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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
95/108

第88話 魔物、殲滅するってよ。+α


「アスカの奴め、本当に手加減抜きではないか......」


 遠方から空気すらも揺るがすかのような膨大で荒々しい魔力を肌に感じながら悪態をつくのは、屋根伝いに街を駆け抜けるパンデミア。

 彼もならば、と口にして得意の魔法の構築、詠唱へと乗り出す。


「風よ吹け、空に我が道を作れ。空飛(フライ)


 炎よ燃え盛れ、我が敵を焼き尽くすは我が無垢なる炎。命を燃やし燃える糧となり、やがて炎は昇華し焔とならん。

――恨むならば(ネイ)を恨むのだな、魔物共よ」


 極端に短い詠唱で空飛を発動させ、空に立つ。風が髪や装いを靡かせるため、その気品溢れる堂々とした立ち居振る舞いと威厳のある風貌を更に引き立たせる。

 魔法の詠唱を中断させ、哀れみを持った瞳で人や街を無作為に襲う魔物達を睥睨する。空中に佇む彼を見つけたのか、魔物達が一斉にこちらに向かってくるのが見えた。

 そんな状況に至っても決して焦ることなく、ゆっくりと開かれた口から紡がるのは、魔物に対しての死刑宣告であった。


「顕現するは今ぞ、フェニックス!」


 声高々に叫ばれた直後、目の前まで集まってきていた魔物達が何の前触れもなく燃え尽きた。

 魔物達の代わりにその場に現れたのは、パンデミアの巨体を優に凌ぐ大きさの鳥だった。否、実際には鳥ではなく、炎で形作られた火の鳥であった。

 羽ばたく度に地に火花が降り注ぎ陸上型の魔物も容赦無く燃やしてゆく。今も炎が波打ち、まるでその場に太陽が現れたかのような灼熱を辺りに降り注ぐフェニックス。魔物達はそれに触れる事すら叶わずに近付いただけで燃え盛り地に落ちて行く。


 甲高い鳴き声を響かせると、まるで吸い寄せられるかのように飛行型の魔物達がフェニックスに襲いかかりに来た。しかし、その魔物達は例外無く燃え尽きていく。


「ふむ、大分魔力を持っていかれるが、まだ戦えないと言う程でもないな」


 フェニックスが空を踊るように飛び回る中、パンデミアは拳を何度か握り体調を確かめる。問題なく動けることを確認すると、笑顔を携えて地に降り立った。そして特殊な魔力を周囲に放つ。


「さぁかかってこい虫けら共よ! 貴様らの敵は我が相手しようぞ!」


 挑発。単純な魔物に対して一定の周波数を持つ魔力を浴びせると、ターゲットが自身に固定されると言う前衛職が好んで使うスキルである。

 勿論、彼の挑発の範囲は常識の範疇に収まらず、ウィルガルムの1/5程までもを覆い尽くした。

 その結果、次から次へと陸上型も飛行型も関係なく彼を目指して集まってくる。

 街を破壊していた魔物も、人を襲おうとしていた魔物もそれを中断してまで集まってくる。来るわ来るわ、路地から空からとわらわらと出てくるのは一種のホラー映像のようであったが、パンデミアはそんな事気にもせず近付く魔物を片っ端から拳一つで粉砕していた。

 空から近付く魔物にはフェニックスがいるため一切近寄れずに地に落ちる。時折パンデミアが空へ立ち、指揮棒を振るかのように指を振ると、フェニックスが低空飛行をして地面に群がる魔物達を一掃する。


「がっはっはっは!! 脆い、脆すぎるぞ虫けら共! その程度では我の酒の肴にもなりはせんぞ!」


 笑顔で戦い、病魔の瘴気を放つ。既に周囲に人はいないため喜んでそんな行為も可能である。

 その瘴気は外壁を登り、外壁よりも強固な壁となった。瘴気に触れた魔物は数秒と経たずに血管が固まり血を吐きその場に崩れ落ち絶命する。


 ある魔物は突然燃え盛り、ある魔物は黒く変色して死ぬ。そこは正に、パンデミアが作り出した地獄であり、鼠一匹通れない最強の壁が出来上がっていた。





 ★





「はぁ〜、久しぶりに暴れられるからってちょっとやり過ぎじゃないかなあの人は」


 ウィルガルムの外壁に沿う形でどす黒い瘴気が覆う。それはウィルガルム全体からすれば一部でしか無いが、個人で成していると考えると相当な範囲だ。それも周辺の魔物達を誘いながら。

 魔法の目を使い確認しようとしたが、瘴気の中は魔力が乱れていて何も見えなかったため遠目で見るしか無かった。


「きっと今頃は、『酒の肴にもなりはせんぞ!』とか言いながら調子乗ってそうだなぁ。それにあの召喚魔法もなかなか上等なもんじゃん。殲滅は得意だ、ってのは嘘じゃ無さそうだね。特にあの瘴気。触れたら即死級の病魔に襲われるなんて、パンデミック過ぎるでしょ。しかもその中心では撲殺、焼殺と......街、壊すだろうなぁ......。弁償するの、私なんだけどなぁ......」


 そんな事をボヤきながら共にいる少女を見やる。

 以前助けた孤児のいる教会が気になって少し寄り道してみた所、一人だけはぐれたのか、取り残されて魔物に食べられそうになっているところをちょちょいと助けたのだ。私の事は覚えていない様子だ。それも仕方ないか。以前は死ぬ直前で、意識もハッキリとはしていなかったと思うしね。ちょっと寂しいけど、ここは知らない人のフリで通そう。

 怯えきった様子は大分薄れてきたが、今も私のそばから離れようとはしない。


「もう怪我は治ってるし、移動するけど大丈夫?」

「いやっ、置いてかないで......!」


 訊ねてみると、怯えた様子で手を力いっぱい掴んできた。置いていくわけ無いんだけど、言葉足らずで勘違いさせちゃったかな。


「ごめんごめん、勘違いさせちゃったね。置いて行ったりしないから大丈夫、安心して。こう見えてもお姉さんすっごい強いからね」

「ほんと......?」


 力こぶを作って見せて、強いぞアピールを見せる。しかし、いくら力んでみても二の腕はふにふにのままである。あの怪力は普段私のどこにあるのだろうか。いや、今はそんな事どうでもいいか。

 だがそう簡単には少女の信頼は得られない。当然と言えば当然である。どうしようか悩んでいると、路地から魔物が姿を見せた。

 少女は細い悲鳴を上げて縮こまってしまう。私は大丈夫、大丈夫と背を撫でて落ち着かせる。「見てて」と一声かけ、こちらにターゲットを決めた魔物に指揮棒を振るかのように指を振る。

 すると空中で待機していた魔法の矢(マジックアロー)が音速で空を駆け抜け魔物の胸を穿つ。出会って三秒で魔物は絶命した。


「ほらね? お姉さんは強いでしょ。私が安全な所まで連れてってあげるよ」

「......う、うん」


 パチリとウィンクを決めてみたが、少女の方は若干引いていた。......うん、なんかごめん。と心の中で謝罪し、今後ウィンクは封印することにした。

 いや、多分魔物が即死した事に驚いてただけだ、そうだそうに違いない。そういう事にしないと私のハートが死ぬ......。


 承諾の言質も取れた事だし、ウィルガルム全域を確認する。安全な場所、安全な場所ねぇ......街の東西南はパンデミアさんが引き受けているため被害が控えめだが、北は酷い状態だ。この状況の中、魔法の目を飛ばして避難所として開かれている中心部を覗いてみると、どこもかしこも人で溢れ返っている。冒険者ギルドも、お城も、学校も満員状態である。入り切れずに外で待たされている人達は暴徒と化している者すらいる。

 こんないたいけな少女をそんな危険な場所に預けるなんて、見捨てるのとさして変わらない気がする。


「よし、決めた」

「何を、ですか?」

「これが一段落するまで、私があなたを預かる。危険な目には絶対に合わせないと約束するよ。でも、これは私のエゴ。だから嫌なら嫌って言っていいよ。その場合も、ちゃんと避難所までは連れて行くから......どう?」


 もちろん、NOと答えられれば、唯一暴徒が出ていない学校の方へと送るが、そこでも暴徒が出るのは時間の問題だ。生に縋るのは生きている者の本能であるし、生き残ろうと躍起になるのもまた仕方がないのかもしれない。だからと言って、そのもう一つの戦場にこの少女を放つのは気が引けるのだ。

 しかし、少女は私の訊ねに対して、ただじっと私の目を覗いていた。


「......一つ、聞いてもいいですか?」

「なんでも答えるよ」

「お姉さんは、以前私を助けてくれたお姉さんですか?」


 やっぱり、覚えてなかったか。知らないフリで通すと決めたからには私の演技力が火を吹くぜ。


「人違いだと思うよ。あなたとは初めて会うもの」

「そぅ、ですか......」


 そ、そんな悲しそうな顔しないで......。嘘ついちゃったのが凄く苦しいけど、今までの経験上私に深く関わると大変だしね......先のセラの件も含めて......。

 少女は残念そうに俯いた後、今度は力強い瞳をこちらに向けてきた。


「私の名前は、メルって言います。シスターに付けてもらった名前です。憶えておいて下さいね。憶えておいてくれるなら、私を何処へでも連れて行って下さい」


 少女......メルは私の前に立ち、腕を広げてそう言った。何故か念入りに名前を憶えさせられたがこれで魔物達の殲滅に動ける。やったね!

 実年齢は十歳そこらだが、平均より一回り程幼いメルを抱き上げ、魔力感知を全域に広げる。

 やはり数は底無しで後続が大量に続いている。これではキリが無い。その為、一旦前線を退かせこの大軍襲来の原因(カラクリ)を探ろうと思う。そしてウィルガルムでも戦えそうな大きな反応が......八つ? 以前よりも増えている気がするが、一番大きな反応を除いて他七つはパンデミアさんよりも下なので気にしなくて大丈夫だろう。二つの反応がこちらの方面に向かって来ているが、私は今から移動するつもりなので無問題なのだ。

 まずは西から時計回りに北東と回り前線を外壁の向こうへ退けなければ。


 ふっ、と息を吐き集中する。UNKNOWNが無駄に消費した魔力は回復しきっており、本番はここからである。街に侵入している魔物は三千強、パンデミアさんが引き付けられる数は最大で約千と言ったところ。ならば残りは私が引き受けなければ。

 空飛(フライ)を使いウィルガルムが見下ろせる上空へと舞い上がる。メルの安全面を考えて、高さは地上四十メートル程だ。メルは突然の出来事で戸惑っていたが、慣れてからは、少しはしゃいでいるように見える。意外と図太いのかもしれないねこの子。


 流石にこの数だ。いちいち見つけて倒すのは時間がかかるため魔力感知で見つけた反応に向けて魔法の矢を撃ち込み大体の数を減らすことにする。背後の頭上に浮かぶ魔法の矢の総数は約二千本。これが戦闘開始から今までストック出来た本数だ。つまりはこれが今の私の限界と言う訳だ。総魔力の三割近く魔法の矢の生成に使ったが、これは必要な支出だったと考えよう。

 私の周囲が私の魔力で占有されたのか、魔力が銀色の粒子となって光を反射し始める。腕の中でメルが「綺麗......」と言って手を伸ばすが、いくら頑張ってもただの光を掴めるはずが無かった。空振りした後恥ずかしそうに手を引いていたのは微笑ましい。


「落ちなさいっ!」

「あっ......」


 魔女ハットのつばを指先で軽く持ち上げ、命令する。射出の寸前まで魔力感知で捉えた魔物の反応目掛けて二千本の魔法の矢が放たれる。目立つのを嫌う私としては珍しい派手な魔法行使だと思われるが、対策はバッチリなのだ。魔法の矢に遮音コーティングを付与する事に成功し、風を切る音は一切出ない。もしかしたら動体視力が高い人ならば見れるかもしれないが......そこの対策は間に合わなかったから許して欲しい。


 落ちた先には魔物の身体があり、反応出来ないものに次々と身体を撃ち抜かれる魔物達。飛行型も陸戦型も関係なく一撃で地に崩れていく様は爽快だった。

 パンデミアさんのように殺しを楽しむような趣味は無いが、例えるならぷよ◯よで連鎖が続いた感覚だろうか。そんな爽快感を感じた。


 私は残った魔物の駆除のために地に降り立つ。射出する寸前までしか捉える事が出来ないため、激しく動いていた魔物には当たらなかった場合があるのだ。

 私は再び魔法の矢のストックを頭上に作りつつ、瞬歩を使い空いた外壁の上に立つ。メルは突然の景色の変化に戸惑って......いない。何故か私の顔をじーっと見ている。


「なんか付いてる?」

「な、なんでも、無い、です......」


 段々尻すぼみしていく小さな声。そんなに怖かったかな......。

 まぁ、何でもないなら気にせず私のやるべき事をやらないとね。魔力感知で反応を見つけ次第魔法の矢を撃ちつつ、ウィルガルムの外壁に沿って作る結界の準備をしないといけないのだ。

 イメージするのは以前邪魔をされたメルガス大森林に張られたライアさんの魔法結界、森鏡結界と、宿に張られた付与結界だ。

 それらと前世の記憶をマリアージュして私的アレンジの末に思い付いたのが、転移結界である。

 その名の通り、踏み入った者を全て私が指定した場所に転移させる特殊な結界である。構造は簡単で、一層目に感知の幕のように結界を張り、二層目に転移を付与する二重の結界である。だが、この転移の付与の調整が難しいため、一時間しか展開する事が出来ない。本来ならば侵入してきた物質だけを転移させるはずが、調整に大幅な時間がかかってしまうため侵入してくるもの全てを転移させる事にしたのだ。

 つまり、何が言いたいかと言うと......必要な空気すらも転移させるため、酸素が殆ど入ってこなくなるのです。長時間展開しているとウィルガルム全体が酸欠状態になり、最悪住民全員が窒息死する可能性があるのです!


 そんな事なら神絶結界を張ればいいのではと思うかもしれないが、あれは維持コストが膨大すぎて、結界と併用して魔法を使う事が難しくなるので却下。使ったとしても魔法の威力が落ちるんですよねぇ......。

 とまぁ、この様に様々な問題を抱えた結界を外壁に沿って展開する。そして転移させる先は、パンデミアさんの病魔の瘴気の中へ!

 その旨を結界を張った後に遠話で伝える。


『あー、もしもし、パンデミアさん』

『もう決して驚かんぞ......。何用だ?』

『瘴気の濃度ってそれが限界? じゃないとしたらどこまでが限界?』

『ふむ、意図を汲めないが、最大濃度にするとなるとここら一体は無くなるが、それでも良いか』

『あー、それは勘弁かな。敵が溶ける酸みたいなのはできない?』

『出来ないことはないが......。ふむ、試してみるとするか。それがどうかしたのか?』

『いや、これからそっちに大量に魔物くるから覚悟しといてねって話。私は私でアイツの仕出かしたカラクリを解き明かすからさ。それじゃ、よろしく〜』

『ぬぅっ!? まさかあれはお主の仕業か!? ならば挑戦状と受け取ろうでは――』


 一部始終を聞いていたメルが「最後まで聞いてあげればいいのに......」と訴えるような視線を向けてくる。


「あっはは〜、今のは業務連絡だから大丈夫大丈夫。それに、あれくらいで死ぬような人じゃないし」


 後で機嫌取りにお酒を渡せばどうにかなる単純な人なのだ。


 時間も無いので早速地面に降り立ちカラクリ暴きをしようと魔力感知を広げた......その瞬間、低い発砲音が街中に鳴り響き、こちらに急接近する魔力の塊を認識する。音に反応したメルがビクッと身体を縮こめる。

 発砲音? と疑問に思いつつ飛来する魔力の塊に指を向け魔法の矢を放ち相殺する。――否、魔法の矢は魔力の塊を打ち消した後、そのまま直進していく。

 速度は同じくらいだろうが、威力は段違いである。


 舌打ちする音が強化された耳に聞こえ、どうにか魔法の矢は避けてくれたようだ。魔物とはまた違った敵を見る前に殺しちゃうのは吝かではないのだから。魔力感知で確認する限りでは、人だ。だが中心部に集まっている人とは魔力の感じが違う。

 そしてクルリと宙を舞って現れたのは......


「魔王、貴女を殺しに来た」

「いやぁ、それは困るなぁ」

「えっ、魔王、なんですか......?」

「魔王と言えば魔王だけど、魔王じゃないと言えば魔王じゃないんだよねぇ。メルが信じる方を信じればいいよ」

「じゃあ、違いますね」


 おっ、おぅ。こうもすぐに違うと言ってくれたのは初めてだな。メルちゃん、素直でいい子だ......。


 一方、私を魔王呼ばわりした不届き者は、襟巻きで口元を隠した私と背丈の変わらないような女性だ。だが目はギラギラと輝いていて、私に対する殺意が隠しきれずに溢れている。

 私、この子に何かやったっけな......。


 そんな物騒な様子だが、何よりもその女性が持つ武器が異色を放っていた。


「それは、銃、かな?」

「......」


 見覚えのある姿に訊ねると、その女性は不快げに眉を顰め、見事な装飾の入ったマスケット銃のような長身の銃を構え、魔力の塊――魔力弾と呼ぶのが相応しいか、それを放ってきた。


「きゃっ!!」

「問答無用、ね......」


 メルを庇うように抱き背を向け背面に魔力障壁を作り出す。

 発砲音から着弾までのラグは一秒足らず、と言ったところだ。次々と放たれる魔力弾。


 ――予期せぬ戦闘が始まってしまった。


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