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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
85/108

第78話 宿屋籠城戦 その1


 ――場所は移り変わって臨時休業をした宿屋へ。





「これからどうしましょう」

「......まおーが戻るまで待つしか」

「大人しく待ってるわけにも行きませんからね、それに大人しく待たせてくれるとも思いませんしね」

「誰か起こしてくれても良かったじゃん......」


 セラとその両親、その他の客は皆部屋で大人しくしていて貰っている。

 それにしても、やはりアスカの仲間内は変わった連中ばかりだ。半人半魔の小娘に欠損しつつも巧みな動きを見せる小娘、片方の角が半ばから折れている上位の悪魔の小娘に、竜鱗族の小娘。どれも我から見れば小娘ばかりだが、戦闘力に関してはそこら一般の冒険者共より高いと思われる。

 だがそれすらも単騎で上回るアスカと言う存在。彼の存在は我でも計り知れない力を持っている。


 ......それでも、彼女を含む小娘らはどこか腑抜けている。実力に見合った価値観を持っていないと思われる。簡単に言うと、甘いのだ。


「アスカを信じて待ちましょう」

「......ん、そうする」

「念の為私は索敵範囲を広げてみますね」

「私だって、何かしたかったのに」


 そしてこの者らは、アスカに依存しておる。特にリサーナとステラの二名は、アスカが傍から居なくなってから妙に落ち着きが無い。なんとか繕っているようだが、どこか危なかっしいのだ。


「忠告しよう」

「「「「......?」」」」

「お主らはもう少し、覚悟を持つべきだ。絶対的強者の隣に立つと言うことを」

「それはどう言う――」


 我の忠告に皆一様にクエスチョンマークを頭上に浮かべるのが目に見えて分かるが、リサーナの質問は最後まで我に届くことは無かった。

 強大な魔力の反応があったからだ。


「これほどの魔力は......!?」

「......敵襲」

「欺かれた、って理由ですね」

「な、何だか力が抜けるぞ......?」


 ラ・ビールの索敵範囲には恐らくまだ何も反応は無いだろう。しかし、窓から外を覗けばすぐに分かる。道を埋め尽くさんばかりの武装した集団が既に宿屋の前にまで集まっていたのだから。

 至極簡単な理由だな。魔力感知に引っかからない魔道具を身に付けていたのだろう。そして誰も気付かない内に、いや、もっとずっと前から準備がされていたのだろう。準備された強固な結界が宿屋全体を囲うように張られた。


「相手はかなり用意周到だ。我の忠告を理解出来ぬのなら、この部屋から出ないことだ」


 釘を刺すように更に忠告して部屋を出ると、それに続くようにして他の者も部屋から出てくる。


「わ、私だって簡単な魔法くらいなら使えますっ!」

「......私は、もう足手纏いは嫌」

「私はリサーナさんを守るのが使命です」

「やっるぞ〜!」


 今までなら絶対的な存在、アスカがいたから何も口出ししなかったが、今回は事情が違う。相手は上位の悪魔すら欺く手段で近付いてきて、超高度な結界術を駆使出来、それでいてあの大人数を引き連れる敵だ。

 強いて戦力になると言えるのはラ・ビールくらいか。それ以外はただの足手纏い、邪魔にしかならない。

 分霊を一つ食らった我でも、アスカの足元にも及ばない。そんな状態で足手纏い三人を守りながら戦う事は困難を極めるだろう。

 何よりもこの者らに傷を付けさせてしまえば、アスカに後で何と言われるのかが怖い。下手したらお酒を没収されてしまうかもしれないのだ。それだけはなんとか逃れなければならない。


「今回の敵は今までとは違う。我はアスカとは違うのでな、二度は言わぬぞ。リサーナ、ステラ、レヴィ。部屋で大人しく待っていろ」

「で、でも......」

「......っ」

「うぅ......」


 捨てられた子犬のように縋る表情で訴えて来るも、そんな事で落ちるのはアスカだけだ。

 二度は言わぬ、と黙殺すると、三人は哀愁漂う背中を見せながらすごすごと部屋へ戻って行った。ほんの気休め程度にしかならぬとは思うが簡易の結界を張る。少しでもやってますよとアピールしておかねばアスカに叱られるのでな。


 ここでは魔力感知ではなく、気配と音だけで周囲の状況を把握しなければならない。

 外にひしめき合っている敵の人数は凡そ百を超え、その中でも魔王級の実力を持つ者が......三名。

 アスカの読み通りならば、狙いはリサーナ一人であろうに......。その為だけにこの大軍を用意したとなると、かなり強引な作戦と思われる。


「ラ・ビールよ。お主が現魔王と戦って、勝てると思うか?」

「......無理ですね。長く持って半刻、短くて小半刻も持たないと思います」

「であろうな......。ならば、魔王共は我が相手しよう。雑魚共は任せたぞ?」

「魔王共......数名いるのですね。でも、先ほどの忠告は私達を侮りすぎですよ? 少なくとも私は、何時なん時散っても構わないと思っています。それがアスカ様の傍なら、尚嬉しいと」

「我は魔王共を異界へと引き込む。その間に出来る限り......」

「えぇ、殺しますよ。アスカ様に仇なす敵は全て」


 ほう。

 今までアスカの傍にいた時は見たこともなかった、正真正銘悪魔の顔付きのラ・ビールを見て先ほどの忠告はこの者に対しては失礼であったと、心の中で反省をする。

 この者は、誰よりも覚悟を決めている。それはアスカよりもずっと深く。


「ふっ、では任せた。間もなく攻め入って来るだろう。我かアスカが戻るまで、持ち堪えて見せよ」

「最初っからどでかいのを放ちます。ちゃんと避けて下さいね?」


 久方ぶりの本格戦闘で、元魔王と悪魔令嬢(デビルレディ)はそれこそ悪魔のような笑みを浮かべて、宿屋正面の扉が開くのを待った。



 数十秒も経たずに扉が勢い良く開かれると、そこには隙間なく敷き詰められた大量の敵がいた。


「邪悪と混沌に塗れし悪の波動よ、我が名の元に顕現せよ。敵を撃ち払え、暗黒の巨砲(ダークネスブラスト)

「なかなかやるではないか。だが、まだ魔力の練りが甘いな」


 アスカの元にいても、努力を惜しまないのはラ・ビールだけでは無かったが、それでもこの場に立てたのはラ・ビールだけだ。褒め言葉も耳に入らないほど集中して魔法を放つラ・ビール。

 宿を、下手すれば街の一角を破壊せんと思われるその巨大な無数の砲撃が敵集団を襲う。しかし、それらは誰一人殺すことなく先頭に立つ三人に全て防がれてしまった。


「最初っからクライマックスってやつ?」

「おい、レヴィは何処だ。絶対に殺してやるっ!」

「はぁ、ネイ様の命令だとしても、こいつらのお守りだけは嫌なのになぁ......」


 砲撃が止んだ直後、口々に言い合う三人の姿を確認した我は床を壊さないように最低限の配慮をして、抵抗される前に異界(アナザーワールド)へと纏めて引き込む。これで、第一関門は突破だ。

 後はここを突破されるのが先か、アスカが戻ってくるのが先か......否、我がこやつらを殺すのが先か。


異界(アナザーワールド)......まさか使える者がいるとはね」

「手前っ! 誰だよ! レヴィの知り合いか? 構わねぇ、ぶっ殺してやる!」

「脳筋は黙っててねー。でも、彼は君の恩人だよ。ねぇ、旧魔王・パンデミア?」


「ふぅ......我を知っているなら話は早い。誰からかかってくるか? 三人纏めてでもやってやろう」


「っ! ほざけっ!!」


 気の短かそうな、竜鱗族がベースの魔族が真っ先に突っ込んできた。


 それを合図に、異界(アナザーワールド)での戦闘が開始された。










 障害となり得る存在三名がパンデミアの手によって空間ごと消え去り、残ったのは雑魚百名超の宿屋ロビー。


「隊長達が!」

「しかもなんだあの魔法はァ!?」

「そんなことよりどうしろってんだ!」

「良いから落ち着け、俺達は俺達の仕事をするまでだろ!」


 荒くれ者達は口々に言い争うも、己の責務を全うしようと改めて手に握る獲物を構える。

 対するラ・ビールは、周囲への被害を最小限に抑えながら戦う術を模索していた。


「行くぞ、野郎共ぉ〜!!」

「「「おおおおー!!」」」


 雄叫びと共に地響きを鳴らしながら百名を超える人数が正面扉からひっきりなしに突っ込んでくる。


「二階には、上がらせませんよっ!」


 悪魔の武器である鋭い爪を伸ばし、襲い来る敵の喉元を的確にかつスムーズに切り裂いて一撃で死に至らしめる。しかし、ラ・ビールの腕は二本しかない。無駄な動きを一切せずに敵の動きを目視で回避したり、時には予見して先に動いたりなど、身体強化をフルに使って次から次へと敵を葬り去る。が、敵は死体を乗り越えて進んで来る。荒くれ者達は死を恐れない軍団となって休み無くラ・ビールの守る二階へと続く階段を目指し進んでくる。


「隙ありゃぁぁっ!」

「くっ、邪魔!」

「がぁっ......」


 普通、身体強化は防御や攻撃する一瞬に発動するもので、継続して使用するとなると途方もない魔力を必要とする。だが、ラ・ビールは不幸の産物と呼べる魔力譲渡の仕組みを理解し、それを逆に流す事で敵からほんの少量の魔力を奪い自身の魔力へと変換する、魔力変換を会得していた。ほんの少量でも奪う敵が周囲に多ければその分だけ回復する量は増える。

 しかし、魔力変換と自身の魔力急速回復を重ねて使っていても、身体強化による消費量の方が僅かに上回り減る一方だった。

 その為、少しでも持久戦で耐えれるように身体強化を僅かの間だけ解除して回復に徹しようとした際の隙を狙われて負傷してしまう。


「休んでる暇は無ぇぜぇぇ!!」

「はぁっ、はぁっ......暗黒弾っ!」


 傷と疲労の回復を優先しようと暗黒弾の弾幕を張り距離を取らせる。死後数分の間はまだ死体にも魔力が残っているので、死にたてほやほやの死体から魔力変換を行いつつ回復魔法を行使する。


「これで、少しは時間が稼げる筈......」


 暗黒弾の弾幕を維持するのにも魔力を消費するが、慣れた魔法で魔力の消費が少ないのと、魔力変換と魔力急速回復の併用で何とか回復の方が上回った。

 まだまだ大量の敵がこちらへ近付こうとしているがそれでも暫しの休息が取れる。その間に新たな魔法を組み立てようと詠唱をしようとしたその時――弾幕とそれを捌く荒くれ者達の罵声が轟く宿屋の中で、パリン! と言う鏡が割れるような、そんな音が背後(・・)から響いた。

 咄嗟の出来事なのに反応出来たラ・ビールは優れていよう。しかし、振り返るのが遅かったのが幸いか、背後から剣閃が光ったと思うと、ラ・ビールの翼の片方が半ばから切り裂かれた。


「あぁぁッッ!!?」

「あら、避けられちゃったね」

「先に行くぜ? 俺はレヴィを殺したくて殺したくて腸が煮えくり返りそうなんだよ......」


 痛みと困惑で弾幕が切れてしまうが、荒くれ者達は突然現れた二人を見て固まっていた。

 そんな事も気にせず怒り狂った様子の褐色肌の魔族のような見た目の男は片割れを残して、乱暴に足音を立てて二階へと上がっていった。もう片方の、身の丈程もある大きな剣を玩具のように振り回す少年は大剣に付いた血を見て何やら満足そうに頷いた。

 その直後、ラ・ビールは危険を察知していつ千切れるかも分からない翼をはためかせて空中へと逃げるように飛ぶ。飛んだ直後、ラ・ビールがいた位置には大剣が突き刺さっていた。


「いやぁ、アスカ・ニシミヤとレヴィ・ドラグエルの他にもこんなに厄介な奴がいるなんて思ってもなかったよ。悪魔なら大人しく従っていればいいものをさ」


 パンデミアが連れ消えた筈の二人が出てきた場所を見ると、別の空間へと繋がっているように見え、中では激しい戦闘が繰り広げられているのだと思えるような衝撃音が鳴り響いている。


「ぁうっ......くっ......」


 今後を考えて魔力の節約のために風魔法を極力最低限に絞ったのが悪手であった。翼に走った激痛により、ラ・ビールは空中でバランスを崩して地面へと墜落しそうになる。

 落ちる寸前で風魔法を発動し、クッションに受け止められるようにして地面に膝をつく。


 奴は常に視界に入れて置かなければ不味い、と判断したラ・ビールは、慌てて顔を上げたが――


「あははっ! 勝負事でも何でも、冷静さを欠いた方が負けるんだよっ。上級悪魔、つーかまーえた〜!」

「がっ、はっ......!!」


 ――それは既に遅く、小さな身の丈からは考えられないような重い蹴りが腹を、内蔵を潰しにかかる。加えられる圧力に耐えきれずラ・ビールは血を吐きながら宿屋の地面を転がる。


 少年は、ラ・ビールが空中へと逃げた時点で自身の勝利を確信していたようだ。勝負は、魔法戦闘でも通常戦闘でも、どんなものでも相手の先を読んで行動出来た方が勝つものだ。


「あはははは! すぐには殺さないよ? アイツが来てから殺してやるのさ! 『姫』を奪い、魔王を語る不届き者を絶望に染めてやれたら、どんなに楽しいだろうかっ! あは、あはは、あはははははっ! ......それまでは、たっぷり嬲って......やる、からっ、ねっ!!!」

「ぁあっ......! ぐぇっ......、うぁっ......」


 意識が朦朧とする中、下卑た笑みが視界に映り込む。治癒も間に合わず、ただ蹴られ、殴られ、サンドバッグ状態のラ・ビールだったが、その間は決して涙を流すことは無かった。

 暫くの間、肌を殴打する音と細かい悲鳴が響いていたが、それも突然止まる。


「......うん、飽きた。反応無くなったし、後はアイツが来てからにしよっと。クリル君の方も気になるし、見に行こーっと」


 あらぬ方向に折れ曲がった腕を持ち、ボロボロになったラ・ビールを引き摺りながら階段を上っていく少年。少年が通った跡は、ラ・ビールの流した血が木材に染み込みドス黒く変色し始めていた。


「あっ、そうだ。お前達はアイツが来るのを数秒でもいいから持ち堪えてみせなよ?」


 頼りにしているとは少しも思っていない駒を使い捨てる発言だが、荒くれ者達はその者の放つ言葉に逆らえはしなかった。






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