第60話 れっつくっきんぐ
この小説は健全をモットーに作られています。
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「アスカ、アスカ」
「うぅ、ん......」
私は微睡みの中、私を呼ぶ声に意識を覚醒させる。
「あ、起きましたか? その、それで......」
私は目が覚めるとすぐ目の前にリサーナの顔があった。いつ見ても可愛らしい綺麗な目が、鼻が、口が......
少し顔を突き出すだけでくっ付いてしまいそうな程その距離は近い。
「おはよう、リサーナ」
「おはようございます。それで......」
暑いのだろうか? 顔がどんどん真っ赤に染まっていく。まぁ、私が目を覚ました頃には既に赤かったが。
「あ、あぁ、いや、私も、嬉しいんですけどね! そ、その......そう言うのは雰囲気も大事とか言いますし......それに、ほ、ほら、皆もいるじゃないですか」
うーん、いまいちリサーナの言いたい事が分からない。それに私はまだもう少し寝ていたいのだ。
リサーナには悪いが私はもう少し眠らせてもらおう。
ふかふかの柔らかな、すぐにでも壊れてしまいそうなリサーナの体に更に近付く。
「ひゃっ! あ、アスカ......そこは......」
リサーナの反応が一々可愛い。
リサーナの言いたい事は大体分かった。勘違いしているだけだね。
それに私はただ寝るだけなのだ。別に、何もいかがわしい事なんてしないよ?
そりゃあまぁ、事故が起きるかもしれないけどさ。
事故なら仕方ないよね!
「は、始めてなのに! 私は......ぁっ......」
皆が寝ている静かな部屋にリサーナの嬌声が響く。
私はプニプニとしたお腹を触っているだけだ。決してやましい事などしていないからね。
と、その時、私とリサーナにかかっている布団が勢いよく剥ぎ取られる。
「......許さぬ」
ステラが鬼も真っ青な形相で私に飛びかかってきた。それはもう、大変だったよ。うん。
「ちょっ、ステラ! 待っ......そこは!」
「ふふふ、まおーは、攻めに弱い」
「ちょっ、や、やめれ――」
等、身体の色んな所をまさぐられたよ。寝起きだしまだ寝足りなかった私にとってはこれ以上無いくらいの目覚ましだったね......。
一方でリサーナはと言うと、私がステラにやられている時に、疲れたのか、また眠りについていた。
可愛い寝顔の横で私は......あぁ......。
男は狼だと聞いたことがあるけど、ステラはそれ以上だった。まさに虎の如く攻められたよ。
「......ふぅ、良き朝チュンであった」
ステラが窓に寄りかかり外を眺めながらそんな事を呟いた。
外はめちゃくちゃ雨降ってる悪天候だけどね! 鳥なんて一話もちゅんちゅんしてないもんね!
ステラとリサーナの肌がどことなく艶々しているのは見ない振りで行こう。
「ふぁ〜......ん、アスカにステラ早起きなんだな。おはよう、ふぁ......」
私もすっかり目が覚めてしまった。床に落ちていたローブと仮面を回収していると、レヴィが起きてきた。この一切汚れのない澄んだ瞳の持ち主。
私はこの汚れなき瞳を一生守っていこうと誓う。
「おはようレヴィ」
「......ん、ぐっもーにん」
「ぐっもーにん?」
「......朝の挨拶」
ステラがかなり調子がいい事を不思議に思うレヴィだったが、そこで何があったのか質問しないのは賢明な判断だろう。
もし聞こうものなら、ステラが意気揚々と語り出した瞬間に、ステラが気を失うと言うトラウマを植え付けられる所だっただろうから。
とその時、扉をノックする音が聞こえた。
「アスカさん達、起きていますか?」
セラだ。朝食の呼び出しだろうか?
扉を開けて首を出す。
「おはよう、セラ」
「アスカさんおはようございます。朝食、出来てますよ」
「ありがとう。すぐ行くよ」
「はい!」
私は中々起きないリサーナとラ・ビールに脅しのような目覚ましをしてあげる。それだけで飛び起きてしまうんだから効果は抜群だね。
その後脅しと言うまで泣き付かれたので、この手も封印しようと思う。
「はむっ、はむっ。んー、美味い!」
朝食後、自室に戻りレヴィに朝食後のデザートと言う名の餌付けをする。ふふふ、その幸せそうな笑顔は私のものだ。
「アスカ様、今日の夕餉にお料理されるのですか?」
「うん、そのつもりだよ。やっぱり夕食の方が沢山食べられるでしょ?」
今日は各々自由行動で私はステーキのソースを作らねばならないのだ。レヴィとか沢山食べそうだし?
「それじゃあ、私は何処か料理させてくれる場所を探してくるよ」
レンジの実を食べ終わったレヴィの口元を拭いてからローブと仮面を付けて立ち上がる。
その時、部屋の扉を蹴破るような勢いで扉が物凄い音を立てて開く。
そんな事を仕出かす犯人は......
「その心配はっ、ご無用ですっっ!!」
「セラだな!」
「う、うん......」
ババーン! と胸を大きく反らせたセラがいた。
レヴィ以外の誰もがドン引きしているのは言うまでもないだろう。
「両親をこの、私がっ! この、私がっ! 説得してこの宿の営業が終わってからなら自由に厨房を使って良いとの事です!!」
「「おぉー!」」
リサーナとレヴィが拍手をしている。
いや、うん、私も絶賛したいんだけど、私がっ! って言う自己主張にドン引きしてて何も出来なかった。
「......本当は?」
「うぐっ......ひゃい、アスカさんが美味しいお肉を食べさせてくれるって両親に言ったら、私達にも食わせてくれるなら好きなだけ使ってくれって......」
ステラが容赦なく本当の話を聞き出した。
なんだ? 御褒美に大盛りにでもしてもらおうって魂胆だったのだろうか? そんな事しなくても好きなだけ食べればいいのに。
「ありがとうセラ。助かったよ」
私のその何気ない一言に、セラの表情が一瞬で晴れやかになる。
「じゃ、じゃあ、大盛りを......」
私の予想が的中していた。わかりやすい娘だ。
「もちろん。好きなだけ食べなよ」
「はい! ありがとうございます! お昼抜いて腹ペコで待ってますからねー! 両親に伝えてきます!」
そう言うとセラは凄い勢いで階下へ降りて行った。暫くの間を置いて、両親と思われる雄叫びが聞こえたのは言うまでもない。
「......えっと、それじゃあ私は異界行ってくるから、用がある時は呼んでね?」
「「「はーい」」」
すっかり調子が狂ってしまった。
私はソース作りのために異界へと籠る。
ソースとかは一日二日煮詰めないといけないのでは? とか思ったんだけど、この世界には魔法と言う理不尽の塊があるから問題は無かった。
「うーんと、パンデミアさんとは違う空間を作るんだから......こう、かな?」
いつものように異界へ入ると、パンデミアさんのいる空間へと進んでしまうので、もう一つ新しく創る事にした。
「異界を二つ作成とか、そんな事が知られたらこの世界の常識がぶっ飛びますよ......」
ラ・ビールが何か言っていた気がするが、私は聞かなかった事にして異界へと入って行く。
「ふふん。初めてにしてはいいんじゃないかな」
物凄い久しぶりの一人の時間だ。
そこは、地面があるだけの真っ白な空間。この世界は自由に書き換えられるが、特に希望は無いので早速調理に取り掛かる。
まずはオーソドックスなソースからだな......。
「ふんふふんふんふんふーん」
前世での癖で私は鼻歌を歌いながら野菜を切り始める。
因みに歌っている鼻歌は子供の頃に見たアニメ映画の挿入歌だ。アコーディオンが奏でる素敵な音に当時は感動した記憶すらある。
そんなアスカを見守るように複数の影が背後にいた。
「アスカご機嫌ですよ! 可愛いのですよ......」
「アスっむぐむぐむぐむぐー!」
「......だーめ」
「そうですね。お邪魔してはいけないですよ」
リサーナ達だ。
アスカの開けた異界への穴が塞がりきる前に、ラ・ビールが魔法へ介入して少しだけ開けたのだった。
そんな重労働をしたラ・ビールの顔は疲労感たっぷりだ。
「こんな複雑で細かい魔法なんて初めて見ましたよ......。こんなの真似出来るわけ無いです......」
とか何とか言いながらも、己の主人が素晴らしい、素晴らしすぎる事を改めて誇りに思うのだった。
「いやぁ、ご機嫌なアスカも可愛いですねぇ」
「......同意。今朝のも良かった」
「ん? 今朝? 朝になにかやったのか?」
「......そう、ナニをヤったの」
「んー?」
「な、なななな......」
ステラの発言にラ・ビールは後退りながら頬を紅潮させていく。レヴィは何を言っているのか分からないと言った様子だ。天然記念物だな。
リサーナは無言で今朝の事を思い出して一人でいやんいやんと恥ずかしがっていた。
「......今日の夕飯は楽しみ」
「だな! 私は沢山食べるのが仕事だってアスカに言われたから、沢山食べるぞー!」
「......私も、食べる専門」
「ふえぇ......私は料理なんてした事無いんですよね。アスカ様を見守る事しか出来ません」
「ふっふっふ、私は少しくらいなら料理出来るのですよ!」
「「「えっ」」」
普段のリサーナから考えると有り得ないような発言に三人が全く同じ反応を示す。
アリエナイ......。
「な、なんですかその反応は......。分かりました! ならば私の料理の腕、見せてあげますよ!」
リサーナはそう言うと一人アスカの元へと進んで行った。
「あぁ......大惨事にならなければ良いのですが......」
「アスカー!」
「あれっ、リサーナどうしたの? って言うかどうやってここに?」
野菜を細かく切って醤油や酒、みりん等で作ったソースに放り込んでいると、何処からともなくリサーナが現れた。
「さぁ、私にお手伝いをさせるのです!」
「うーん、そうだね......それじゃあこれを着て、これを絞ってもらおうかな」
突然現れては突然お手伝いさせてと言い出す。
リサーナにエプロンもどきを着させてレンジの実を絞ってもらう。
このエプロンはアイテムボックスを探していたら見つけた装備品だ。エプロンではないが、フリルの付いた前掛け等、色んな所にフリルが付いていてどこをどう見てもエプロンであった。
「うーんと、こう、ですか? 似合ってますか?」
「うんうん、可愛いよ」
「えへへ〜」
興奮して鼻血が出るのを我慢するくらい可愛い。人妻のような危険な雰囲気を醸し出しつつも、リサーナの幼さも良いアクセントになっている。
今すぐにでも抱き締めたい衝動に駆られるが、ここは我慢だ。おーけー、私、我慢だよ。
鍋の下に火炎魔法で火力を調整した炎を出す。相変わらず黒い炎なので見た目が物凄く魔女なのは気にしない。
あれ? 私って、魔女だからそれはそれでいいのかな?
「んー! んー! ふぅ、どうですか?」
レンジの実を頑張って絞っているリサーナを見てニマニマしていると、リサーナが果汁を見せてきた。
「んっ、ありがとう。そしたらこれを......」
褒めてあげたが、まだ果汁は残っていたのでリサーナが照れている内に絞り尽くす。思いっ切り握ると果肉が皮ごと破裂して身体中がレンジの実塗れになってしまうので、力加減が難しい。
「これで、何を作るんですか?」
「出来てからのお楽しみってやつかな」
この世界でもバターがあって良かった。牛乳があったのであるとは思っていたけど、めちゃくちゃ高かった。
ん......? バターと牛乳か。ホワイトソースも、いけるかな?
そうと決まれば実践あるのみだね。
「えっと、フライパンでこれ作って、鍋でやってるから他の鍋は〜っと」
「これですか?」
「おぉ、ありがとー」
そんな事をしながら、リサーナと楽しくソース作りをした。リサーナってば想像以上に料理は出来てた。包丁さばきも良かったし、炒めるのだって上手だった。
......ただ、事あるごとに味付けを変なものにしようとするのが怖かったね。多分、この世界の人は皆よく分からない味覚を持っているから、美味しくなくなるんだと思うよ。
そして料理が終盤に差し掛かった時、予期せぬ来訪者が現れた。それは異界すらを突き破って現れたのだった。
突如硝子の割れる音が響いて、異界の一部に穴が開いた。
「きゃっ!」
「ん?」
「まおー」
「アスカ様っ!」
「アスカー」
それと同時にレヴィ、ステラ、ラ・ビールが私の前に現れた。この子達も盗み見ていたのか。
そしてそんな事を仕出かす犯人は......
「けほっけほっ。なんだここは......? って、あー! お前はー!? なんでこんな所にいるんだ?」
「それは私の台詞だってば......」
「いい匂いがしたから来てみれば、ここはあれか! 異界ってとこだな!」
竜魔王ジークリィンだった。
そんな理由で私の異界を壊さないでほしい。
「あ、アスカ? この子は?」
「この幼女は、竜魔王ジークリィン......なんだっけな。まぁ、魔王様だよ」
「魔王っ!?」
幼女が魔王と聞いて驚いているリサーナを見てドヤ顔をしている。ちょっとウザい。
「こんな幼女が魔王なのか?」
レヴィがジークリィンを指差して幼女呼びをする。レヴィ、貴女も今は幼女だからね?
ステラとラ・ビールは既に戦闘態勢を取っていた。
いや、あの、ここで戦われると折角作ったソース達が......。
「なんだ? やるのか? 私は強いぞー?」
「......っ!」
「うっ......」
ジークリィンが覇気の様なものを体から発すると、ステラとラ・ビールが滝のような汗を流す。
ステラは一応怪我人なんだから無理しなくていいのに。
私はひとまずこの場を収めるためにアイテムボックスからある物を取り出す。
それは、目の前のアホ幼女魔王には効果抜群のものなのだ。
「ジークリィン。これを見なさい!」
「何っ!? そ、それは......!」
私が取り出したもの、それは......
「コカトリスの一番美味しい部分の腿の部位よ!」
「な、それを、どうするつもりなのだ!?」
ふふふ、いい具合に興味を反らせたね。
と言うかレヴィ、貴女まで釣られるんじゃない。
「これを、こうするのよ!」
「なぁぁぁぁぁ!!!」
「あぁぁぁぁぁ!!!」
私はアホ幼女魔王を連れてメルガス大森林のライアさんの元へ転移する。
その際、私の脚にしがみついたレヴィも付いてきたがこの際放っておく。
「はい、ライアさん。逃げてね。それじゃ」
「えっ? ちょっ、これ、何?」
「なるべく長い間逃げないと私から大変な目に逢わせるからね」
「へっ......?」
私は再び転移を使い、宿の自室へ戻り異界へと戻る。
「あぁ、お肉が......」
「レヴィは夜沢山食べるんでしょ? ほら、元気出して」
「そうだな! 夜が待ち遠しいぞ!」
一瞬で元気を取り戻して走り回るレヴィを見てから、鍋の元へ向かう。
「えっと、アスカ様? ジークリィンは......」
「......私も知りたい」
「うーんと......」
なんて言えばいいのだろうか。
早朝に外に現れて、空腹で倒れて、ご飯を上げたら懐かれた......?
「ペット、かなぁ?」
「「......」」
魔王一人をペット扱いする私にステラとラ・ビールは揃ってぽかんとしていた。
「あはははは! アスカってば面白いですね。今度あの魔王さんとも遊んでみたいです」
リサーナは、ジークリィンと馬が合いそうだ。
私は完成したソースの入った鍋等をアイテムボックスに仕舞い、異界を閉じる。
まだ夕暮れ前だ。
私達は全員夜が来るのを待ち切れないと言った表情で時間が過ぎるのを待った。
そして遂に、
「いざ、実食なのです!!」
騒がしい夜が始まる。




