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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第91話 「ただいま」と「おかえり」

エイプリルフールネタは思い付かなかった…


「風よ騒げ、地を駆け空を駆ける暴風よ、集い散れ......ウインドバーストッ!!」


 中空にまで昇ったパンデミアがアスカの合図に合わせて手の平に浮かばせた魔法陣を握り潰すと、高位の魔法使いの総魔力量を優に超える量の魔力が陣の式のとおりに発動し、大木をも薙ぎ倒す程の暴風がパンデミアを中心とした360°全域に広がった。

 魔物被害が及ばなかった民家を吹き飛ばさないようにするためだけに中空にまで昇ったが、それでも勢い余って破壊される民家は幾つもあった。


 その時、ウインドバーストの向こう側より、目には見えない圧倒的な力が結界の割れ目より溢れてくるのを感じ、急いで地上へ降りるとそこにはいつの間に起きていたのか、杖を前に構えて長い詠唱を唱えている一人の魔法使いの女性の姿があった。


「――そんなんじゃ、ダメでしょ......っ!

 風は防ぐ。何者をも通らせぬ絶壁の守りを今ここに展開せよ! ノトス・フォートレス!」


 最後の一節を唱える前にパンデミアに一喝すると、パンデミアの聞いたことのない魔法が発動された。その魔法に込められた魔力は先のウインドバーストよりも多かった。人一人では決して発動出来ない魔法。だが魔法使いの女性の足元に伸びる三本の線。それらは全て皇帝、少女アンリ、竜人に繋がっており、ウィルガルムでも......否、世界でもトップクラスの三人が魔力を惜しみなく流しているから使えた魔法だったのだろう。既に全員の表情に疲弊の色が見えている。


 魔法の発動には若干のタイムラグがあり、パンデミアの魔法と自然の猛威がぶつかりウインドバーストが耐え切れずに消えた瞬間に発動した。

 緑色のフラッシュのような閃光が放たれた直後、穏やかな風が外に向かう程に強烈な風になりウィルガルムを囲う半円球状のドーム型の渦に成長した。


「風を、横に流しているのか......」


 ドームの中では穏やかなそよ風程度しかないが、ドームより一歩でも外に出れば身を切り刻むような烈風が吹き乱れているのだろう。


 そう冷静に分析したパンデミアは、横目で地に倒れ伏す四人を見やる。


「はぁっ、はぁっ、はっ......、っ。どうだ、これ、がっ、魔法使いのっ、人間の、底力......だっ!」


 過呼吸かと思える程に苦しそうに息を吐きながらも威勢よく声を上げる魔法使い。


「底力、か。確かに魔法は見事ではあるが、搾りカスの貴様らではこの魔法の制御、後始末も碌に出来ぬであろう? ほれ、あの綻びすらも直せまい」


 そう言って指を差す先にはドームにほんの僅かな歪みが。それを指摘された魔法使いは、言い返せないのか、呼吸が辛いのか、それともその両方か、荒い呼吸を繰り返すだけであった。

 だが魔法使いは諦めてはいなかったようで、長杖を支えに蹌踉けながらも立ち上がった。


「見てろよっ、あれくらい、っ、簡単に直してみせる......!」


 その様子はまさに、死物狂いと言った様子だった。明るい茶色の髪は色が抜け落ち毛先が白くなってきており、手足の震えは更に増して目の焦点も満足に合わなくなってきている。終いには咳き込むと同時に吐血までしてしまった。

 それでも決して諦めようとはしないアステルに近付く影が一つ。それは震える身体に鞭を打ち続けるアステルの肩に優しく手を置いた。


「もう良い、アステル。お前はよくやった。休め」

「へ、いか......」


 皇帝ギラオスの心強い声を聞いて安堵したのか、遂にアステルは気を失った。崩れ落ちるアステルを片腕で支え、そっと地面に横たわらせたギラオスは鋭い視線をパンデミアに流した。


「貴様、何故無用にアステルを煽った? 人が無様に足掻く姿が見たいがためか? 答えろ」

「部下が虐められて怒髪天か? 見苦しいな」

「黙れ。貴様はこうなる事を知っていたのだろう? ならば何故止めなかった。見殺しにするつもりだったのか!?」


 そう言ってギラオスは先にパンデミアが指を差したドームの歪みを指差す。そこには歪みなど無く、むしろ発動当初よりも性質の良いものに変わっていた。


「知らぬよ。ただ我は信頼していただけだ。

 別に我はアスカ以外の生物に興味は無い。故にその女が死んだところでどうでもよかった。良かったのだがなぁ......我も少なからず影響を受けているのやもしれぬな。がははははは!」


 後頭部を掻きながら大口を開けて笑うパンデミア。その様子に苛立ちを隠し切れないギラオスは、荒々しく鼻息を吐いた。


「アスカ......銀魔王とは何者なのだ。名だけが広がる異分子......答えろ」


 次から次へと目まぐるしく変わる状況に、流石の皇帝でも疲れた様子で、眉間を揉む。

 心底困り果てているギラオスのその対応を見て、パンデミアは期待外れだったかのように溜め息を吐き呆れたように呟いた。


「質問ばかりで自ら考えもせぬ。その上こちらから話したとしても信じるつもりは無い......。カッ、下らぬ。実に愚かである。

 アスカ風に言うならば、モラルがなっておらぬ、かね。我らの事は黙っておく方が身の為だ、も追加しておこうかね。がはははははっ!!」


 吐き捨てるように一人語ると、アスカとの約束の場所へと向かった。背後からの呼び止める声など聞こえていないかのように上機嫌に笑いながら。















 ――デジャブ感が否めない......。

 そんな事を呟いて急接近する地面に緩衝(エアクッション)の魔法を放つ。今度は魔力が残っているので二の舞にはならなかった。どうしてこうなったかと言うと......



 向こう側から空気が来るならばこちら側からも空気の塊で押し返せばいいのでは、と単純な思考をした私は魔法を発動させてみた。が、それはあのパンデミアさんと同じ発想だったのだ。それは結果を見ての通り、二つ合わせても数秒しか持たなかった。

 それもその筈、風魔法の圧縮空気の移動と言うのは単純故に強い魔法なのだが、今この場には、外よりも大きな空気が存在していないことをすっかり忘れていたのだ。酸素の薄い空気は窒素の塊のようなもので、下手をすればこの街の全員を殺しかねないところだった。


 だが私の、「私の(・・)」魔法のお陰で稼げた数秒が功を奏したのか、新たな魔法が発動された。それはドーム型に気流を作る魔法のようで、長く動かされエネルギーを消耗した空気が上部より吹き込んできたのだ。外部と上部は荒れた様子だが、ドームの中は少し強い風が吹いているだけにしか感じない。

 下にいる人達は多分、こんな事があったなんて気付きはしないのだろう。

 しかしまだ安心は出来ず、ドームが崩れかけて来たのだ。普通ならば術者が修復をするのだが、気絶でもしたのか直る気配はなかったため急いで私が魔法に介入した。

 術者の邪魔もなくすんなりと魔法を支配することに成功し、少しばかり出力を上げてみた途端、何を間違えたか突風が吹いて人間二人の体重など無いかのように空中へ舞い上げられたのが今のデジャブ感を引き起こしたのだった。




「後数分もすれば均等になるだろうし、終わりでいいよね?」


 ふわり、と地面に足をつけて歩みを進める。風のせいか、深く被ったフードが外れてしまったため改めて目深に被り直す。メルは今までの興奮や驚嘆の連続で疲れたのか、ガッチリホールドも緩んで気持ち良さそうに表情を崩して眠っている。

 私も今回は大分疲れている。いや、物凄く疲れている。

 どのくらいかと言うと、長期休暇で引き篭もった翌日に丸一日歩いた時並に疲れている。この世界に来てからこんなにも疲れたのは初めてだろうか......。気を緩めたら睡魔に負けてしまいそうな中、欠伸を噛み殺しながらみんなの避難先の学校へと歩みを進める。


「もう魔力感知も魔法の目すらも飛ばせないや......落ちる時に方角確認しといて良かったわぁ」


 少し経つと、ポツポツと雨が降り出してきた。

 雷も鳴って豪雨になりそうな予感がしつつ、メルが濡れないようにアイテムボックスより取り出した傘を前屈みに差す。

 と、その時、雨音も雷鳴すらも掻き消すような拡声が街中に響き渡った。


『聞け、我が親愛なる民達よ! 此度の魔物襲来の件、我ら軍の活躍により殲滅並びに撃退に成功した! 安心しろ、脅威は去った! 突然の恐怖に疲弊した者、怪我を負った者......亡くなった者らに祈りを。皆も疲れているだろう。街の復興は明日から執り行う。今日はもう休み、明日再び勝鬨を上げようぞ!』


 皇帝ギラオスの声が、拡声(ラウドボイス)の魔法で響く。言い終えた途端、前方から街全体が震える程の爆音じみた歓声が轟いた。

 それだけで、あの皇帝さんがどれだけ信頼されているかが何となく分かった気がする。


「ん、ぅん......」

「あ、あぁ〜、まだ寝てて大丈夫だからね」


 音に反応したのか、腕の中で身をよじるメルの背中を優しく撫でながら再び眠りにつかせる。幸せそうに眠るメルを見ているとこちらもどんどんと眠気が強くなってくる。

 大きな歓声が鳴り止まない中、欠伸を一つすると、いつの間に現れたのかパンデミアさんが並んで歩いていた。


「パンデミアさん......おつかれ〜」

「アスカにしては珍しく疲れているのだな。そんなに大変だったか?」

「正直言ってかなーり、疲れたね〜。仮面も壊れちゃうし途中でなんやかんやあったしで......」

「あれをなんやかんやで済ませる辺り、まだ余裕そうだが?」


 確かに、アルテリアさんを助けに行って、その後にunknownの邪魔が入ってからの大殲滅戦だからねぇ。疲れない方がおかしいでしょ。

 もう夕暮れ時だし帰って......帰って......


「あぁっ!?」

「な、なんぞっ!? 急に大声を出すでない」

「ごめんて。でも、私達宿無し状態じゃん? 何処で休めばいいんだろう......」

「あぁ、その事ならば問題は無いと思うぞ? アイツらが胸を張っておったからな」


 みんなが? どうするのか考えたいところだが、喋っている間も何度も何度も欠伸が続いてまともな思考が出来ない。ならば、後は帰ってからのお楽しみという事にしようと決めた。

 そんなこんなでパンデミアさんと軽くお喋りをしながら学校へと歩いた。勝負については私の圧勝だったことは言うまでもない。









 学校に着くと、メルをずっと探していたのか、老シスターと年若いシスターが子供達に連れられて現れた。この前私達がお世話した子供達が抱えられたメルに気付いて大急ぎで呼んだらしい。

 スヤスヤと眠るメルをそっと年若いシスターに受け渡すと、何度も何度もお礼を言われた。パンデミアさんが子供に大人気だったのが解せない。


 すぐに分かれて、パンデミアさんの言う通り中庭へと向かうとそこは以前のように結界は張っておらず、子供やその親達優先の避難所として開かれていた。

 人垣を分けながら進むと、アルテリアさんと何やら揉めている様子の三人を見つけた。こちらから声をかけようとした刹那、三人は目にも止まらぬ速さで飛び込んできた。



「アスカっ!」

「......遅い」

「アスカ様、よくぞご無事でっ!」

「わ、わわっ」



 三人に押し倒され、なんとか上体だけを起き上がらせる。目深のフードを被っているにも関わらずよく気付いたものだと感心する。

 レヴィは右腕を抱くように満面の笑みで「んふー」や「むへへぇ」と喜悦に浸った様子の吐息を漏らしながら頬擦りを繰り返す。ステラは、「......心配かけたから、これは罰。そして我慢した私への褒美」と言いながら私のお腹に顔を埋めて頭をぐりぐりしてくる。ラ・ビールは背後から抱き着いてきて「三人で何度も飛び出そうとしたんですが、弱った状態ですとアルテリアさんに毎回止められてしまいまして......」と言って優しく抱擁をしてきた。

 アルテリアさんは少し遅れて溜め息を吐きながら「大変だったんだから」とフードの上から頭を撫でられた。その後、パンデミアさんと固い握手を交わしていた。いつの間に二人はそんなに仲良くなったの......ってあぁ、酒か。



「今日はもう休みたいのだけれど、生憎行く場所が......」

「......それなら問題ない」


 宿無しを告げると、ステラが顔だけを上げてそう言った。


「本当なら、街を救った英雄として国賓扱いも出来るんだけど、ほら、アスカちゃんって目立つの嫌いでしょ? だからささやかだけどこの街の住人を代表して私からお礼って事で小さな特別扱いをする事にしたわ。私の部屋を使わせてあげるから、ほら立って」


 恥ずかしそうに手を差し出すアルテリアさんの手を掴んでゆっくりと立ち上がる。

 私は別に目立つのが嫌いとかじゃない。結果的に目立てないだけなのだ。そう、目立ちたくないのではなく、目立てないのだ。ここ重要ね。


 アルテリアさんに連れられて着いた場所は校長室と書かれた扉の前。だが扉を開けて入ってみると、そこは執務室と呼ぶよりも完全にアルテリアさんの自室だった。柔らかそうなクッションにフカフカのキングサイズのベッドに可愛らしいぬいぐるみ。どこからどう見ても成人女性の部屋であった。


「我は疲れたので先に寝る事にするぞ? 酒は一本貰っておくぞ」


 部屋に着くなり早々、一言告げてパンデミアさんが異界(アナザーワールド)へと帰っていった。余計な魔力を使ったせいか、一気に眠くなってきてしまった。

 ベッドに横になると、レヴィ達も一緒に横になる。


「飲み物持ってくるから待っててね」


 周りの暖かい体温に包まれていると、ウトウトとしてくる。アルテリアさんが戻ってくるまで起きていなければならないのだが、流石に限界というものがあった。

 レヴィ達にも疲労していた上に心配をかけて大分疲れてしまったのだろう。ベッドに横になるなり、安堵からかスヤスヤと寝息を立て始めるレヴィ。ステラはまだ話し足りなさそうにしているが半分目が閉じている。ラ・ビールすらも欠伸を何度か噛み殺している。多分、ラ・ビールの事だから主人よりも先に寝ちゃいけないとかそんな事を考えているのだろう。


 身体をゆっくりと起こして、ベッドの端に腰をかけているラ・ビールを手招きして横に寝かせる。

 一人ひとりの頭を優しく撫でて穏やかな声でポツリと呟く。


「ただいま......」


「んぁっ、おかぇー......んにゅ」

「......ん、ずっと、待ってた」

「おかえりなさい、アスカ様」


 小さな声でも、眠っていても拾うのかと若干驚きつつ三人の横になるベッドへ倒れ込む。

 そしてそのまま目を閉じ、三人の吐息のリズムと暖かな温もりに身を委ねた。



 ガチャ、と音がして扉が開くと、トレイに飲み物を人数分持ったアルテリアがいた。ベッドに仲良く四人で横になっている姿を見て静かに扉を閉めて中に入る。


「あら......ふふっ、あの憎たらしいアスカちゃんからは見当もつかない可愛らしい寝顔ね」


 緩みきっただらしない寝顔を見下ろしながら布団をそっとかけるアルテリア。そしてそのまま部屋を静かに出ると、扉の前で気合を注入する。


「さて、隠れた英雄さん達が起きる前に一仕事終わらせないとねっ!」
















「あーらら、つまんないの。せっかく集めたのだからギラオスくらいなら殺せるかと思ったんだけどなー。あの子......アスカって言ったかしら。本っ当に邪魔だわ。よりによって死に損ないがそばにいるし。でも、手駒は減ったけど道具は取り戻した......メルガスから攫われたなんて聞いた時はシュバルのクソガキが手を引いてるのかと疑ったけどアイツらに加護は無かったしねぇ。

 ま、そんなことはどうでもいいわ。それで? ───クレイス、この落し前はどうつけるつもりなのかしら?」


 ウィルガルムより離れた地で遠見していたネイは、一人結論付けた後に背後で跪くクレイスの顎を蹴り上げた。


「しっ、しかし、今回はリサーナ嬢の奪取が目的で......」

「いつからアナタは口答えできる立場になったのかしらぁ? まぁいいわ、許したげる。アナタと私はただの協力関係ですものねぇ......」


 下卑た微笑みを浮かべながら、はたから見れば協力関係とは言い難い従僕のような関係性の二人。

 クレイスはネイのその台詞に黙って頷くしかなかった。


「チッ、兄妹揃って憎たらしい目付きね。じゃあ、後は任せたわよ」


 気を失っているリサーナとクリルを魔法で宙に浮かせたネイは、そのまま流れる動作で転移の魔法でその場から消え去る。

 ただ一人残ったクレイスは、行き場のない怒りを抑えきれずに地面を何度も殴りつける。




「クソがっ!! くそっ、くそっ、くそぉっ!!! ......はぁ、はぁっ......」



 ウィルガルムに雨が降り、月の見えない夜が更けていく。家族や大切な者を亡くした人は泣き、また祈る。無事を確認出来た者は喜び合って抱き合った。

 様々な感情が混じりあった夜は、雨が止み雲が晴れると同時に日が昇り始めたのであった。


 その日の出は、ある国での進軍の合図でもあった。

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