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最強魔女さんの混沌とした日常  作者: クリオネ
第三章
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第62話 VS竜魔王ジークリィン

チョロゴン。


「わはははは! どうしたアスカ! この程度では無いのだろう? さっさと本気を出さぬかー!」


 ジークリィンが空中を自由自在に、縦横無尽に動き回り、笑いながら怒っている。


 ジークリィンはその見事な翼で、空は私のものだ! とでも言いそうな勢いで自由に飛び回っている。少し羨ましいが、物理原則を無視した急停止からの急旋回なんて意味が分からない。

 それを為せるのは、その理不尽な動きを可能に出来る強靭な肉体があるからだろう。


 実際にジークリィンが様子見程度で放ったパンチにはその身からは想像も出来ない破壊力を持っていた。

 様子見程度でその威力なのだ。下手したらパンデミアさんなんかより普通に強いと思う。


「それじゃあ、私からも行こうかなっ!」


 挑発に乗るのもどうかと思ったが、ここは私が動かないと進展がなさそうだと判断した。

 ジークリィンが本気を出すのを待っていたのだが、相手も相手で様子見の見合いばかりで、両者ともに全く疲弊の色は無い。


 ジークリィンの、現魔王の実力を知るためにもここは少しだけ力を込めてみる。縮地を使いジークリィンの頭上に移動する。


「むっ!?」


 なんとか反応出来たものの、少し遅い。私はジークリィンが動き出す前に重力に物を言わせて踵落としを脳天に決める。


 が、ジークリィンも流石は魔王と言ったところか、咄嗟の判断で翼を丸めて頭をガードしたみたいだ。


 そんなガードをしても、勢いを消すことが出来なかったのか、ジークリィンは翼に包まったまま地面に勢いよく叩きつけられる。


 土煙がもうもうと立ち篭める。

 土煙が晴れる前に、中から一つの影が飛び出してくる。言わずもがな、ジークリィンだ。


 私の攻撃は少ししか効いていないようで、笑顔でこちらへ殴りにかかってくる。


「わはははは! 素晴らしいぞアスカ! 私の翼の鱗をいとも容易く砕くなんて、私が生まれてから初めてだぞ!」


 私は旋風魔法を使ってラ・ビールのように体を空中へ浮かせながら、迫るジークリィンの攻撃を相殺し続ける。


 ジークリィンの言う通り、よく見ると左側の翼の表面が砕け散っている。


 ジークリィンは格闘派のようで、私の知らない行動を使ってくるので勉強になる。時折見様見真似でその攻撃を繰り出したりすると、ジークリィンは更に笑顔になって返してくる。


「竜魔王も大概恐ろしいが、あのアスカは本当に末恐ろしいな......」


 パンデミアさんが私とジークリィンの空中組手を恐れるような表情で見上げている。何か言いたそうにしているのでジークリィンを弾き飛ばしてパンデミアさんの元へ降りる。


「何か言った?」

「あれでもまだ、四割も出していないのだろう? そろそろ本気でぶつかってやれ。異界(アナザーワールド)は、我がなんとかしてやるからな」


 何だかんだ言ってしっかりとやる事はやるパンデミアさんなのだ。


 パンデミアさんが言うなら仕方ないか。

 ジークリィンは私の本気をご所望のようだし、手を抜いていたら失礼ってもんだよね。


「ジークリィン!」

「痛たた......んー? 何だー?」


 砕けた翼が痛むようで、優しく摩っていた。


「全力の一撃で決めようか。ジークリィンのを受け止められたら、私の勝ちって事で」


 こうでもしないと終わりそうに無いもんね。

 正直な話、私が本気を出したら異界(アナザーワールド)が一瞬で壊れてしまう。それだけは何とかして避けなければならないのだから。


 これ以上パンデミアさんに苦労をかけるのも忍び難いしね。


「舐められたものだな。私は魔王だぞ! その本気の一撃を......」

「本気じゃない。全力で放ってきて大丈夫だから」


 ジークリィンは気圧されたように唸った後、しっかりと頷いてくれた。


「分かったぞ。どうなっても知らないからな! 絶対、受け止めるんだぞ!」

「パンデミアさん、頼んだからね!」

「うむ、任せよ。異界(アナザーワールド)は少しも綻ばせんぞ!」


 ジークリィンが翼を閉じて長い詠唱を始めた。詠唱を聞くだけでもそれがやばいという事が空気を伝ってビシビシと伝わってくる。


「天よ、地よ。我が祈りに答え給え。天使は死に、悪魔を滅ぼす絶対なる力を我に齎せ。星をも砕く力を、我に授けよ。そして、生きとし生けるものに救いの死を。魔王の名のもとに、全てを破壊せん!」


 次第にジークリィンを覆うように風が舞い始める。

 死が救い、ってジークリィンは仏教徒なのかな?


 そして、詠唱が終わると同時にジークリィンの体が眩い光に包まれる。薄らと見えるその光景は、まさに絶世の光景だった。

 幼き少女のシルエットが段々と膨らんでいき、光を弾くようにして先程とは比べ物にならないくらいの翼が開く。


『わっはははは! これが、私の本気も本気、全力全開だー!』


 そこに顕現したのは一匹のドラゴンだった。深い緑色の鱗を無数に携え、黄金に輝く縦に走る黒目の瞳を持ち合わせ、この世の全てを穿つ爪と牙を持つ最強の存在。


 ジークリィンの口調がその威厳を台無しにするのは見ていて、聞いていて面白かった。


 そのドラゴンが空へと飛び上がるだけで辺りに嵐が起こる。存在が天変地異だね。


竜神灼炎咆哮(アーダーズロア)!』


 そして、空中から赤き一筋の熱線が放たれた。それは熱線と呼べるのだろうか。真っ赤に燃え盛る灼熱の巨大な柱が天から落ちてきたように感じる。


 ジークリィンを少しばかり侮っていた。そりゃね、あんなにアホの子だもの。仕方ないね。


 着弾したら最後、異界(アナザーワールド)はパンデミアさんの修復虚しく溶けるだろう。それどころか、無防備の私という存在が消滅するのは確か。更には異界(アナザーワールド)を突き破ってウィルガルムが丸々消え去るのも避けられないだろう。


 私が、何もせずにいればの話だけどね。


「お主、本当にあれ受けきれるのか?」

「ちょっとー、あんまり私を舐めないでよ? すこーし厳しいけどさ、やっぱり魔女は魔女らしく、魔法使わないとねっ!」

『わはははは! 今から詠唱したならば間に合わんぞ! 消し飛べぃ!』


 ジークリィンもなんか楽しくなってきたのか? 勝負事で思いっ切り殺しに来てるよね。


 でも、詠唱なんて私には関係無いね。

 関係は無いんだが、簡単に詠唱するのとしないのじゃ威力が桁違いに変わるんだから魔法とは不思議なものだ。


 この熱線を防ぐには氷結魔法が良いんだろうけど、その後の水蒸気が困るんだよね......。ほら、蒸れるからさ。


 でもやるからにはこちらも本気だし、それに氷結魔法ならそこまで被害は大きくならない筈だし!!

 私は一瞬で魔法をイメージ、構築して放つ。

 一気に魔力が残り三分の一まで持ってかれたわ。


 氷結魔法の最上級魔法の一つ。



絶対零度(アブソリュート・ゼロ)



 直後、世界が凍った。


 否、私以外全てが凍りついた。

 隣にいた筈のパンデミアさんも一瞬前までの動きで凍りつき、彫刻のように微動だにしない。


 それはジークリィンも同じ。口から放たれた熱線ごと凍りつき、空中で留まっている。

 更には氷結魔法による弊害、空気中の水分を一度に凍らせる事により移動させた熱によって起こる炎すらも凍っている。


「あー、やりすぎた......のかな?」


 絶対零度。全ての物質が凍りつく限界の絶対温度の世界を作り出す魔法。

 なのに私は普通に活動出来ているってのが不思議。もう私の存在そのものが理不尽だと思えてきたなこれ。


 私は目の前に迫った熱線だけを軽く砕き、魔法を解除する。

 すると、熱線の欠片が再び熱を発して辺り一帯が水蒸気で満たされる。何も見えないし、何より......


 うわ最悪だ。めっちゃ蒸し蒸しする。


『な、な、何が......?』

「......アスカよ、せめて我らにも理解出来る魔法を使っておくれ......」


 ジークリィンが力を使い果たしたのか、空から落ちてくる。パンデミアさんは呆れたような表情で私をジトっと見てくる。


「換気しよっと」


 私その視線をを柳に風と受け流し、旋風魔法で蒸気を遠くへ流す。あっ、これ涼しいわ。


 理解出来る魔法って言ったってねぇ......。まだこの上にも何個かあるんだけど、それはどうなのだろうか。

 一生使う事無いかもしれないな。使うとしたら世界を滅ぼす時だねー。そんなの本当、一生来ないわね。


「うぅ......うっ、うわああああああん!!」


 っ!?

 幼女姿に戻ったジークリィンが唐突に泣き出してしまった。私は条件反射でジークリィンに近付いて抱き上げてしまった。

 ふっ、これが母性本能ってやつか......。


「ひぐっ、ぐしゅっ、にゃんで、にゃんでよぉ〜!」


 あっ、可愛い。緑のツインテールをフリフリと揺らして、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら泣く姿に私、ノックアウトされてしまいそうです。


「全力使ったのに、力使い果たしたのに、にゃんで、あしゅかは一切疲れてないの〜!」


 私に抱きつきながらトントンと拳を叩きつけるジークリィン。このジークリィンならレヴィでも勝てる気がする。


「我も聞きたいな。何の魔法を使ったのだ? 魔法発動直前の感じからすると氷結魔法のような気がしたのだが? 反動により起こる火災すらも消えているし......」


 置き去りにしたパンデミアさんも近付いてきていた。この人も大概知識欲に貪欲だよね。


絶対零度(アブソリュート・ゼロ)って魔法だよ。私でも予想以上でさー」


 私がそう言うと、パンデミアさんは開いた口が塞がらない状態になってしまった。そんなに驚く事なのかな?


「な......! お主に不可能と言う言葉は無いのか......? 絶対零度(アブソリュート・ゼロ)と言えば理論だけは完成している世界を壊す程の魔法だぞ? ソレは個人発動のみでしか発動出来ないのだが、消費魔力が尋常ではないため使う途中で皆が力尽きて死んでしまうのだぞ......。そして氷結魔法による弊害の火災も天地を焼き焦がす程だと......それを難無く使いこなすなんて、下手すれば我等は死んでいた所だったぞ」


 我輩の辞書に不可能は無いっ!

 そんな事より私の腕の中でいじけてるジークリィンが可愛いのですが。


「私だって、強いんだもん。今度は絶対負けないもん......」

「〜〜〜っ!」


 レヴィとはまた違った可愛さがある。私はつい抱き締めて頬擦りなんてしてしまった。

 ふぅ、良きかな良きかな。


「むぅ、次は負けないからな!」

「次はこの仮面を外せるくらいにはなって欲しいかな」


 次は負けないと言い張るジークリィンを抱えて、私は意地悪にも仮面を外して見せる。


「は、はわわわわ......!」


 直後、ジークリィンが茹でダコのように真っ赤になって私の腕の中で更に小さく丸まってしまった。

 仕方ないのでもう一度仮面を付ける。


「んー、何か変な事言ったかなぁ......」

「お主、本当に人たらしだな......」


 後ろでパンデミアさんが溜め息を付いていたけど気にしない気にしない。

 結果的に異界(アナザーワールド)は一切傷付かなかったから良しとしようか! 終わり良ければ全て良しって言うじゃん?


 そんな事を思いつつも、私はお詫びのしるしにとお酒を置いて、異界(アナザーワールド)を後にした。


 そう言えば、ジークリィンのあの詠唱はドラゴンになるための詠唱だったのか、あの熱線を吐く為の詠唱だったのか、分からないなー。今度聞いてみよっと。







「何、これ......」


 私が戻るとそこは、いつものように静かな宿の食堂だった。


 皆がそこかしこで眠っているのだ。レヴィなんてコカトリスさんを抱いて眠っているよ。あぁ、服が脂塗れに......。


「リサーナ、リサーナ、起きて」

「ん、んむぅ......もう食べられないですよ......」


 テンプレのような寝言を繰り返すリサーナ。セラやご両親がいる事もこの時は忘れてしまっていたけれど、皆美味しいコカトリスさんを食べて気持ち良さそうに眠ったのかな。


「まだ残ってるけど、ジークリィンは......って寝ちゃったか」


 ジークリィンならお腹が空いて食べられるかと思ったのだが、戦い疲れて眠ったようだ。この子もまだまだ子供と言う事だろうか? いや、あんな都市一個を簡単に滅ぼせるようなドラゴンが子供なんて嫌だな。


 私は片手にジークリィン、片手にレヴィを抱えて宿の部屋へ戻りベッドに寝かせる。

 次にステラ、ラ・ビールを順番に抱えて部屋へと運ぶ。運ぶ際にステラが少し抱きついてきたのには気付かないふりでやり通した。


 セラとご両親は勝手ながら厨房奥の部屋へ運ばせて貰った。


 残るリサーナを抱えて部屋へ戻ろうとした時に、リサーナが目を覚ました。


「ん......。あれ、アスカ......?」

「起こしちゃった? まだ寝ててもいいんだよ」

「えっ、あっ、あの......えへへ」


 適当に抱えて部屋へ連れていくのも失礼なので、相手が寝ていようとも私はしっかりとお姫様抱っこをして連れていくのだ。

 それに気付いたリサーナが照れながらも更にくっついてくる。


「うーん、ベッドいっぱいだね」


 ジークリィンが想像以上に寝相が悪かった。大の字になって眠っているよこの子。


「私は、アスカと一緒なら何処でも大丈夫ですよ」


 リサーナが即答で返してきた。その、何ですか。めちゃくちゃ愛したいのですが。


「リサーナが眠くなるまで片付けでもしようか」

「はいっ」


 部屋にいても特にする事も無いのでリサーナと私は再び下の階へ降りて食器等の片付けを始めた。片付けと言っても、余った鶏肉(コカトリス)をアイテムボックスに入れてから、氷結魔法に統合された水魔法で食器用石鹸を使い汚れを洗い流した後に、火炎魔法の温風で速乾させてアイテムボックスに放り込むだけなんだけどね。


 リサーナは楽しそうに食器を洗っていた。それを眺めながら私もお皿を洗う。

 リサーナにドジっ子属性などは無いので一枚も割れることなく綺麗にしてくれた。嫁力高いぞこの子。


 その後、暫く話し込んだ後リサーナがうつらうつらとして来たのでベッドへ寝かせに連れていく。


 階段を上がり部屋の方向を向いた時、私達の部屋の前に一つの影が立っていた。

 その影はゆっくりとこちらを振り向いき口元を歪めたと思ったら、次の瞬間には消えていた。 


「何だったの......」

「アスカ?」


 私が警戒色を強めた事に違和感を感じたリサーナが不思議そうに見つめてくる。リサーナには見えなかったのだろうか。


「いや、ごめんね。何でもないよ」

「......?」


 私はリサーナをベッドに寝かせ、ジークリィンを抱き上げて二人でソファに寝る事にした。

 ジークリィンの寝相に悩まされるのは私だけで勘弁なのだから。


 ローブと仮面を仕舞って私は眠る事にした。

 既に月は天辺より半ば程まで傾き、沈み始める頃だった。


 その時見た影に違和感を覚えつつも、私は意識を夢の中へと旅立たせた。

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