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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第89話 爆発はロマン。なんてな!

少し遅れました......!


 オーラのような銀色の魔力を纏う魔力障壁が隔たりになり、雨のように放たれる魔力弾を防ぐ。最初は焦っていたメルもこちら側に被害が微塵も及ばない事に気付いたのか、呆然と魔力障壁を眺めている。魔力弾が障壁にぶつかり弾ける度に目を輝かせている。


 一方で私は大量の魔物がどうやって脇目も振らせずにウィルガルムに集めさせているのかの原因究明に勤しんでいた。


「うーん、魔力反応はどこも変わらないし何処もおかしな点は無いんだけど......強いて言うなら複数の反応が変な場所に散らばっていることくらい、かな」


 このウィルガルムでも特別強いと思われる反応の数個が街中に散らばっているのだ。迎撃に向かっていると考えれば分かるのだが今はもう全部パンデミアさんに押し付けているからその必要は無い。

 ......その一人がパンデミアさんの方に向かった様子だけど、瘴気に阻まれて動けずにいる。かわいそうにねー。


 そんな時だった。範囲を広げたままにしていた魔力感知の範囲から魔物の数が減っていることに気付いたのは。


「ん? 数が、減ってる?」


 注意深く確かめてみると、結界の空いている南・南西・南東側は相変わらず魔物が集まっている。しかし、それ以外の東・西・北東・北西・北側の魔物達はまるで目的を失ったかのように来た道を引き返し始めていた。


「なんで......?」


 何かいい案が喉元まで上がってきたその時、銃使いの少女が左側に回り込んできた。正面が無理なら横からと来たか。少女が横に動くのに合わせて、少し遅れたタイミングで地面に魔法の矢を突き刺していく。そうとも知らずに精一杯避けている少女は私よりも魔法の矢の対策に追われていた。


 ――だがこれ以上君に構っている時間は、はっきり言って無いのだ。時間の無駄である。ならばと、相手を無力化するのは簡単だ。だが、彼女が私に対して何らかの憎しみを持っていると言うのが問題なのだ。

 憎しみを感じるが、明確な殺意は感じない。それは武器の威力を見れば分かる。銃に込める魔力をフルに充填すれば、恐らく魔力障壁は簡単に破れるはずなのだ。それをしないと言うことは、多分そばにいるメルに気を遣っているのだろう。

 ......あぁ、ちょっといい案思い付いちゃったよ?


 次々と迫る魔法の矢に、こちらに目を向ける余裕すら無さそうに対処する少女を脇目にメルに耳打ちをする。その作戦を話すと、メルは力強い瞳で頷いた。

 だが一切考える素振りを見せなかったメルに対して、逆に私が慌ててしまう。


「危険かもしれないけど、本当にいいの?」

「だって、守ってくれるんでしょ?」


 そうは言ったけど......少しくらい警戒するものかと思うんだけどなぁ。まぁ、信頼してくれてるってことでいいのかな! この短時間で、ここまで信頼してもらえるような出来事は無かったと思いたい!


 ふっふっふ、何はともあれこれで誰も傷付かないぱーふぇくつな作戦を開始できる! では早速......んっんん。


「〜、動かないで! 少しでも反抗しようとした態度を見せたら、この子の首が身体とお別れするよ!」

「っ、!! 卑劣な......!」


 名付けて、人質作戦! ふふふ、思った通りあの少女は突然攻撃を仕掛けてくる常識無しかと思ったら、一般人を気遣う良識人であったのだ!


「きゃーー! 助けない......じゃなくて、助けて下さいっ!」


 私よりもメルの方がノリノリなのは気の所為だろう。ただ首元に短剣を突き付けているだけなのだけど、想定以上にくっついてくるのだ。あ、もちろん短剣はいつもの何でも切れちゃうやつじゃなくて、ガラクタの鉄屑である。だからメルの首元に纏う厚さ二ミリ程度の魔力障壁すら抜けれないのだ。


 少女は何度か照準を合わせようと試みるが、どのラインも確実に私だけを撃ち抜くのは難しかった。射出から着弾までの間に動かせる位置にメルも置いたからね。


「ほらほら、貴女のせいで何の関係も無い子供が死んじゃうかもしれないんだよ? 分かったならほら、銃を置いて下がって」

「くっ......」


 少女が銃を地面に置こうとした瞬間、私の背後に気配が現れた。魔力感知も気配察知に遅れながらもそれを捉えた。

 滅多にない緊急事態で思考加速が役に立つ。気配と魔力の感じからして、背後にいるのは間違いなくこの街で最強の存在、皇帝だ。恐らく既に剣を振りかぶっていて後は振り下ろすだけ、か。腰に差した短剣は抜く間もない。

 魔法の構築、発動には私でも一秒以上かかる。その間に何回斬られるか。痛いのは嫌だ。


 この状況で私が取れる抵抗手段は......防御に徹する事だ。身体強化は攻撃面だけじゃなく防御面でも有能なのだ。防御に関しては攻撃の時の瞬間で使うよりも長時間維持する事が必要なので、必然的に消費する魔力も多くなる。そして、魔力を集める事など無意識下でも出来る。集める場所は左腕、メルを抱いている腕の方だ。メルには悪いが、お尻をどうにか自分で死守して欲しい。私は左腕を勢いよく後ろに振り上げた。


「ぬぅっ!?」


 ガキン! と鉄同士がぶつかり合うような鈍い音を上げて皇帝が振り下ろした剣と私の左腕が衝突し鮮血が宙を舞う。有り得ない防御の仕方に面を食らった皇帝に足蹴りを食らわせるが、自ら背後に飛んで勢いを殺したのか空中で姿勢を整え、少女の元へ向かった。


「いったぁ......」

「痛っ! く、ない?」


 血が流れる腕を気にしつつも、メルが地面に落ちる寸前に風魔法でお尻を守る。

 続いて私の腕に回復魔法をかける。すると傷口は逆再生するかのように塞がっていく。肉が見えていた傷もすっかり消えて元通りになった。水筒を取り出して水をかけて血を落とすが、失った血液は元には戻らなかった。


「アンリ、お前が狙う魔王とは銀魔王の事だったのか?」

「知らない。でも、魔王は災厄。殺すのが世界のため」


 アンリ......? まるで日本人みたいな名前だ。それに世界のためだなんて、まるで勇者みたいだね! 勇者、勇者ねぇ......んん? 本物なの? マジで? 鑑定してみたいけど、時間的に余裕が無い。

 私の疑問を他所に皇帝の問いに答えながら銃を構える少女アンリ。こうなっては私の作戦なんて無いも同然......うん、私の稚拙な作戦は最初っからなかったことにしよう。


 と、そこへ三つの反応とその後ろに続くように大量の反応が近付いてきた。


「陛下!」

「へっ、陛下!? どうしてこんな所に!?」


 こめかみ付近から白い角を生やした背の高い亜人の男と、長杖を握り締めて飛ぶように移動してきた魔法使いの女が、少女アンリの横で構えている皇帝の姿に驚きつつも跪いていた。

 そして残る一つの反応と言うのが......


「がははは! 流石に全滅は無理だったわ! だがこの魔物共の特徴、我には心当たりがあるぞアスカよ!」


 魔力は残り少ないと言うのに元気なパンデミアさんだ。例のフェニックスは魔力切れで消えてしまったようだ。今度教えて貰ってみんなの前で見せてみたいな。

 それはそうと、原因(カラクリ)究明のヒントを貰えそうだ。皇帝達は皇帝達で、こちら側が手を出してこないのを僥倖と見たか情報交換を始めている。


「それで、心当たりってのは?」

「此度の魔物共の行動から見るに、間違いなく暴走(スタンピード)現象であろうな」


 パンデミアさん曰く、暴走(スタンピード)と言うのは特定の条件下で起こる魔物の獰猛化らしい。今回の(モス)種の場合、卵や幼生体の放つ匂いが原因で起こる......とのこと。

 結界を貼らなかった部分以外から魔物達が遠ざかっていったのは、その匂いを結界が断絶したからだろう。あれ? 私ってば意外とグッジョブなことしたんじゃない?


「つまり、その幼生体とかがこの街にいて、その匂いに釣られて暴走した魔物達が集まってきているってこと?」

「そうなるな。だがこれ程の数、恐らくは別の地域から掻き集めて無ければ不可能だ。それを含めて奴は仕組んだのだろうよ。まったく、手の込んだ悪戯だ」

「それで、その幼生体とやらは何処に何匹いると思う?」


 期待を込めずに訊ねると、パンデミアさんは欧米人もびっくりな、やれやれ......と大袈裟に肩を竦めてきた。憎たらしいったらありゃしない。


「我が分かると思うのか? そう言うのはお主の出番であろう? ふふふ、それにだ......」


 開き直って私のせいにしてきた。いや、まぁ、期待はしてなかったけどまさか開き直るとは......。

 パンデミアさんは続けて、目を歪め高笑いを始めた。ま、まるで魔王のような存在感を放っているぞ......!!


「がーはっはっはっ! 倒した魔物の数は我の方が多い! これはもう我の勝ちであろうな!」


  あぁ、あの勝負のことかな。すっかり忘れていて、倒した数なんて数えていない。どうしたものかと思うと、ちょうど後ろから迫ってきている大量の魔物に視線が移る。


「ひっ......!」


 ウィルガルムの一部の空が暗い色に変色しているのだ。本当に、あのド腐れ眼鏡ビッチの性根は腐っているよ。あの図太いメルが怯えきっているじゃないか。


「して、アスカよ。このちっこいのはまたお主が落とした人間か?」

「何その失礼な言い方は。この子はメルって言う一般人よ。私のそばが一番安全だから、助けたついでに安全確保をしてあげてるだけ」

「ふむ、確かにアスカの周囲は絶対安全だな。だがお主は危険を吸い寄せるであろう? アスカの周囲は安全だが危険......ふむ、哲学だな......」


 なんかパンデミアさんが電波を感じ始めたから放置しよう。

 皇帝達も魔物に気付いたようで、臨戦態勢を取っている。少女アンリだけは変わらず私を睨み付けている。


「さて、パンデミアさん、ここで一つ面白い事を話してあげよう」

「なんだ唐突に」

「この大量の魔物。もし私がこれを全滅させてしまったらどうなると思いますか?」

「出来ない事はないと思うが.....っ、まさか!?」

「そう、そのまさか。勝負は私の勝ちになっちゃいまーす!」



 嘘だけど。



「ま、待て! 我が勝ってお主に世話係の真似事をさせたいのだ!」


 は? 何、そんな事させたいのパンデミアさん。引くわー。......お世話係って何さ、メイドさんみたいなやつ? お酒とご飯与えるだけならいつもやってることなんだけどなぁ。


「......でも、これを全滅させる魔力なんてもう残って無いでしょ?」

「ぅ、ぐ......しかしだな......」

「ほら、メルを預かってて。撃ち漏らしを頼んだよ、魔力が尽きてもメルは守り抜く事。絶対ね」


 メルをパンデミアさんに有無を言わさず渡す。頑強で強面なおじさんだよって伝えると、素直に納得してくれた。肝が据わってると言うかなんと言うか......。


「今から見せるのは星が死ぬ瞬間の一瞬の輝き。瞼に焼き付けておくといいよ」


 少し格好付けてから高い屋根の上に飛び上がる。



 魔物の大軍......それはまるで壁だった。

 壁の外には既に魔力の反応は無く、恐らくこれで終いだろう。だといいな。


 皇帝達は離れた場所から一斉に技を放つ。


 角の生えた上裸の亜人は何やら口からブレスを。魔法使いの女は水の極大魔法を。少女アンリはフルチャージした銃の一撃を。

 皇帝は大上段からただ振り下ろしただけの一撃を。


 はっきり言って四人の中で、皇帝の攻撃が突出して破壊力があった。剣が纏う赤く滾るようなオーラが剣閃の如く放たれ壁に衝突し爆発的な破壊力をもたらした。だがそれをもってしても魔物の壁は後続が前に出て即座に修復される。他の一撃も、皇帝の二の舞だった。


 私は強くイメージする。魔法には無限の可能性がある。イメージ、想像力が魔法を生み出すのだ。

 身体から魔力が引き剥がされるように減っていく。それに応じて、私の周りに再び銀色の粒子が浮かぶ。これは今までの比では無い程密に浮かび上がる。


「あー、注意喚起忘れたわ」


 壁に近い皇帝達に避けろと告げるのを忘れて魔法を発動させる。きっと皇帝が気付いて逃げてくれる筈だ。そう信じよう。


 壁と同じ大きさの巨大な魔法陣が、壁の中心を芯として二枚、縦と横に生まれる。

 あ、それを見た皇帝と魔法使いがこっち見た。


 そこから壁の端に向かって二枚ずつ中と小のサイズの魔法陣が浮かび、縦横五枚ずつ、計十枚の魔法陣が壁の中に生まれた。


 少女アンリが皇帝に引き摺られながら一発こちらに魔力弾を放ったが、私に届く前に掻き消えた。


 そして私は魔法発動のトリガーキーを放つ。








「さぁ、弾けなさい。超小星爆発(リトル・ノヴァ)








 次の瞬間、世界から音が消えた――


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