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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第72話 元気の出る魔法


「レヴィ達はステラにどんなお仕置きされたの?」

「「「ぅぐっ!」」」


 大きめの布――レジャーシート代わり――を日陰に敷き、その上で全員で仲良く昼食を食べている時、ふと私は気になったので質問をしてみると、三人揃って食べ物を喉に詰まらせた。

 あぁ、セラが持ってきてくれたサンドウィッチが......。


 魔王であるパンデミアさんすら身を縮こませるお仕置きか......。ステラならその内、神すらも超えそうだよね。


「この後は皆どうするの?」

「私は疲れたから少し眠たいぞ......」


 こちらに移ってきそうな大きな欠伸をして眠そうに目を擦るレヴィ。

 確かに、レヴィはいつもなら昼食後はお昼寝の時間だもんね。一人だと危険だから、私が見ててあげるか。


「私達は次はあのクルクル回るやつに行きたいです!」

「わくわくです」


 リサーナとセラは二人揃って流れるプールを指差して、目を輝かせながらそう言った。


「分かった。でも、二人だと危ないから、ラ・ビールもついて行ってくれる?」

「もちろんです! 任せてくださいっ」


 ラ・ビールが一緒なら、問題無いかな。

 この三人はウォータースライダーで変な絆が出来てるし目一杯楽しんでくれそうだ。


 リサーナには念の為浮き輪を渡しておく。

 これは水遊場のショップで売ってたやつだ。ゴム製は少し値段が張るがしっかりと浮くようなので、これで泳げないリサーナでも流れるプールを楽しめるだろう。


「......私も、少し眠い」


 ステラはそう言うと、小さい欠伸をする。

 不慣れな体で激しく動いたから疲れたのだろう。ゆっくり休ませてあげよう。


「我は酒を飲むとしよう」

「あ、私もお付き合いしまーす」


 この二人は外に出ても酒か。

 だけど私は愚痴愚痴と小言を言う気はないのでね。トラブルさえ起こしてくれなければ好きにしていていいのだ。

 アイテムボックスから樽酒を二つほど取り出す。

 パンデミアさんはそれを二つ肩に担ぎ上げ、何やら「良いポイントを見つけたのだ」なんて言って歩いて行ってしまった。アルテリアさんはその後ろを上機嫌でスキップしながらついて行った。


 お昼を食べ終わったリサーナ達も、それに続くようにプールへと向かって行った。


 パラソルが作る影の下には、私とレヴィとステラの三人になった。


「昼寝するなら、少し移動しよっか」

「うむ......ふぁ〜......」


 パラソルやサンドウィッチの入っていた籠、下に敷いていたシートなどを仕舞い、良いお昼寝ポイントを探しに私達は移動する。





 私達が向かった先は、四方をプールに囲まれた真ん中に大きな木が一本生えているところだ。

 木は、たくさんの葉をつけた枝を大きく広げて日陰を広く作り出している。

 やはり、お昼寝する場所と言ったら木漏れ日の下と相場は決まっているのだ!

 チラホラと他のお客さんも木陰で休んだり、寝転がっている人も見える。


「......ん。ここでなら良く寝れそう」

「ふぁ〜......んにぃ......」


 レヴィは既に眠気が限界に来たようだ。

 立ちながらフラフラしていて、いつでも眠れる準備は万端のようだ。


 レヴィをそっと抱き上げて、地面から顔を出している太い木の根を枕にして寝かせる。

 しかし......


「やらぁ......アスカぁ......」


 私の脚にぴったりと抱きついて眠ってしまった。

 仕方ないなと思いつつ、私も木を背もたれにして座り込み、レヴィの頭を膝に載せる。膝枕だ。

 膝枕をすると、レヴィは気持ち良さそうに寝息を立て始めた。愛いやつめ。

 体が冷えるとまずいのでブランケットをかけて冷えるのを防ぐ。


「......ん、私も」


 そんなレヴィを見てステラが黙っているわけも無く、空いているもう片方の膝に頭を預けてきた。

 二人ともまだ小さいので膝枕二人は余裕なのだ。脚が太いとか思った奴には魔法の矢(マジックアロー)で頭を撃ち抜くからね。

 ステラにもレヴィと同じようにブランケットをかける。


「......まおー、頭、撫でて」


 いつになく恥ずかしそうに注文してくるステラ。

 少し訝しげに思うも、何も聞かずに優しく頭を撫でる。碧色の綺麗な髪に引っかかること無くさらりと流れる。


 と、そこで私はステラが微かに震えている事に気付いた。


「......ステラ?」

「......やだ、離さないで」


 今にも泣きそうな、震えた声で頭を撫でていた手を抑えてくる。


 私はそのまま何も聞かずにステラの頭を撫で続ける。言いたくなければ言わなければいい。言いたくなったら言えばいい。その時は、私は真摯に話を聞くからね。


 暫くの沈黙が流れる。

 すると、ステラが頭を置く位置、太腿辺りに水が落ちてきた。

 そっとステラを起き上がらせると、目にいっぱいの涙を溜めて泣くのを我慢しているステラがいた。


 私は静かにステラを抱き締める。するとステラは堰を切ったかのように人目も憚らず泣き出した。

 泣きながらも縋るように私を力いっぱい抱き返してくる。


「......私は、治るの?

 義手でも義眼でもいい、皆と、普通に過ごせるようになるのは、いつ? まおーは......アスカは、こんな私をいつまで傍に置いてくれる? こんな、こんな私を、ぇぐっ......私は、もう見捨てられるのは嫌だから......ぐすっ、だから......」


 私は今更になって気付く。

 ステラはずっと怖かったんだ、と。


 片目片腕が無い生活。

 突如として視界が半分に減り、今まで出来ていた当たり前のことが困難になる。

 服を着るのも、脱ぐのも、ご飯を食べるのも、何もかも。平衡感覚は狂い歩く度にフラフラするのを気力で抑え込む毎日。

 周りには当たり前のことを当たり前のようにこなす人ばかり。


 それに、傷が塞がっていると言っても幻肢痛というのもある。ステラは強い子だから私達に弱っている姿をあまり見せない。

 でも、私は何を勘違いしたんだろうか。ステラは転生者だ。転生と言っても赤ん坊へと転生する形もあれば私のように若い女性に転生させられることだってある。

 何も分からないが、向こうの世界では九歳で亡くなり、こっちの世界ではまだ十三歳だ。転生してからの期間で彼女は年若くして王国の軍の一つを任されるまでに強くなったが、魔物の蔓延る地へと左遷され仲間にも見捨てられながらも生きた誰よりも強い精神力を持っている彼女だが、それでも私やラ・ビールに負けてしまった。


 私達と一緒にいるようになってから、ステラは変わったんだと思う。甘えてもいい存在が出来て、左腕と右目が無くても受け入れてくれた皆が居る。

 それでも、一抹の不安はあったんだと思う。過去に見捨てられたと聞いたが、詳しくはわからないけど、それが不安の種だったんだろう。それを忘れようと、隠そうとして時々私を求めて来たんだと思う。


 いつか離れていってしまうのではないか、とか思ったのだろう。今回水遊場で泳げなかった事がそのトラウマのようなものを思い出させてしまったのではないかと思う。心の傷って言うのは思ったよりも根深くて、何でもないような事で思い出したりするもんね。


 でも、約束した。私はステラを助けるって。絶対に握った手を離さないって。

 声を上げて泣くのを我慢するように肩口のローブを噛み締めるステラを離して私と相対する形で向かい合う。


「ねぇ、ステラ?」

「......ん」


 泣き腫らした左目をしっかりと見つめる。

 それだけでステラはほんのりと頬を朱に染める。


「私はね今一緒にいる子達を途中で捨てたりなんてしないよ。皆が仲良く楽しく幸せなら、ずっと一緒に居てもいいかな、なんて思ってるし。でも、いつかは誰かが結婚したりして家庭を持って抜けなきゃいけない時が来るかもしれない。そんな時は、私は笑顔で見送るよ。またいつでも遊びに来てね、って言って」


 ステラは私が何を言いたいのか分からないようで、頭上にクエスチョンマークが見える。


「ステラは、誰か結婚する予定の子はいる?」

「いる。私はまおーと結婚する」


 私の質問に間髪入れずに即答するステラ。

 至って真面目な表情なので否定する事が出来ないのが辛い。


「うーん、でもさ――」

「まおーとなら子供だって作ってみせる。魔法なら、私が頑張って覚える」


 食い気味に、と言うか私の言葉を遮ってまでステラは言い切った。

 同性からだとしても、好きだと言ってもらえるのは嬉しいものだ。

 それに、確かこの世界では同性同士でも子供が出来ちゃう魔法があるらしいんだよね。リサーナも前にそんな事を言っていたし。


「なら、私は待ってるからね。ステラが笑顔でまた求婚してくれるのを」

「......ん」

「だから、私はステラを笑顔にしたい。いや、するから」

「っ!」


 私がそう言うと今度は理解出来たのかステラの目から再び涙が零れる。二つの涙腺から分泌される涙が一つの目から流れているのではと思える程、滝のように流れる涙。


「私は、ひぐっ、一緒にいても、いいの......?」

「一緒にいちゃいけないの? ステラは、私と......私達と一緒は嫌?」


 ぶんぶんと音が鳴りそうなくらい激しく首を横に振る。しかし、それでもまだ不安が残るのか表情がまだ暗い。

 そこで、私は少し逡巡するも決断する。


「元気の出る魔法をかけてあげる」

「......元気の、魔法?」

「目を瞑って......」


 目の前でわけも分からず目を瞑るステラ。

 私は仮面をそっとずらして顔を近付け......




 ちゅっ。


 


「〜〜っ!?!?」


 ステラはすぐに目を見開き、感触が残っているであろう頬を手で抑えて仮面の下に隠れる私を見つめる。


 因みに私は仮面の下で真っ赤になっています。

 羞恥に悶えて死にそうなのを我慢して言葉を紡ぐ。


「だからさ、待ってて。私を信じて、待ってて」

「んっ!!」


 何が「だから」なのか自分で言っていて訳が分からないが、ステラは満面の笑みで頷いてくれた。

 元気が出てくれて何よりだ......。


「安心したら、私まで眠くなって来ちゃった」

「......元々寝る予定だったから、一緒に寝よ」


 ステラはそのまま私に跨るようにして胸に顔を埋める。地面に落ちたブランケットを拾い上げて風魔法を使って汚れを落とした後、既に寝息を立てているステラにかける。

 泣き疲れたのかな。


 照れ隠しとかじゃなくて、もっとこう......甘えてきてくれてもいいんだけどね。


「レヴィも、もっと甘えていいからね」

「ふにゅ」


 膝の上で丸くなるレヴィに静かに声をかけると、もぞもぞと動いて短く返事を返してくれた。

 ゆったりと流れる昼下がりの木漏れ日の中、私は静かに目を閉じる。


 何かあってもすぐに起きれるから、少しくらいなら寝ても大丈夫だよね......。




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