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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第77話 マッドサイエンティスト!?


 私の足元には潰れた犬の頭。

 いや、犬の頭を潰したのは私だ。そしてそんな私の後ろには、尻餅をついているアルテリアさんと横たわる裸の女性。それらを守るようにして立っていた幼女がいる。


 クレーターの上には更に多くの子供達がいるが、どうやらアルテリアさんの探していた一人の子が人質のように首元にナイフを突きつけられていたので、ナイフを持っているチンピラを魔法の矢(マジックアロー)で撃ち殺しておく。


 そんな事にも気付けないくらいの静寂が流れる中、私は周囲を見渡す。旧物流庫だって言うから来たのに、中は荒れに荒れていて少しでもちょっかいを出したら崩壊しそうだ。


 私の最優先の目的である実験台、もといチンピラ共は私が予想していた数よりも大幅に減っている。殆どが魔力切れを起こして膝をついているようだが、欠損しているような実験材料は居ない。いや、居るには居るんだが、一目見て分かるくらい立派な死体なのだ。


 ――居ないなら、作ればいいじゃない? ってことでなんの恨みも無いけどここにいるチンピラ達には治療魔法が完成するまで犠牲になってもらおう。アルテリアさんを虐めた制裁という大義名分(笑)があるから神様だって許してくれる筈。やられたらやり返すのが私の流儀だからね。


 まぁ、私がもう少し早く到着してればこんな事にはならなかったと思うんだけど、必要な材料を購入してたら旧物流庫への道程が分からなくなっちゃってね......。そしたらちょうど大爆発が起きたからそこに向かったらこの状況って言うね。


「あ、アスカちゃん......?」

「何その全然嬉しくないような顔は。折角来てあげたんだからもう少し喜んでよね〜」


 潰れた頭がブチ撒けた血肉が折角のブーツにこびり付いている。歩く度にグチ、だのグチャ、だのと不快な音を鳴らしながら、尻餅をついて呆然と私を眺めていたアルテリアさんに近付く。


「あー、アルテリアさんも魔力切れ? うわ、ボロボロじゃん。本当に無茶しすぎなんだから」


 火傷などの傷痕が残らないように即座にアルテリアさんに回復魔法をかける。


「あ、ありがとう......」

「少しすれば魔力も回復すると思うよ。それに、そろそろ衛兵達もさっきの爆発に気付いて集まってくるだろうからね」


 アルテリアさん以外は今のこの状況を飲み込めてないらしく、まだ唖然とした表情で固まっている。

 しかし、それも長くは続かず、やっとの事で丸々と肥えた家畜のような男が慌てて声を張り上げた。


「き、貴様、何者だっ!? デ、デヴァー! 早く、早くこの化け物を殺せ! バーゲストを瞬殺だなんて、なんの魔法を使ったのだ!?」

「はぁっ!? 無理だろ! 頭おかしいんじゃねぇのか!? 俺にだって仕事を選ぶ権利くらいはあるんだよっ! って言うか本当にお前誰だよ! 銀魔王アスカの仲間か? 四大魔王にお前みたいなやつは知らねぇからな。さっさとその仮面とローブを外して正体を見せろや!」


 恐慌状態のような二人が心底つまらないコントのようなものを行いながら私に質問をいくつも投げかけてくる。

 銀魔王アスカって名付けた人誰だろうね。ネーミングセンス最悪じゃん。もっとカッコイイ二つ名みたいなのが欲しかったな。


 私は優しいので実験材料相手にも親切に質問に答えてあげるのだ。


「魔法も何も、着地した所にワンコが居たから潰れただけ。それだけだし、私は私。これから死ぬ人に姿を見せても意味は無いと思うから仮面は外さないでいるね」


「なっ、舐め腐った態度を取りおって! デヴァー、殺せ! 殺すのだ! そんな貧乳(・・)など何の価値もない! 殺してしまえ!」

「俺もそんなに舐められるとは思わなかったが、そこまでコケにされて黙ってるわけにもいかねぇんだよ。それに、無い乳(・・・)相手だと甚振るのもつまらねぇからな、さっさと終わらせてやるよ!」


 そう言ってデヴァーとか言う奴は身の丈よりもおおきな戦斧を掲げて重さなどないような軽いフットワークでこちらに攻めてくる。


 だが――


 そんな事私の前じゃ関係ない。

 決めた。この二人には死よりも辛い経験をさせてやろう。絶対に許さない。

 誰が......無い乳だぁ? 貧乳だぁ?


「あ、アスカちゃん落ち着いて......?」


 私の微かな(・・・)怒りを感じたアルテリアさんが背後から声をかけてくるが、私の耳には届かない。


「ぁ......っ! 危ないですっ!」


 戦斧が私目掛けて振り下ろされようとした時、ワンコに噛み殺されそうになっていた幼女が私を押し退けようと体当たりをしてくるが、そんなひ弱な力で私が動くと思ったら大間違いだ。そのせいか幼女は私の脚に抱きつく形になる。


「はっはぁ! チビ諸共死んじまいなぁ!」

「ひ、ひぅっ......!」


 威勢よく悪そうな笑みを浮かべた斧男は力いっぱい戦斧を振り下ろした。

 男のその表情に恐怖を感じたのか、幼女は私の脚に顔を埋めて抱きつく腕にさらに力が込もる。


 もちろん、こんな蚊が止まるような遅い振り下ろし如きで私を傷付けようなんざ百年早い。

 私が拳を作って振り下ろされる戦斧に反発するように殴り付けると、ガキン! という小気味の良い破壊音が耳に響き斧が粉砕される。


「え......?」


 私は一歩踏み込み、唖然としている戦斧を振り下ろした隙だらけの格好の男に目潰しを食らわせる。そしてそのまま指を折り曲げ、目の上の骨......前頭骨って言ったっけな? そこに指を引っ掛け地面に叩きつける。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 その悲鳴に顔を上げようとした幼女の頭を抑えて上げさせないようにする。教育に悪いからね。でも、まだまだこんなもので終わるわけがない。また後で全員一緒に可愛がって上げるのでそれまで黙っていて貰おうか。


「ぐぎっ......」

「ば、化け物め......! 本当に何者なのだ......!? 悪魔か? 邪神か!? 貴様は、一体何者なのだ......」


 久しぶりに「化け物」なんて呼ばれたね。全く以て失礼だ。何かしら答えを出してあげないと殺した後に化けて出そうだよね。こんなむさ苦しい家畜が化けて出てこられてもいい迷惑なだけだし、優しい私は答えを出してあげるのだ。


「うーん、強いて言うなら......『魔女』かな」

「ふ、ふざけるな! 魔女なんて引きこもりがバーゲストを踏み殺す事が出来るわけ無かろうが! それに、あのお方の紹介したデヴァーですら手も足も出ないなんて、引きこもりの魔女如きが出来るはずないのだ! ......そ、そうか、分かったぞ、貴様は、貴様の正体は、最強の格闘王、グランシバル・フェイブルだな?」


 は? 誰だよそいつ。名前すら知らない人物を出してくるんじゃない。


「知らぬと言った顔をしようとも、この俺に見抜けぬ嘘はない! 惚けたって無駄だぞ! ぐぁはは! 格闘王は遠距離からの魔法に弱い! 道理だ、道理なのだよ!」


 勝ち誇ったような顔をした家畜人間はそう言って何やら魔法の詠唱を開始した。

 アルテリアさんに説明を求めようと視線を向けると、アルテリアさんもやれやれと肩を竦めていた。


 私はさっさとこの場を片付けて、アルテリアさんを連れてリサーナ達の元へ戻らなければならないのだ。


「ぐぁはは! おしまいだ、烈風刃!」


 おぉう。家畜のくせに中級魔法を使うなんて。

 私がそれを同じ魔法で同じ威力で相殺すると、後ろから溜め息と足元から歓声、相手は驚きすぎて声も出ない様子だった。


「っ......。っ!! あ、有り得ん、有り得んぞ! 格闘王出なければ、貴様は、一体何者なのだ!?」

「だから、魔女だって言ってんでしょうが」


 いい加減この誰何にも飽きてきた。

 これ以上ここに居ても一銭の得にもならなさそうなので、早々に切り上げることにしよう。

 未だ脚にしがみつく幼女をそっと離して、目を瞑っているように忠告する。そしてピーチクパーチク、誰だ何者だと騒ぐ家畜さんにゆっくりと近付く。一歩、また一歩と近付く度に「く、来るな! 近寄るな!」と地面に腰をついて半泣きになりながら命乞いを始める。


 例の短剣の間合いに入ったところで、私は目が笑っていない笑みを向けて言い放つ。


「安心していいよ。まだ(・・)、殺さないから」

「えっ......? えっ、あ、あひゃぁぁぁぁっ!?」


 私の台詞よ意味が分かったのが先か、それとも片腕が消えた事に対するリアクションが先かは分からないが、私が短剣(ダガー)を持った片手を振るった直後に変な悲鳴を上げて血飛沫が止まらない左肩を抑えて蹲る。


 冷たい笑みは仮面に隠れて見えてない筈だし、きっと腕が無くなったことに対する悲鳴だろう。貧弱だなぁ。ステラはきっと腕が無くなった時でも悲鳴すら上げなかったと思うよ。彼女は誰よりも強い子だからね。


「や、やめ、やめやめて......」

「それじゃあ、また後でだね」


 既に戦意喪失している家畜さんは、家畜さんに向けて短剣を持った手を振り上げただけで失禁して気を失った。

 本当は触りたくもない家畜さんに触れて異界(アナザーワールド)へと放り込む。実験材料は多い方がいいからね。


 律儀にギュッと目を瞑っている幼女の傍に転がる男も異界へと放り込む。その他クレーター上で誘拐されてきた子供達を人質に取ろうとした者達もうるさくないように気を失わせてから異界へ放り込む。

 暫くそれを繰り返して全体の三割酷の人数を異界――地獄――へとご案内した。


「アスカちゃんはその人達を、どうするつもりなの?」

「教えられない、かな」

「そう言うと思ったし、私じゃアスカちゃんを止めることなんて出来ないってのも分かってる。だけど、ウィルガルムの一角を統治する統治者の立場で言わせてもらうけど......ウィルガルムで起こった犯罪はウィルガルムの法で裁かれるべきよ」


 確かに、アルテリアさんの言うことは正解だ。


「でも、こればっかりは譲れない。だから、見逃してくれない?」


 まるで子供のような言い訳だが、私はステラやうちの子達のためなら手段なんて使える手を全て使うつもりだ。例えそれが犯罪だと知っていても。


 暫しの間、私とアルテリアさんの間に沈黙が流れる。

 本当は魔物で試してから、こう言った犯罪者を実験材料にしたかったのだが、先に犯罪者達の方から舞い込んできたのだ......なんて言っても、どれもこれも言い訳にしかならないな。

 私は少しばかりの強引もやむを得ないと思い、普段から抑えている魔力の一片をアルテリアさんに浴びせる。普段から抑えている魔力とは、言わずもがなのUNKNOWNだ。

 私の足元で視線を行ったり来たりさせている幼女に浴びせないよう細心の注意は必要だったけど。


「っ......やっぱり、アスカちゃんはズルいよ......。今回は条件付きで見逃すけど、次は無いからね」


 よしっ! 何とか説得(物理)に成功した!

 条件とは、誰一人欠けることなく憲兵か兵士の詰所に送り付けること、だそうだ。要は誰も殺さずに生きた状態で返せってことだ。少しくらいなら廃人がいても誰も気付きはしないだろう。



 アルテリアさんとのプチ喧嘩を終えると、丁度そこへ衛兵の一人姿が物流庫の入口に見えた。衛兵が来るのがここまで遅れたのは、恐らく旧物流庫の置かれた位置が誘拐現場より遠く離れていたからだろう。

 残ったチンピラ達を検挙出来るほどの衛兵が来るにはもう少し時間がかかりそうだ。


「アルテリアさんは、戻る? それとも後片付け終わってから?」

「本当は戻って休みたいけど、この子達を放ったらかしには出来ないからさ」

「おっけー、分かったよ。それじゃあ、明日にでも学校に様子見に行くから」

「うん、そうしてくれると嬉しいかな。あ、今度入る時はちゃんと手続きしてよね? 結界壊されると修復大変なんだから」


 了解、と手を振りその場を立ち去ろうとすると、ローブの裾を引っ張られて足を止める。


「あ、あのっ、お顔は......見せてもらえないのですか? あとあと、また、お会いできるでしょうか? えっと、後は......あっ! 助けてくれて、ありがとうございました!」


 勇敢な幼女だ。あれだけの光景や悲鳴を見聞きしていても私を怖がらないなんて、今後の教育に配慮しすぎたかなぁ?

 私は適当に誤魔化すことにする。こういう時は久々の詐称スキルさんが活躍してくれるだろう。


「私は、通りすがりの魔女さんだから次に会えるのはいつか分からないよ。だから、今回のことはそこの校長先生に助けられたって覚えておきなさい」


 自分で言っているのに無理があると思う。

 仕方が無いので情報操作スキルで私に関しての記憶を適当に消す。ごめんよ、今は急いでるんでね。


「アスカちゃんいいの? 折角ファンが出来る所だったのに。王族の後ろ盾は強いわよ?」

「そんなの、あっても無くても関係無いし、私のファンはうちの子達だけで十分なの」


 パンデミアさんはただの居候だかんね。


 血濡れた格好そのままに、オープンになった屋根から一足で跳び去る。

 急いでリサーナ達の元に戻らなければと思い、マーキングの反応を確認しようとすると、マーキングの反応がおかしい。緑になったり黄色になったりと不安定だ。それはリサーナだけではなく他の子達も全ておかしくなっている。


 ――急がなきゃ。


 満月をバックに、宵闇の空を駆けるようにしてローブの魔女は一つの宿屋へと向かった。











「ぅ......せんせぇ......?」

「あ、気付いた?」


 アスカが跳び去った直後に目を覚ましたユングは周りを見渡すと、目を見開いてすぐに体を起こして大きな声で叫んだ。


「あ、あれ!? あのお姉ちゃんがいませんっ! また会えますかって聞こうと思っていたのに!!」

「あちゃー、アスカちゃん慌てすぎて本当に直近の記憶しか操作出来てなかったみたい?」


 急に立ち上がった上に、声を張り上げたせいか立ちくらみが起きてユングがふらつく。

 優しく支えるが、疲労が溜まっていてまだ回復できていないアルテリアも揃って崩れる。

 あはは、と情けなく笑いながらも、アルテリアは少し安心していた。


(アスカちゃんも、失敗するんだね。ちゃんとした人間って事かな......)


 友が跳び去って行った満月の浮かぶ空を見上げながら、アルテリアはそんな事を考えていた。





マッドサイエンティストはテンパってるみたいです。

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