第83話 初めてのピンチ、かもしれない
10万PV達成してました!
ありがとうございます〜!
※眼鏡を追加しました。
「ぁがっ......! クソがっ、本当に人間かよ化け物がっ!」
威圧にも似た強大な魔力を浴びせられ、それに耐え切れなかったクリルが真正面からアスカへ攻撃を仕掛けるも、多種多様な魔法で近付くことすら叶わなかった。
全身を水の刃で切り裂かれ、傷口を業火で焼かれる。一握りの砂が動きを鈍らせ、高圧の空気の塊が腹を抉る。光弾の数々が身体を撃ち抜き、闇の渦がクリルを飲み込まんとする。
治癒が間に合わず動けない状態のクリルだったが、諦めている様子は一切なく、寧ろ悪態をついていた。飲み込まれそうになった時、傍らにいた少年が無理やりクリルを引っこ抜いた。
「まさか、旧魔王が腑抜けているとは思ってもいなかったよ。あの時、自分の手で殺していればよかったかもしれないね。......この、化け物め」
クリルに回復魔法をかけながら冷静を装うようにして語る少年。その額には脂汗が滲んでいた。
「......そうね、私は化け物かもしれない。でもね、化け物でも、化け物じゃなくて誰だって......家族を傷付けられたら、許すわけないでしょっ!」
「っ!!」
「クソがっ、まだ回復してねぇんだよっ!」
少年とクリルに光と闇で作られた槍が迫る。しかし、槍が撃ち抜いたのはたまたまそこにあった枕のみであって、部屋中に羽毛が舞う。
咄嗟の攻撃に、少年は右側へ、クリルは左側へと二手に分かれた。
だがその攻撃は単なる牽制であって、アスカの狙いは負傷しているクリルであった。
......私は、お前みたいな奴は大っ嫌いなんだよっ!!
身体を翻し、若干の怒りと殺意に満ちた鋭い瞳でクリルを睨み、魔法の乱れ打ちをぶつける。魔法がぶつかる直前に何かを叫んでいたが、気に留めること無く魔法を思い付く限り放つ。
火槍が、氷刃が、風鎚が、岩砲が、光射が、闇弾が絶え間なく続きクリルの身体をミンチへと変えていく。
......筈だった。
おかしい、いくら魔法を放っても弾幕の向こうのクリルの魔力反応は変わらない。魔法は確実に命中しているのに、どうして?
アスカが疑問を持ち、クリルの様子をその目で確かめようと弾幕を緩めた直後、魔法の隙間を縫ってクリルが飛び出してきた。
「甘い甘いあぁまいんだよぉっ!!」
飛び出してきたクリルの様子は、先程までの魔族のような見た目よりもずっとおぞましい姿に変わっており、黒い肌は装甲のようになっていてパッと見ただけでも相当硬いであろう事は容易に想像出来た。その上、魔法が当たっているのに掻き消されるようにして消えてしまっている。恐らく、あの黒い肌は魔力を分解、もしくは減衰させる能力でもあるのだろう。
紫に輝いていた瞳が、更に輝きを強く放っている。
だが、それだけだ。
「黙って」
バカ正直に真っ直ぐ突っ込まれれば、来る場所が分かっているのだからそこへ足を置いておけば相手は勝手に自滅するんだよ。
クリルの顔面に強烈な蹴りがクリーンヒットする。頭から蹴り飛ばされ、クリルが突っ込んだクローゼットが破壊される。
ちゃんと見れば傷口は塞がっていなかった。
倒れたクリルの元へ向かおうと足を向けたその時、
「背中がガラ空きだよっ!」
「魔力を隠したみたいだけど、無意味だからっ」
「チッ......」
少年が背丈よりも大きな剣を振りかぶって背後より切りつけてきた。が、気配感知によって気付いていたアスカは即座に振り返り、自称なんでも切れちゃう短剣で受け、振り返った勢いを使い横薙ぎに蹴る。
だが、少年は短剣を打つようにして反り返り、空中で一回転を決めて蹴りを躱した。
「二度も同じ手なんて食らわないってば」
「......そもそもっ、お前はこの娘がっ、何者か、知っているのかいっ!?」
着地したところから様々な魔法で狙い撃つが、少年は軽やかな身のこなしとその身丈にそぐわない剣を使い捌く。それでもいくつかはかすり傷のように生肌に傷を作った。
少年は魔法を躱しながらひとつの質問をアスカに投げかける。突然の質問に、アスカは攻撃の手を止めてしまった。
「隙ありゃぁぁぁっ!!」
「っ、だからうるさいっての!」
止まった瞬間を狙うように、クローゼットの木片を弾き飛ばしクリルが叫びながら突っ込んでくる。
手応えはあったはずなのに、脳震盪すら起こしてないなんて......!
クリルのゾンビのようなタフさに驚きつつも魔法で遇い、短剣で首を狙い切り落としにかかる。しかし、そうはさせまいと少年が横から剣と魔法のコンボで邪魔をする。
そしてクリルと少年のペアに対し、アスカは無数の魔法を併用しつつ殴打と短剣を合わせた立ち回りで場を支配していた。
そして遂に、対処しきれない程の魔法と力任せな動きに翻弄され、クリルが膝をついてしまう。
「クソがっ!」
「まずは一人......」
「チッ、あぁっもうっ!」
動きが鈍った所を確実に仕留めるために、魔法の殆どを少年に集中させアスカはクリルを殺すために迫ったが、少年の舌打ちが聞こえたかと思うといつの間にか目の前に移動されていて、再び邪魔をされてしまった。しかし、少年は邪魔をするのと同時にクリルを気絶させた。
クリルに集中しすぎて魔法の威力を手加減してしまったか? と考えるが、対峙する少年の姿を見て納得した。
「吸血鬼......?」
「はぁ、バーサーカー如きにこの姿になるなんて思ってもなかったな」
真紅に染まった瞳と、鋭く伸びた犬歯と尖った爪。
そして何よりも変わったのが、性別だ。
身体は僅かに丸みを帯び、背中の中ほどまで伸びた髪は誰かを錯覚するほど美しい金色の光を纏っていて、その容姿は通りすがる人全員が見惚れてしまうだろうと思われた。しかし背丈は変わらず、少年から美少女へと変化した。
本当の姿に戻り身体能力を無理やり底上げしたのだろう。
吸血鬼は不死身って言うから、どうすればいいのやら......それに、どうしてクリルを気絶させたのか。吸血鬼の口振りからすると姿を見られるのが嫌みたいだけど、まさかそんな単純な理由じゃ無いだろうしね。
不死身なら、動きを完全に止めればいい、か......。
並列思考を六種の魔法の行使よりも新たな魔法の作成へと向け取り掛かる。同時に六種の魔法を組み立て、魔法の作成へのカモフラージュとする。
残り少なかった魔力の殆どを使い、『ある魔法』に特殊な効果の付与に成功する。
その美少女は疲労を感じさせない険しい顔つきで、アスカを見下すような発言と共にその場に倒れていたリサーナを無造作に持ち上げた。
人質のつもりか、と咄嗟に魔法を放つも、美少女はリサーナを盾にするように構えたのでアスカは急いで軌道を逸らした。壁面が大きな音を立てて崩壊するが、美少女は冷徹な笑みを見せたと思うと、目線は悔しそうな表情をするアスカから逸らさずにリサーナの腕に噛み付き血を吸い始めた。
直後、アスカも微笑んだ。
「私の勝ちだよ」
「......? あ゛ぁぁっ!」
勝利発言と訳の分からない笑みに訝しげに眉を顰めるが、突如として肩に走った激痛により咥えていた腕から牙が離れ、二種類の血が空中を舞う。すかさずアスカはリサーナを抱き寄せ、安全な場所へと移動させる。アスカは、リサーナが自分を呼ぶ声には気付かずに狼狽えている美少女の元へと向かう。
「これ、は......!?」
美少女が肩に刺さった魔力で作られた『矢』を抜く。矢は魔力を散らして消えてしまう。
「魔力の伝達を途切れさせる特殊な魔法の矢。今作ってみた」
「はっ、本物の化け物めが......」
魔力は血液と似ている。血を飲む吸血鬼ならば、血は魔力と同じと考えた。実際、魔力感知で確かめると美少女の体内には血液に乗って魔力が循環している様子が見えた。
そして、咄嗟に放った魔法の矢。美少女へと放った複数の魔法の軌道を逸らした際に一緒に後方へ飛ばし、美少女の魔力感知の範囲外まで飛ばす。そして遥か彼方より音速よりも速くそれを放つ事で感知されるとほぼ同時に着弾させたのだった。
六種の魔法の長時間の同時展開と特殊な魔法の矢の作成、発動はアスカにとっても相当な負担になっていて疲労が目に見えて分かる。これ以上は危険と判断し、魔法の発動を止める。
既に気を失っているクリルと動けない美少女。普段のアスカならば見逃すなりしているところだが、今は心の底から目の前の動けない者達を殺したくて殺したくて仕方がなかった。溢れる殺意に呑まれそうになっていた。
そして少女に近付き短剣を振り上げる。
――これで、いいの? 私は、本当に殺したいの?
動くことの出来ない少女は目尻に涙を浮かべながら目を強く瞑る。
――違う、違う違う違う違う! 私の身体なのになんで言うことを聞いてくれないのっ!?
首めがけて短剣を振り下ろそうとしたその時――
「そこまでだ、『破滅の願い』よ。アスカを返して貰おうか」
「あら、あと少しだったのに邪魔をしないでくれるかしら?」
背後から手首を掴まれた反動で短剣が握力の残っていない手から落ち、切っ先を下にして床に刺さる。
二つの対立する声に、アスカはハッとするように顔を上げる。
「飲んだくれ......パンデミア、さん......」
「何か妙な言葉が聞こえた気がしたが......うむ、我であるぞ」
自分が自分でなくなるような感覚から解き放たれたアスカは見知った顔を確認し、ホッと一息つく。そして身体の怠さを感じその場に膝をつく。ステータスを確認すると、体力は減っていないのに魔力が底を尽きかけていた。ステータスから目を離し顔を上げると、目の前の光景に息を飲んだ。
「っ......セラっ!!」
「やぁっと気付いてくれたかしら? 私の可愛い可愛い下僕を手加減した上でこれとはね......アナタ何者なのよ」
美少女――鑑定によるとクレイスと言うらしい――はクリルと共に後ろに下がっており、その私とクレイスの間にセラが立っていた。......否、セラの頭を鷲掴みにしている妖艶な雰囲気を漂わせる見る者全てを魅惑するような豊満な体付きをした女性が立っていた。似合っているはずの眼鏡が、どこか浮いているような感じがするのは気のせいだろうか。
セラの表情は険しいが、頭への痛みからでは無さそうで、まるで何か悪夢でも見ているかのような険しさである。
女性は魔力感知による転移の前兆を察知されることなくここに転移して来たのだ。それだけでこの世界でもトップクラスの実力者だと分かるが、念の為にとその女性を鑑定してみる。だが、何度やっても「鑑定不能」と返ってくるだけで何の情報も得られなかった。
「や、別に答えなくてもいいのよ。アナタが『破滅の願い』の主ってのは知ってるから。それに私はここに長居する気は無いの。だからここは人間同士、人間らしく言葉の対決......即ち交渉といきましょう?」
私が、『破滅の願い』の主? 破滅の願いとはなんだ? 思考加速を使い考えようとするが、魔力の枯渇で身体が思うように動かない。だがその不自由さは先程までの感覚とは違い、怖くはなかった。
その女性はこちらの有無など一切確認せずに次から次へと話を進める。
「私の申し出はただ一つ。リサーナを渡しなさい。そうすればこの子を解放してあげる。どう? 分かりやすいでしょ?」
「アスカよ、差し出してはならんぞ。奴は――」
「黙れよ魔王パンデミア......。お前には聞いてないんだよ、次口開いたら交渉決裂とするからな?」
ドスの効いた低い声で切り札であったパンデミアさんの手札を封じられてしまう。この女性は随分とパンデミアさんを嫌っているようだ......。
この交渉、問答無用で戦闘になったりしなかっただけでもありがたい話だ。だが、リサーナを差し出すかどうかと聞かれれば、答えはノーだ。しかし、ノーと答えればきっとこの女性は躊躇なく、人質の価値無しと判断しセラを殺すだろう。この女性の目は本気だ。そしてリサーナ以外を残して皆殺しにでもするつもりなのだろう。今の私の状態では満足に戦えず、皆を守ることなど出来そうにもない。ましてや相手は正体不明の敵である。はっきり言って、イエスと答えるのが最善だ。だが......最良では、無い......。
どうすれば、どうすれば皆が助かるのか......。どうすればリサーナとセラを同時に助けられるのか......。
二兎を追う者は一兎をも得ず、か。諺ってのは良く出来てるな、と内心微笑む。
なら、私は......私の答えは決まってる――
答えと覚悟を決め、顔を上げる。しかし、喉が震えて思うように声が出せない。すると、いつ目を覚ましたのか、腕の出血を手で抑えているリサーナが背後から声を上げた。
「私は――」




