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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第80話 好きの侮辱は死罪



「火魔法? はっ、馬鹿にするのも大概にして欲しいもんだぜ! 下位魔法如きが上位魔法に勝てるとでも思っているのか! 長年の睡眠でまだ寝惚けてんじゃねぇのかね旧魔王様よォっ!」

「ぬぅっ!?」


 辺りを照らしてみるものの、一向にアッガノーツの姿を確認することは出来ない。声のする方へ集中しても、また逆の方向から攻撃が飛んでくる。闇霧と同じように感覚を慣らそうと、穴を探そうと模索しつつ防御に徹しているがこの氷暗凍獄世界(コキュートス)を打ち破る手段は見つけられずにいた。


(防戦一方、か......。確かに、我の下位魔法ではこやつの上位魔法の組み合わせに勝利する事は難しい。だが、難しいだけであって、決して不可能という訳では無いのだ。本当に絶望を感じたのは、アスカの本気を垣間見た時だけだ)


「だが、我も時間をかけるのは不味いのだがなぁ......。姿が見えん限り、我に打つ手は無いのが現状であるな。さて、この現状をどう打破するか......」


 アッガノーツの攻撃は激しさを増す一方で、突拍子もない攻撃を避ける事に、アッガノーツの攻撃の癖を読むことでなんとか往なす事が出来ていた。しかし、それでも全ての攻撃を避ける事は不可能で、傷を増やしていった。その上、段々と下がっていく気温に動きが鈍り時間が経てば経つほどに敵の攻撃が当たるようになってくる。

 そして遂にはパンデミアの右脚に強烈な一撃が決まってしまいその場で膝をついてしまう。すると、それまで沈黙を保っていたアッガノーツがパンデミアの眼前へと姿を見せた。


「はっはぁ! 今までの余裕はどうしちまったんだぁ? 全身傷だらけでよぉ、お得意の感知系統も使えずただ嬲られるって感覚はどうだい? これがお前が踏み躙った俺達の努力の証ってやつなんだよ。努力は才能を上回るんだよ、覚えとけクソ野郎が」


 今のパンデミアの攻撃など当たらないとでも言いたげに余裕綽々と言った態度でパンデミアを足蹴にするアッガノーツ。

 既にパンデミアを囲っていた火柱も風前の灯火と言ったように消えかけている。それがアッガノーツに余裕を持たせる要因の一つでもあった。

 しかし、当の本人であるパンデミアは顔を俯けたまま何の返事もしない。そんな態度に腹立たしく思ったアッガノーツは頭を鷲掴みにして顔を上げさせようとする。その瞬間――


「がっ、あっ......!?」

「......ふむ、やはりお主は抜けておるよ。敵を前にして余裕ぶるのは、勝利を確信した時のみにするがよいな。つまりはお主も、自らの強さに胡座をかいておったと言う訳であろう?」


 一般人と比べると倍はあるであろう巨大な手に首元をがっちりと拘束されてしまった。踠き離れようとするが、その手はそう簡単には離せなかった。


「な〜んちゃって」

「む......が、はっ......!」


 踠き苦しむ「振り」を突然やめ、アッガノーツは敵の裏をかけた事に歪んだ笑みを浮かべる。直後、手の中にあった首どころか、アッガノーツの身体が闇に溶け込むようにして消えてしまう。そして次の瞬間、腹を抉るような一撃を受けてしまう。


「ぎゃははははは! あー、最高、最高だぜ。傑作だろぉよ。捕まえたと思って説教? だっせぇの! 氷暗凍獄世界(コキュートス)の中じゃあ俺は闇と同化出来んだよなぁ。実体化も同化も自由自在、ってな? あー、ヒントになっちまうけど、別にもういいだろ。死ぬんだし。あー、うん、殺すわ」


 狂ったような笑い声を上げるアッガノーツ。地に倒れ伏すパンデミアを一睨みした後、再び狂ったような笑い声を上げて闇へと溶け込む。苦無を片手にとどめを刺すために。

 そしてパンデミアのそばで腕のみを実体化させ苦無をパンデミアの胸へと突き立てようとしたその瞬間、


「あっちぃっ!?」


 腕に灼熱の熱さと痛みを感じ咄嗟に苦無を落としてしまう。その苦無はパンデミアの竜鱗に落ちカツン、と音が響いた。


「今のは、少しばかり危なかったが......お主の口が軽かったが故に、我にも勝機が見えてきたぞ?」


 上体を起こし、片手に炎を纏いアッガノーツの腕を力任せに掴んだパンデミアは、既に闇へと消えた腕を掴んでいた手を開く。そして、自らの異界(アナザーワールド)での権限を使い身の回りに幾つもの酒樽や酒瓶を持ち出す。それはアスカから貰った全ての酒であった。


「流石にこうも寒いと頭が働かんものよ。酒でも飲んで身体を温めんとなぁ」


 パンデミアは徐に酒瓶の口を切って開き、ラッパ飲みを始める。しかし、半分程度飲んだところで瓶が砕け、辺りに酒がばら撒かれる。パンデミアはそんな事は気にせずに二本目の酒瓶のラッパ飲みを始める。


「馬鹿にするのも大概にしろよ......」

「見えておるのか? ならば覚えておくがよいぞ。お主の術の中では酒すら楽しめる快適な空間だ、とな」

「黙れぇっっ!!」


 怒りからの叫び声と共に四方から攻撃が飛んでくる。一方は火薬玉に、もう一方は鋭利な刀、更にもう一方からは無数の苦無に、足元に足払いもかけようとするアッガノーツ。

 火薬玉は掴み別方向へ投げ返し、刀は竜鱗は防ぎ、無数の苦無は大きな酒樽を盾にし足払いをかけようとするアッガノーツの足を躱しお返しとばかりに踏み返す。


「が、ぁっ?!?!」

「感情に流され、気配感知がよぉく捉えてくれたぞ? それに、お主が実体化していればその場所にならばダメージが入ると分かってしまったのぉ?」

「分かったところで、俺に勝てるなんて思ってんじゃねぇぞ......」


 そう言ってアッガノーツは八つ当たりと言わんばかりに次から次へと酒瓶や酒樽を壊してゆく。その度に辺りに酒が飛び散る。既に外気は地面に飛び散った酒が凍る程まで下がっている。

 しかし、大の酒好きであるパンデミアが、お気に入りであった酒の数々が消えていくのを遮ることは無かった。


「いやいや、そんな事は思わんよ。ただ、我の楽しみを邪魔した奴には私怨が込み入るから手加減は出来ぬと教えてやるだけだが?」


 パンデミアは静かな怒りを滾らせていた。 


「っ......なん、なんだよお前は......」


 闇に溶け込んでいる筈のアッガノーツは、その凄みに自身が後退りしている感覚を感じていた。それと同時に、絶対に触れてはいけない逆鱗に触れてしまった事に遅ばせながら気付いてしまった。

 いつの間にか酒瓶を壊す手も止まっている程に。


「アッガノーツ・オペーク。お主は言ったな」


 ザッ、とシャーベット状になっている酒の上を一歩踏み出しパンデミアは問いかける。長い長い詠唱を組みながら。


「これが、お主の努力の証だと」


「ハーフに才能は無いと」


「それ故に才能の上に胡座をかく者に嫉妬すると」



 いつしか、氷暗凍獄世界(コキュートス)の影響で降り続いていた雪が止んでいた。



「だが、その逆も然り」


「憧れもしていのだろう?」


「追い付こうと、一族......家族揃って必死に努力した」


 次第にパンデミアの竜鱗が朱く赤熱し始め、凍った酒達が湯気を上げ空気中に蔓延する。


「その努力は、お主が魔王となるまで極めた」


「その努力は、ハーフをこの世界に認めさせた」


「そして、その努力は実った」


 アッガノーツは動けなかった。隙だらけの今のパンデミアならばいくらでも殺せる実力はある。しかし、その身体は動かなかった。まるで一挙手一投足全てを支配されたかのように。


「その努力こそ、お主......否、お主ら家族の才能では無いのか?」


「努力の天才。それが、ハーフの才能では無いか?」


「しかしながら、今回は敵が残念であったな。アッガノーツよ、『姿を見せよ』」

「っ?!?!」


 パンデミアの目の前に現れたアッガノーツの表情は困惑と驚愕と、僅かに歓喜が現れていた。


「我の今のこの身は、ハーフとも言える身体だ。持ち主が死んでからの期間と、アスカに出会ってからの期間。我が何もしていなかったなど、有り得ると思うか?」

「何を......したっ!?」


 なんらかの術中に嵌っているのは確か。その意識からなんとか口だけを動かす事に成功する。


「これから死ぬ相手に答えるのもまた一興であるが......我は今は不機嫌でな。酒の代償を払っている間にでも教えてやろう」


 パンデミアを中心に、暗闇を照らすような赤い光を放つ巨大な魔法陣が発生する。


「まずは一つ。酒の主成分はアルコールと言うらしいが、それはそれは発火性が高いそうでなぁ。気体ともなれば大変、とアスカからの入れ知恵の一つであるぞ」

「ま、まさか......!?」


 長い長い詠唱を終え、最後のトリガーキーを放つ。


 それは万象を焦がす獄炎の魔法。


「そのまさかであるぞ?

 ――天を、地を、全てを焦がせ。地獄の業火(インフェルノ)


 氷暗凍獄世界(コキュートス)の暗闇の中でもはっきりと分かる程暗く黒い炎が空気中のアルコールと反応し辺りに物凄い轟音が響き渡る。アッガノーツの悲鳴すら掻き消す程に。

 この魔法は親切で、範囲魔法であるのに術者の一定範囲には被害が一切及ばない魔法なのだ。


「では説明してやろうか」


 聞こえるはずのない説明を爆音に混ぜながら語るパンデミア。その右手には唯一残った酒瓶を持っていた。


「お主の身体の自由を奪ったのは、ラ・ビールの能力を真似させて貰った。人形使い(パペットマスター)であるぞ。眷属支配にも似た能力であるからに慣れるまで時間がかかったが慣れてからは容易く扱えるようになったのだぞ。ほれ、この努力を褒めてみんかい」


 ぐいっと酒を煽る。しかし、未だに黒い炎に包まれ爆炎の上がる氷暗凍獄世界(コキュートス)の中で、パンデミアの説明を聞いている者は誰一人いない。


「続いての敗因と言うか、まぁ、お主の筋力不足であろうな。単純に攻撃力が無いところだ。不死族のハーフならばそれなりに身体は頑丈であろうに、無理に鍛えれば容易く上がると思うがな」


 更にぐいっと酒を煽る。口元を拭った直後、黒の爆炎も黒の炎も消え、暗闇だった視界が一気に開ける。


「っと......炭になったか。灰すら残さず燃やしたかったが、我の魔力では不可能であったか......」


 傷だらけの身体のまま腰を上げ炭になったアッガノーツを異界から放り捨てる。


「こんな輩より、クレイスやネイの方が鬼だな......いや、アスカか? ......否、一番はステラかもしれぬな」


 パンデミアはそう言って遠い目をした後、異界から元の宿へと戻る。

 戻った先、そこは――



「......遅かったか」



 ――床一面に広がった血の海。そしてそこに浮かぶ無数の死体と一つの炭。開け放たれた正面扉の向こうには更にたくさんの死体が積み重ねられていた。死体は土嚢のように宿一階に広がった血を堰き止めていた。


 パンデミアは予想以上に遅くなった事を後悔しつつ、まだ出来たばかりだと思われる階段の血の跡を追うようにして二階へと向かった。





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