第70話 夏だ! プールだ! 水着回だ!
「水遊場に遊びに行くと聞いて! 私を置いて行こうとは言語道断よ!」
時刻は朝。
太陽が少しずつ昇っていき、街が目覚め始める時間。
虚空から突然アルテリアさんはそんな事を言い放ちながら変なポーズで現れた。
「どこでその話を......」
「フフフ、ウィルガルムの中ではどんな悪事も私の耳に入ってくるのよ!」
「本当は?」
「実はこっそりと盗聴させて頂きました。許してください」
あっさり吐いちゃったよこの人。
まさか盗聴されているだなんてね。私でも気付かないとは......。やはりアルテリアさん、出来るっ!
て言うかこの人が学校から出たら学校機能しないんじゃなかったっけ?
「今日は休みだしぃ、セラちゃんも行くみたいだかしぃ、アスカちゃん達が楽しんでいる中、学校で一人ポツンとなんて寂しいじゃん?
だから、連れてって☆」
キャピっ。と言う効果音が見えそうなくらいあざとくぶりっ子するアルテリアさん。
この人年齢やばいのにこんな事して恥ずかしくないのかな。
ほら、リサーナ達もドン引きしてるし。
レヴィなんてクトゥルフ神話の異形の神でも見たかのような顔をしている。
SANチェックしますか?
と、そこへ部屋をノックする音が響いた。
「アスカさん起きてますか? なんかお母さんが今日は休めって言ってて......学校も休みなのでどこか遊びに――」
私達を起こしに来たセラは、扉を半ばまで開けたところで、キャピっとしてるアルテリアさんの姿を見て固まった。
アルテリアさんも教え子に見つかって固まってる。
見てて面白いなこの光景。
おっと、そう言えばセラ本人には遊びに行く事言ってなかったっけ。
それなのにその事を知っているアルテリアさん......。
本当に盗聴してたみたいだね。
だけど今回は許してあげよう。私も大人だからね。一々細かい事は気にしないのだよ。
いや、盗聴が細かい事かどうか分からないけどさ。大分重要な案件だと思うけど、水に流すのだよ。
私、大人だからね。
大事なことなので二回言いました。
「セラおはよう。今日は一緒に遊びに行こうよ。セラの分の水着もあるからさ」
「私もお手伝いしましたよ!」
えっへん! と可愛らしく胸を張るリサーナの可愛さに自然と手が伸びて頭をワシャワシャと撫でてしまう。
かわいいのうかわいいのう!
それを見たレヴィ、ステラ、ラ・ビールも減ったSAN値を回復しようと私の元へ集まってくる。
朝からたっぷりと楽しんだ私達とは別に、セラとアルテリアさんは未だに固まっていた。
「はぁ、校長も行くのですか......?」
「校長なんて呼ばないでよー。学校じゃないんだし? 無礼講よ無礼講! あ、セラちゃんには特別にテリアちゃんと呼ばせて――」
「分かりました。アルテリアさん。今日はよろしくお願いします」
セラは順応性が高いね。
すぐにアルテリアさんの扱い方が分かったみたいだ。優秀だ。
「うぅ、皆が冷たい......。でも、私はめげない! しょげない! その内必ず呼んでもらうんだから!」
アルテリアさんはアルテリアさんで打たれ強いなぁ。
私は多分一生アルテリアさん呼びだね。
調子乗らせたら行ける所まで行きそうな人だもん。
天狗のように伸びた鼻を折るなら、早い方がいいもんね。
伸びる前に折るのも、悪い芽を摘むようでいいね。
「それでアスカさん、ミズギ......とは?」
「へ? プールで遊ぶんでしょ? 水着無いと泳げないよ?」
あれ? もしかして着衣で泳ぐ系なの?
それとも肌見せはNGとか?
折角作ったのに着れないとか、私泣いちゃうよ?
拗ねて、自分用のプール作っちゃうよ?
「プ......? アスカちゃんがおかしな事を言うのは前からだけど、水遊場は湯着か濡れてもいい薄めの服に、下位の水魔法無効を付与して遊ぶ所なんだよ」
「み、水魔法無効......?」
聞き慣れない言葉が次々と出てきて私こんがらがっちゃうぞ。
でも、湯着があるって事はお風呂もあるんだね。皆で入りたいなー。
アルテリアさん曰く、水遊場は幾つかの水溜りに設置型魔法陣で下位の水魔法を使い水流を起こしたりしているそうだ。
下位でも魔法は魔法。多少なりともダメージを負ってしまう。
そこで、泳ぎやすい服装に魔法陣を貼り付けて水魔法無効を発動させて、誰でも楽しめるようになっているそうだ。
そこで、水着を見せてみると、魔法陣は体に貼り付ける事は無理なので、布面積の小さな水着では不可能だと言われてしまった。
そうなると、私の努力って一体......?
「あれ......じゃあ私が頑張って水着作った意味は......?」
「え? 私は着ますよ? 折角アスカが作ってくれたんですから!」
はぁぁぁ! 私はリサーナの笑顔で元気百倍ア〇パ〇マ〇だよ!
そうだ。水魔法無効が出来ないなら簡易の魔力障壁でも付与すればいいんじゃない? 私ってば天才かよ。そうか、天才だったんだね。
リサーナが、水着を体に当てて「似合いますかね?」って聞いてきたので「リサーナに似合わなかったらこの世の誰が着ても似合わないよ」って言ったら頬を赤らめて喜んでくれた。
可愛いやつよのぉ!
今すぐ二人の世界でイチャイチャしたくなる衝動を抑える。
そんな事したら純新無垢そうなセラが汚れてしまうからね。後アルテリアさんが邪魔。
「......私のは、これ?」
「私のはこれだな!」
「可愛いですけど、露出が恥ずかしいですね......」
「......この程度、全裸よりマシ」
「ふむ、そう考えれば余裕ですね」
ステラ達も気に入ってくれたようで何よりだ。
アダルトなビデオでしか見た事のないような紐とかは用意していない。
いや、アルテリアさん用に作っておけばよかったかな? 三秒で作れそうだ。
「私のもあるんですか?」
「セラのはこれだよ」
「はわぁ......」
プリティでぴゅあぴゅあなセラには露出少なめのワンピーススタイルだ。
スリーサイズは寝ている間に測らせて貰いました。
「私のは......?」
「アルテリアさんのはこれです。どうぞ」
「......。流石の私でも冗談だと分かるわよ」
紐を渡したらすぐに冗談だとバレてしまった。
いや、信じられたら信じられたで焦るけどさ......。
ちゃんと本物も渡す。一応知り合いの分は全員分作ってみた。今回みたいに乱入とかありそうだしね。
アルテリアさんにはその悪魔的な双丘を目立たせるような、胸元にささやかな飾りの付いたビキニタイプだ。
きっとこれでウィルガルムの男共の視線を集めてくれるだろう。
肉壁となってもらおう。
リサーナ達には変な虫が引っ付かないようにしなければならいのでね。
「結構際どいわね......。でも、ありがとう。大切にするわよ」
「決して私服なんかで着ないで下さいよ?」
「私、痴女かなんかだと思われてない......?」
そんなやり取りをしつつ、皆で朝食を食べる。
食事中、皆はどこかソワソワしながら落ち着きが無さそうに食べていた。
私も、楽しみだ。
朝食後、セラの親御さん......女将さんに挨拶と宿泊の延長をお願いすると、物凄く喜ばれた。
セラの案内で、南区の歓楽街をブラブラ歩く。
レストランとかスイーツのお店、串焼きの露天などが道脇に所狭しと並んでいる。
「南区の歓楽街は子供のお小遣い程度でも十分楽しめる大人気の区画なんですよ。
あそこのレストランはお高めで、貴族様ぐらいしか入れませんけどね」
セラのナビゲートは分かりやすくて楽しいものだった。
と、歓楽街から横に伸びる路地裏のような道に違和感を感じた。
「ここは貴族様も来ますし、人通りが激しいので、その分犯罪も多いんです。
財布のスリとか、食い逃げとか。
でも最近は人攫いが増えたって聞きますね。レヴィさんやアイリスさんから目を離さない方がいいと思いますよ」
「皆私が守るよ。いざとなったらアルテリアさんもいるもんね」
「いやっ、私は、そのぉ......お忍びだから、バレるとお説教が待ってるんだよね......。
だから、なるべく目立たないようにしたいなぁ、なんて......」
うん。アルテリアさんはいない子として扱おう、そうしよう。
「そ、そんな目で見ないで! 大丈夫、いざとなったらアスカちゃんがいるでしょ!
そりゃあまぁ、本当に危なくなったら助けるよ」
「頼みますからね」
心配なのでセラも含めて全員にマーキングをする。
これでひとまずは大丈夫かな。
リサーナを右手に、レヴィを肩車に、ステラを左手に、背後からラ・ビールが!
最強の布陣が揃ってしまった......。
途中、肉串を人数分購入したり、雑貨店で小物を見たりしながら水遊場へ向かう。
ウィンドウショッピングはやっぱり楽しいね。
観光してみたいと言っていたステラも笑顔で楽しそうだ。
セラは雑貨店で櫛を眺めていたが、値段に驚いてすぐに棚に戻していた。
後でこっそり買ってあげようかな。
そんな感じで暫く歩いていると、冒険者ギルドもびっくりな門が現れる。
「ここが水遊場ですね。一人銅貨三十枚で入れますよ。水魔法無効付与も含まれていますからね」
今回はそんなものいらないので割引してくれないかな。
お金に困っていないので怪しまれるよりはマシか。
七人で銀貨二枚と銅貨十枚か。一応一人分多く払っておいた。いや、一人増えるからさ。
広めの更衣室のような場所で着替えるようだ。
窓もないのに湿気が篭っていないのは、設置型魔法陣の風魔法のそよ風で常に心地よい風が中から外へ吹いているからだろう。
私はいち早く着替えを済ませる。
慣れているからだろう。
他の皆は少し手間取っているようだ。無理もない。初めてだもんね。
手伝ってあげるどさくさに紛れて胸を触ると、リサーナに軽く叱られてしまった。反省。
反省していると、ステラが「......好きにして」って上目遣いで言ってきたから、軽く弄らせて貰った。
ベッドの上ではステラは野獣なんだけどね。
皆を待つ間、仕込みを施す。
男物......で良かったのかな。筋肉ムキムキだし。
少し時間かかったが、全員が水着に着替え終わる。
水魔法無効付与の時に少しトラブルがあったが、アルテリアさんの名前を使って通れた。
「似合ってますかねっ」
外へ出ると、リサーナが可愛いポーズで問うてきた。
リサーナの水着は、下腹部の烙印を隠すような決して透けたりしない厚めだけれど、しっかりと風に揺れる水色のパレオをおへそを隠すように腰に巻かれている。
そして茶髪の長髪を、泳ぎやすいように後ろで纏めている。ポニーテールだ。
「でっかい水溜りがぐるぐるしているぞ!?」
リサーナに続いてレヴィが外に出てくる。
レヴィはプールを見て驚いている。これはレヴィに海を見せたら気絶でもしちゃうんじゃなかろうか?
レヴィの水着は元気印のスク水だ。
幼女と言ったらスク水と言う私の欲望には勝てなかったのだ......。許せ。
もちろん、大人用レヴィのはちゃんと色っぽいやつを用意してある。
「......溺れそう」
続いてステラは、流れの強めのプールを見て顔を青ざめていた。
曰く、泳げないのだそうだ。腕を治してあげてからまた来たいね。
ステラの水着は魅惑の黒と対立するような、情熱の赤色のビキニスタイルだ。そして封印されし邪眼......もとい右目にかかる黒き眼帯。
白い肌が赤い水着を照りつける太陽と共に一層映えさせてくれている。実にマーベラス。
「あの長い滑り台はなんでしょうか! あっちは水がザッパんと!」
そして誰よりも興奮しているラ・ビールも出てきた。
ラ・ビールが興奮するなんて珍しいね。興奮する姿を見れただけでも来た甲斐があるってものよ。
ラ・ビールの水着は、悪魔形態だと浅黒い肌を隠せないので人間に化けて貰ってから来てもらった。
ライトグリーンで上下を揃えたシンプルな水着だが、そのシンプルさ故に素材のラ・ビールの素晴らしさがより一層際立つ仕立てになっている。
「アスカちゃんは......相変わらずね」
「流石に公衆の面前で仮面とフードを外したら大騒ぎどころじゃ無くなりますよ。皆逃げて貸し切りになりそうですけどね」
貸し切りになった後は冒険者やら兵士やらに囲まれて魔法ブッパされる事になると思うけどね。
そう、私はローブの下に水着を着ているのだ!
決してプロポーションに自信が無いとかそういう問題じゃない。違うったら違うのだ!
ローブ着てても魔力でコーティングすれば脱げる心配もないし濡れる心配もないからね。
しかし予想通り、男衆の視線はアルテリアさんのたわわに育った二つの実に集中している。
ええい、けしからん。破廉恥な。
歩く度にゆっさゆっさと視界の中で揺れる。揺れる。揺れる。
なんだ? 嫌味か? えぇ? こうなったら全面戦争もバッチコイだぞ?
「ふはははは! 我、参上!」
陰鬱な空気になりそうだったのを、笑い声一つで吹き飛ばす魔王の笑い声。
声のする方を向くと、そこには鍛え上げられた肉体と各所に臨む竜鱗を持った伝説の戦士が立っていた。
「似合っておるであろう? いやぁ、我も泳いでみたくてな」
「約束は終わったらちゃんと果たしてよね」
「当たり前だ。我は約束は守るからな。さぁ、楽しもうぞ! ふはははは!」
パンデミアさんは、ザ・夏男! と呼べるような勇ましい海パン姿でプールへと一足先に飛び込んで行った。
性別無いから不思議に思ったけど、想像通りだったわ。
あ、魔力障壁......と思ったけどパンデミアさんなら何もしなくても平気か。
分霊一つ食べたパンデミアさんに傷を追わせるのは本気のアルテリアさんかライアさんか、ジークだろうね。
大人レヴィと全快ステラとラ・ビールが揃えば善戦出来ると思う。いや、そうなったら私が介入するけどね?
いや、そんな事よりも......
「アスカ、行きましょう!」
「泳ぐのだぞ!」
「......助けて」
「まずはあれにしましょう! ぐるぐるのやつ!」
「私もあれがいいわねぇ」
「あ、私も行きますー!」
プールを楽しむぞっ!




