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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
83/108

第76話 アルテリアVS誘拐犯 その2

本日二話目です〜。


 怒号や罵声に続き武器や魔法に人が、アルテリア目掛けて遠慮無しに向かってくる。


「もう、邪魔! 地烈・崩壊粉砕(グランドパルバライズ)


 アルテリアが地面に大きく両手をつくと、魔法陣が広がり局地的な地震が起こる。


 これは放瀑や雷王の魔法と同じくとっておきのストック魔法の一つ、地烈の魔法である。

 地震と共に地面が隆起し、突然の揺れや隆起にチンピラ達はバランスを崩してしまう。

 もちろんその程度で終わるはずも無く、物流庫内は乱れに乱れた。子供達の集まる箇所には被害は一切ない。


「チッ、戦いにくくなったがそれだけだ! 野郎共、怯むんじゃねぇぞ!!」

「やってやらぁぁ!」

「ちくしょうがァ!」

「おおおおおー!!」


「これで終わりなわけ無いでしょう、がっ!」


 チンピラ達が思い思いに叫び、隆起した地面をバラバラに動きこちらに向かってくるが、アルテリアは再び地面に手をつきもう一つの魔法を発動させる。


「食らいなさい、岩石砲(ロックシュート)! 全弾お見舞いしてやるんだから!!」

「なぁっ!?」

「がはっ!」

「足元がっ、うわぁぁぁ!」

「げぶふぅっ!」


 ストックした全ての岩石砲(ロックシュート)を隆起して出来た隙間から狙い撃つ。それを見て足元を注意しながら進む輩には正面から撃ち抜く。実にシンプルだが、奥が深いのが岩石砲のいい所だ。


「ふん、下らぬっ! まだまだこんなものでは無かろうっ!」


 その声が聞こえた方を振り向くと、足元から飛び出る岩石砲を難なく躱し、目の前に迫った岩石砲は叩き切る連中がいた。

 その者達は総勢で五名。後ろに位置するでっぷりと太った者の傍らには二人の女が裸で髪を掴まれて引き摺られていた。


「べ、ベル!! ケミルっ!!」


 魔力障壁に内側から張り付きながら二人の名を呼ぶのはユングだ。どうやら探していた者がいたようだ。

 その声に反応するかのように、引き摺られている女は苦しそうに表情を歪ませる。


 そこで下っ端であろう一人が、奥にいる女を引き摺っているでっぷりとしたお腹の持ち主へと近付いた。


「お、親分、アイツめちゃくちゃなやつで......。これも全て魔法で、しかも無詠唱みたいなんですよ!」

「ぐぁはははは! そんな事どうでもいいだろう。良く見ろ、なかなか上物の体つきじゃねぇか。お前ら、殺すんじゃねぇぞ? アイツは俺が泣かせてやるからよ!」


 女を引き摺っていたのがチンピラ達誘拐犯の親玉のようだ。遠目からアルテリアの体を舐め回すように見てから、下卑た笑みを浮かべて岩石砲を叩き切っていた連中に指示を出した。自分が負けるとは一寸も思っていないようだ。


「雇い主のご意向だ。魔王のその力、俺達に見せてみろ!」


 四人パーティの冒険者だろうか? 戦闘慣れした動きで展開し、親玉の命令通りすぐさま戦闘不能へと持ち込もうとしてくる。


「私も、本気で行くからね! 来い、竜牙刀!」


 アルテリアは空間収納を開き、一本の刀を取り出す。


 竜牙刀。その名の通り竜の牙で作られた伝説の刀。万物を切り裂くが、使用者をも殺す妖刀とも言われ、使用者に尋常ではない程の負担がかかる。一振りする度に途方もない魔力を使用するため、誰も使える者がいなくなり歴史から名を消していた。その為世の中には贋作が大量に出回っていたが、その本物はアルテリアが過去に隠し持っていたのだ。


「はっ、贋作などで俺達を倒せるなんて思うんじゃねぇぞ!」

「魔法、展開します!」

「Bランクの実力見せてやらァ!」

「――祝福せよ、筋力増強!」


 雇われ冒険者達はいつものように、王族の護衛を殺した時のように展開する。

 しかし、いつものように行かなかったのは、その竜牙刀が本物だったから、という至極単純な答えだ。


「何回振れるか分からないから、手加減は無理だよ! まずは、一振り目ぇ!!!」


 しなやかな曲線を描き、腰を入れた完璧なる一振り。それだけで向かってきた一人の冒険者の上半身は下半身との別れを告げた。


「え......?」

「嘘、だろ......」


 それを見て呆気に取られている残りの冒険者の元へと身体強化を付与した脚力で一気に近付き、防御の上から両断する。合計四振り。それだけで雇われた冒険者達は八つに別れ、今生との別れを告げた。

 しかし、


「ぐ、げはっ! ......くふっ! マジかぁ......四振りでここまで来るかぁ......あ、私ってば弱くなってたんだっけぇ? うーん、もう少し頑張りたかったけど、ここまでかな......」


 アルテリアは膝をついて吐血した。たった四振り、されど四振り。恐らく今しがた斬られた冒険者達は一振りで今のアルテリアよりも酷い状況に陥っていたであろう。

 竜牙刀を空間収納へと仕舞い、すぐに口元を拭ってユングとクレイルの元へ駆けつけようとしたその時、殺気を察知して咄嗟に横に飛び退く。

 すると、アルテリアのいた場所に大きな戦斧が地面を砕いていた。


「くぅっ......!」


「さて、約束通り俺と、バーゲストが相手だ」

「ぐぁはははは! デヴァーよ、姿が見えんからとっくに死んでいたと思っていたぞ? さっさと終わらせんか!」

「お前の言う通りにはならないが終わらせるのは俺の役目だ。身元も、俺側が引き取るからな」

「グルルルァ......」


 地面を砕いた大きな戦斧を引っこ抜きながら親玉と話をするデヴァーの後ろを、剥き出た鋭い牙の間から涎を垂らしたバーゲストが、ジャリジャリと鎖を引き摺りながらこちらを睨みつけていた。


「くっ......」


 子供達の魔力障壁も展開時間は残り少ない。

 先の岩石砲でチンピラ達は粗方片付いたものの、まだまだ数はいる。そしてその中でも最大戦力だと思われるデヴァーとバーゲストがアルテリアを狙っている。

 正に絶体絶命な状況だ。

 僅かに思考を巡らせた後、アルテリアは詠唱を唱え始める。


「今更詠唱だと? 無詠唱は条件付きかぁ?」

「っる、さいっ!」


 「詠唱中断」を繰り返しながら、次々と迫り来るデヴァーの戦斧による攻撃を体スレスレで避ける。

 自分で作り出した足元の不安定な地面を憎ましく思いながら、踏み外さないように逃げ回る。


「ガァァァァッ!」

「うっそ!」


 再び戦斧による攻撃を何とか避けるものの、逃げた先にはバーゲストの牙が待ち構えていた。

 無理な体勢でそれを躱そうと試みるも、躱しきれず足首を抉られて地面に転がされる。


「痛っ......癒せ、回復(ヒール)


 最短縮できる下級回復魔法で流血と痛み止めを施しすぐに立ち上がるが、下級では完全に痛みを消し去ることは出来ず再び膝をついてしまう。


 その時、無数の光が視界の端に映った。


 それと同時にバーゲストとデヴァーが距離を取るのに気付く。


「っ、魔力障壁、最大出力で展開!」

「せ、せんせぇっ!!」


 残り少ない魔力を振り絞って障壁を展開する。少し遅れて耳を劈くような爆音が無数に轟く。その中で一瞬だけ可愛い教え子の声が聞こえた気がした。



 ――ドドドドドドドドドドドッッ!!



 無数の魔法による攻撃が延々と続いたように感じた。一つ一つが火力の少ない魔法だとしても、数が増えればそれだけ火力は増す。当然の事象だ。

 残ったチンピラ達は自身の撃てる魔法の中で最大火力の魔法をアルテリア一人に向かって全力で撃ち放ったのだ。


 嵐のような激しい火力の全ての魔法が落ち着くと、土煙がもうもうと立ち篭める。


「ったく、殺すなって言ってんだろうが。煙ばっかで視界を塞ぐなっての。――風よ吹き退べ、ウィンド」


 デヴァーが軽く魔法を一つ唱えると、唯一の出入口から土煙が抜けていく。

 煙が晴れていくと、先程まで凸凹していた不安定だった足場が半円球状になっているのを察することが出来た。所謂、クレーターである。


「流石にこれを食らって生きてるなんて全力で防御した俺でも無理だが......魔王様はどうだろうかね」


 この時、子供達の方を見れば誰でも気付けたはずなのだ。まだ(・・)魔力障壁が残っているという事を。


「ひゅー......ひゅー......ひゅー......」


 不安定な呼吸と共に、煙が晴れた先では一人の女性がフラフラになりながらも立っていた。


「おいおい......マジかよ......」

「ごふっ......!」


 全身の至る箇所が焦げていて、服も殆ど真っ黒だ。生きている方がおかしいと思えるくらいアルテリアはボロボロになっていた。呼吸をすることすら苦しそうにして、大量の血を吐いた。それでも、アルテリアは屈することなく地面に両足を揃えて立っていた。


「せんせぇ! せんせぇ!」


 いつの間に近付いて来たのか、ユングがボロボロのアルテリアに泣きながら抱きついてきた。


「おい、デヴァーよ。この女達も殺せ。こいつらにも、その女にももう用はない。報酬金なら存分に出してやろう、お前はそれだけの働きをしたからな」


 クレーターの上から二人の女を捨てるように投げた親玉は、そう言って上から殺すシーンを見ようと楽しそうにいやらしい笑みを浮かべていた。


「――祝福を、癒しを与えよ、快天(グラン・ヒーリング)

「不安定な呼吸と見せかけて、回復魔法の詠唱をしているとはねぇ、まだまだやるじゃん?」


 デヴァーはそう言って戦斧を改めて構える。

 こいつの言う通り、アルテリアは回復魔法の詠唱をしていた。しかし、そこに親玉がユングの知り合い二人を投げ入れた時、上級回復魔法から範囲内回復の中級へとシフトチェンジした事には気付いていないようだ。気付いていようがいまいが状況は変わらないが。

 そして、自身を含む三人の傷をある程度まで回復させた。


 改めて二人の顔を見ると、ユングとクレイル付き添いのメイドだということに気付いた。

 そして、アルテリアは先程からずっと逃げながら用意していた魔法を発動させる。


「もう、タイムオーバーかな......私の、勝ち、だと、いいなっ! 消し飛びなさいっ! エクスプロージョン!!」

「なっ、おい、ちょ待て――」


「きゃぁぁぁぁー!」


 魔力を僅かに残してその魔法を発動させる。

 範囲指定で、アルテリアのデヴァーを除いた周囲と、捕まっていた子供達の周囲以外を爆裂させる範囲撃滅魔法。あちこちで魔力障壁が展開されるのを感知する。


 巨大な爆裂音が物流庫内の者に等しく与えられる。爆裂の衝撃も少なからず届き、アルテリアはユングの張った細々とした魔力障壁に庇われるが、抵抗虚しく弾き飛ばされる。


「かはっ......!」


 その衝撃で屋根は吹き飛び、物流庫内は荒れに荒れた。先程と同じように煙が舞い上がるが、それはオープンになった屋根から放出されて消えていく。


 そして再びの土煙が晴れるとそこには、


「もう商品のやつらにも用はない。王族なんて売れねぇからな。デヴァー、殺せ」

「ったく、人遣い荒いっての。じゃあ、約束通り俺がアイツを貰っていくからな?」

「それとこれとは話が違う。ここまでされて相手を殺さなければ俺の面子が潰れる。だから殺す」

「なら契約破棄と取るぜ? 俺側が貰っていく」

「ふん、まぁいい、殺したことにすればよかろうな。バーゲスト、餌だ。奴らを食い殺せ、骨一片も残さずな」


 無傷な親玉と軽傷のデヴァーが簡単に話を済ませると、デヴァーはアルテリアの元へ、バーゲストは溢れる涎を気に止めずユング達の元へと向かった。


「マジかよ......まだ動けるっての? 魔王ってのは化け物揃いじゃねぇか。だがまぁ、俺はただの運び人、大人しくしていてくれよ?」

「......ほんっとに、最後まで何もしない感じ? なら、私は、最後くらいは......華々しく散ってあげるのよ......!」

「......?」


 アルテリアの目に映ったのは、教え子に迫る醜い獣。全ての魔力を使って最後までストックしていた魔法の一つを使う。


転、移(テレポート)......!」


 ユングを庇うようにして転移すると、バーゲストは驚いてその動きを止める。が、俺には関係ねぇとでも言ったように一吠えし、食い殺そうと口を開いたその時、クレーターの上からも叫び声が上がった。


「びゃぁぁぁぁ〜!!」

「く、クレイルっ!?」


 ユングが顔を上げたが、クレーター上のクレイルを助ける術も何が起こったのか知る術もない。


「ごめんね、ユングちゃん......」

「だ、ダメですっ!!」


 咄嗟にユングがアルテリアの体を引っ張ると、力が入らないアルテリアは簡単に後ろに倒される。そしてアルテリアやメイドの二人を守ろうと両手を開いてユングが立ちはだかった。


(私は、教え子が殺されるのを目の前で見るの? これ以上動きそうもないし――なんて、諦めるわけ、無いじゃん! 動け、動け、動けってのぉぉぉー!!!)


「あぁぁぁぁぁ!」


 アルテリアが声を振り絞って張り上げるも、アルテリアの体は一ミリも動かない。


 そして、鋭い牙がユングを貫こうとしたその時。








「テリアは無茶しすぎ。無理なら無理って言いなさいよ」








 憎たらしい声が聞こえたのと、赤い水飛沫が飛ぶのは同時だった。


「少しくらいなら、手伝って上げるのにさ」

「あ、アスカちゃん......!?」


 真っ白な仮面に返り血を付けた天使のような悪魔が降臨した。


 ――これより旧物流庫(ここ)は地獄と化す。





何とか日曜に間に合いました......。


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