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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
86/108

第79話 新魔王VS旧魔王




 パンデミアの異界(アナザーワールド)にて――



「だぁぁりゃぁぁぁっ!!」

「ふん、遅いっ!」


 飛び込んで来た中途半端魔族の剣による一撃は体を少し逸らすだけで躱す事が出来、剣を振り切った姿の中途半端魔族の横っ腹へ手加減無しの回し蹴りを食らわせる。


「が、あぁっ!!」


 ボールのように創られた地面を何度か弾みながら転がって行くのを二人は見ているだけだった。


「アイツ、馬鹿だろ」

「力の差も分からないなんて、力に溺れてる証拠。使い方すらも分かっちゃいないね。それでも、潜在能力だけで僕達を上回っているってのが腹立たしいよね」


 黒衣を纏った猫背の茶髪をオールバックにした男は中途半端魔族を貶し、見覚えのある少年もそれに同意するように補足し貶す。

 どうやらこの三人の仲は悪いようだ。だが、そんな事は戦闘に関係無い。この者らならばいくら不仲であろうとも戦闘中はそれすら囮に使ってくるだろう。

 それが出来るから恐ろしいと踏んだのだ。


「ねぇねぇ、旧魔王パンデミア? 何で僕達の邪魔をするのさ?」

「邪魔などしておらぬ。今回は我の飲み仲間からの頼みを全うしているだけだ。本来ならばこんな事するつもりは無かったのだが、仕掛けて来たのは......そちらであろう? クレイス・ベネティックよ」


 我が名を呼ぶと、驚いたように目を見開いて固まった。


「数百年経っても覚えているなんて、もっと馬鹿だと思ってたよ」

「数百年経っても姿が変わらないのは相変わらずだな?」


 クレイス・ベネティック。人間で言う所の十二、三歳の背丈でその身の丈よりも大きな剣を軽々と振り回す吸血鬼(ヴァンパイア)の生き残り。

 彼は我が眠った魔王大戦の時には既に二百を超える歳をしていたが、未だに存命とは思っていなかった。アスカに出会った当時の話は冗談かと思っていたが、こうして姿を見ると過去と何ら変わりない姿形であった。口調は何やら作っているようだが。


 まぁ、今ではアスカの存在が冗談のようだがな。


「え、お前そんな名前だったの? ってか俺省かれすぎてて疎外感半端ないんだけど。積もる話してていいからさ、俺帰っていい?」

「待ってよ。オレ......んんっ、僕はこいつと戦いたくないんだ。だから、頼んだよ?」


 影の薄い猫背の男が、やる気無さそうに帰って行こうとするのを、作り笑顔で繕いながらクレイスが引き止めておる。実に滑稽だな。

 と、どうやら吹っ飛んで行った中途半端魔族が雄叫びを上げながら戻ってきたようだ。奴は治癒能力が高いようだな。


「クソがぁぁぁぁっ!! 殺す殺す殺す! お前絶対、殺してやらぁ!!!」

「ほら、お前はこっちだよ」

「邪魔すんじゃねぇっ! まだ俺の怒りは収まってねぇぞクソッタレが!」

「......黙れよ」

「っ......。チっ......わぁったよ」


 クレイスの横を悪態をつきながら通り過ぎようとした所でピタリと止まる。首元に剣が添えられたからだ。それでもまだ威勢よく吠える中途半端魔族を一言で黙らせて少し離れた場所へと向かっていった。

 この場に残るのは我とやる気の無さそうな男。脱力しているようにも見えるが、今の状態であの三人の中では二番目に強い。因みに一番はクレイスだ。


「あー、やる? ってかやらないといけないんだよなぁ......。そもそも目的の人がどんな奴なのかすら知らされてねぇからなぁ。ほんと、何で俺ここにいるんだかなぁ......あ、一応名乗っとくか。

 俺はアッガノーツ・オペーク。魔王をやらせてもらってる。実力的にはベネティックより弱いぜ。良かったな」

「やはり魔王か。だが、嘘はよせ。本気を出せばクレイスと並べるだろう?」

「あー、そこまでバレてる? 本気って疲れるんだよ。......ってかアンタさ、ベネティックの事をファーストネーム呼びしてるけど、そんな親密な関係なの? 俺ってば試しに呼んでみたら殺されそうになってよ。ほんと、最後に本気出したのあの時だわ。まじ焦ってな。で、アンタ何者なの? 本当に俺の先輩にあたるやつなの?」


 いつの間にかその場に胡座をかいて座っているアッガノーツ。隙だらけに見えるが、一切隙がない。我が少しでも動こうとすればすぐに立ち塞がるだろう。今すぐにでも離れた場所で魔法を組み立てるあの二人を止めなければならないのだが、それをこやつは許してくれなさそうだ。


「お主が何を考えているかまでは分からぬが、我にもこの場は譲れぬのでな。ゆっくりしている時間は無いのだ」

「あー、やっぱり引っかからねぇか。なら、アンタの望み通り俺も本気を出すぜ。夢にまで見た先輩との戦闘(バトル)。ネイ様相手にはそれなりに戦えたけど、あの人はニセモン(・・・)だ。本物のアンタは俺をどこまで連れてってくれるかね??」


 アッガノーツはそう言いながら立ち上がり、来ていた黒衣を脱ぎ捨てる。そこから見えた体は、細身ながらもその中には鍛え上げられた筋肉が見え、至る所に暗器を隠し持っているのが分かった。


「お主、東の国出身か?」

「あー、昔はそう言われていたんだっけか。だが今は違ぇ。もう滅んじまったからな。俺は不死族と人のハーフの魔王だ。眷属は結構居るし、色んなところで活動してっから、俺がいなくなっても大丈夫って理由よ。下からは早く消えろとか言われてっけどな......」


 中々不憫な魔王のようだ。

 しかし......ハーフの魔王か。我がいた頃は考えられないような存在だ。ハーフは禁忌の存在。それが実力をつけて魔王にまで上り詰めたと言うのだから、生半可な努力では無かっただろう。


「アンタはゆっくりしてられないんだろ? なら、気になる事は戦いながらでいいだろ。さ、やろうぜ?」

「ふむ。これは存外、楽しめそうだ」


 戦う事そのものを楽しみにしているような、その上実力は申し分ない、か。......これは中々骨が折れる頼み事だな。酒を弾んで貰わねばな。


 何処から取り出したのか分からない苦無を手に持ち異界の中を自由に動き回るハーフ魔王。こちらの間合いのギリギリの距離からタイミングをずらすかのようにもう片方の手で手裏剣や苦無を的確に飛ばしてくる。が、それら全てをノールックで撃墜する。


「あー、やっぱり流石だな。じゃ、こんなんはどうだい!?」


 それを見たハーフ魔王は、一つの丸薬を口に放り込みそれを噛み砕いた。直後、口から光すら通さない暗黒の煙を吐き出し始めた。


「これが暗黒魔王の代名詞、闇霧」

「ふむ、視界を奪うか。だがこんなもので......っ!?」


 気配を探りハーフ魔王の居場所を見つけようとした瞬間、腹部に強烈な衝撃を感じ、勢いを弱めるために自ら後方へ跳ぶ。

 運が良ければ闇霧から抜けれるだろうと思い長い距離を跳んでみたものの、一向に晴れる気配はない。


「あー、逃げられねぇぜ? お前さんなら分かるだろぉよ。まぁ......分かんなかったら嬲り殺されるだけだけどなっ!」


 声がした方向へと警戒するが、全く別の方向から今度は切り裂かれる。なんとか身を捻って躱すが、薄皮が切られてしまう。

 それから絶えることの無い連撃がパンデミアを襲う。しかし、同じ失敗を二度繰り返すような間抜けでは無い。攻撃の回数が増えるにつれ霧の中での感覚を憶え対応出来るのが魔王パンデミアの実力であった。


「気配、視界、そして聴覚すら騙すかこの霧は。......否、これは暗黒魔法の類いであろう。残念ながら魔力感知を遮る事は不可能であったようだがなっ!」

「けっ、もう見破られたかよっ!」

「それ、お返しだ!」

「チッ......がはっ!」


 飛んできた鋭利な獲物を避けた先で苦無による攻撃を仕掛けようと待っていたハーフ魔王。それをまんまと読まれ、逆に振り下ろそうとした腕をガッチリと掴まれる。悪態をつきつつも逃げる手段を試すが、それもパンデミアの前では無駄だった。お返しだと言わんばかりの強烈な拳がハーフ魔王の腹部へと見事に決まる。


「最近練習途中であった魔法が役に立つとは、我も運が良いな。

 ――全て喰らえ、魔力喰らい(マジックイーター)

「うっそだろお前......」


 分霊を一つ食した際に手に入れた元の力、魔力喰らい(マジックイーター)。その名の通り、敵の魔力を喰らう暴食の力。今の身体――竜鱗族――では使い勝手の悪い力だが、それでも目眩し程度の魔法なら喰らう事が出来るのであった。


 闇霧は僅かに隅に残っただけで、その殆どを喰らわれた。その光景を目にしたハーフ魔王は驚愕に満ちた表情をしていた。それでも、決して諦める事無く立ち上がる。殴られた事など何でも無かったかのように。


「本当に銀魔王さんの周りは化け物ばかりかよ」

「この程度で驚くなど、アスカを目にしたら気を失うぞ?」

「あー、そりゃあな、お前クラスの奴が従うくらいだもんなぁ......」


 雑談を交わしながらもハーフ魔王は喉目掛けて手裏剣を放ってくるが、案の定それら全てはパンデミアに届く前に撃墜される。


「まだまだ聞きたいことはあるのだ。さっさと来い」

「そもそも魔力感知なんて相手が魔法を使うかどうか、くらいしか分からねぇもんなんだけどな......、気配感知に五感の鋭さ、どれをとっても一級品だ。だが、それ故に......心躍るってもんだろ?」


 ニヒルな笑みを浮かべ、腰を落とすハーフ魔王。フっ、と鋭く息を吐くと同時に先手を取るように地面を駆る。掛け声と共に強烈な拳、蹴り等の体術に加え、パンデミアの間合いの外から放ってくる手裏剣や苦無の数々。それらに気を取られ撃墜に集中していると背後に回られ、背後を取られることを気にしては撃墜が疎かになり段々と生傷が増えてゆく。パンデミアもやられているだけではなく、ハーフ魔王の攻撃を捌きながら行う詠唱で魔法を放ち牽制し、強烈な重さを持つ一撃を掠らせる。掠っただけでもその威力は大きく、ハーフ魔王の鍛えた身体ですら態勢を崩す程だ。

 お互いの息のつく暇の無い一進一退の攻防の中、パンデミアは余裕が出てきたのか口を開いた。


「では、一つ聞かせてもらうか?」

「しっ! かっ、お気楽な事よ! 話に夢中になって止まるんじゃねぇぞ!」


 パンデミアの顔面を狙う一撃を体を逸らし躱す。腕を捕まえようと伸ばした腕を逆に捕えられたが、身体を大きく捻らせハーフ魔王の横っ腹へ回し蹴りを決めようと筋肉が隆起した脚が風を切りながら迫るが、ハーフ魔王は直前で腕を放して後退する。が、パンデミアの回し蹴りは想像以上に素早かったのか後退するよりも早く腹部を掠った。


「竜鱗族の能力は引き継いだままってか? 才能に恵まれて羨ましい限りだクソッタレが」

「才能も関係あるとは思うが、我も努力はしているつもりだが? では聞こうか。あれだけの数をどうやって我にもバレずに集めたのだ?」

「とっくに気付いてんだろうが。これだよ、これ」


 パンデミアの質問に答えるためハーフ魔王は指に嵌っている一つの指輪を見せる。一見何の変哲もないありふれた銀のリングだ。


「やはりか......それは、魔力を抑え込む道具であろう?」

「そんな囚人に付けさせる道具なんかじゃねぇよ。装着している人間の魔力総数を一定値に偽装するもんだ。魔力感知だって、検問だって楽々通れたぜぇ?」

「ふむ......」


 それは分かっているが、それでもこの程度ならばアスカも、自身でも見抜ける自信のあるパンデミアは眉間に皺を寄せる。そんな腑に落ちない、納得出来ない様子を感じ取ったハーフ魔王は仕方がないと言わんばかりに大袈裟に肩を竦める。


「はっ、教えてやるよ。お前らはな、その自分の優位性、魔力感知に優れている事に特別大きな自信があるんだろう? それ故に、その能力に自分が思っている以上に依存してるんだよ。意識しなければ俺達に気付けないくらいにはな......」


 ハーフ魔王の皮肉たっぷりの説明に、微かに苛立ちを覚えたがそれ以上にパンデミアは納得してしまった。


「ほぅ、なるほどな。確かに我もアスカも魔力感知に頼りすぎていたのかもしれんな。今もお前の存在は朧気であるしな。助言に感謝しよう。強者ゆえの驕りであったわけだ」

「......それはまるで、俺が弱者みてぇな言い方だな?」

「弱きを弱者と呼んで何が悪い? いい加減我も飽きてきたところだ。聞きたいことも聞けたしな......いや、まだ一つ聞いていなかったな」

「何でも聞いてみろよ。何でも答えてやることは出来ねぇけどな?」


 苛立ちを隠さないハーフ魔王を見て更に嘲るように笑うパンデミア。それを見て更に苛立つハーフ魔王。

 パンデミアは既にハーフ魔王アッガノーツの、ハーフにとって割り切れない禍根を見抜いていた。ハーフは親の種族の攻撃的特性も守護的特性も受け継ぐことの出来ない半端者。それはつまり、才能の無い邪魔な存在。それ故にハーフは純粋な者達を妬む気持ちが誰よりも強い。その上才能の塊である竜鱗族と魔王の力を併せ持つ存在を目の前にしてジェラシーが止まらない状態のハーフへ挑発するような態度で臨めば、そのハーフが怒り狂う事は確かなのだ。


 パンデミアはそれを狙っていた。


「才能が無い者が努力したところで、才能のある者が努力した結果には到底辿り着ける筈は無いのだ劣等種よ。お主がその程度ならば、一族など歯牙にもかからんであろうな?」


 その瞬間、空気すら凍るような変化を感じた。


「お前は言ってはならない事を言った。俺を貶すだけならば許せたが、俺の一族......家族を貶したお前を、俺は絶対に許さねぇ......

 ――開け、氷暗凍獄世界(コキュートス)


 雰囲気の変化したアッガノーツは手早くも丁寧な詠唱を組み一つの魔法を発動させた。

 暗黒魔法と氷結魔法は相性がいい。それを知っているパンデミアは随分と久しぶりな魔法戦をしてみたいが為にわざとそれを誘い出し、アッガノーツはまんまとその罠に嵌ったのであった。罠と呼べる程優れた手ではないが。


 氷暗凍獄世界(コキュートス)を発動すると、先の闇霧と同じように暗闇が広がっていく。しかし、闇霧と異なりその暗闇は薄暗い程度で、目を凝らせば見える明るさだ。だがそれはパンデミアが暗視を持っているからであって、常人であれば手探りすら不安になる程の暗闇であった。

 更に闇霧と異なり、その暗闇の中はしんしんと雪が降り続いている。段々と感じる温度も下がっていき、遂には吐く息が白く見えるまで下がってしまう。


「ふむ、流石に上位魔法は魔力喰らい(マジックイーター)では食い尽くせぬか。案の定、感知系統は全て遮断されておるか......チィっ!」


 第六感が働いたのか、咄嗟にその場から飛び退く。しかし、追撃を避ける事が出来ずに右肩に衝撃が与えられた。


「躱すことすら難しいだろう? 気温は氷点下へ、いずれ呼吸すら困難になるぜ? 謝るならば、命ぐらいは助けてやるよ。お前を殺せって命令は出てないもんでね」


 暗闇の何処からか聞こえてくる声に耳を傾けるが、やはり位置を特定する事は難しかった。

 パンデミアはふぅ、と白い息を吐くと、目を見開いた。


「がっははははは! 面白い、来るが良いぞ! お主の氷結魔法が勝利するか、我の火魔法が勝利するかの勝負と参ろうかぁ!!

 ――燃え上がれ、極炎っ!!」


 詠唱の短縮を使用しパンデミアも魔法を発動させる。すると、パンデミアの周囲に小さな火の粉が雪を燃やし舞い始める。



「我の得意は火魔法なるぞ! 闇を照らすは光なり! お主の闇は、我を消せるかのぉ?」



 一本、また一本とパンデミアを囲うように、闇を切り裂くように半円に巨大な火柱が出来る。その数12。

 竜鱗が火の明かりに照らされ鈍く光る。



 暗黒&氷結魔法VS火魔法。

 圧倒的不利な対決が始まった――




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