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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
82/108

第75話 アルテリアVS誘拐犯(?)

アルテリアさん視点です。



「さて......旧物流庫に来たはいいけど、本当にここにいるのかしら?」


 アスカ達と別れ、一人先行して敵のアジトへと転移してきたアルテリア。


 いくらアスカが桁違いな強さを持っているとしても、遠くの物を正確に、完璧に把握しているとは信じられないようだ。それもそのはず、彼女が使った「魔法の目」と言う遠隔操作が可能なもう一つの視野を作り出す魔法なんて、この国で......いや、この世界でも使える者は限られるだろう。

 だって、考えてみてほしい。二つの視野でも時々処理能力が追いつかない時があるのに、三つ目の視野なんて情報過多で脳内がパンクしてしまう。更にはそれを精密に遠隔操作だなんて。その上透視? 正直バカも休み休み言ってほしいものだ。普通に通常の視野で透視なんて出来るわけもないのに。

 それでも、簡単にやってのけるのがアスカなのだ。


「まぁ〜、アスカちゃんになら負けても全然悔しくないのは何でだろうね......」


 今まで人類最強を自負してきたアルテリアは、その力で貯めた財産で若人達へ指導ができる、教育を行える学校を創設した。そこには自分でも出入りが面倒だと思えるような最上級結界術で自身のお昼寝スペースまで作ったりしたものだ。

 アルテリア本人は基本的に学校内から動く事は無いのでそれで良かったのだが、ある日突然何者かが侵入していたのだ。

 気合を入れて捕まえようと思い追いかけたものの、突然現れた仮面の侵入者は人類最強よりも速く走り、頑強な素材で作られた学校の壁も当たり前のように壊していたのだ。一番驚いた事は、自分しか使えない筈の上位空間魔法である「転移」を、なんと無詠唱で使っていたことだ。

 その時はまだ悔しいと思い、魔力の痕跡や知り合いと思わしき人物に聞き込みをして追いかけたものの、全く相手にされなかった。それから、何故か彼女の事が気になって仕方がなかった。おそらく自分よりも強い存在に、初めて心踊る興味を引かれたのだった。

 変な理由を付けて追いかけ回したり、こっそり盗聴の魔法を仕掛けてみたりもした。


 その行動の結果、彼女は絶対に手が届かないような、神にも等しい力を持っているという、自分でも訳がわからない結論に至った。

 だって、魔力障壁の形を思うがままに変化させたり、単独で軍隊蜥蜴(アーミーリザード)兵士(ソルジャー)数百匹を全滅させたりするなんて人類が辿り着けるような高みでは無いのだから。

 それでも、そんな化け物じみた彼女の傍に居る時は、何故かわからないけど楽しかった。

 使い方次第で世界を脅かす存在にもなりうる彼女だが、彼女がそんな事をするとは到底思えない。それは周りにいる子達を見れば否が応でも分かる。そしてそれは実際に傍にいた私でも分かった。

 彼女の傍にいると、凄く落ち着くのだ。何もしていなくても、彼女の隣がこの世界のどこよりも安全な場所だと本能が理解している。

 だから、依存してしまうのかもしれない。人間をダメにする人間なのだ。


「流石に、私まで骨抜きにされるのは避けたいからね......。だから、ここは私がどうにかしないと。国のヤツらは私に全責任押し付けてくるだろうしなぁ......。はぁ、私が思い描いた国とは随分前から変わっちゃったのかもね......」


 そんなことを呟きながら攻め入る下準備を、魔法の詠唱をいくつかストックする。

 これはアルテリアが人生の半分以上を費やして会得した「詠唱中断」と「詠唱再開」の二つのスキルを使って成し遂げられる一種の魔導の極だ。

 これで実質の無詠唱を使うことが出来るが、ストックが切れればそこまでなのだ。詠唱中断も半日程度しか保てないので、日頃から大量にストックするという事も不可能だ。


 そして、アスカはそれすらも超えて、未だ誰も辿り着けたことの無い本物の無詠唱と言う境地へと達していたのだ。


 アルテリアは探知の魔法を発動させて物流庫の中を様子見る。


「アスカちゃんの情報通りねぇ......。流石にこの人数は私一人じゃ無理かなぁ。でも、あの二人(・・)さえ取り戻せれば私の勝ち。逃げよう」


 いつに無く真剣な表情で立ち上がり、屋根の上へと移動し目的の捕まっている真上の箇所に穴を開ける。

 静かに顔を覗かせて見渡すと、お昼寝スペースの結界よりもずっと弱い結界が見えた。恐らくこれは正規の手段で入らなかった場合に術者に見つかってしまう、領域(テリトリー)系統の結界だろう。

 

「でもこれくらいなら、気付かれずに通れるね......」


 静かに、音を立てないように、結界を発動させないように結界の一部を自身の魔力で中和させる。

 こうすることで簡単に通れるようになるのだ。


「よし、行けるね......」


 改めて物流庫の中を見ると、目的の二人以外にも捕まっている人達がいる。女子供ばかりだ。

 頭に麻袋を被せられてお互いの状況も分からないようで、誰一人逃げようとしていない。両手にはロープでしっかりと固められているから、逃げたくても逃げられないだろう。


 そして先程から物流庫に響いている女性の悲鳴。それは肌が叩かれる音が響いた直後に聞こえる。

 恐らく捕まえてきた手頃な女を売る前に味見か拷問か何かでもしているのだろう。

 いくらウィルガルムでは奴隷が当たり前のようにいると言っても、人間の奴隷はご法度だ。


「でも、今回は二人しか助けられないっ......」


 今の自分では上手く行けば二人を助けられるが、それ以外は助けることは不可能だ。

 自身の力の無さを悔しく思い歯噛みする。


 しかし、今更そんな事を嘆いても仕方がない。土地契約をした時点で私はあそこから出るつもりはなかったのだが、例の彼女のお陰でこんな事になってしまっているのだ。

 それは酷い八つ当たりだと思うがそう思わなければやっていられない。


「私だって、出来るんだから」


 一人頷き、二人の元へ飛び降りる。それなりの高さがあるため、着地時に音が鳴ってしまう。

 その音に気付いたチンピラのような誘拐犯が声を荒らげて大股で近付いてきた。


「うるせぇぞ糞ガキ! って、あぁ? 誰だテメェはよぉ?」

「行くよ、ユングちゃん、クレイルくん」

「え、えっ?」

「ふぇぁっ!? やだ、やだぁ! 怖い、怖いよぉ......」


 チンピラを無視して、バートゥーン王国の国章のブローチを胸に付けた二人を優しく抱き上げる。ユングは何が何だか分からず驚いていたが、クレイルの方は誘拐された事がトラウマなのか声を震わせて泣き出してしまった。


「おい! 無視してんじゃねぇよ! どっから入ったか知らねぇが、逃がすわけねぇだろうがよぉ!」

「うるさいわよ、岩石砲(ロックシュート)

「ぐぇっ!」


 声を張り上げながら手に持った剣を振りかざしてくるも、難なくそれを躱して、アルテリアの十八番でありコスパ最強魔法の岩石砲(ロックシュート)を土手っ腹にぶちかます。チンピラはそれだけで気絶し、その場に崩れ落ちる。

 結果を見ることなく二人の顔に被さる麻袋を脱がせる。麻袋の下には人違いではないアルテリアの知る本物の王族、現在はアルテリアの生徒であるユング・バートゥーンとクレイル・バートゥーンの顔がそこにはあった。


「せ、せんせぇ〜......!」

「うんうん、怖かったね」


 クレイルは年相応にアルテリアに泣きつく。それを優しく背中を擦りながらあやす。


「べ、ベルとケミルは何処に!?」


 しかし、ユングは自身の無事よりも他の人物の名を呼んだ。

 丁度その時、騒ぎを聞き付けたチンピラの仲間達――誘拐犯――が数十人規模で集まってきた。

 それだけでユングとクレイル含む誘拐された子供達は震え上がり身を寄せ合った。


「おいおいおいおい、誰だテメェ? ウチの商品奪うつもりかよ? それとも何だ、テメェが噂の銀魔王アスカとか言うやつかい?」

「ま、まじっすか隊長!? なら大儲けっすねぇ!」

「いかなる魔王だとも、俺達のホームは魔王すらも殺せるってところを見せてやらァ!」

「おいおいおいおい、お前ら、商品の『顔』には傷付けるなよ? 売れなくなっちまうからよォ!」


 小汚い薄汚れた格好のチンピラ達は身内だけでそんな事を言って盛り上がっていた。


「お前ら、銀魔王アスカが来たら生け捕りにしろって聞いてなかったのか? それとも、契約破棄か? 仕事はしっかり最後までやるのがセオリーってもんだろうが。三下共が我が主の名を捨て去るならば俺が叩き斬ってやるまでよ」

「おいおいおいおい、そんな物騒なこと言ってんじゃねぇよデヴァーの兄貴よぉ。ちゃんと生け捕りにしますっての。よぉーっし、お前ら! アイツを生け捕りじゃぁーい!」

「「「おおおおおー!!」」」


 デヴァーと呼ばれた大斧を背中に担いだ男が出てくると、隊長と呼ばれている男は急に態度を小さくして、生け捕りとの了承を得ると仲間達に指示を出した。

 チンピラ達は私と子供達を囲うように動く。


(アスカちゃん狙い......? でも、私をアスカちゃんだと思ってるってことは外見すら知らない様子? さっきのチンピラの強さから見ると、全員それ程の強さじゃないってのは分かるけどこの人数相手に人を守りながらなんて戦えない。それに......)


 チンピラ達の後ろで見守るように腕を組んで佇むデヴァーに視線を向ける。


(強いけど......見守るだけ? それなら好都合だけど......。とりあえずは逃げる事を最優先に考えよう。ユングちゃんには悪いけど、さっき言ってた二人のことは置いていこう)


「おいおいおいおい、商品共! 面ァ上げろぉ! お前らも手伝えや。成果を上げた奴はマシな所に売ることにしてやるよ。ダメな奴がいたら......そいつは変態貴族行きだな」


 隊長とやらがそう言うと、チンピラ達は更に人数が増えて子供達に手を伸ばした。


岩石砲(ロックシュート)!」

「っ!」

「触らせない......!」


 伸ばした手を十八番で牽制気味に狙う。

 忌々しそうにこちらを睨むが、危険と認識したのか子供達から距離を取った。

 と思ったその時、


「やっちまぇぇ!!」

「「「おおおおぉ!!」」」


 一斉に私目掛けて飛び掛ってきた。

 子供達はその声に驚き、音が大きな方から距離を取ろうとその場を離れ始める。それはユングとクレイルも一緒だ。主にユングが先導している。


「放瀑っ!」


 予め仕掛けておいた魔法の一つを発動させると、子供達を除いた全員に空から大量の、大質量の水が落ちてくる。

 私は自分に魔力障壁を張り、その水の脅威から逃れる。

 それは敵も同じようで、魔力障壁を張るのが遅れた数人が圧死した程度だった。


「はっ、水魔法か? だが落とすだけじゃダメージなんて与えられねぇぞ! 魔法ってのは、こうやんだよ!」


 そう言ってチンピラ達はそれぞれ魔法の詠唱を始めた。これは水槍(ランスォーター)の魔法か。私の出した水を利用するようだ。確かに、魔法戦闘とはそう言うものだ。相手の裏を読んで魔法を発動させ、更にその裏を読んで魔法を返す。それが魔法戦闘は頭脳戦とも呼ばれる所以だ。


 水槍(ランスォーター)がアルテリア目掛けて四方八方から襲いかかる。しかし......


「なっ、無傷だと!?」

「もう一度だ!」


 アルテリアは、今回魔力障壁を全身を包むように張った。そして、敵は頭上だけを守るように張った。


「もう一度なんて、無いわよっ! 雷王・放電!」


 アルテリアが人差し指を天に掲げると、指先から紫電が迸り、足首程度の深さの水面に落ちる。


「水はね、電気を良く通すのよ?」

「「「あばばばばばばばばば!!!!!」」」


 足元まで水が浸かっているチンピラ達は全員揃って感電した。

 これは、アルテリアが気紛れでアスカに「新しい魔法とか無いー?」と聞いたら水と電気を組み合わせる事を教わった魔法だ。

 アスカ本人もそんな当たり前のような魔法の合わせ技が無いことを知って驚いていたのは内緒だ。


 子供達の元には大きめの魔力障壁を出して、雷はおろか水すらも侵入させていない。


 水面がバチバチと放電している中を悠々と歩く者が一人いた。戦斧を背中に担いだデヴァーだ。


「ふむ。銀魔王アスカは噂通り強いな。だが、手駒がこれだけだと思ったか?」


 デヴァーがそう言うと、放電で焼け焦げた障害物を乗り越えて先程よりも多いチンピラ達が姿を見せた。

 更には、鎖を引き摺るように現れた犬型魔物のバーゲストまでいる。

 魔物調教師(テイマー)である獣人奴隷が傍にいるところを見ると、なんとも悪趣味なものかと思う。


「これを凌ぎ切ったら、俺が出てやろう」


 デヴァーはそれだけ言って踵を返した。

 それと引き換えに、チンピラ達が波のように押し寄せてきた。子供達の方はまだ魔力障壁が残っていて余裕はある。この状況で他の子達を見捨ててユングとクレイルを担いで逃げることは、今のアルテリアならば何とか出来るだろう。しかし、敢えてそれをしないでいるのは、ひとえにアスカの存在だろう。


(アスカちゃんなら、さっさとトンズラかますと思うけど......私は違うんだからね!)


 アルテリアから見てもアスカは、身内のあの子達以外は心底どうでもいいと思っているだろう。だからこのような状況になったら身内だけを連れてさっさと逃げるだろう、とアルテリアは考えた。

 端的に言えば、アスカに対する反骨精神だ。反発したいお年頃なのだ。思春期で反抗期の子供のようだ。

 だがそれも、アルテリアの一方的な片思いであるが。


 しかし、少し考えれば分かることだ。前提条件が違うアルテリアとアスカを比べても、比較にはならない。

 この時のアルテリアはそこまで考えることはできなかった。

 すぐにチンピラ達が近付いて来たから。


「さぁ、かかってきなさい!」


 ストックした魔法を発動させながら、アルテリアは敵に向かって威勢よく吠えた。




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