表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
70/108

第63話 人を嗤わば襲うは地を割る頭突き

残念キャラ化は最早病気......


「すーはー、すーはー。くんくん。でへへ......」


 朝が来た、と思う。

 何故曖昧なのかと言うと、私は未だに横になって目を閉じているからで、寝たフリをしている。


 私の腕の中でモゾモゾと動くジークリィンが愛らしくて、寝たフリをしたまま観察をしている。


 昨夜、私はベッドで寝相の悪かったジークリィンを抱えて二人でソファに横になって眠った。私は寝る時は殆ど動かないので落ちる事は無い。

 そして寝相が問題のジークリィンなんだが、私が抱えてからは静かに眠っていたのだ。蹴られる事も無かった。何故なんだろうか。


「まだ、起きてないな......。もう少しだけ......あぁ、柔らかいぞ......」


 私の匂いを嗅いだり、肌をつんつんしてきたりするのだ。

 なんだこの可愛い生き物は。


 匂いを嗅がれた時は少し恥ずかしかったな。いつも何があってもいいようにと、簡単にだけどお湯で湿らせた布でしっかりと体を拭いてるから......。

 最後にもお風呂入ったのは、アルテナ商会のおじさんの家だもんなぁ。みんなの為にもお風呂作ろっかな。


 おっと、話がズレちゃったね。閑話休題、話を戻そう。


 それで、ジークリィンに色んな所を触られる感触で目が覚めたんだけど、ジークリィンが幸せそうで止めどころが分からなかったんだよね。

 そろそろ起きる時間だろうし、そっと目を開く。


「くすくす、次はどこが良いかな......じゃあ頰っ辺を......」


 あ、目が合った。

 ジークリィンの頬が羞恥からか一気に紅潮する。リンゴみたいに真っ赤だよ。


「おはよう、ジークリィン」

「な、な、な......ななななななな!」


 私が声をかけると、ジークリィンが壊れたラジオのように一つの言葉を連続して発する。

 大丈夫かな?


「ん"っ、んんっ!」


 ジークリィンは私の腕からスルリと抜け出すと、こちらに背を向けて咳払いをする。繕ってるつもりなのかな? でも耳まで真っ赤なので全然隠しきれていない。


「お、おはよう! アスカ!」


 声が裏返って語尾が跳ね上がる。リサーナとかはスキンシップくらいならいくらでもしてくるんだけどな。むしろウェルカムだし。

 ジークリィンの住む所じゃあんまりやらないのかな?


 私はソファに深く座り直してジークリィンを抱き寄せる。


「っ!? な、何をするっ!?」

「んー、して欲しそうだったし。嫌なら、やめるけど?」

「あ、アスカがしたいなら、仕方ないのだ! だ、だから、仕方なく、仕方なくだからな!」


 もう少し意地悪したくなるけれど、ここは我慢だ。

 私はジークリィンを膝の上に乗せて、皆が起きるのを待つ。その間、暇なのでジークリィンの解けた緑髪をツインテールに結び直してあげる。


「そう言えば、ジークリィンは――」

「ジークって呼んでくれなきゃ返事しないぞ」


 そう言えばライアさんもジークって呼んでたよね。

 愛称なのかな。竜殺しでもしそうな愛称だよね。竜魔王なのに。


 まぁ、私は人の呼び名にこだわりとかは無いし、別にいいんだけどさ。


「ふぅ、ジーク」

「なんだ!!」


 バッとこちらを振り返ると、そこには見た目に相応しい無邪気な笑顔を携えたジークがいた。

 私はそんなジークの頭を優しく撫でてから質問を投げかける。


「ジークは、魔王なんでしょ?」

「それがどうかしたのか?」

「王様って言うくらいなんだから、国はどうしてるのかなーって思って」


 魔王。国のトップがこんな所にお供も付けずに単独で行動するなんて危険なはずだ。


 ジークがそんじょそこらの輩に負けるなんて事は無いだろうけどさ。


 常識を踏まえて考えると、王様がこんな所に一人で来るなんて有り得ないよね。もしかしたら国中がパニックになるかもしれないし。

 それで、私のせいとかにされて私に攻め込まれたりでもしたら全滅させなきゃいけなくなるじゃん?

 私はね、静かな生活をしたいんだよ。うちの子達とのんびり過ごせたらそれで十分なんだよね。


 おっと、また話が逸れてしまったね。


 私の質問を聞いたジークはと言うと、ギギギ......と油の切れたロボットのようにぎこちない動きでこちらを振り返って、


「ど、どうしよう......」


 顔色が真っ青に染まっていく。先程は真っ赤だったのに次は真っ青だよ。カメレオンもびっくりな七変化だね。


「た、大変だ! エルヴァとクレイストスにバレたら怒られてしまう!」


 ジークは頭を抱えて悲壮感に満ちた表情を浮かべて慌てる。

 エルヴァにクレイストス? ジークの側近みたいな人なのかな。


「す、すまないアスカ! 急用を思い出したから私は帰る! すぐに戻るから、待っててね!」


 私がどうでもいい事を考えている内に、ジークは窓に足をかけて手を振ってくる。


「あぁ、うん。気を付けてね」

「うむっ!」


 一つ頷いてから、ジークは窓から飛び降りる。次の瞬間、猛烈な突風が吹いたと思うと、空の彼方にジークが羽ばたいていくのが見えた。

 よっぽど怒られるのが嫌なのかな。魔王ってのも大変なんだな。


 大魔王サタンに、竜魔王ジークリィン。

 サタンはクズだけどジークはアホだけどいい子だったな。後は二人か。この調子だとまたすぐにでもエンカウントしそうなんだよねぇ......。

 まともな魔王であってほしいな。



 ジークが嵐のように去って行ったあと、私は軽く伸びをして眠気を吹き飛ばす。


「んー、ん、ふぅ......」


 皆はまだまだ起きる様子はない。昨晩は遅かったもんね。自然に起きるまで起こさないでおこうかな。

 私がこれから何をしようかと考え始めた時、扉をノックする音が聞こえた。

 朝早くに、と言うかこの部屋を訪れる人なんてセラ以外いない。


「おはよう、セラ」

「あっ、おはようございます。アスカさん」


 今日のセラは目の下に隈が出来ているものの、体調が悪そうには見えない。軽い寝不足かな。


「昨晩はお世話になりました。両親も美味しかった。ありがとうって言ってましたよ」

「そう。それは良かった。セラも楽しかった?」

「はい! とっても!」


 昨晩のコカトリスさんを思い出しているのか、うっとりとした表情で虚空を眺める。すぐに元に戻ったけどさ。


 そんな事よりも目を引くものがあった。セラの服装だ。

 いつもならラフな格好に前掛けを付けて宿屋の看板娘スタイルのはずが、今日は可愛らしいリュックサックを背負い、どこかへ出かけるような格好だった。


「あ、朝食はどうしますか?」

「うーん、まだ寝てるし、今日はいいかな。起きたら適当に食べさせるからさ。それよりも今日はどっか行くの?」

「はい、今日から学校が始まりますからね。学校の日は、宿泊客を朝起こしてから行くんです。そのせいで時々遅刻しそうになるんですけどね......」


 遅刻か。私は大学生時代、無遅刻無欠席だったからね。

 何回か遅刻しそうになったけど、その度に全力で走ったのは懐かしい思い出だよね。一限目の無情な感じが堪らなく嫌いだったわ。


 おっと、セラが遅刻しそうならこんな事を考えてる場合じゃなかったね。

 私のせいで遅刻されちゃうとマズイから、ここは送ってってあげよう。

 セラが踵を返す前に仮面とローブを一瞬で付ける。その内早着替えとかでテレビに出れそうな勢いだ。


「それじゃ、私はそろそろ行きますね」

「あ、送ってってあげるよ」

「へ?」


 私はすぐさま転移を発動する。もう慣れたものだ。ライアさんを何回か犠牲にして練習した成果ってことかな。


 セラが疑問符を浮かべた次の瞬間には、学校の前にいた。一度来たことあるから問題無く行けたね。

 どの校舎で学ぶのかなんて知らないので校門までしか送れないのだ。


「それじゃ、また後でね」

「へ......?」


 セラがポカンと口を開けたままだが、リサーナ達から離れると心配が止まらないのですぐに戻る。他にも登校中の生徒らしき人達がいたが、まぁ、大丈夫だろう。


 後ろからセラの叫び声が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。うん、気のせいだな。



 私は宿に戻り皆が起きるまで寛いで待つ。それにしても学校か。学校ね、学校......って、学校!?

 私達って学校で学ぶためにウィルガルム来たんじゃん! すっかり忘れていた。


 でもまぁ、急ぐ事でも無いのでもう少しゆっくりしてから遊びに行く事にしようかな。


「ふぁ......あれ、アスカ早起きですね。おはようございます」


 リサーナが可愛い小さな欠伸を一つして起き上がる。寝汗をかいたのか、汗で服が少し透けていてなかなかに際どい。うむ、私得だ。朝から眼福なり......。


「アスカ? どうしたのですか?」

「あっ、何でもないよ。リサーナおはよう」

「はいっ」


 その後、ステラ、ラ・ビール、レヴィと起床する。レヴィが起きたのはもうお昼前だった。良く寝る子だなぁ。




「それで、セラさんは今日から学校ですか。私達も行かれるのですか?」

「うん、元々ウィルガルムに来た目的はそっちが本命だったしね」


 私達は学校へ向う途中、露店でお昼を取る。

 相変わらず味が薄かったり変な味がしたりする。レヴィはいくら食べても物足りなさそうにしているので、私の分を分けてあげる。8:2くらいでレヴィが食べるんだけどね。


「私は楽しみですよ! ウィルガルムは歴史学が豊富だと聞いた事があるので、私はそれを聞いてみたいですねー」


 リサーナがこれ以上頭良くなると、私のこの世界での常識の無さが浮き彫りになってしまう。

 でも、勉強とか嫌いなんだよね......。お絵描きとかなら得意なんだけどね。


「......私は、地理学、とか?」

「何故に疑問形?」

「......義手とか、義眼の技術の発展している所が無いかな、って思って」


 私が治そうとしている事はまだ秘密なのだ。と言うか実験すらしてないから、変に期待させて失敗しちゃうと怖いと言うのが本音だ。

 だから、確実に出来るようになるまでは内緒にしておこう。今夜からでも実験しよっかな。


「私は、魔力操作系のがいいな!」

「......レヴィなら、戦闘学以外興味無いと思った」


 私もステラに同意見だけどここは黙っておこう。

 それにしても予想外だったね。竜鱗族のレヴィの性格なら、ただひたすらに戦闘スタイルを極める感じかと思ってたんだけどな。


「失礼だな。私は早く元の体の大きさに戻りたいから、魔力操作系でどうにか戻れないか知りたいだけだ。体内の魔力の流れの不調で、縮んでしまうんだから、その不調を治せれば元に戻れるんじゃないかなって思ったんだよな。この体だと、元の体よりずっと弱いし、眠いし、お腹減るし、弱いし不便で困るんだよ」


 なるほど、「弱い」と二回言いたくなるくらい弱くなっているんだね。

 レヴィも、何も考えてなさそうだけどちゃんと考えているんだね。


「ラ・ビールはどうするの?」

「私はアスカ様のお側にいますよ」


 ラ・ビールからは何か私と同じ空気を感じた。何かと言い訳をして事を後回しにするタイプだ。私と同じだ......。

 となると私は、どうしようかな。


 一般常識も気になるし、冒険学とかもいいよね。後は普通に戦闘学とかかな......


「我は魔力操作とかをオススメするぞ」

「ぶはっ!」

「ぶっ!」


 急に空中に顔だけを覗かせてきたパンデミアさんに、ステラとレヴィが飲み物を吹き出してしまった。

 私は咄嗟の判断で魔法障壁を出して、パンデミアさん以外の皆にかかるのを防いだ。


「「けほっ、けほっ」」

「......我も守れよ」

「自業自得でしょ」


 パンデミアさんはこっそりと全身を出して、懐から一枚のハンカチサイズの布で、濡れた顔を拭いていく。

 なんだこの人? 紳士か? 紳士のつもりか?

 突然空中に首だけを出すような人が紳士だなんて絶対に嫌だわ。


「それで、何の用なの」

「言ったであろう? 魔力操作系をオススメすると。魔法の初歩だ。それで、我のように魔力を隠してみるがよい」


 そう言われてパンデミアさんを見てみると、以前見た時よりも魔力の量がずっと少なく感じる。

 今ではリサーナより少し多いくらいにしか感じないが、質が桁違いで良い。


 私はこの仮面を付けていないと、魔力感知の乏しい者でも気付くほど大変らしい。でもこれもUNKNOWN使って以来らしいけど、私自身は実感無いんだよね。

 寝ている時は何故か平気なのだ。意識が無いから? ううむ分からん。


 と言う事なので、成り行きだけどレヴィと同じ魔力操作系を習うことに決めた。

 だがその前に授業を受けさせてくれるかも問題だよね。


 私達にパンデミアさんを加えた六人で学校へと向かう。パンデミアさんは暇になったから学校を見てみたいそうだ。自由人だな。


「学校って、誰でも授業受けさせてくれるの?」

「知らぬ」

「は?」


 即答で返されたわ。もうダメだこの人。

 でもまぁ、無理なら無理で隠れて入るけどさ。使いたくない手ではあるけれど......。


「ウィルガルムの学校は確かいつでも誰でも参加出来るプログラムがあったと思いますよ」

「そうなの?」

「ほ、ほれ見た事か! や、やはり我は正しかったようだなぁ! くはははは!」


 リサーナからの助け舟にすぐに調子に乗るパンデミアさん。

 私は拳を固く握って自分に落ち着かせるよう言い聞かせる。


 落ち着けー、落ち着け私。私は淑女。そう、淑女なのよ。そんなすぐに切れたりしては......


「ほれほれどうしたアスカよ? 我が正しかったであろう?」

「ふんっ!」


 ――バチコン!


 パンデミアさんが勢い良く地面にキスをした。

 煽るように俯く私を下から覗き込んできたので硬い仮面で頭突きをしてあげたのだ。

 避けようとしたみたいだが、そのせいで顔が下に向いてしまったのがまずかったね。


「こ、この我に容易く攻撃を......しかも激痛とは......頭、割れる......うおおお......」


 頭を抑えてブツブツと呟くパンデミアさんを放っておいて学校へ向かう。


 少し歩くとすぐに着いた。宿からはそこそこな距離があったな。

 

 皆少し緊張しているのか、緊張の面持ちだ。

 中では楽しそうな喧騒が聞こえる。


 私は学校と聞くだけで帰りたくなるが、そこは我慢して行かねばならない。

 しかし、今回の学校は何よりリサーナと一緒なのだ。それだけで幸せと言える。


 私達は、全員揃って校門を潜った。



 パンデミアさんは少し遅れてから来たけれど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ