみると、目で確認できるほどには減っていた。

 だが、結構な数を当てないと絶命させられないだろう。

 見た感じ雪奈さんのMPは余裕で足りる。

 つまり俺が竜の攻撃をすべて避けれられるかどうかで、この勝敗が決まってしまう。


 俺は迫ってくる竜の突進を躱しながら言う。


「雪奈さん、その氷魔法をなるべくたくさん打つ事だけに集中してて。他は俺が頑張るから!」

「‥‥‥任せて!」


 頼もしい返事が聞こえていたので、俺は竜から逃げる事と雪奈さんの詠唱だけに集中し始めた。

 氷弾アイスボールの詠唱が終わる瞬間くらいに、少しスピードを緩め、雪奈さんが竜に魔法を当てやすい状況を作り出す。


 正直作業ゲーだ。


 しばらくして‥‥‥。


 竜のHPバーは半分を切った。


「よし、やっと半分だ」

「‥‥‥意外と順調」


 相変わらず竜は俺達に向かって突進してくる。

 俺は同じ様に横へとステップし躱す。

 と、その時。

 竜が途中で突進を止め、体を回転させたかと思うと、尻尾をこちらに薙ぎ払ってきた。


 ブンッッ


「おわっ!? マジかよ!」


 集中していたお陰で何とか見えた。

 俺は急いでジャンプをすると、地面すれすれで来ていた尻尾を飛び越える。


 スッ


 あぶねぇ。

 こいつ、いきなり行動パターンを変えて来やがった。

 そうしている間にも、雪奈さんによる氷攻撃は続く。

 その弾丸は相手のHPバーを確実に減らして行っているのだ。


 問題は俺の方だ。

 ちょっと動きが不規則になって来ているから、全部に反応出来るか分からんぜ?

 グルグルと逃げ回れれば良いのだが、狭すぎてすぐに捕まりそうだ。

 それは向こうも同じみたいで、下に落ちない様に気を使いながら突進等をして来ている。

 だから全力が出せないのだろう。


 更にしばらく経ち、竜のHP残量は残り少しとなった。

 俺はだんだん不規則になって来ている攻撃をすべて避け、ちょっと精神的に疲れてきたぜ。

 何度か当たりそうになったのがあるしな。

 特に一番やばかったのが、尻尾の薙ぎ払いをジャンプで躱し、少し気が緩んでいた時に、その尻尾が往復で帰ってきた時だ。

 急いでジャンプをしたので、何とかすれすれで避ける事が出来たのだが、ガチで怖かった。


「─氷弾アイスボール!」


 ダンッ!!


 竜は雪奈さんの氷をほぼ全部食らっており、いたるところから、血が出て来ている。

 良く目を凝らしてみると、歯は数本折れていて、翼も所々破れている。

 これは行けるぞ! と確信した。

 ──その瞬間。


 竜が突然その場に立ち止まり、じっとこちらを見つめ始めた。


「あれっ? あいつ動かなくなったぞ」


 俺は疑問に思い、そう口に出す。

 今までこんな事なかったのに。

 ‥‥‥まさか、諦めたのかな?


「‥‥‥こっちを見てる」

「今のうちに魔法を使って倒せば良いんじゃないか?」

「‥‥‥ん」


 そう会話した直後!


 竜の口が大きく開いた。

 だが叫び声や咆哮は聞こえてこない。

 なんだあいつ?


 その刹那──。

 あいつの口が真っ赤に光った。

 俺は一瞬理解が遅れる。

 竜が物凄く巨大な火弾ファイアーボールをこちらに向かって放って来たのだ。


 ゴォォォォォォォォォ!!


 マジかよ!

 だが横に動けば何とか動けるかもしれない。

 そう判断した直後、あの竜はそれをすでに予想しているかの様に、尻尾で薙ぎ払って来ていた。

 つまり、火弾ファイアーボールを躱すために横へステップしたら尻尾にやられる。

 反対側に移動してもすぐに尻尾が追いついて来るだろう。

 尻尾の薙ぎ払いを避ける為にジャンプなんてしてたら、絶対にあの火弾ファイアーボールに当たってしまう。


 くそっ、これって積みなんじゃねぇのか。

 かなりやばいだろ。


 ‥‥‥。

 ‥‥‥いや、一つだけ方法があるかも。

 あれなら何とかなるかも。

 確信は無いが、何もしないよりは良い。


 俺とっさに良い事を思い付き、横へステップするのと同時に、頭の中で考えた。


『スキル【加速】──』

『はい!!』


 俺は最後まで声を聞かずに返事をする。

 すると俺の体に赤色のオーラが纏い、自分以外の動きがすべて少しだけ遅く感じた。

 俺は急いで横にステップすると、火弾ファイアーボールを躱し、すぐ近くまで迫って来ていた尻尾を、ジャンプで飛び越える。


「‥‥‥すご‥い」

「雪菜さん、もうちょっとだ! 氷魔法をお願い」

「‥‥‥ん」


 竜は薙ぎ払った尻尾を往復させ、俺たちに当てようとしてくる。


「余裕で見える」


 今度はジャンプでは無く、バックステップで避けた。

 それと同時に雪菜さんが氷弾アイスボールを放つ。


 ダンッッ!!


 偶然なのかどうかは分からないが、その氷の塊は竜の口内へと入っていった。

 竜は「グギャァァァァ」と、今までで一番大きな叫び声をあげる。

 確かに今のは痛い。

 想像するだけでも苦痛だわ。


 ‥‥‥。

 雪菜さんって意外とSなのか?

 そうなのか?

 言っとくが俺はMじゃ無いからな?

 そういうプレイをする気は無いぜ?


 まあなんにせよ、竜のHPはほとんど真っ黒で、あと一発当てれば倒せるだろう。


「ラスト一発!!」

「‥‥‥任せ‥‥‥て!」


 竜は痛みで我を失っているらしく、尻尾を振り回しながら暴れている。

 俺はそんな様子の竜と一定の距離を保ちながら、雪菜さんの詠唱を待つ。


 すると突然、竜の行動パターンが変化しやがった。

 ただ一直線に、こちらにめがけて走って来る。


「グギャァァァ!」


 俺は、冷静に横ステップをしようとする。


 と、その時!

 竜の突進スピードがいきなり早くなった。

 ‥‥‥いや、俺の加速時間が終わったのだ。

 あくまで加速中の間隔で動いていた為、俺は少し戸惑ってしまう。


 やべっ、間に合わない!?


 突然のスピードの変化に、少し驚き立ち止まってしまったのだ。

 俺は急いで地面を蹴り上げ、回避しようとする。

 しかし圧倒的に時間が足りない。

 もう竜は目の前まで迫っていたのだ。

 竜は口を大きく開けて、今にも俺達に噛みつこうとしていた。


 普通のプレイヤーなら耐えられる様な攻撃だろうが、俺の場合は違う。

 恐らくゴブリンの一撃ですら死んでしまうのだ。

 だからこんな巨大な魔物の攻撃なんて耐えられる訳が無い。

 幼稚園児でもわかるわ。


 この時俺は決意した。

 一度くらいなら死んでも、生の指輪で回復すれば良い‥‥‥と。

 諦めてしまったのである。

 今からどう足掻いても不可能だ。


 竜の生温かい息が、俺にかかった。

 何とも言えない匂いがする。

 正直不快だ。

 俺は匂いと恐怖で、思わず目を閉じてしまう。


 そして来るであろう、死の間隔を待った。

 死とはどんなものなのだろう。


 妙にちぃとばかし時間が空き、やがてバリィィィン!! と、ガラスの割れた様な事が響いた。

 そういえばゴブリンとか、蛇を倒した時もこんな感じの音、鳴ってたよな?

 そうか‥‥‥プレイヤーが死んでもそういう音がなるんだ。


 その後、更に変な音が聞こえてくる。


 ピコリーン!!


 という感じのが合計で4回ほど聞こえてきたのだ。

 これってあれだな。

 まるでレベルアップした時に鳴る音みたいだな。


 生の指輪で復活しても、この音が鳴る仕組みなのか‥‥‥。

 このゲーム‥‥‥結構そういう効果音を使い回しているんだな。


 俺はそろそろ復活しているだろうと思い、そっと目を開けた。


 パチッ


 ‥‥‥。


「ありゃっ?」


 目を開けると、そこにオレンジ色の竜の姿は無い。

 何であの竜がいないんだ?

 バグか?


「‥‥‥良かった‥‥‥なんとか間に合った」


 ふとそんな声が聞こえてくる。

 雪菜さんだ。


「間に合ったって‥‥‥倒したの?」


 竜がどこにもいない事を確認し、雪奈さんを地面に降ろしながら、そう質問した。

 雪奈さんは地面に足を降ろすと、背伸びをしながら答える。


「‥‥‥ほんとに噛みつかれる直前だった‥‥‥何とか氷弾アイスボールの発動が間に合って‥‥‥倒せた」

「‥‥‥そっか。‥‥‥良かったー!」


 いや、ほんとに死を覚悟してたわ。


「‥‥‥良かったって‥‥‥五月雨くん‥‥‥見てなかったの?」


 俺のそんな反応に、雪奈さんはじっとこちらを見つめて来ながら、不思議そうな表情をして言った。

 俺は、申し訳ないと言う気持ちを込めて呟く。


「‥‥‥正直言うと、回避が間に合いそうに無かったから、一度死んで生の指輪を使う気でいた」

「‥‥‥私の詠唱聞こえて無かった?」

「ああ、突然加速の効果が切れて、戸惑っていたから‥‥‥全くそっちに気が行って無かったわ。ごめん」


 素直に謝ると、雪奈さんは首を振る。


「‥‥‥ううん。それなら仕方ないよ。‥‥‥加速を実践で使ったのは初めてなんだし」

「そう言って貰えるとありがたい。だけど最後のは俺のミスだった。もうちょっとで二人ともダメージを食らっていたかもしれないしな」


 俺だけならともかく、二度も雪奈さんにダメージを与える様な事があっては、男として恥ずかしい。

 一度蛇の攻撃を庇って貰ってるんだし。


「‥‥‥私は最後五月雨くんが立ち止まったのは‥‥‥てっきり、私の事を信じてくれていたからだと思ってた」


 えっ?


「俺が雪奈さんの事を?」

「‥‥‥うん。私が最後とどめを刺せるって」

「いや。なんか‥‥‥申し訳無いです」


 今、結構罪悪感がある。

 そんな事微塵も考えて無かった。

 加速の終了時間も考えず、ぎりぎりのタイミングで動いていたら、効果が切れた時に危ないって言うのは、少し考えれば分かっていた事だ。


「‥‥‥謝らないで。現に倒せているんだし」

「それはそうだけどさ‥‥‥」

「‥‥‥一人で戦っていた訳じゃ無いんだよ?」

「え?」

「‥‥‥二人で協力して戦ったんだから‥‥‥どっちが悪いとか無いと思う」


 素直に納得出来ないが、確かにそういう考えもあるな。


「‥‥‥うん」

「‥‥‥だから、一緒に勝利を誇ろう?」

「うん」

「‥‥‥現に五月雨くんがいなかったら‥‥‥勝てていなかったんだし」

「‥‥‥うん。‥‥‥はは」


 思わず笑ってしまった。


「‥‥‥どうしたの?」


 雪奈さんは不思議そうに首を傾げる。


「‥‥‥いや、なんかお互いの喋る量が入れ替わっている事に面白くなって来た」

「‥‥‥え」

「いつもは俺が長文を喋っているだろ?」

「‥‥‥そういえば」


 雪奈さんは俺に言われて恥ずかしくなって来たのか、顔を赤くし始めた。


「はは、でも、そっちの方が良いと思うぞ?」

「‥‥‥しばらく、長文は喋らない」

「なんで?」

「‥‥‥気づいたら恥ずかしくなって来た」

「まあまあ、そう言わずに」

「‥‥‥あ、中央に何か落ちてる」


 雪奈さんが目線を逸らし、そう呟いた。

 話をすり替えおった。

 俺は誤魔化す為に言ったのではないかと思いながらも、一応中央辺りを確認してみる。


 するとそこには、約5センチくらいの水色の結晶が落ちていた。


「‥‥‥ほんとだ。ちょっと行ってみよう」

「‥‥‥ん」


 俺達はそれが何なのか確認しようと、中央へ歩いて行く。


 タッタッタッタッタッ


「綺麗だな‥‥‥」

「‥‥‥うん」


 一言ずつ言葉を交わして、更に近づいていくと、突然その結晶が光始めた。


「!? イベントか?」

「‥‥‥そうみたい」


 やがて眩い光が収まってくると、そこにはいつぞやの女神さんがいた。

 相変わらずお美しいでございます。


『あなた方は試練に無事合格しました。おめでとうございます』


 透き通った綺麗な声が聞こえてきた。


 やっぱりこれが試練だったのか。

 これとは別に試練があるって言われてたら、流石に心が折れてたな。

 まあ、これでやっと普通のオンラインゲームとして楽しんでいけるぜ。


『プレイヤーのあなた方は、今きっと、試練がすべて終わったと思っている事でしょう』

「は?」

「‥‥‥え?」


 ちょっと何言ってるか分かんないっす。

 ‥‥‥いや、マジで何て言った?

 試練がすべて・・・終わったと思っている事でしょう‥‥‥だと?

 まだあんのか?


『安心してください。終わりですよ』

「‥‥‥」

「‥‥‥」


 殺すぞてめぇ。

 雪奈さんもきっとそう考えている事だろう。

 さっき普通に一回心折れたわ。

 これより難しいのが用意されているのかと勘違いしたわ。

 これを作ったプログラマー、かなり性格悪いな。


『まあ、冗談は置いときまして、これからプレイヤーであるあなた方を、巨大サーバーへと転送致します。少々目の前が暗くなりますが、バグではございませんので、安心して下さい』


 やっと来たぜー。


『なお、転送場所は、【始まりの街】という場所で、そこに着いた直後に魔物から襲われる事は無いので、安心して下さい』


 こいつ、安心して下さいって言うの‥‥‥好きだな。


『また、一度巨大サーバーに行ってしまうと、もう二度とここへは戻って来られないので、三分間待ってやる、です。その間にじっくりとこの小さなサーバーでお過ごし下さい。三分経つと自動で向こうへ転送されるので、ご了承下さい』


 三分間待ってやるだと?

 てめぇはム〇カ大佐かね?


『それでは、またいつか会いましょう』


 いつか会いましょう?

 ハッハッハッハッ、どこへ行こうと言うのかね?


 激しい閃光と共に、女神さんは消えていった。


 ハッハッハッハッ、素晴らしい! この光こそ、聖なる光だ!


「‥‥‥二度と来れないってなると‥‥‥結構寂しいね」


 雪奈さんが少し悲しげにそう呟いた。


 ハッハッハッハッ、これはこれは、王女様ではないか?

 ‥‥‥。

 このノリ、飽きたからもう良いや。


「そうだな」

「‥‥‥三分間の間‥‥‥どうする?」

「その時間じゃ特に行ける所も無いし、会話でもしよっか」

「‥‥‥ん」

「そういえば、区切りが良いし、転送されたら今日のところは止める?」


 俺はどっちでも良いけどな。


「‥‥‥うん。思ったより疲れたし、続きはまた明日にしよっか」

「ああ、分かった。じゃあ次に会うのは学校だな」

「‥‥‥ん」

「で、休み時間とか一緒に過ごす?」

「‥‥‥わ、私は歓迎だけど‥‥‥五月雨くんって‥‥‥学校で起きてたら、二、三人のお友達と話してるよね?」

「あー、あいつらか。‥‥‥まあほっとけば良いだろ」


 確かに俺が起きているのを見ると、すぐにゲームの話とかを振って来るな。

 でも、あいつらと喋っててもすぐに眠くなる。


「‥‥‥ほっとけば、って‥‥‥良いの?」

「おう。雪奈さんと話す方が楽しそうだし、俺自身がそうしたいんだ」


 突然雪奈さんの顔が赤くなった。

 まるでアップルパイの様だ。

 ‥‥‥いや、アップルパイって基本赤くねぇわ。


「‥‥‥そっか‥‥‥」

「明日が楽しみだな」

「‥‥‥ん。‥‥‥じゃ、‥‥‥じゃあ約束通り明日‥‥‥お弁当‥‥‥作ってくる」


 湖で言ってた事、まだ覚えてたんだ。

 だんだん顔の色が、アップルパイから、リンゴジュースみたいな感じに変わって来た。

 ‥‥‥いや、リンゴジュースも赤くねぇよ!


「おぉ。楽しみにしてる」


 ‥‥‥めちゃくちゃ楽しみだぜ。

 雪奈さんの手作りお弁当!


 これでパン代が浮くぜ! ゲヘへ。

 ‥‥‥あ、冗談です。

 俺、そんなに最低なやつじゃ無いからな?

 微塵もそんな事思ってないからな?

 本当だからな?


「‥‥‥ん」


 雪奈さんは俺の返答に、嬉しそうな表情をした。

 君、可愛いねぇ~。


「よーし、じゃあ早く寝よっと」


 俺は学校で寝てしまわない様に、なるべく早く寝ると決意した!


「‥‥‥前から気になってたんだけどさ‥‥‥いつも何時くらいに寝てるの?」


 ふと、そんな質問をしてくる。

 良くぞ聞いてくれました。


「まあ、大体朝の8:30~9:00の間には、眠りに着くけど?」

「‥‥‥え? それって‥‥‥つまり─」

「─そう。家では寝ない。眠りについているのは、基本的に学校の一限目の最中だな」

「‥‥‥」


 雪奈さんが、なんも言えねぇと言った表情で見てくる。


「だが安心しろ。明日は早く眠りにつくから」

「‥‥‥明日って言ってる時点で0時を超えていると思うんだけど」


 ごもっともです。


「ああ、漫画とか小説を読んで約3:00くらいなったらちゃんと寝るぜ?」


 8:00に起きれば学校に間に合うだろうし、睡眠時間は5時間あれば十分だろ。

 いや、多すぎるくらいだな。


「‥‥‥」


 雪奈さんが、細い目で見てくる。

 ‥‥‥前髪で見えないが。


 その後、俺達は適当に会話をしたり、竜を倒してレベルが上がった時に貰えたステータスポイントを割り振ったりして時間を潰した。


 どうやらあの竜、かなりの経験値をくれたらしく、一気に2レベルも上がっていた為、俺達は二人共レベル7となったのである。

 にしても、結構三分って長いんだな。

 意識していると案外経たないものだ。


 しばらくすると、いきなり俺と雪奈さんの体が光を放ち始めた。

 という事は三分経ったのだろう。

 ‥‥‥この光、結構眩しいな。


 目が、目がぁぁぁ!!


 俺が脳内でそんなセリフを流していると、突然目の前が真っ暗になる。

 それと同時に、一瞬体全身が揺れた。





 気が付くと、目の前にたくさんの人がいる街の風景が広がった。

 すぐ正面に噴水があり、水が盛大に噴き出している。

 見た感じ、俺の立っているここは街の中央っぽい。


 てか、迷子になりそうなレベルでたくさんの人がいる。

 正直人が多すぎて、街の仕組みや、お店の場所等、全然見えん。

 まあ、そういうのを探索するのは明日で良いだろう。


「‥‥‥五月雨くん?」


 ハッハッハッハッ、人がごみの様だ! とか考えてたら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「おー、雪奈さん! 久しぶり」


 俺は雪菜さんに手を振る。


「‥‥‥多分十秒ぶりくらい」

「おお、そうか」


 一億年と二千年くらい会って無い様な感覚だったぜ!


「‥‥‥にしても‥‥‥人が多いね」

「俺も今ビックリしてた。流石は巨大サーバーだな」


 周りがたくさんの人で溢れているという事は、少なくともこれだけ多くの人があの試練を突破しているという事だ。

 俺の予想ではもっと少ないと思ってたんだけど。


「‥‥‥じゃあ落ちよっか」

「そうだな。よし、ログアウトボタンを押して‥‥‥ん? あれ?」


 は?

 なんでだ?


「‥‥‥どうしたの?」


 雪奈さんがメニュー画面を開きながら聞いてきた。


「いや、ログアウトボタンが無い‥‥‥?」


 一応端っこまで目を通したが、どこにもログアウトという文字が見当たらない。

 ‥‥‥え? 嘘だろ?

 こんな事ってあるのか?


「‥‥‥ほ、ほんとに?」


 俺のそんな言葉に雪奈さんは少し慌てた様な表情になり、メニュー画面を必死で見始めた。

 俺はもう一度全体に目を通してみる。

 だが、やはり無い。


 これってまさかデスゲームパターン?

 クリアするまで現実世界に戻れず、死んだら終わり。


「‥‥‥ふざけてるだろ」


 若干冷静さを失っている俺に、雪奈さんは静かな声で話し掛けてきた。


「‥‥‥あったよ?」


 ん?

 あんだって?


「‥‥‥マジで? 俺の方には何にも無いけど‥‥‥」


 そこで雪奈さんが何かに気付いた様で、目を細くしながら呟く。

 ‥‥‥前髪で見えないが。


「‥‥‥五月雨くん。それ‥‥‥ステータス画面」

「え? ステータス‥‥‥あ、ほんとだ!」


 目の前に開いてたの、メニュー画面じゃ無かったわ。

 いや、分かりづらすぎだろ!

 ステータス画面が青色なのに対して、メニュー画面はオレンジ色なんだぜ?

 似すぎだろ!

 これを作ったプログラマー、かなり性格悪いな。

 ‥‥‥うん。

 そういう事にしておこう。


 俺は気を取り直してメニュー画面を開き、ログアウトボタンを探す。

 すると、普通にあった。

 ‥‥‥うん。良かった。


「‥‥‥まあ、それじゃあ‥‥‥また明日ね」


 無事にログアウトボタンが見つかり、安堵の表情を浮かべている俺に雪奈さんはそう言った。

 俺は笑顔で手を振り、呟く。


「ああ、また明日な、あめ!」

「えっ? いま──」


 最後にそう言い残し、返事を聞かないままログアウトした。





 ■ □ ▫ □ ■

読んでくださりありがとうございます。


一章 〜 終 〜

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