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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第82話 影

あけましておめでとうございます。

新年早々重いネタですみません!

今年もよろしくお願いします!


「うわ、何これ......結界?」


 アルテリアさんを手助けした後、私は真っ先にセラの宿屋へと戻った。数百メートル程度ならば転移するよりも走った方が速いからね。街の煉瓦等で整えられた道を陥没させてしまったのは仕方ない。緊急事態だったからね。

 それに、多分だけどこれ以上はこの街にはいられないと思う。


 そして一分もかからずに宿屋へと到着するが、見えない壁のようなものに阻まれて進めずにいた。


「マーキングはこの中で異常を示してるから......絶対にここにいる筈なんだけどなぁ」


 いつも頼りにしていたマーキングはこの宿屋の中で荒ぶっている。前世でのネット環境で例えるならば通信不安定で敵が瞬間移動したりするラグの酷いバージョンみたいなやつだ。

 この見えない壁、もとい結界は私対策なのだろう。随分と準備のいい敵達だね。こんな強硬手段使ってまで私のリサーナを奪いに来るなんて、やっぱりリサーナはモテモテだ。


 この結界、殆ど知識のない私でも分かるくらい破壊は困難なものだ。あの自称神様のシュバルが使ってた「神絶結界」みたいな堅牢さは無いけれど、正規の手段を使わなければ何らかのトラップが発動するみたい。

 先程、無理に通ろうとしたら目の前で爆発しましたし。


「急いでるから、あんまり時間はかけたくなかったんだけど......でもこれが一番早く抜けられる方法だしなぁ」


 今までのように力技でぶち抜く、なんて事も考えてみたが、無理に通ろうとしただけで爆発したのだから、それをしたら最悪中の宿屋まで吹き飛んでしまいかねない。

 パンデミアさんやラ・ビールみたいなのは平気だと思うけど、子供レヴィや負傷ステラにか弱いリサーナは無事では無さそうだ。私自ら怪我させるようなことしたくないもんね。


 そんなわけで、時間は少しかかるけれど私の魔力で結界の魔力を中和させ、同一化させる。するとあら不思議、結界が消えちゃうのです。

 これは私が得意とする、相手の魔法を模倣して相殺する手段によく似ている。......ってパンデミアさんに教えて貰ったしね。


 しかし、幾つもの手段を整えられて造られたこの結界はそう簡単には壊せない。この結界は五つの層で構成されていて、外側から情報操作・遮断・感知・爆破緩衝の五つの効果が付与されていた。情報操作による外観への違和感を無くし、遮断によって中の音も情報も、外からの衝撃すらも遮断する。そして何者かの非正規による通行を感知し爆破させる。その爆破も、内側の緩衝により内側へ衝撃は通らないと言う設計だ。

 結界って効果付与なんて出来るんだね。今度パンデミアさんに詳しく聞いちゃおう。あの人、お酒出せばなんでも教えてくれるからチョロいんだよね。


 そんな事を考えながらも、やる事はやる私。二つ目の遮断の結界の中和に時間がかかってしまう。

 殆ど勘で行っているため、一つ間違えてしまうと元へは戻れない。しかし、私は学ぶ女。転んでもただじゃ起きない女。そこからは勘ではなく魔力操作を巧みに使い結界を開いていく。人払いをされているのか、この辺りには犬一匹すらいない。

 試行錯誤し、そして遂に......


「よしっ、開いた! 久しぶりに魔女っぽいことしたっ! さてさてマーキングはっと......!?」


 結界が解除され、辺りに結界を維持していた魔力が四散する。そこで、再度マーキングの状態を見てみると、危険状態を示す赤い点滅が三つと無事なマーカーが借りている一室に集まっていた。

 今までの締りのなかった雰囲気とは打って変わって、アスカの周りの空気が変わる。それは怒りであるが、主に自分自身に対しての怒りが強かった。


「......これは、私の落ち度だね」


 いつの間に手に持ったのか、片手に短剣を強く握る。熱い怒りがこもった一言だが、それは芯から冷めきったような呟きだった。

 パキッと音がし、仮面に罅が入る。その隙間から、魔力が可視化される程濃く漏れ出し、銀色の粒子となって流れる。それは涙のようにも見えた。


 風魔法で宿屋の扉を開け放つと、一階の広い食堂でアスカを待ちくたびれていたならず者達が汚く食い散らかしている光景が目に入った。ならず者達は驚愕し各々武器を構えるが、次の瞬間には扉に近かった数名の首が宙を舞った。

 魔力の高い者がその場にいれば気付く事ができたかもしれないが、アスカは風刃をいくつも生み出し、宿屋を傷付けないように首を切った直後に消すという常人には到底真似出来ない芸当をして見せていた。

 魔法使いならば誰もが一度は夢見る魔導の極。それをアスカは惜しげも無く使っていた。


「あああああああああああっ......ぁっ」


 共にいた者が為す術もなく死んでいく光景を見てパニックに陥った者達が絶叫を上げてとびかかるが、アスカに近付くことすら出来ずに血の海へと沈む。

 既にアスカに斬られた者、魔法でズタズタにされた者は半数を超え、大量の血を流して沈んでいる。


 アスカは手振りで魔法を飛ばしたり、足元で動けなくなった者を切り捨てたりしていたものの、真っ直ぐ階段へと歩みを進めていた。部屋の隅にいた者達には見向きもしなかった。部屋の隅にいた者達は、見逃してもらえるのかと目の前の悪魔のような存在から目を離せずにいた。しかしその悪魔は、階段に染み付いた血痕を見て不気味に振り返った。


「これは......ラ・ビールの血......?」

「ひっ」

「ちっ、違ぇ」

「ころ、ころさなっで」


 ならず者達は子供のように泣きじゃくり、顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら命乞いをする。


「正直に答えて......」

「こっ、殺さねぇかっ!?」

「答えたらっ、見逃してくれっ!」

「ひっ、ひぃぃ......」


 アスカは仮面の下に目は笑っていない笑顔を作る。するとならず者達は口々に言い訳のように語り出した。ラ・ビールとの戦いを、魔族や少年がやった事だ、と。


「そう」

「こ、こんなん付き合ってられっかよ!」

「答えたんだからっ見逃してくれよっ」

「ひぇぇぇぇ......!」


 そう言いながらならず者達は少しずつ後ずさりしていく。後ろ手で目眩しの魔法を準備しながら。

 扉の前まで下がった瞬間に、ならず者達はそれを放ち、即座に外へと逃げようとしたが、逃げられなかった。目眩しなど、アスカには通用しない。実際には目が眩むが、瞬き一つでその場に順応するのだ。


「家族を傷付ける人に、慈悲などくれてやる必要はない。魔王様からは逃げられないって、聞いたこと無いの?」


 開いた時と同じように閉じた扉を旋風魔法で外側から閉じ、誰一人として逃がしはしない。

 腕を横薙ぎに払うと首が身体にさよならを告げ分裂していく。答えの返ってこない質問を投げかけ、一階の殲滅に終了を告げた。


 そして自らの身体が返り血塗れである事に気付く。幸い、返り血は殆どがローブにかかっていて中の服は無事であった。

 階段へと向かいながらローブを瞬時に取り替え、仮面についた返り血を洗い流す。


 そして階段を登った先で、酷い笑い声と嗚咽、そしてリサーナの声が耳に飛び込んできた。そして、声に少し遅れて、傷だらけになり無数の骨折が見られるレヴィの小さな身体がアスカの目の前に放り投げられた。衝撃を完全に消すように抱きとめ、無事かどうかを確認する。マーキングでは死体の灰色にはならず赤の点滅のままだが、実際に確認しなければ安心出来なかったのだ。


「レヴィ......?」

「......ぁ......す、か......?」


 この時、私の中で何かが弾けた気がした。

 口内に血が溜まって思うように喋れないレヴィが、幼い元気いっぱいに笑う顔が今では腫れ上がって目も開けない状態のレヴィが、声を聞いただけで私だと気付いた。


 ――私は、何をしていたんだろうか。


 ――仲間を、家族を危険に晒して、何がしたかったんだ......?


 いつしか周りの時が止まっているような感覚になる。......否、感覚ではなく、実際に時が止まっている。レヴィから垂れた血が床に落ちる直前、空中で留まっている。身体も首から上以外は思うように動かせない。

 視界を横に逸らし、再び前へ向けると、何も無かった空間にいつの間にか、いつか見た黒い影が立っていた。


「やっと気付いた?」

「喋った......」


 口元だけが裂けて声帯も無いはずなのに声が聞こえる。今のこの状況よりもそれが喋った事に対して驚いてしまった。


「お前は相変わらずだね。いや、私と言った方がいいのかな?」

「私? 私があなた?」

「ははっ! 察しがいいじゃないか。そうとも、私はお前で、お前は私だ。だけど、この空間が消えればきっとお前は私の事を忘れる。何があったかも忘れるから、私が誰かなんてどうでもいいのさ」


 その影は器用に笑顔を作って笑う。ただそれだけなのに不気味な感じがする。言っていることもわけがわからない。


「何者なのか聞きたいところだけど、私にはこんなことをしている時間は無いの。早くみんなを助けないといけないの」

「時間が無いってのはこっちも同じさ。では、単刀直入に聞こうか......。

 お前(わたし)は何がしたい? その身丈に合わない力を使って、何がしたいんだ?」


 影の質問は、先程自分で自分に問いかけた質問だった。その事に驚きつつも、改めて考えてみる。


 私は一体、何がしたいんだろうか。

 最初は、ただリサーナに同情していただけだけれど、暫く一緒に過ごしてリサーナの事を知って......一人の人間として好意も持てた。リサーナが私のことをどう思っているのかは分からない。化け物と思っていようが、私がリサーナをライクの意味で好きなのは変わらない。

 それからレヴィも連れて、ステラとラ・ビールも増えて、一緒にいれて、一緒に笑って、家族みたいで楽しかった。家族みんなが大好きだった。旅先で出会う人たちもみんな好きだ。アルテリアさんも、セラも。でも......それだけだった。

 私は皆が望むことをただ淡々とこなしていただけな気がする。

 じゃあ、逆に私が望むことは? 私が、何かを望んだ事があるのだろうか。


「分からないだろう? そうさ、分からないんだよ。お前には望みが無い。あるのは無駄なその力だけなんだよ」

「うるさいっ! まだ、見つかってないだけ......」

「見つかる保証があるのか?」

「......ある」

「いいや、無いね。私はお前だから分かるのさ。そして、お前は私だ。つまり、私の思いも、お前には分かるんだよ」


 影の奇妙な笑い方に全身が粟立つ。はったりにしか思えないような言葉も、まるで本当に分かっているかのように語る影。

 恐怖を感じた時、影の形が揺らいだ。


「あ〜ぁ、もう少しだったんだけどな。まぁいい、教えてやるよ。私は憎しみと殺意、負の感情の塊さ。だから、お前に役割を渡してやるよ......」


 足の先から消えていき、遂に首から上だけになった影は、それでも不敵な笑みを崩さずにいた。

 最後の一言は、頭の中に直接響くように語りかけてきた。


 ――殺せ。敵を、殺せ。それが、お前(わたし)の願いだ。






「今のは......?」


 記憶が曖昧だが、今は記憶の整理をしている暇などない。頭を振って目の前の事に集中する。

 腕の中で激痛に耐え呻き声を鳴らすレヴィに完治(ヒール・パーフェクション)をかけ、傷を癒す。恐ろしい速さで全身の傷が癒え、整った呼吸をし始める。

 続けてステラの元へ近付きながら、ステラ達に声をかける。


「レヴィ、ステラ、よく頑張ったね。リサーナとラ・ビールも労って上げないと。本当に、遅くなってしまったね」


 レヴィを壁によりかからせ、ステラを起こす。同様に完治の魔法をかけると、疲労からくる睡魔に襲われながらも二人は口を開いた。


「ぅ......アス、カ......?」

「はいはい、アスカちゃんですよ?」

「まおー」

「うんうん、よく頑張った。ゆっくり休んでていいからね。

 後は私が――」


 二人の頭をくしゃくしゃと撫でると、二人は気持ちよさそうに微笑み、寝息を立て始める。

 この場で最も危険な状態のラ・ビールを見てから、少年に担がれた気絶しているリサーナへ視線を動かす。

 そこから浮かんでくるのは、無数の殺意。怒りからの殺意ではあるが、ただただ目の前の敵を殺したいという純粋な殺意でもあった。


「――片付けるから」


 封印の仮面を砕き、全力を出して目の前の敵を排除する。今の私はどうしてかそれしか考えられなかった。

 片方は少年のような見た目だが、強い。どこかで見覚えがあるが、思い出せない。片方は魔族となった元竜鱗族のクリルだ。鑑定結果がそれを教えてくれる。


 火炎魔法、氷結魔法、旋風魔法、地烈魔法、聖光魔法、暗黒魔法を全て展開する。六つの魔法陣を同時に展開すると、身体への負担が大きいため、私でも一時間程度が限界だ。


「塵すら残ると思うなよ......」


 ――家族を傷付けた代償は、しっかりと払ってもらおうか。




 少年がリサーナを捨て置き獲物を構え、クリルが全身に身体強化を施した。そして、アスカの強大な魔力に耐え切れずにクリルが突っ込む。それを合図に、宿屋篭城戦の最終対決が始まった。



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