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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第90話 一人だけ影が薄いのがいる

筆が遅くてごめんなさい!




 ――なんだ、アレは。


 爆発的な魔力の行使を感知し退避したものの、魔法使いは現状を飲み込めずにいた。普通、魔法に精通する者ならば魔法の種類や効果などを見ただけで瞬時に把握する事が出来る。そうしなければ魔法戦で先を読まれてしまうからだ。

 だが今の魔法はどうだ。火魔法と光魔法の組み合わせで生まれる魔法、エクスプロージョンと似ているが威力が桁違いだ。あんな魔法、見たことも聞いたこともない魔法だった。それに、最もたる違いが、可視化された魔力である。


 魔力は目に見えないがそこにある。

 それが当たり前だったのは一昔前までだ。今では特定の器具を使い、魔力の色などを見ることができるようになった。

 魔力の色を見れば、得意な魔法が分かったりする。赤系統ならば火魔法。青系統ならば水魔法。緑系統ならば風魔法......と言ったように分かるのだ。


 そう、普通ならば器具を使わなければ見えない魔力が、器具を通さないで可視化されていると言う事実を前に帝国随一の魔法の使い手、アステルは驚愕を隠せずにいた。

 それも、赤や青などのアステルの知る魔力の色ではない「銀」色の魔力。更に通常の人間が持てる魔力を鼻で笑うかのような魔力量。最早アステルの矜恃など粉々に砕かれてしまっていた。


「有り得ない......」


 目の前で起こった爆発に続いて猛烈な光、それに遅れて爆音が通り過ぎる。光は網膜を焼き視界を失う。耳も一瞬にして機能を失うが、瞬き一つの間に全ての機能が復活した。

 ――この心地よい感覚は、回復魔法だ。それも失った視力や聴力を取り戻すような聖人級の。


「これは、回復魔法か? アステル助かったぞ」


 ドラゴニュートのドラコーンが、何を勘違いしたのかアステルに感謝を告げた。それに続いて皇帝が「大儀である」と肩を叩く。

 だがアステルだけは知っている。この回復魔法はあの銀色の魔王の慈悲だと。反論しようにも、既にアステルのプライドは打ち砕かれていた。しかし、目に飛び込んできた光景が更にアステルの傷口を抉る。


「な、んだ......これは......!?」


 先程まであった魔物達の肉壁。全力を持ってしても一部を削る事が精いっぱいだった。それがあった場所には、地面は余りの熱で溶けていて、何も残っていなかった。

 あれだけの威力であったと言うのに、アステル達の元に届いたのは生暖かい風のみ。普通に考えればあのと爆発と爆風でウィルガルムなど再起不能な壊滅状態にまで陥る威力である。つまり......


「完全に、制御したと言うのか......っ!?」


 頭上を見れば雲が集まってきている。熱や爆風は殆ど、空へと方向性を持たせたと言う埒外な手腕。

 自分では可能か? 不可能だ。魔法の腕には自信があった。ザッハノルンの魔法使い達にも負けないと自負する手腕だ。だが、どんなに足掻いてもこの領域には到達することは不可能だ。上には上がいる。それも、天と地の差など鼻で笑うかのような差が。

 それを理解した瞬間、カラン、と乾いた音を立て長杖が地面に落ち、アステルの意識も落ちた。
















「だぁーっ、もぅっ! 疲れた!」


 超小星爆発(リトル・ノヴァ)を放ち、旋風魔法で爆風を全て上方に向け被害を最小限に留める。超小星爆発の発動よりも爆風の制御の方が魔力使ったってのが否めないよね。

 それでも僅かに風が漏れてしまったけれど、被害は予定通りの最小限に抑えられた。なんか地面が溶岩みたいに煮え立っているけど気にしない。害虫駆除は一匹残らず完璧に出来たのだから。

 それから、気にしてなかった光と音による被害。これには驚いた。どうにか遮光を付与した結界を張ってみたものの、光の持つ熱量は和らげることに成功したが光量は目を焼く程だった。そのため、咄嗟にウィルガルムの人物全てを対象に回復魔法を放ったのだが、これが失敗だった。そのせいで魔力を殆ど使ってしまい、今は絶賛落下中だ。

 え? 降下中じゃないのかって? 魔力が無ければ風魔法で風を操れないし、結界も張れない理由だ。


 あぁ、地面が物凄い勢いで迫ってくるよ。って、そんな事言ってる場合じゃない! お、落ちるぅ!




「まったく......お主は待つ者の事を少しは考えているのか?」

「あぁ......! 落ちるぅ! ――ってあれ? 良かった、生きてる私! 生きてるって最高......」


 どうやら離れていたパンデミアさんが私が落ちるのを二度見したらしい。何はともあれ、生きてるって素晴らしい......!


「えへへ、ありがとねパンデミアさん」

「詫びは酒で許そうではないか」


 お礼を告げ立ち上がると、パンデミアさんの背に背負われていたメルが興奮気味に迫ってきた。


「す、凄かった! 光がぱぁー、って! そしたら、そしたらドガーンって! そしたら、そしたら目が、真っ暗になっちゃって......」


 まるでもう一回やって、と言ってきそうな勢いだ。出来ないことも無いが、パンデミアさんに怒られそうなので遠慮しておこう。興奮しているメルを抑えつつ歩みを進める。


「アスカよ、少し休め」

「ダメだよ。遮断の結界が予定よりも早く切れそうだからすぐに行かなきゃ」

「何処にだ? 見つかったと言うのか?」

「見つかったと言うか......知ってる人を見つけたってところかな」


 思うように魔法が使えないことを歯痒く思いつつ、飛んでもらう方向を教えてパンデミアさんに肩を貸してもらう。メルは再びパンデミアさんに担がれている。不満そうにしながらも、どこか楽しそうに見えるのが不思議だ。


 私の落下点より大分離れていたのか、パンデミアさんの飛ぶ速度が遅いのかは分からないが、欠伸が出て身体を伸ばすくらいの時間はあった。

 目的地に着くと、常人ならば卒倒してしまうのではないかと思う程の威圧が襲いかかってきた。


「貴様、何が目的だ......?」


 飛ばされた土埃などで薄汚れた格好の皇帝とその他の人達。女性が一人倒れていたが、見たところ外傷は無かったのできっと私のせいじゃない。少女アンリは皇帝の横だからか、何もしてこない。さっきは問答無用だったのに、面白い変わり様だ。

 困惑した様子の皇帝が剣を構えて疑問を口にする。だがそちら側の疑問に答えている暇は無いのだ。あと数分足らずで結界は解除されて、またあの大軍が攻めてくるのだ。


「その前に、その怖い顔での威圧を解いて貰えない? メルが怖がってるからさ」

「ふざけた事を抜かすな。その少女には俺の威圧など届いていないように見えるが?」


 まぁ、その通りだ。メルは自分のことが話題に上がっているのに何のことなのか分からない様子で視線を行ったり来たりさせている。

 事前に伝えた通りにパンデミアさんがメルを守ってくれているため、魔力の届かないメルには皇帝の威圧など何もしていないように思えているのだ。


「それに、私はお話するために来たんじゃないの。知っているんでしょ? 卵の在処をさ」

「どう言う事だ......!?」


 恐らくだが皇帝は私を犯人だとでも思っていたのだろう。こんな事件のさなかに現れる噂の魔王......そんな怪しい存在、誰だって疑うだろう。私だって疑う。だが残念! 私は魔女なのだ。「魔」違いは誰にだってよくあるのだから許そう。寛大な私だからね。


 魔王が街中に現れた際の対処方法なんてある訳もなく、兵士は慌てふためく住民の整理で手が離せず、戦力の魔法兵達は殆どが壁面防衛の際に魔物に食われた。皇帝が正面切って出てきたのはそれが理由だろうか?

 だが真っ先に向かってきたのは皇帝ではなく、私怨を滾らせた少女アンリだった。何故かは知らないけれど私の事を殺したい程に恨んでいた。身に覚えのない恨みってのは酷く恐ろしいものだ。


 それでもって、魔力が切れそうになる前に確認した魔力感知では、この場にいる上裸男と同等かそれ以上の反応を示した者達がウィルガルムの至る箇所にバラけていた。

 迫り来る魔物達の対処のために出払ったと考えることも出来なくもないが、二人一組で動けるであろう兵士すら連れて行かないのはどうにも腑に落ち無かったのだ。それに各々の位置が、守るべき城や避難所各位に近かったり、それとは全く反対の位置であったりしたのだ。違和感を抱かずにいはいられなかった。


 それらのことと、パンデミアさんからの暴走(スタンピード)についてが合わさった結果、この人達は卵及び幼生体の居場所を知った上での行動を取っているのでは、と予想したのだ。

 どうよこの推理! 私ってば超天才ネ!


 ドヤっぷりも見せびらかさずに、遮断結界が消える寸前であることに内心で冷や汗をかいている。

 そんな事とは露知らずの皇帝さんは、思考を纏めた結果至極嫌そうな表情で剣を鞘に収めた。


「何が目的か、と聞いても答える気は無いのだろう?」

「別に、皇帝さん達に危害を加えるつもりは無いよ。私の行動の末に結果的にウィルガルムが、子供達の未来が守られることになるとは思うけど、ね」

「......ふん、食えぬ奴だ」


 そばに寄ってきたメルの頭を撫でながら、皇帝として取るべき最善の手を促す。

 この世界の人間としては、人間の敵と言える魔王を倒すべきなのだろうが、皇帝として、民を守るべき地位にある人間としてはウィルガルムの住民達を救う手段を選ばざるを得ないのだ。そう言う状況になっていたからね!

 皇帝さんはメルに視線を移し、何を悟ったのかは分からないが、鼻息一つ吹いて胸元から一枚の地図を開いた。ウィルガルムの城壁内部、つまり城を中心とした一つの都市の地図が精巧に描かれた地図だった。


「アンリ」

「嫌だ。私は魔王を殺す存在だから......」


 皇帝さんが何故か少女アンリを呼ぶが、彼女はこちらを睨み続けたまま否定した。皇帝さんはやれやれと眉を八の字にして呆れた様子で呟いた。


「説明が省けるから頼んだがな。まぁいい、銀魔王よ」

「ん? あ、私のこと?」


 突然「銀魔王」と呼ばれ、妙な返事になってしまったが、今更かよ......みたいな空気を醸し出した皇帝さんは私の疑問は軽くスルーし、重く鋭い、かつ短く言葉を放った。




「記憶しろ」




 そう言って地図上空に指を滑らせ、特定の位置を次々と無造作に指で突きながら「ここだ」と放つ。その数、二十。


「がはは、こことここは先の大爆発で消え去ったから残りは十八と言ったところだな」


 横から覗いていたパンデミアさんが、私が跡形もなく消し去った地帯を指さして笑う。何が可笑しいのか。

 一方で、少女アンリの方は目を丸くして驚いている様子だった。


「まさか、あれから覚えて......?」

「机いっぱいの地図を持ち運べる訳が無かろう? ならば覚えて小サイズの地図と照らし合わせる方が有意義というものだぞ」


 そちらはそちらの都合で話しておくれ。

 選択された十八の場所のうち、皇帝さんの動ける仲間達十五人が向かった場所を教えてもらい、残りは三つ。

 だがその三つ全てが離れた場所に置かれているのは運命か、悪魔の悪戯か......。そんなもの考えるまでもなくあのド腐れ眼鏡ビッチ(ネイ)の仕業に決まっている。

 結界内の酸素に異変が起こるのは後十分も無い。恐らくは既に酸欠を起こしている人は少なくないだろう。それに加えて先の上昇気流によって集められた雲がもう今にでも雨を降らさんとしている。未だ高温を放つ地面に雨が当たれば、蒸気が発生して更に呼吸が辛くなる。大人でも厳しいのだから、増してや子供なんて......。


「パンデミアさん、風魔法は得意?」

「得意なのは火魔法だが、風魔法は使えなくもないぞ?」

「......空気の入れ替え、は実質空間魔法だからダメか......パンデミアさん、多分だけど、結界が解けたら猛烈な突風がウィルガルムを襲うと思うから覚悟しててね。私も出来る限りの事はしてみるからさ」

「突風? 何故かは知らぬが、あいわかった。被害は最小限に、であろう?」

「そういう事――」


 説明をしながら目深のフード付きのローブを着込む。

 皇帝さん達にも注意喚起をして、対策を頼む。けれど、自然の猛威に逆らうなんて事が出来るのはパンデミアさんくらいだろう。

 本当にそうなるか、なんてのは憶測でしかない。小学生の頃の理科の授業内容なんて薄れきって殆ど覚えていないもの。しがない公務員だった私は最低限必要な知識で十分なのだから!


 現実逃避したい気持ちを抑え込み、気合を入れるために両手で頬を勢いよく挟む。


「よしっ。最後くらいは真面目にやろうかな」


 独り言を呟いて、その場をパンデミアさんに任せて駆け出す。僅かに回復した魔力を倹約しつつ、メルを抱きかかえて高い尖塔に辿り着く。

 記憶した位置を目視で確認し、三本の魔法の矢を生み出す。コスパ最強のオリジナル魔法は伊達じゃないのだ。

 一本一本を確実に狙って放ち、卵ないし幼生体を潰す。そして三本目が狙い通りに着弾し卵が弾けるのを確認し、ホッと一息つく。


 奥歯をキュッと噛み締め、最後の大仕事へ意気込みながら魔法を組み立てる。


「メル、しっかり掴まってないと危ないからね」

「はいっ!」


 細身で軽いメルを抱き直し、メルの方からもがっちりとホールドしてくる。大分疲弊している様子だ。このまま眠ってくれて夢の中のお話で済ませられればどれだけ楽かね。

 そんな事を考えていると、外壁上部の空間が歪み結界が解除されるのを確認したのと同時に高く飛び跳ね魔法を発動させた。


「パンデミアさん!!」

「任せっ!」






 ただただ、静かな三人(・・)の健闘は、数人のみが知る活躍であった。


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